現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう

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13話 ゲームとサキュバス

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玄関で靴を脱ぎ終えたあと、悠人は一度リビングを見回してから、ホルに向き直った。

「……なあ、ホル」

「なあに?」

呼ばれて、少し身構えるようにしながらも、ホルは素直に返事をする。

「部屋、きれいにしてくれたのは嬉しいんだ。ありがとう」

その言葉を聞いた瞬間、ホルの表情がぱっと明るくなる。

「ほんと?」

「ああ。でも……」

悠人は少し言葉を選んでから、続けた。

「次からは、掃除とか片付けとか、先に一言言ってほしい。
 連絡か、相談か。どっちでもいいから」

責める口調ではない。
むしろ、できるだけ穏やかに伝えていた。

ホルは一瞬きょとんとしてから、すぐに小さく頷く。

「……うん。ごめんね」

しゅん、と肩を落とす仕草は分かりやすい。

「次からは、ちゃんと聞くよ。悠人が嫌なこと、したくないし」

その言葉に、悠人は小さく息を吐いた。

「嫌ってわけじゃない。ただ……びっくりするからな」

「気をつける」

そう言って、今度は少し照れたように笑う。

それで、この話は終わりになった。



それから二人で、夕飯の後片付けや洗い物を済ませた。

ホルは覚えたての手順を一つ一つ確認するように動き、
悠人はそれを横で見ながら、必要なところだけ手を出す。

不思議と、ぎこちなさはない。

一通り家事が終わる頃には、
リビングには落ち着いた空気が戻っていた。

悠人はソファに腰を下ろし、スマホを手に取る。

(……少しだけ、な)

そう思って、ソシャゲを起動する。

イベント画面。
スタミナ残量。
周回の進捗。

いつもの光景。

――けれど。

「……」

隣から、やけに強い視線を感じた。

横を見ると、ホルがすぐそばに座って、
画面と悠人の顔を交互に見つめている。

「……どうした?」

声をかけると、ホルは楽しそうに首を傾げた。

「どんな顔でゲームしてるのかなーって」

「……は?」

「見るの、好きなんだ」

悪びれもせず、そう言う。

ホルは少し身を乗り出して、
悠人のスマホ画面を興味深そうに覗き込んだ。

「集中してるときの悠人、ちょっと違う顔してる」

「そうか?」

「うん」

即答だった。

それから、少しだけ声のトーンを落とす。

「あとね……」

視線が、画面から悠人へ戻る。

「悠人が、疲れてないか心配になっちゃうんだ」

さっきまでの無邪気さとは違う、柔らかな声音。

「もし疲れてたら……」

距離が、ほんの少し縮まる。

「ホルが、癒してあげたいな……♡」

甘えるような視線。
試すような間。

悠人は思わず肩を強張らせた。

「……お、おい」

視線を逸らし、誤魔化すように咳払いをする。

「そういうのは……今はいい」

「ふーん?」

不満そうでもなく、ただ楽しげに微笑むホル。

その空気を切り替えるように、悠人は言った。

「それより……ホルも、ゲームやるか?」

「え?」

「タブレットあるし。暇だろ」

一瞬きょとんとしたあと、
ホルの目がゆっくりと輝く。

「……いいの?」

「ああ。操作、教えるから」

「やる!」

即答だった。

ホルが持っているタブレットを借り、
悠人はソシャゲをインストールする。

ホルはその隣に座り、膝を寄せるようにして画面を覗き込んでいた。
待ちきれない様子で、指先が小さく揺れている。

「どんな世界なの?」

「んー……イケメンとか美女の怪異とか、
 もののけが出てくる感じの世界かな」

「ふふ、ホル向き?」

「どうだろうな。
 中身は育成と周回がメインのゲームだけど」

「へぇ……悠人、こういうのやってるんだ」

そう言いながら、ホルはさらに身を乗り出す。
自然と、肩が触れる距離になる。

起動画面が切り替わり、
悠人が使っているキャラクターが表示された瞬間だった。

「……あ」

ホルの声が、少し弾んだ。

「ねえ、この子」

画面を指差しながら、じっと見つめる。

「なんか……ホルに似てない?」

「え?」

悠人が目を向けると、
そこに表示されていたのは、露出の多い衣装に身を包んだキャラクターだった。
短めの髪に、毛先だけ鮮やかな色。
大きな瞳と、牙を覗かせた無邪気な笑顔。

奔放で、距離を詰めることをためらわない――
そんな雰囲気が、確かにホルと重なって見える。

「……似てるか?」

「うん。雰囲気とか、目とか」

ホルはにやりと笑い、
今度はキャラクターの衣装に視線を移す。

「それに、この服……すごく可愛い」

「ゲームだからな」

「ふーん……」

意味ありげに声を伸ばしてから、
悠人の方をちらりと見る。

「悠人って、こういうのが好きなんだ?」

「ち、違うって」

即座に否定すると、
ホルは楽しそうに、くすっと笑った。

「冗談だよ。でも――」

画面と悠人を交互に見比べて、
ほんの少し、距離を詰める。

「ホルに似てるって思って使ってるなら、ちょっと嬉しいかも」

「思ってないからな!?」

慌てる悠人を見て、
ホルは満足そうに目を細めた。

「ふふ。顔、分かりやすい」

ゲーム音が静かに流れ、
画面の中ではキャラクターが軽やかに動き続ける。

二人並んで座り、
同じ画面を見て、同じ時間を過ごす。

こうして夜は、
小さな会話と電子音に満たされながら、
ゆっくりと深まっていった。

その距離は――
意識しなくなった頃には、
もう「特別」ではなくなっていた。


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