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念願の入浴
しおりを挟むグラグラ グラグラ
大きな鍋で、湯を沸かしている。
その間、サリナは持ってきたリネン類で、せっせと私のベッドを整えていた。
久しぶりの清潔な寝床である。
更には、サリナが持ってきてくれた桶!
これに、さきほどからお湯を沸かしては、何度も流し込んでいる。
「あちち、ちょっとお水でうすめますね。」
「大丈夫?私も何か手伝うわよ?」
「大丈夫です。お嬢様は風邪をひかないよう、しっかり布で身体を覆っていてください」
サリナに汚れたドレスを脱がせてもらって、私は厚手の布を身体に巻いて立っていた。
そう。念願のお風呂である。
今までは、サリナに課せられた仕事のため、私にかけられる時間が限定されていて、とても入浴までは手が回らなかった。
まして井戸から水を汲み、沸かして地下牢まで持ってくるような重労働、サリナ1人で行えるはずもない。
だが、サリナが持ってきた桶で、全て解決だ。
無限に出てくる清潔な水。
ガス代要らずのコンロ。
好きなだけ、お湯を沸かすことができるのだから。
キッチンの流しを使用するのは衛生的に抵抗感はあったが、贅沢を言える身ではない。
流しに頭を突っ込んで、上からサリナがゆっくりとお湯をかけてくれた。
脂と垢で房状に固まっている髪を、サリナが丁寧に指でほぐしながら何度も湯をかける。
程よい温度のお湯が心地よく、うっとりしたくなるところだけど、流しの中から湯気と共に上がってくる臭いがすごくて、吐き気がしそうだった。
「それでは先ほどいただいた石鹸をつけますね」
「シャンプーね。ええ、お願い。」
折角、洗うのだから と、デイリークエストクリアでゲットした3,000Gを使って、シャンプーとリンスを購入してある。
危なげなくポンプを使ってくれるサリナは、さすが飲み込みが早い。
「液体の石鹸とは、素晴らしいですね。
とても使いやすいです。」
「この頭を石鹸で洗い上げるのは、大変だもの」
そう言って、ゲームの中とはいえ冷水&シャンプーなしで頭を洗おうとしていたことを思い出し、苦笑した。
あの時、数百Gをケチらずにシャンプーを買っていれば、寝込むことはなかったかもしれなかったなあ、と思う。
わしゃわしゃ と器用な指が頭皮を擦るのが気持ちいい。
ずっと頭が痒かったから、ずっとずっとわしゃわしゃしてて欲しくなってしまった。
何度か流して、洗って、を繰り返した後で、更にお湯を足して温度を調整した桶の中に浸かる。
そうして、桶の中につけたスポンジで、上から順に丁寧に身体を擦ってもらった。
気持ちいい。
けど、みるみる濁っていくお湯。
その中に浸かっていることに、抵抗感が出てきた。
「お湯加減は大丈夫ですか?」
「そうね。
少し、冷めてきてしまったかもしれないわ。
そろそろ上がろうかしら。」
なかなか完全に綺麗に とは至らなかったが、仕方ない。
風邪をひくわけにはいかないので、桶の中で立ち上がる。
お湯はすっかり茶色く濁り、表面にびっしり浮いた垢がユラユラ揺れていた。
我ながら、汚さに引いてしまう。
身体を拭いてもらって、用意してくれていた新しいワンピースに袖を通した。
半端に洗ったせいで、あちこち痒さを覚えるが、仕方ない。
「片付けはいいわ。私が処分するから。」
私はそう声をかけて、お湯を片付けようとしていたサリナを止め、桶をアイテムボックスに収納した。
そして、ボックス内で分別されている汚水と桶を確認し、桶だけを取り出してやった。
コツは、桶と汚水が別物だと認識して、収納することだ。
まるで未使用かのように、全く汚れもなく濡れていない桶に、サリナはホーっと息をついた。
「マーガレット様の魔法は、素晴らしいですね。」
「ふふ、魔法ではないけれど」
けど、魔法のようなものか。
アイテムボックスに残った汚水は、トイレにでも、流そう。
そう思ったが、アイテムを選択した時、幾つか項目が出たことに気づく。
「フォルダわけ」「ロックをかける」「削除」である。
試しに汚水を選択して削除を押すと、本当に削除していいのか念を入れる選択が出て、その後は無事に削除出来た。
ゴミの処分はどうしようかと思っていたが、これで解決しそうである。
「サリナも、これからお風呂かしら?」
「いえ、私はもう…少し、身体だけ拭かせていただきますね。」
お湯を準備出来る設備があっても、入浴介助は、とても大変と見える。
汗をびしょびしょにかいているサリナに、申し訳なさを感じた。
「あのね、サリナ。
これ、ワンピースよりも動きやすいと思うのだけど、着てみない?」
そう言って、先ほど手に入れた、Tシャツとジーンズを差し出す。
「私が、ズボンを履くのですか」
目を丸くするサリナだったが、それもそうだ。この世界では、ズボンは男性しか着用しない。
なんなら男装は、宗教的なタブーにもあたる。
人に見られれば、魔女として火炙りにされてもおかしくなかった。
「此処には私達しか居ないし、動きやすいかと思って…」
殆ど動かない私より、サリナが着た方が理にかなっていると思ったのだ。
余計なことを言ったかと思ったが、身体を拭き終わったサリナは、喜んで着用していた。
「この格好、凄く動きやすいです!」
「それなら、よかったわ」
「生地がよく伸びて、軽いですね」
腕を回したり、座ったり立ったりを繰り返していたサリナを、微笑ましく眺める。
が、
ぐううう…
どちらともなく鳴ったお腹に、食事にとりかかることにしたのだった。
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