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フレンド登録
しおりを挟む「なるほど。私と関わっていたばかりに、領地に戻って結婚しなくちゃいけないってことね」
私に気を遣わせないよう、サリナは必死で言葉を選んでいたようだが、要約するとそういう事だった。
私の世話に通っているだけでも、充分と立場を悪化させており、食事を下級メイドのようなものにされたりと悪質な嫌がらせを受けていたサリナ。
しかし、看病の為に1週間石牢に籠ったことにより、我が父スーベルト公爵の堪忍袋の尾が切れたらしく、実家にチクられて。
すっ飛んできた父親に、主家に迷惑をかけた馬鹿娘と罵られて顔を叩かれたようだった。
私も使用人たちの面前で、父に顔を殴られたことがある。
あの羞恥心と屈辱感は、思い返すだけでカッと身体が熱くなるものだった。
サリナを同じ目に合わせたことに、腹の底から沸々と怒りが湧き上がってきた。
「父の言いなりに結婚するのは、かまいません。
けれどそれでは、マーガレット様のお世話が出来なくなってしまうのです。
当面の資金は私が用意させていただきます。
どうか、お逃げください。」
「私を逃すと、貴女が処罰されるわよ。」
「いいえ。
今は私の身を案じている場合ではございません。
どうか御身を第一に、お考えください。」
私だけでなく、サリナまで追い詰める周囲の人間が許せない。
私達が一体、なにをしたというんだ。
なにか、どうにか、奴らに一泡吹かせてやりたい。
ギリギリと爪を噛んで、脳味噌をフル回転させ…ふとスマホに目がとまった。
「サリナ。私と一緒に石牢で暮らしていく覚悟は、あるかしら?」
「勿論です。」
間髪入れずに答えるサリナだが、すぐに困ったように眉を下げる。
「しかし、以前もマーガレット様がおっしゃったように、私まで石牢に入ってしまっては生きていけません。」
「それは多分、大丈夫。
私を信じてちょうだい。」
私はサリナから離れ、ベッドの上のスマホを取り上げた。
サリナの戸惑いは感じていたが、うまく説明してやる自信がない。
なので、言うよりも見る方が話が早いと、庭の設定を「フレンドのみ可」に変更した。
「きゃあっ!?」
目の前に居たはずのサリナが、ぐんっと残像を残すスピードで石牢の外に叩き出される。
そして、即座にバン!と締まる扉。
しまった、フレンド登録をしてから庭の設定を変えるべきだった。
慌てて来訪履歴から、サリナのフレンド登録を行った。
「悪かったわね、サリナ。入って大丈夫よ。」
「マーガレット様、今のは一体…」
恐る恐るといった様子で、扉をくぐったサリナは、はっとしたように目を見開く。
「広い…」
「サリナにも見えるようになった?」
「はい。先日、何か見えるのか とおっしゃっていたのは、この事だったのですね。」
サリナは、部屋の隅にあるキッチンセットを、興味深そうに眺める。
「それだけじゃないわ。食料も調達できるようになったのよ。
どうしてかは、上手く説明してあげられないのだけれど。」
「まあ…!では、本当に私がお供させていただいて、よろしいのですか!」
「そうよ。お父様達がサリナを連れ戻しにきても、無駄よ。
さっき牢から叩き出された力で、私達以外は、此処に立ち入ることが出来ないの。」
安心したのだろう。ポロリ、とサリナの頬を涙が一粒落ちていく。
サリナは、ハッとしたように手の甲で拭い、キリッと顔を引き締める。
「食料の調達は、これからも継続して行える ということですね。
よろしければ、こちらの説明をいただけますか?」
「ええ、勿論。見えないだろうけれど、これがカマド。薪は不要よ。オーブンっていうの。
温度調整は、このツマミ。こっちのツマミは時間を設定できる。スタートボタンはこれ。
それから、こちらがシンク。これを捻るとお水が出るの。」
蛇口から流れる水に、サリナは驚きの悲鳴を抑えるためか、真顔で口を真一文字に結んでいる。
その代わりに、見たことがないくらい目が見開かれていた。
「煮炊きは、これで行えるわ。ここを捻ると、火がつくの。調理器具はここで、調味料はここ。
恐らく、使ってもなくなることはないはずよ」
「………」
無言でこくりこくりと頷く顔が、桃色に上気している。
大丈夫かな、得体の知れない状況に、恐怖を感じているのでは と不安になって様子を伺う。
しかし、杞憂だった。
「絵本に出てくる、魔法のお城のようですね。素敵…」
落ち着いて見えても、私より2つ歳上なだけの17歳の少女らしい。
ふわっと夢心地の表情で両手を組む姿なんて、初めて見た。
「あとは…少し待っててちょうだいね」
私はそう声をかけると、ゲームに戻った。
今まではサリナが、汚物を処理してくれていた。
けれど、これからは違う。
ならば!
ファッションモードの中の、トイレの項目!
ここでアップデートが出来れば…!
「ああー!水洗トイレ、50,000G!」
手持ちは50,480Gだ。
ギリギリ過ぎる!でも足りてる!
残るお金が少な過ぎて不安だが、背に腹は変えられない。
きったない便壺から、水洗トイレへとグレードアップさせた。
これで牢内の衛生は保たれるはずだ。
ずっと漂っていた悪臭も、なくなっていくに違いない。
「あれ?トイレどこ?」
便壺があった辺りに現れるかと思っていたトイレが、見当たらない。
その代わり。
「マーガレット様、ここに扉が現れました。」
「わあ!トイレが別室なの、助かるわ!」
部屋の奥に、ドアが現れてくれた。
あまりオシャレ感のない、飾り気のない水洗トイレ(和式)。
とはいえ、ドレスを着ている身としては、洋式よりは使いやすい。
サリナにトイレの使い方を教えて、レバーを下げて見せると、ザーッと勢いよく清流な水が流れていく。
「残るは、お風呂がないことだけが難点なんだけど、それはまあ…おいおいどうにかするわ」
「承知しました。それは、私にお任せください!」
牢内の状況を把握したらしいサリナが、両拳を握って宣言する。
それから猛然と、ベッドのリネンを剥ぎ取っていく。
「一度、下がらせていただきます。
すぐに戻りますね!」
「わかったわ。気をつけてね。」
それらを抱えたまま出ていく彼女を見送ったタイミングで、アラームが鳴り始めたので、キャベツの収穫へと戻ったのだった。
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