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23話 平穏のまま、前へ
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平日の夜は、静かに過ぎていった。
特別な出来事はない。
夕食を取り、少しゲームの話をして、各々の時間に戻る。
それが何日か続いた。
変わったのは、ホルの表情だった。
落ち着いていて、でもどこか楽しそうで、
何かを胸の内にしまっているような――そんな様子。
その夜も、悠人が帰宅するとホルはソファに座っていた。
「おかえり」
「ただいま」
いつも通りのやり取り。
悠人が上着を脱ぎ終えた頃、ホルが少しだけ姿勢を正した。
「ね、悠人」
「ん?」
一拍、間がある。
言うか迷っている、というより――どう伝えるか考えている顔。
「今度……ゆきと、遊ぶことになった」
その言葉は、報告というより“確認”に近かった。
「ゲームのイベント周回、一緒にやろうって」
「通話つなぎながらやるだけ、なんだけど」
言い訳するように付け足してから、ホルは小さく笑う。
「私から誘ったんじゃなくてね」
「ゆきが、時間合うならって」
悠人は、一瞬だけ考えた。
驚きはない。
むしろ、自然な流れだと思えた。
「……そうか」
「うん」
許可を求めていたわけじゃない。
それでも、悠人の反応を確かめるように、ホルは視線を向けている。
「楽しみ?」
そう聞くと、ホルは少しだけ目を見開いた。
「……うん」
「正直、楽しみ」
それを隠さずに言えたこと自体が、少し前とは違っていた。
「なら、いいじゃないか」
あっさり返すと、ホルは一瞬きょとんとしてから、安心したように笑った。
「ありがとう」
その“ありがとう”は、
許してくれて、ではなく――受け止めてくれて、の響きだった。
その夜、ホルは少しだけ遅くまで起きていた。
悠人は何も言わなかった。
⸻
翌日。
昼休み、いつもの社員食堂。
悠人が席につくと、間を置かずにゆきが向かいに座った。
「先輩」
「おう」
少し声が弾んでいる。
だが、イベントの時ほど前のめりではない。
「ホルさんと、今度一緒に遊ぶことになりました」
まるで業務報告のような言い方だった。
「ゲームですけど」
「通話つなぎながら周回しようって話になって」
悠人は箸を止めずに頷く。
「そうか」
「……大丈夫でした?」
探るような視線。
気遣いが先に立っている。
「別に問題ない」
その即答に、ゆきはほっと息を吐いた。
「よかった」
「距離感、間違えたかなって少し考えてたので」
「ゆきが?」
「はい」
苦笑しながら言う。
「“親戚”って聞いてる以上、踏み込みすぎないようにとは思ってます」
「でも、ゲームの話になると……つい」
その言葉に、悠人は一瞬だけ言葉を選んだ。
「ホルも、楽しみにしてるみたいだ」
それだけ伝える。
「……なら、よかったです」
ゆきはそう言って、いつもの調子に戻った。
「正直、ホルさん」
「話してて、すごく落ち着くんですよ」
「そうか」
「はい」
「だから、変な意味じゃなくて……」
「一緒に遊べるの、素直に嬉しいです」
その“線引き”を、ゆきはきちんと自分でしていた。
(……ありがたいな)
悠人は心の中でそう思う。
昼休みが終わり、席を立つとき。
ゆきがふと思い出したように言った。
「先輩」
「ん?」
「ホルさんのこと」
「ちゃんと大事にしてるの、分かりますよ」
それだけ言って、先に歩き出す。
悠人は一人、少しだけ立ち止まった。
(……そう見えるのか)
守っているつもりで、
線を引いているつもりで――
もしかしたら、もう“関わりすぎている”のかもしれない。
それでも。
家に帰れば、ホルがいる。
今日のことを、きっと少し嬉しそうに話すだろう。
それを聞く自分を、想像してしまう。
平穏は、続いている。
確かに。
けれどその平穏は、
