現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう

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おまけ小話 ゆきの家にて

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仕事を終えて、アパートに帰る。

玄関で靴を脱ぎ、バッグを置き、
いつものようにスマホを取り出す。

画面を開くと、真っ先に目に入るのは――
やっぱり『新月怪異譚』だった。

(……今日も周回しよ)

ソファに腰を下ろし、イベント画面を確認する。
春ちゃんは今日も可愛いし、育成も順調。

いつも通りだ。

昼休み、先輩と話していたときも、きっとそうだった。
性能の話、編成の相性、イベントの進み具合。

正直、そういう話をしているときは、
特別な感情なんてなかったと思う。

(……楽しいけど、それだけ)

仕事の先輩で、話しやすくて、
ゲームの話ができる、貴重な人。

それだけのはずだった。

「……でも」

ふと、昼休みの会話がよみがえる。

リアルイベントの話になったとき。
来場特典、限定アイテム、展示――。

そのとき、どうしてだろう。

(……なんで、先輩と一緒に行きたいな、って思ったんだろ)

スマホを持つ手が、少し止まる。

別に、二人きりで行きたいわけじゃない。
デートとか、そういう意味でもない。

カフェに行く友達はいる。
飲みに行く友達もいるし、女子会だって普通にする。

でも――。

(ゲームの話を、同じ熱量でできる友達って……)

考えてみて、気づく。

いなかった。

ゲームをやる人は周りにもいる。
でも、イベントを本気で走ったり、
キャラ一人に一喜一憂したりする人は、ほとんどいない。

「そこまで頑張るの?」
「課金しすぎじゃない?」

そんなふうに言われたことも、正直あった。

(先輩は……)

先輩は、否定しなかった。

「分かる」
「それは嬉しいな」
「性能もいいしな」

たったそれだけの言葉なのに、
ちゃんと同じ目線で話してくれた。

「……あ」

そこで、ようやく腑に落ちる。

私は――。

(仲のいい、ゲーム友達が欲しかったんだ)

一緒にイベントの話ができて、
リアルイベントの話題が出たときに、
「誰かと行けたら楽しそう」って、自然に思える相手。

それが、たまたま先輩だっただけ。

(うん……それだけ)

自分に言い聞かせるように、心の中で整理する。

恋とか、特別な感情とか、
今は、そういうのじゃない。

「……よし」

ゆきはスマホを持ち直し、周回を再開する。
画面の中で、春ちゃんが軽やかに動く。

(仲のいい、ゲーム友達が欲しかっただけ)

そう結論づけると、胸の奥が少し軽くなった。

無理に理由を探さなくていい。
無理に感情に名前をつけなくていい。

ただ――。

(誰かと一緒に、同じゲームを楽しめたらいいな)

イベントの話をして、
ガチャの結果に一喜一憂して、
「それ分かる!」って言い合える相手。

それだけで、きっと十分だ。

「次の日曜……か」

リアルイベントのことを思い出して、
ゆきは小さく笑う。

行くかどうかは、まだ分からない。
先輩が来るかどうかも、分からない。

でも。

(もしかしたら、いいことあるかも)

そんな気が、ほんの少しだけした。

ゲームを通して、
新しい出会いや、楽しい時間が増えるかもしれない。

それは先輩かもしれないし、
全然知らない誰かかもしれない。

――あるいは。

(……同じゲーム好きの、誰か)

理由も根拠もないけれど、
なんとなく、楽しみだと思えた。

画面の中で、春ちゃんが勝利ポーズを取る。

「よし、次」

ゆきは指先に力を込めて、次の周回を始めた。

いつも通りの夜。
でもその先には、
ちょっとだけ賑やかで、
ちょっとだけ楽しい何かが待っている気がしていた。

そんな予感を、胸の片隅に残したまま。

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