現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう

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第19話 初めてのイベント

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玄関先で、ホルは落ち着きなくくるりと一回転した。

「どう? 変じゃない?」

黒と黄色を基調にした服装。
どこか《黄昏》を思わせる配色に、アクセサリーも最低限。
コスプレ、と言い切るには控えめだが――
“寄せている”ことだけは、誰の目にも分かる。

「……いや」

靴を履きながら、悠人は視線を逸らした。

「普通だと思う」

嘘ではない。
ただ、“普通”にしては、目を引きすぎるだけだ。

「ほんと?」

ホルは、ほっとしたように笑った。





そして――会場に足を踏み入れた、その瞬間だった。

「……うわ」

思わず、悠人が声を漏らす。

広いホールいっぱいに人が溢れ、
あちこちから話し声や笑い声、電子音が重なって聞こえてくる。

想像していたより、ずっと広い。
そして、ずっと賑やかだった。

ホルもきょろきょろと周囲を見回し、目を輝かせている。

「すごいね……人、多い」

その言葉に被さるように、
ふと、周囲の空気が変わった。

ざわ、と。
水面に落ちた一滴のように、小さなざわめきが広がる。

「……あれ?」
「黄昏……?」
「え、コスプレ?」

ひそひそとした声。
気づけば、視線が少しずつ集まってきていた。

「え、え……?」

ホルは完全に固まっていた。
悠人も、同じだった。

さっきまでただ賑やかだった会場が、
今は自分たちを中心に、じわじわとざわついている。

「ちょっと待ってください、違うんです」

悠人が慌てて口を開くが、
すでに何人かがスマホを構えていた。

――そのとき。

「悠人さん! こっちです!」

はっきりと通る声。

人混みの向こうで、手を振る影があった。

「……!」

悠人は反射的にホルの手首を掴み、その方向へ進む。

「すみません、ちょっと通ります!」

人の隙間を縫うように進み、
気づけば、人通りの少ない通路に抜けていた。

「……はぁ……」

二人同時に、息を吐く。

「だ、大丈夫?」

「……なんとか」

声をかけてきたのは、ゆきだった。

眼鏡に帽子。
いつもの職場とは違う、明らかにイベント慣れした装い。

「びっくりしました……」
「いや、これは……」

ホルを見るなり、ゆきの目が見開かれる。

「目立ちますよ」
「黄昏にそっくりすぎです」

興奮したせいか、少しだけ早口になる。

「というか、そっくり通り越してます」

「……そんなに?」

「はい。普通に歩いてたら、声かけられます」

それから、ちらりと悠人を見る。

「悠人さんも」
「ちゃんと見ててください。これは危険です」

責める口調ではない。
けれど、その真剣さが逆に現実味を帯びていた。

「……気をつける」

ゆきは一度頷くと、自分の帽子を取った。

「これ、どうぞ」

そう言って、ホルに差し出す。

「え?」

「少し隠した方がいいです」
「今のままだと、注目されすぎます」

ホルはきょとんとしながらも、素直に受け取った。

「ありがとう……?」

「それと」

ゆきは、ふっと表情を和らげる。

「よかったら、一緒に回りませんか?」
「展示、順路分かりづらいですし」

「……いいのか?」

「もちろんです」

即答だった。

「せっかくですし」
「今日は、楽しみましょう」

ホルは帽子を被り直し、
少しだけ安心したように笑った。

「……うん」

その様子を見て、悠人は内心で小さく息を吐く。

(助かったな……本当に)

周囲のざわめきは、まだ遠くに残っている。
けれど今は、三人分の足音だけが、静かに続いていた。

イベントは――
まだ、始まったばかりだった。
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