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第18話 ホルとイベント
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玄関のドアが閉まる音と同時に、部屋の奥から軽やかな操作音が聞こえてきた。
タブレット特有の、指先が画面を滑る乾いた音。
「ただいま」
靴を脱ぎながら声をかけると、少し間を置いて返事が返ってくる。
「おかえり、悠人」
リビングでは、ホルがソファに腰掛け、タブレットを膝に乗せたままこちらを振り返っていた。
その表情はどこか浮き立っていて、目元がいつもより明るい。
「ちょうどいいところだった」
「何がだ?」
上着を脱ぎ、ハンガーにかけながら問い返す。
ホルは意味ありげに口角を上げると、タブレットを数回操作してから立ち上がった。
「ねえ、これ見て」
差し出されたタブレットを受け取る。
画面には、『新月怪異譚』の公式告知ページが表示されていた。
「……ああ、これか。リアルイベント」
思わずそう口にすると、ホルは満足そうに頷く。
「うん。次の日曜だって」
スクロールすると、会場名、開催時間、ステージスケジュール。
展示、物販、来場特典――情報が次々と流れていく。
「展示もあるし、ステージもあるし……」
「会場限定で、怪異モチーフのアイテムが買えるんだって」
「へえ」
正直なところ、悠人自身なら見落としていたかもしれない。
忙しさにかまけて、告知ページをじっくり読むタイプではない。
だが、ホルは違ったらしい。
「これ」
画面をスクロールしていた指先が、ぴたりと止まる。
そこに表示されていたのは、
黒と黄色を基調にした装飾品――《黄昏》の名が添えられている。
「黄昏のモチーフアイテム……」
声に出した瞬間、ホルの視線が一気に上がった。
「そう!」
「欲しいなぁ……」
そう言いながら、ホルは自然と一歩距離を詰めてきた。
思ったより近い。
「……近い」
反射的に一歩引くと、ホルは少しだけきょとんとしてから、照れたように笑った。
「えへ。ごめん」
口では謝っているが、期待を隠す気はないらしい。
視線はタブレットと悠人を行き来している。
「でもさ」
ふと、思い出したように言葉を続ける。
「黄昏って……悠人も、私もよく使ってるでしょ」
少し照れたようでいて、でも当たり前みたいな口調。
その言い方が、妙に引っかかる。
「だからかな」
「同じ編成で遊んでると、やりやすいっていうか……」
ゲームの話のはずなのに、
距離の詰め方だけが、どうにも無防備だ。
「イベント自体は、人多いと思うぞ」
話題を戻すように言うと、ホルは一度だけ頷いた。
「うん。でも……見てみたい」
「黄昏のアイテムも、会場でしか買えないみたいだし」
タブレットを胸に抱く仕草は、どこか子どもっぽい。
欲しいものを前にした、素直な反応。
「……まあ」
悠人は少し考えてから、視線を逸らした。
「行くかどうかは、様子見だな」
「予定もあるし」
「うん」
それだけで十分だとでも言うように、ホルは素直に頷いた。
それ以上踏み込んでこない、その距離感が逆に心に残る。
「でも、教えてくれてありがとう」
「楽しみが増えた」
その笑顔を見て、悠人は小さく息を吐いた。
(……俺から言わなくて、結果的に良かったかもな)
下手に誘えば、きっと違っていた。
ホル自身が見つけて、
自分の言葉で楽しみにしている。
その様子を見られただけで、
十分だったのかもしれない。
「……楽しそうで何よりだ」
「うん!」
嬉しそうにタブレットを見直すホルを横目に、
悠人はソファに腰を下ろした。
距離は、まだ保てている。
けれど――。
(こういうの、弱いな……)
そんなことを思いながら、
あえて口には出さず、静かに時間を共有していた。
タブレット特有の、指先が画面を滑る乾いた音。
「ただいま」
靴を脱ぎながら声をかけると、少し間を置いて返事が返ってくる。
「おかえり、悠人」
リビングでは、ホルがソファに腰掛け、タブレットを膝に乗せたままこちらを振り返っていた。
その表情はどこか浮き立っていて、目元がいつもより明るい。
「ちょうどいいところだった」
「何がだ?」
上着を脱ぎ、ハンガーにかけながら問い返す。
ホルは意味ありげに口角を上げると、タブレットを数回操作してから立ち上がった。
「ねえ、これ見て」
差し出されたタブレットを受け取る。
画面には、『新月怪異譚』の公式告知ページが表示されていた。
「……ああ、これか。リアルイベント」
思わずそう口にすると、ホルは満足そうに頷く。
「うん。次の日曜だって」
スクロールすると、会場名、開催時間、ステージスケジュール。
展示、物販、来場特典――情報が次々と流れていく。
「展示もあるし、ステージもあるし……」
「会場限定で、怪異モチーフのアイテムが買えるんだって」
「へえ」
正直なところ、悠人自身なら見落としていたかもしれない。
忙しさにかまけて、告知ページをじっくり読むタイプではない。
だが、ホルは違ったらしい。
「これ」
画面をスクロールしていた指先が、ぴたりと止まる。
そこに表示されていたのは、
黒と黄色を基調にした装飾品――《黄昏》の名が添えられている。
「黄昏のモチーフアイテム……」
声に出した瞬間、ホルの視線が一気に上がった。
「そう!」
「欲しいなぁ……」
そう言いながら、ホルは自然と一歩距離を詰めてきた。
思ったより近い。
「……近い」
反射的に一歩引くと、ホルは少しだけきょとんとしてから、照れたように笑った。
「えへ。ごめん」
口では謝っているが、期待を隠す気はないらしい。
視線はタブレットと悠人を行き来している。
「でもさ」
ふと、思い出したように言葉を続ける。
「黄昏って……悠人も、私もよく使ってるでしょ」
少し照れたようでいて、でも当たり前みたいな口調。
その言い方が、妙に引っかかる。
「だからかな」
「同じ編成で遊んでると、やりやすいっていうか……」
ゲームの話のはずなのに、
距離の詰め方だけが、どうにも無防備だ。
「イベント自体は、人多いと思うぞ」
話題を戻すように言うと、ホルは一度だけ頷いた。
「うん。でも……見てみたい」
「黄昏のアイテムも、会場でしか買えないみたいだし」
タブレットを胸に抱く仕草は、どこか子どもっぽい。
欲しいものを前にした、素直な反応。
「……まあ」
悠人は少し考えてから、視線を逸らした。
「行くかどうかは、様子見だな」
「予定もあるし」
「うん」
それだけで十分だとでも言うように、ホルは素直に頷いた。
それ以上踏み込んでこない、その距離感が逆に心に残る。
「でも、教えてくれてありがとう」
「楽しみが増えた」
その笑顔を見て、悠人は小さく息を吐いた。
(……俺から言わなくて、結果的に良かったかもな)
下手に誘えば、きっと違っていた。
ホル自身が見つけて、
自分の言葉で楽しみにしている。
その様子を見られただけで、
十分だったのかもしれない。
「……楽しそうで何よりだ」
「うん!」
嬉しそうにタブレットを見直すホルを横目に、
悠人はソファに腰を下ろした。
距離は、まだ保てている。
けれど――。
(こういうの、弱いな……)
そんなことを思いながら、
あえて口には出さず、静かに時間を共有していた。
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