23 / 49
第19話 初めてのイベント
しおりを挟む
玄関先で、ホルは落ち着きなくくるりと一回転した。
「どう? 変じゃない?」
黒と黄色を基調にした服装。
どこか《黄昏》を思わせる配色に、アクセサリーも最低限。
コスプレ、と言い切るには控えめだが――
“寄せている”ことだけは、誰の目にも分かる。
「……いや」
靴を履きながら、悠人は視線を逸らした。
「普通だと思う」
嘘ではない。
ただ、“普通”にしては、目を引きすぎるだけだ。
「ほんと?」
ホルは、ほっとしたように笑った。
⸻
そして――会場に足を踏み入れた、その瞬間だった。
「……うわ」
思わず、悠人が声を漏らす。
広いホールいっぱいに人が溢れ、
あちこちから話し声や笑い声、電子音が重なって聞こえてくる。
想像していたより、ずっと広い。
そして、ずっと賑やかだった。
ホルもきょろきょろと周囲を見回し、目を輝かせている。
「すごいね……人、多い」
その言葉に被さるように、
ふと、周囲の空気が変わった。
ざわ、と。
水面に落ちた一滴のように、小さなざわめきが広がる。
「……あれ?」
「黄昏……?」
「え、コスプレ?」
ひそひそとした声。
気づけば、視線が少しずつ集まってきていた。
「え、え……?」
ホルは完全に固まっていた。
悠人も、同じだった。
さっきまでただ賑やかだった会場が、
今は自分たちを中心に、じわじわとざわついている。
「ちょっと待ってください、違うんです」
悠人が慌てて口を開くが、
すでに何人かがスマホを構えていた。
――そのとき。
「悠人さん! こっちです!」
はっきりと通る声。
人混みの向こうで、手を振る影があった。
「……!」
悠人は反射的にホルの手首を掴み、その方向へ進む。
「すみません、ちょっと通ります!」
人の隙間を縫うように進み、
気づけば、人通りの少ない通路に抜けていた。
「……はぁ……」
二人同時に、息を吐く。
「だ、大丈夫?」
「……なんとか」
声をかけてきたのは、ゆきだった。
眼鏡に帽子。
いつもの職場とは違う、明らかにイベント慣れした装い。
「びっくりしました……」
「いや、これは……」
ホルを見るなり、ゆきの目が見開かれる。
「目立ちますよ」
「黄昏にそっくりすぎです」
興奮したせいか、少しだけ早口になる。
「というか、そっくり通り越してます」
「……そんなに?」
「はい。普通に歩いてたら、声かけられます」
それから、ちらりと悠人を見る。
「悠人さんも」
「ちゃんと見ててください。これは危険です」
責める口調ではない。
けれど、その真剣さが逆に現実味を帯びていた。
「……気をつける」
ゆきは一度頷くと、自分の帽子を取った。
「これ、どうぞ」
そう言って、ホルに差し出す。
「え?」
「少し隠した方がいいです」
「今のままだと、注目されすぎます」
ホルはきょとんとしながらも、素直に受け取った。
「ありがとう……?」
「それと」
ゆきは、ふっと表情を和らげる。
「よかったら、一緒に回りませんか?」
「展示、順路分かりづらいですし」
「……いいのか?」
「もちろんです」
即答だった。
「せっかくですし」
「今日は、楽しみましょう」
ホルは帽子を被り直し、
少しだけ安心したように笑った。
「……うん」
その様子を見て、悠人は内心で小さく息を吐く。
(助かったな……本当に)
周囲のざわめきは、まだ遠くに残っている。
けれど今は、三人分の足音だけが、静かに続いていた。
イベントは――
まだ、始まったばかりだった。
「どう? 変じゃない?」
黒と黄色を基調にした服装。
どこか《黄昏》を思わせる配色に、アクセサリーも最低限。
コスプレ、と言い切るには控えめだが――
“寄せている”ことだけは、誰の目にも分かる。
「……いや」
靴を履きながら、悠人は視線を逸らした。
「普通だと思う」
嘘ではない。
ただ、“普通”にしては、目を引きすぎるだけだ。
「ほんと?」
ホルは、ほっとしたように笑った。
⸻
そして――会場に足を踏み入れた、その瞬間だった。
「……うわ」
思わず、悠人が声を漏らす。
広いホールいっぱいに人が溢れ、
あちこちから話し声や笑い声、電子音が重なって聞こえてくる。
想像していたより、ずっと広い。
そして、ずっと賑やかだった。
ホルもきょろきょろと周囲を見回し、目を輝かせている。
「すごいね……人、多い」
その言葉に被さるように、
ふと、周囲の空気が変わった。
ざわ、と。
水面に落ちた一滴のように、小さなざわめきが広がる。
「……あれ?」
「黄昏……?」
「え、コスプレ?」
ひそひそとした声。
気づけば、視線が少しずつ集まってきていた。
「え、え……?」
ホルは完全に固まっていた。
悠人も、同じだった。
さっきまでただ賑やかだった会場が、
今は自分たちを中心に、じわじわとざわついている。
「ちょっと待ってください、違うんです」
悠人が慌てて口を開くが、
すでに何人かがスマホを構えていた。
――そのとき。
「悠人さん! こっちです!」
はっきりと通る声。
人混みの向こうで、手を振る影があった。
「……!」
悠人は反射的にホルの手首を掴み、その方向へ進む。
「すみません、ちょっと通ります!」
人の隙間を縫うように進み、
気づけば、人通りの少ない通路に抜けていた。
「……はぁ……」
二人同時に、息を吐く。
「だ、大丈夫?」
「……なんとか」
声をかけてきたのは、ゆきだった。
眼鏡に帽子。
いつもの職場とは違う、明らかにイベント慣れした装い。
「びっくりしました……」
「いや、これは……」
ホルを見るなり、ゆきの目が見開かれる。
「目立ちますよ」
「黄昏にそっくりすぎです」
興奮したせいか、少しだけ早口になる。
「というか、そっくり通り越してます」
「……そんなに?」
「はい。普通に歩いてたら、声かけられます」
それから、ちらりと悠人を見る。
「悠人さんも」
「ちゃんと見ててください。これは危険です」
責める口調ではない。
けれど、その真剣さが逆に現実味を帯びていた。
「……気をつける」
ゆきは一度頷くと、自分の帽子を取った。
「これ、どうぞ」
そう言って、ホルに差し出す。
「え?」
「少し隠した方がいいです」
「今のままだと、注目されすぎます」
ホルはきょとんとしながらも、素直に受け取った。
「ありがとう……?」
「それと」
ゆきは、ふっと表情を和らげる。
「よかったら、一緒に回りませんか?」
「展示、順路分かりづらいですし」
「……いいのか?」
「もちろんです」
即答だった。
「せっかくですし」
「今日は、楽しみましょう」
ホルは帽子を被り直し、
少しだけ安心したように笑った。
「……うん」
その様子を見て、悠人は内心で小さく息を吐く。
(助かったな……本当に)
周囲のざわめきは、まだ遠くに残っている。
けれど今は、三人分の足音だけが、静かに続いていた。
イベントは――
まだ、始まったばかりだった。
0
あなたにおすすめの小説
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