静かに形を変えながら、前に進んでいた。
気づかないふりをするには、
もう少しだけ――近すぎる距離で。
特別な出来事はない。
夕食を取り、少しゲームの話をして、各々の時間に戻る。
それが何日か続いた。
変わったのは、ホルの表情だった。
落ち着いていて、でもどこか楽しそうで、
何かを胸の内にしまっているような――そんな様子。
その夜も、悠人が帰宅するとホルはソファに座っていた。
「おかえり」
「ただいま」
いつも通りのやり取り。
悠人が上着を脱ぎ終えた頃、ホルが少しだけ姿勢を正した。
「ね、悠人」
「ん?」
一拍、間がある。
言うか迷っている、というより――どう伝えるか考えている顔。
「今度……ゆきと、遊ぶことになった」
その言葉は、報告というより“確認”に近かった。
「ゲームのイベント周回、一緒にやろうって」
「通話つなぎながらやるだけ、なんだけど」
言い訳するように付け足してから、ホルは小さく笑う。
「私から誘ったんじゃなくてね」
「ゆきが、時間合うならって」
悠人は、一瞬だけ考えた。
驚きはない。
むしろ、自然な流れだと思えた。
「……そうか」
「うん」
許可を求めていたわけじゃない。
それでも、悠人の反応を確かめるように、ホルは視線を向けている。
「楽しみ?」
そう聞くと、ホルは少しだけ目を見開いた。
「……うん」
「正直、楽しみ」
それを隠さずに言えたこと自体が、少し前とは違っていた。
「なら、いいじゃないか」
あっさり返すと、ホルは一瞬きょとんとしてから、安心したように笑った。
「ありがとう」
その“ありがとう”は、
許してくれて、ではなく――受け止めてくれて、の響きだった。
その夜、ホルは少しだけ遅くまで起きていた。
悠人は何も言わなかった。
⸻
翌日。
昼休み、いつもの社員食堂。
悠人が席につくと、間を置かずにゆきが向かいに座った。
「先輩」
「おう」
少し声が弾んでいる。
だが、イベントの時ほど前のめりではない。
「ホルさんと、今度一緒に遊ぶことになりました」
まるで業務報告のような言い方だった。
「ゲームですけど」
「通話つなぎながら周回しようって話になって」
悠人は箸を止めずに頷く。
「そうか」
「……大丈夫でした?」
探るような視線。
気遣いが先に立っている。
「別に問題ない」
その即答に、ゆきはほっと息を吐いた。
「よかった」
「距離感、間違えたかなって少し考えてたので」
「ゆきが?」
「はい」
苦笑しながら言う。
「“親戚”って聞いてる以上、踏み込みすぎないようにとは思ってます」
「でも、ゲームの話になると……つい」
その言葉に、悠人は一瞬だけ言葉を選んだ。
「ホルも、楽しみにしてるみたいだ」
それだけ伝える。
「……なら、よかったです」
ゆきはそう言って、いつもの調子に戻った。
「正直、ホルさん」
「話してて、すごく落ち着くんですよ」
「そうか」
「はい」
「だから、変な意味じゃなくて……」
「一緒に遊べるの、素直に嬉しいです」
その“線引き”を、ゆきはきちんと自分でしていた。
(……ありがたいな)
悠人は心の中でそう思う。
昼休みが終わり、席を立つとき。
ゆきがふと思い出したように言った。
「先輩」
「ん?」
「ホルさんのこと」
「ちゃんと大事にしてるの、分かりますよ」
それだけ言って、先に歩き出す。
悠人は一人、少しだけ立ち止まった。
(……そう見えるのか)
守っているつもりで、
線を引いているつもりで――
もしかしたら、もう“関わりすぎている”のかもしれない。
それでも。
家に帰れば、ホルがいる。
今日のことを、きっと少し嬉しそうに話すだろう。
それを聞く自分を、想像してしまう。
平穏は、続いている。
確かに。
けれどその平穏は、
静かに形を変えながら、前に進んでいた。
気づかないふりをするには、
もう少しだけ――近すぎる距離で。
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