16 / 49
13話 ゲームとサキュバス
しおりを挟む
玄関で靴を脱ぎ終えたあと、悠人は一度リビングを見回してから、ホルに向き直った。
「……なあ、ホル」
「なあに?」
呼ばれて、少し身構えるようにしながらも、ホルは素直に返事をする。
「部屋、きれいにしてくれたのは嬉しいんだ。ありがとう」
その言葉を聞いた瞬間、ホルの表情がぱっと明るくなる。
「ほんと?」
「ああ。でも……」
悠人は少し言葉を選んでから、続けた。
「次からは、掃除とか片付けとか、先に一言言ってほしい。
連絡か、相談か。どっちでもいいから」
責める口調ではない。
むしろ、できるだけ穏やかに伝えていた。
ホルは一瞬きょとんとしてから、すぐに小さく頷く。
「……うん。ごめんね」
しゅん、と肩を落とす仕草は分かりやすい。
「次からは、ちゃんと聞くよ。悠人が嫌なこと、したくないし」
その言葉に、悠人は小さく息を吐いた。
「嫌ってわけじゃない。ただ……びっくりするからな」
「気をつける」
そう言って、今度は少し照れたように笑う。
それで、この話は終わりになった。
⸻
それから二人で、夕飯の後片付けや洗い物を済ませた。
ホルは覚えたての手順を一つ一つ確認するように動き、
悠人はそれを横で見ながら、必要なところだけ手を出す。
不思議と、ぎこちなさはない。
一通り家事が終わる頃には、
リビングには落ち着いた空気が戻っていた。
悠人はソファに腰を下ろし、スマホを手に取る。
(……少しだけ、な)
そう思って、ソシャゲを起動する。
イベント画面。
スタミナ残量。
周回の進捗。
いつもの光景。
――けれど。
「……」
隣から、やけに強い視線を感じた。
横を見ると、ホルがすぐそばに座って、
画面と悠人の顔を交互に見つめている。
「……どうした?」
声をかけると、ホルは楽しそうに首を傾げた。
「どんな顔でゲームしてるのかなーって」
「……は?」
「見るの、好きなんだ」
悪びれもせず、そう言う。
ホルは少し身を乗り出して、
悠人のスマホ画面を興味深そうに覗き込んだ。
「集中してるときの悠人、ちょっと違う顔してる」
「そうか?」
「うん」
即答だった。
それから、少しだけ声のトーンを落とす。
「あとね……」
視線が、画面から悠人へ戻る。
「悠人が、疲れてないか心配になっちゃうんだ」
さっきまでの無邪気さとは違う、柔らかな声音。
「もし疲れてたら……」
距離が、ほんの少し縮まる。
「ホルが、癒してあげたいな……♡」
甘えるような視線。
試すような間。
悠人は思わず肩を強張らせた。
「……お、おい」
視線を逸らし、誤魔化すように咳払いをする。
「そういうのは……今はいい」
「ふーん?」
不満そうでもなく、ただ楽しげに微笑むホル。
その空気を切り替えるように、悠人は言った。
「それより……ホルも、ゲームやるか?」
「え?」
「タブレットあるし。暇だろ」
一瞬きょとんとしたあと、
ホルの目がゆっくりと輝く。
「……いいの?」
「ああ。操作、教えるから」
「やる!」
即答だった。
ホルが持っているタブレットを借り、
悠人はソシャゲをインストールする。
ホルはその隣に座り、膝を寄せるようにして画面を覗き込んでいた。
待ちきれない様子で、指先が小さく揺れている。
「どんな世界なの?」
「んー……イケメンとか美女の怪異とか、
もののけが出てくる感じの世界かな」
「ふふ、ホル向き?」
「どうだろうな。
中身は育成と周回がメインのゲームだけど」
「へぇ……悠人、こういうのやってるんだ」
そう言いながら、ホルはさらに身を乗り出す。
自然と、肩が触れる距離になる。
起動画面が切り替わり、
悠人が使っているキャラクターが表示された瞬間だった。
「……あ」
ホルの声が、少し弾んだ。
「ねえ、この子」
画面を指差しながら、じっと見つめる。
「なんか……ホルに似てない?」
「え?」
悠人が目を向けると、
そこに表示されていたのは、露出の多い衣装に身を包んだキャラクターだった。
短めの髪に、毛先だけ鮮やかな色。
大きな瞳と、牙を覗かせた無邪気な笑顔。
奔放で、距離を詰めることをためらわない――
そんな雰囲気が、確かにホルと重なって見える。
「……似てるか?」
「うん。雰囲気とか、目とか」
ホルはにやりと笑い、
今度はキャラクターの衣装に視線を移す。
「それに、この服……すごく可愛い」
「ゲームだからな」
「ふーん……」
意味ありげに声を伸ばしてから、
悠人の方をちらりと見る。
「悠人って、こういうのが好きなんだ?」
「ち、違うって」
即座に否定すると、
ホルは楽しそうに、くすっと笑った。
「冗談だよ。でも――」
画面と悠人を交互に見比べて、
ほんの少し、距離を詰める。
「ホルに似てるって思って使ってるなら、ちょっと嬉しいかも」
「思ってないからな!?」
慌てる悠人を見て、
ホルは満足そうに目を細めた。
「ふふ。顔、分かりやすい」
ゲーム音が静かに流れ、
画面の中ではキャラクターが軽やかに動き続ける。
二人並んで座り、
同じ画面を見て、同じ時間を過ごす。
こうして夜は、
小さな会話と電子音に満たされながら、
ゆっくりと深まっていった。
その距離は――
意識しなくなった頃には、
もう「特別」ではなくなっていた。
