転生覚醒が遅すぎたので全力ヒキニートします!

カカオ70

文字の大きさ
31 / 44

悪魔

しおりを挟む


「ウィルド様、こんなところに!
何をなさっておいでですか!」
「あ、ああ…」

迎えに出ていたのは、俺の腹心の部下 ティールである。
現実に引き戻されたような感覚を覚え、はっと後ろを振り返ると彼女はもう消えていた。
人が隠れられるような物は、周囲に見当たらない。
まさに煙のように、かき消えた。

やはり、人ではなかったか。

納得して、ふう と緊張を解いた。
そんな俺を見て、ティールは首を傾げる。

「どなたかとご一緒でしたか?」
「ああ…いや」

そもそも彼女自身も、生きた人間ではないようなことを言っていた。
透き通るように色が白く、見たこともないような美貌の女性で…現実離れした存在だった。
更に人間ではないものの証拠として、共に歩いていても、彼女は足音ひとつ立てていなかったのだ。
はじめは、精霊の類かと思ったが…
レディ・マーガレットを、悪し様な呼び名で口にする存在だ。
恐らく、ろくなものではあるまい。

「どうも、悪魔に道案内してもらったらしい」
「えっ?どこに誘われたのですか」

ティールが真顔で青ざめる。
まあ、悪魔に案内された先など、地獄と相場が決まっているものな。

「大丈夫だ、正しい道を教えてもらったよ。
その証拠にほら、お前と再会できただろ」
「本当に大丈夫ですか、僕が偽物だってことはないですか」
「何を言ってるんだ、お前は。まさか偽物なのか?」
「ち…違います」

俺より、よほど動揺している。
あまり心配させても可哀想だ。
気を散らせるべく、ティールの背中を軽く叩いてやった。

「悪魔とは魅力的な姿をしている…噂通りの美貌だったよ。
全世界の美女のラヴァーとしては、是非またお会いしたい」
「何言ってんですか、やめてくださいよ」
「冗談の通じない奴だなあ」

館の主人に無事に戻ったことを報告するべく廊下を進みながら、笑みを浮かべて軽口を叩く。
火が灯ったランタンの廊下は、歩くのには支障はないが、端々の暗がりに何かが潜んでいるような薄らとした恐怖が潜んでいる。

仕方がない。
非業の死を遂げた魂が、この館の中を、今も彷徨っているだろうから。

脳裏には先程の悪魔と同じ、銀髪の少女が浮かんでいた。
今回の訪問の要因。
マーガレット公爵令嬢。
滝のような汗さえなければ、なんの苦痛も感じていないような表情で固定された微笑だった。
彼女に会ったのは、ほんの数回。
はじめは奇妙な人だという印象だった。
国交としてやり取りしていた手紙の、文字の流麗さにまず驚き。
折々の細やかな心遣いを感じる言葉。
センスの光る小物使いに、耳にする愚鈍さとは真逆のものを感じた。
彼女から自分には、特別な印象は持たれていなかったように思う。
俺は各所で、女にだらしない印象を持たれている。
生真面目そうな彼女からは、心の距離があっただろう。
けれど。俺が表敬先の国で流行り病をうつされた時。
しばらく社交界に顔を出せなかった時期だ。
寝込んでいると公式でまで発表していたというのに、実はどこかでフラフラと女遊びをしているのだという噂が出回って…婚約者ですら見舞いにこなかった。
見舞いの手紙は一応、各所から届いた。
けれど見舞いの品は、俺の体調を心配しているわけではないと、内心が透けているものばかり。
そんな中、美しい便箋に見舞いをしたためて、薬効成分のある果物の蜂蜜漬けを送ってくれた唯一の人だった。
喉が痛くて水を飲むのすら苦痛だった俺にとって、唯一口にできたのが、その蜂蜜を溶かしたお湯だったのだ。
その後お礼のやり取りをした時から、彼女との交流は少ない楽しみの一つとなっていた。
そんな彼女が亡くなったのだ。
彼女のご家族はさぞや悲しんでいるだろう、と思っていたが。

なにか、違和感があるんだよなあ…。

娘の死を悼んでいるというより、なにか…不安を感じている ような。
どこかソワソワとした、怯えたような空気感があった。
涙を見せるのは弔問客のみ。

…のみ、は語弊があるか。

血の繋がりはないけれど、彼女の死後に養女に入ったという、ポピーという少女。
彼女は憂いを帯びた表情をしていた。
その肩を抱いていたのは、マーガレットの元婚約者。
小耳に挟んだところによると、ポピーがマーガレットの後釜として王太子妃になるらしい。
王太子からは式典への想いなどは感じられず、ポピーと同じ時間を過ごせるのが嬉しくてたまらない と言わんばかりの笑顔だった。
一方で、一際嘆きが深かったのが、王妃。
真っ青な顔で拳を握りしめ、流れる涙を拭おうともせずにレディ・マーガレットの墓を一心に見つめていた。
墓に縋り付いて泣き出すのではと周囲もハラハラとしていたが、もっとインパクトが強い出来事が起きた。
王妃の肩を抱こうとした国王の手を、叩くようにふりはらったのだ。
ギョッとして周囲が見つめる中、咄嗟に駆け寄ろうとした王太子をも、鋭く睨むようにして拒絶していた。
奇妙な図だった。

もしかすると。
この王国の王妃というのは、それこそレディ・マーガレットが命を断つほどに過酷なもので。
同じ運命を辿るもの同士の共感として、王妃とマーガレット嬢はとても仲がよかったんじゃないだろうか。
そして、結局救えなかった周囲に対して、八つ当たりとはいえ怒りを感じている…とか?

もしくは。
実は、王太子がマーガレット嬢からポピー嬢に乗り換える為に、マーガレット嬢をなんらかの形で殺したとする。
その場合、ポピー嬢を養女にしている公爵家も、当然グルだろう。
そして、その計画を後で知った王妃が、人道に外れる行いに対して激怒している。
そして公爵家の面々は、始末したマーガレット嬢の呪いを怖がっている…とか。

ゾワ と背筋が逆立つように寒くなった。

「なーんちゃってな!」

慌てて思考を止めて、ブルブルっと首を振る。
そして、はっと我に返った。

「ティール?どこに行った?」


また、やっちまった!

つい考え事に没頭して、ぼんやり歩いてしまう。
これが元で、庭でもはぐれてしまったというのに。
まあ庭と違って、来た方に戻れば問題ない。
随分と趣の違う廊下まで、歩いて来てしまっていた。
使用人用の通路に出てしまっているのかもしれない。と考え、踵を返した時だ。

「…なんだ、これ?」

恐らく、地下に繋がる階段があったと思わしき場所。
そこの下り口の部分まで石で埋められていたのだ。
更には、岩の上に聖水と思しき瓶と、十字架。
更には柊やローズマリーなどの魔除けが、張り巡らせたロープにビッシリとくくりつけられている。


悪魔でも封印してるのか?


夕暮れの庭であった、現実感のない美女が脳裏に蘇る。


「まさか、本当に…?」

だが、首を突っ込むわけにはいかない。
俺は慌てて、足早にそこを立ち去ったのだった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...