現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう

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20話 イベントとゆき

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ゆきも合流し、三人でイベント会場を回ることになった。

人の流れが少し落ち着いた通路で、悠人は一度足を止める。

「……あのさ」

切り出すと、ゆきが首を傾げた。

「はい?」

さすがに何も説明しないまま、というわけにもいかない。
悠人は一瞬だけ言葉を選び、それから決めたように口を開いた。

「ホルは――親戚の大学生でな」
「アパートが見つかるまで、うちで預かることになってる」

横に立つホルが、何も言わずに小さく頷く。

「……なるほど」

ゆきは一拍置いてから、すんなり受け入れた。
一瞬だけホルの顔を見たものの、それ以上踏み込む様子はない。

見た目年齢的に、正直苦しい設定だとは思う。
だが、深掘りしても平行線になると察したのか、ゆきはそれ以上突っ込まなかった。

「それなら……最近、先輩がちょっと疲れてたのも納得です」

「……そうか?」

「はい。環境が変わると、色々ありますから」

小さく笑って言うその表情は、気遣いの混じった後輩のそれだった。

「でも」

と、ゆきは少しだけ声の調子を変える。

「分かってたなら、相談してほしかったな、とは思います」
「仕事、結構立て込んでましたし」

「……悪い」

「いえ。小言です」

そう軽く言って、すぐに話題を切り替える。

「それより――ホルさんも『新月怪異譚』、かなりやってますよね?」

その問いに、ホルの目がぱっと輝いた。

「うん! ここ最近、ずっとやってる」
「イベントも、ストーリーも」

「ですよね!」
「あの三章後半、急に難易度上がりませんでした?」

「上がる!」
「雑魚が硬いし、ボスの行動順ズルい」

「あー、分かります!」

そこからは、完全に意気投合だった。

編成の話。
難所の突破方法。
怪異同士の関係性や、テキストの行間。

「黄昏の台詞、あれ絶対伏線ですよね」
「分かる……あそこ、好き」

「サブクエの書き方、地味に重くていいんですよ」

歩きながら続く、熱量の高い会話。
悠人は少し後ろから、その様子を眺めていた。

(……馴染むの、早いな)

それだけホルが、この世界に居場所を見つけ始めている証拠でもある。
そして、それを受け止めてくれる相手がいることが、何より大きかった。

連れてきて、良かった。

そう、素直に思えた。

やがて、三人は目的の場所に辿り着く。

《黄昏》モチーフのグッズが並ぶブース。

「……!」

ホルの目が、はっきりと輝いた。

「すご……」

キーホルダー、アクリルスタンド、アクセサリー。
黒と黄色を基調にしたデザインが、整然と並んでいる。

「これ……」
「こっちもいい……」

目を光らせ、一つ手に取っては戻し、また別のものを見る。

「悩みますね」
「全部欲しくなるやつです」

ゆきの言葉に、ホルは真剣な顔で頷いた。

「うん……全部欲しい」

「……正直だな」

悠人はそう言いながら値札を確認し、
迷いなくいくつかを手に取った。

「え、そんなに?」

「欲しいなら、買えばいい」
「こういうのは、後で後悔する」

自分にも、他人にも。
悠人はその点、驚くほど甘い。

結果、袋は思った以上に膨らんだ。

「……ありがとう」

ホルは袋を抱え、満足そうに笑う。
その笑顔につられて、悠人の口元も自然と緩んでいた。

それから先は、ゆきの案内で会場を回った。

展示エリアで設定資料を覗き込み、
ステージの時間に合わせて移動し、
周囲の熱気に少し圧倒される。

「ここ、写真撮りやすいですよ」
「次はイベント列、今ならまだ短いです」

慣れた様子で先導するゆきの後ろを、
ホルは興味深そうにきょろきょろと見回しながらついていく。

「この怪異、ストーリーだと出番少ないけど」
「設定、結構重いよね」

「分かる……!」

会話は途切れず、
立ち止まるたびに新しい話題が生まれていった。

気づけば、時間は思った以上に早く過ぎていた。

足は少し疲れているのに、不思議と気分は軽い。
誰も急かさず、誰も置いていかないペース。

それが、ちょうどよかった。

結局その日一日、
三人はゆきの案内のもと、会場を余すことなく楽しんだ。

いつの間にか、ゆきとホルはすっかり打ち解けていた。

「フレンド申請、送っていいですか?」

「いいよ!」

その場で端末を操作し合い、すぐに成立。

「あと、これ……」
「メッセージも送れるので」

「うん、ありがとう」

連絡先まで交換している様子に、
悠人は少し驚きながらも、胸の奥が静かに温かくなる。

(……よかったな)

ホルには、ここにも居場所ができた。
自分の知らないところで、世界が少しずつ広がっている。

今日のことは、
しばらく、心に残りそうだった。

そんな予感を胸に、
ゆきと別れ、
ホルと悠人は並んで帰路についた。



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