現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう

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14話 睡眠とサキュバス

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夜もだいぶ更けてきた頃。

リビングでは、ゲームの効果音が小さく鳴り続けていた。
ホルはソファに座り、タブレットを両手で抱えるようにして画面に食い入っている。

「……あ、これ強い」

独り言ともつかない声。
画面の中でキャラクターが派手に動き、ホルの表情もころころと変わる。

その様子を少しだけ眺めてから、悠人は時計を確認した。

「……そろそろ寝るぞ」

「えー、もう?」

視線は画面に落ちたまま、指だけが名残惜しそうに動く。

「明日、俺は休みだからな」

「そうだけど……」

悠人は立ち上がり、軽く伸びをした。

「今日はホルがベッドの日だろ」

そう言われて、ホルの指がぴたりと止まる。

一瞬だけ視線を泳がせてから、
ゆっくりと悠人を見上げた。

眉が、少し困ったように寄る。

「……うん、そうなんだけど」

言いづらそうに言葉を選びながら、
タブレットを胸に抱え直す。

「もうちょっとだけ、これやりたくて……」

上目遣いで、そっと様子をうかがう。

「だから今日は……ソファ、使ってもいい?」

頼むような視線。
無理強いはせず、断られても仕方ないと分かっている顔。

悠人は一瞬、言葉に詰まった。

「……」

相当、気に入ったんだな。

さっきまで夢中だった姿と、
今の遠慮がちな表情が重なる。

(そこまでハマるとは)

「……ちゃんと暖かくして寝ろよ」

それだけ言うと、
ホルの顔がぱっと明るくなった。

「うん!」

弾んだ声。
子どもみたいに嬉しそうな笑顔。

ソファに戻るその背中を見送りながら、
悠人は小さく息を吐く。

(……まあ、悪くないか)

ゲームに夢中なところも、
こうして素直に頼ってくるところも。

満更でもない、という感覚だけが、
胸の奥に静かに残っていた。



ベッドに腰を下ろし、照明を落とす。

布団に入りながら、悠人は自然と頭の中で確認していた。

(睡眠は、ベッドとソファで交代制)

(朝食と昼は一緒に作って、昼は作り置き)

(夕飯は交代。掃除と洗濯は共同)

最初に話し合ったときは、正直どうなることかと思った。
生活リズムも、価値観も、違う部分は多い。

けれど――。

(もう三日、か)

思ったよりも、うまく回っている。
いや、「うまく回そうとしている」のは、お互い同じだった。

(慣れって、早いな)

天井を見上げながら、明日のことを考える。

明日は休み。
ゆきに釘を刺されたゲームイベントも、半日走れば大体片がつく。

(残りは……通勤中に終わらせればいい)

そうなると、夕方か、早ければ昼過ぎには自由になる。

(何しようかな……)

そんなことを考えているうちに、
意識が少しずつ、緩んでいく。

瞼が重い。

(……眠)



どれくらい時間が経ったのか。

意識の底で、何かが動く気配を感じた。

布団が、少しだけ引き上げられる。
冷えた空気が一瞬触れて、すぐに遮られる。

「……?」

うっすらと目を開ける。

視界の端に、白いシーツ。
その向こうに、見慣れた影があった。

「……ホル……?」

声にならない声。

ホルは、ベッドの縁に腰をかけていた。
パジャマ姿のまま、身を乗り出して、
乱れたシーツを丁寧に整えている。

「起きちゃった?」

小さく囁くような声。

「寝相、ちょっと悪かったよ」

そう言って、
シーツを引き直しながら、くすっと笑う。

「ほら、こんなに出てた」

布団の端を持ち上げる仕草が近い。
距離が、思った以上に近い。

街の灯りがカーテン越しに差し込み、
その横顔だけが、やけにくっきりと見えた。

眠そうで、
でもどこか満足そうで、
世話を焼くのが当たり前みたいな表情。

「……ソファで寝るって……」

言いかけた言葉は、途中で途切れた。

ホルは少しだけ肩をすくめる。

「うん。でも、冷えてきたから」

そう言いながら、
整えたシーツの端を押さえるために、
自然とベッドに体重を預ける。

結果的に、
距離が、さらに縮まる。

「このままだと、風邪ひいちゃうでしょ?」

責めるでもなく、
言い訳するでもなく。

ただ、当たり前のことみたいに。

「……ダメだろ……」

そう言おうとした。

でも、声は弱く、
思考は重い。

(……今、何時だ……?)

考えようとしたはずなのに、
意識が、すり抜けていく。

ホルは何も言わず、
布団を直した手を引っ込める代わりに、
そのまま静かに寄り添っていた。

「……ちゃんと、寝て」

小さな声。

それが、
注意なのか、お願いなのかも分からない。

悠人は、それ以上言葉を返せなかった。

温もりがある。
邪魔じゃない距離で、
でも、確かに近い。

(……明日……休み、だし……)

そんな曖昧な考えを最後に、
悠人は、再び深い眠りへと落ちていった。

白いシーツの上で、
ホルがそのまま動けなくなってしまったことを――
そのときの悠人は、まだ知らない。



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