「……なあ、ホル」
「なあに?」
呼ばれて、少し身構えるようにしながらも、ホルは素直に返事をする。
「部屋、きれいにしてくれたのは嬉しいんだ。ありがとう」
その言葉を聞いた瞬間、ホルの表情がぱっと明るくなる。
「ほんと?」
「ああ。でも……」
悠人は少し言葉を選んでから、続けた。
「次からは、掃除とか片付けとか、先に一言言ってほしい。
連絡か、相談か。どっちでもいいから」
責める口調ではない。
むしろ、できるだけ穏やかに伝えていた。
ホルは一瞬きょとんとしてから、すぐに小さく頷く。
「……うん。ごめんね」
しゅん、と肩を落とす仕草は分かりやすい。
「次からは、ちゃんと聞くよ。悠人が嫌なこと、したくないし」
その言葉に、悠人は小さく息を吐いた。
「嫌ってわけじゃない。ただ……びっくりするからな」
「気をつける」
そう言って、今度は少し照れたように笑う。
それで、この話は終わりになった。
⸻
それから二人で、夕飯の後片付けや洗い物を済ませた。
ホルは覚えたての手順を一つ一つ確認するように動き、
悠人はそれを横で見ながら、必要なところだけ手を出す。
不思議と、ぎこちなさはない。
一通り家事が終わる頃には、
リビングには落ち着いた空気が戻っていた。
悠人はソファに腰を下ろし、スマホを手に取る。
(……少しだけ、な)
そう思って、ソシャゲを起動する。
イベント画面。
スタミナ残量。
周回の進捗。
いつもの光景。
――けれど。
「……」
隣から、やけに強い視線を感じた。
横を見ると、ホルがすぐそばに座って、
画面と悠人の顔を交互に見つめている。
「……どうした?」
声をかけると、ホルは楽しそうに首を傾げた。
「どんな顔でゲームしてるのかなーって」
「……は?」
「見るの、好きなんだ」
悪びれもせず、そう言う。
ホルは少し身を乗り出して、
悠人のスマホ画面を興味深そうに覗き込んだ。
「集中してるときの悠人、ちょっと違う顔してる」
「そうか?」
「うん」
即答だった。
それから、少しだけ声のトーンを落とす。
「あとね……」
視線が、画面から悠人へ戻る。
「悠人が、疲れてないか心配になっちゃうんだ」
さっきまでの無邪気さとは違う、柔らかな声音。
「もし疲れてたら……」
距離が、ほんの少し縮まる。
「ホルが、癒してあげたいな……♡」
甘えるような視線。
試すような間。
悠人は思わず肩を強張らせた。
「……お、おい」
視線を逸らし、誤魔化すように咳払いをする。
「そういうのは……今はいい」
「ふーん?」
不満そうでもなく、ただ楽しげに微笑むホル。
その空気を切り替えるように、悠人は言った。
「それより……ホルも、ゲームやるか?」
「え?」
「タブレットあるし。暇だろ」
一瞬きょとんとしたあと、
ホルの目がゆっくりと輝く。
「……いいの?」
「ああ。操作、教えるから」
「やる!」
即答だった。
ホルが持っているタブレットを借り、
悠人はソシャゲをインストールする。
ホルはその隣に座り、膝を寄せるようにして画面を覗き込んでいた。
待ちきれない様子で、指先が小さく揺れている。
「どんな世界なの?」
「んー……イケメンとか美女の怪異とか、
もののけが出てくる感じの世界かな」
「ふふ、ホル向き?」
「どうだろうな。
中身は育成と周回がメインのゲームだけど」
「へぇ……悠人、こういうのやってるんだ」
そう言いながら、ホルはさらに身を乗り出す。
自然と、肩が触れる距離になる。
起動画面が切り替わり、
悠人が使っているキャラクターが表示された瞬間だった。
「……あ」
ホルの声が、少し弾んだ。
「ねえ、この子」
画面を指差しながら、じっと見つめる。
「なんか……ホルに似てない?」
「え?」
悠人が目を向けると、
そこに表示されていたのは、露出の多い衣装に身を包んだキャラクターだった。
短めの髪に、毛先だけ鮮やかな色。
大きな瞳と、牙を覗かせた無邪気な笑顔。
奔放で、距離を詰めることをためらわない――
そんな雰囲気が、確かにホルと重なって見える。
「……似てるか?」
「うん。雰囲気とか、目とか」
ホルはにやりと笑い、
今度はキャラクターの衣装に視線を移す。
「それに、この服……すごく可愛い」
「ゲームだからな」
「ふーん……」
意味ありげに声を伸ばしてから、
悠人の方をちらりと見る。
「悠人って、こういうのが好きなんだ?」
「ち、違うって」
即座に否定すると、
ホルは楽しそうに、くすっと笑った。
「冗談だよ。でも――」
画面と悠人を交互に見比べて、
ほんの少し、距離を詰める。
「ホルに似てるって思って使ってるなら、ちょっと嬉しいかも」
「思ってないからな!?」
慌てる悠人を見て、
ホルは満足そうに目を細めた。
「ふふ。顔、分かりやすい」
ゲーム音が静かに流れ、
画面の中ではキャラクターが軽やかに動き続ける。
二人並んで座り、
同じ画面を見て、同じ時間を過ごす。
こうして夜は、
小さな会話と電子音に満たされながら、
ゆっくりと深まっていった。
その距離は――
意識しなくなった頃には、
もう「特別」ではなくなっていた。
0
あなたにおすすめの小説
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
