30 / 44
ウィルド
しおりを挟む少しひんやりした夕方の空気。
駆け抜ける空気の感覚は、久しい。
夕日の姿はすでになく、周囲は赤く染まっているものの、薄闇に包まれ始めていた。
外だ…どういうこと?
混乱に陥りそうになって、ハッと手の中のアイテムを確認する。
じゃらっとした透明な石だが、なんかちょっと違う。
あれ?と思いながら、1つボックスにしまってみると、テレポート水晶のかけら(ランダム)の数値が変わった。
使うアイテムを間違えた!!
どうしよう、どうしたら部屋に帰れるんだろう。と、あわあわする。
久しぶりでも大して外界の景色は様変わりしておらず、石牢のある場所まで辿り着くことはできそうだ。
けど、その先は?
今のステータスなら、石牢までの障害物を取り除くことは、簡単な気がする。
とはいえ流石にあの轟音を立てる大きさの物をポイポイ放り出してたら、誰かに見つかるんじゃないだろうか。
いや、アイテムボックスにしまえば、無音で片付けられる?
いやいや、いきなり片付けちゃったら、封印が解かれた!って大騒ぎになるのでは?
どうしよう急いで帰らないと、サリナが心配する!
それこそ扉を蹴破って障害物を粉砕し、私を探しに出てきてしまいそうだ。
とにかく、こうしていても仕方ない。
テレポート先がランダムなこのアイテムを使って、運良く牢内に帰り着くまで水晶のかけらを使いまくる というのは最終手段として。
他に使えそうなアイテムはないか、アイテムボックスを確認することにした。
しかし、そこそこ長いことゲームをやりこんでいたこともあって、アイテム数がえげつない。
何か使えるアイテムが見つかるのが先か。それとも封印されし魔王(サリナ)が出てくるのが先か。
ハラハラしながらボックス内を見ていると、かさっと草を踏む音がした。
ヤバい、人に見つかった!
背後の気配に気づいた私に、相手もこちらに気づいたようだ。
そろりと伺うが、屋敷の人ではない。
全身黒ずくめの…まるで喪服のような格好をした青年。
ーーどこかで見たような?
「失礼…迷ってしまったのですが、案内願えませんか」
誰だったか記憶を探ったその隙に、相手に話しかけられてしまった。
背中を向けたまま、なんと答えるべきか少し考える。
どうやら客人だろう。身なりがいい。
相手は私の服装から、屋敷の使用人だと判断したらしかった。
シンプルなワンピースレベルのドレスだもんね。
「このような場所で、どうされたのですか。供もつけずに。」
少し冷たく突き放す声で言うと、私が使用人ではないことに気づいたらしく、慌てて距離を取ってくれた。
「これは、追悼式に参列されたレディとは気づかず、失礼しました。
私は、ウィルド・ライヘンベルグと申します。
悲しみに囚われている内に、皆とはぐれてしまいまして…」
「まあ追悼式?どなたの?」
あ、ライヘンベルグの第二王子だ。
石牢に入れられるまで、一応は交流があった方だった。
私は王太子の婚約者として。彼はライヘンベルグの外交官として。
実際に顔をあわせたのは、一回だけだけだ。
主に手紙でやり取りしていた、他国の王族の1人である。
ゴージャスな薔薇の花みたいな外見が、パッと脳内に再生される。
私は相手を覚えている。
…が、私の顔まで覚えているかな?
覚えていない可能性が高い気がする。
思い切って振り返ってみた私に、彼は不思議そうに首を傾げた。
よかった、覚えてなさそうだ。
「スーランド公爵令嬢が亡くなられた一周年を節目とした追悼式ですが…レディは参列された方では?」
「えっ?」
私の追悼式?
なんで追悼式なんて行われてるの、謎すぎる。
こっちに日本の初盆みたいな文化、なかったはずだけれど。
しかし、それで黒ずくめのセレモニー用の格好らしい。
燃えるような赤い髪を全て後ろに流し、うなじのあたりでしばって。
グリーンがかったブラウンの瞳は、やけに目力が凄い。
外見が派手すぎて、喪服みが薄い。
夜会で顔を合わせた時も、やけに人目を引く人だったので、私も顔を覚えていた。
「ーーなるほど。人の居る辺りまで、ご案内しましょう」
あまり親しくしていたつもりもないが、自分を悼んで悲しんでくれた人だと思うと、好感度が上がる。
私は少し気分が良くなって、道案内を買って出た。
悲しんでくれていた割に、私の顔は覚えていないようだし。
「しかし黄昏時に異性と2人になられては、レディの名前に傷がつきます。
そのような気遣いは…」
「ふふ、遠慮は無用です。私には最早この世に、レディの称号など残っておりませんので」
「え?」
私がスッと距離を詰めた後、先導して歩き始めると、少し躊躇った後についてくる。
「失礼ですが、貴女は一体…」
「この世のものではないと思っていただいて、結構ですよ」
詮索されると困るので、適当なことを言って、笑って誤魔化す。
彼は言葉をなくした後、目を逸らして口元を手でおさえていた。
物の怪とでも思っただろうか。
この国での私の扱いとしては、あながち間違いでもない。
折角、外に出たのだ。
この機会に、少し情報収集するのも、いいかもしれない。
私は歩きながら、私の追悼式についての話を聞いてみた。
追悼式は、公爵家が主導して行なったそうだ。
自ら命を絶ったとされる私の葬式は身内のみで執り行われた ということになっていたらしい。
それに対して、交流があった王族や貴族が、せめて墓に花だけでも備えさせて欲しいとの要望が多数あり、要望にこたえる形で追悼式を行ったのでは という話があるそうな。
殿下は悲しそうな顔をして、そっとため息をもらした。
「非業の死を遂げた方ですからね。
天国の門をこじ開けてでも、彼女を送りたい気持ちがあるのでしょう。
身内にあたる皆様の祈る姿は、鬼気迫るものがありました」
「………」
私の身内がそんなバカな、と言いたいところだが。
日本式に言えば、成仏してくれ!という気持ちかもしれない。
魔女堕ちしたと、勘違いされている可能性が高いんだもんね。
それにしても、不思議だ。
「それにしても殿下はなぜ、そのように心を痛めておいでなのでしょう。
『白豚マーガレット』と、あまり親しい間柄でもなかったのでは?」
「…不思議なことをおっしゃいますね。彼女は素晴らしいレディで」
「あっ!」
話の途中で、ボックスの中に「帰還スクロール」というアイテムが入っていたのを思い出した。
思わず声を上げて、遮ってしまう。
しまった と振り返ると、彼は少しムッとした表情をしていた。
いやあ、失敬。
どうせ私以外にはウィンドウは見えないのだから、堂々とウィンドウを操作してスクロールを取り出す。
アイテムの説明を見る限り、スクロールを破ると牢内に帰還できそうだ。
これで無事に帰れそうで、ホッとした。
その瞬間。
「殿下!このような場所においででしたか!」
ふいに聞こえた人の声に慌てて、咄嗟にスクロールを破いていたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ストック分がなくなりました。
以降は毎日更新のペースではなくなります。
悪しからずご了承ください。
9
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる