転生覚醒が遅すぎたので全力ヒキニートします!

カカオ70

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帰還

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「ぶ、無事に…戻られて、本当に…ほ、本当によかったです」
「きゅうーん、くーん…」

しゃくりあげながら泣きはらすサリナに、私は途方に暮れていた。
スマホの力なのか、外界とここを隔てている扉は、サリナが全力で蹴破ろうとしてもびくともしなかったらしい。
それでも諦めなかったサリナの拳が、かなりグロいことになっている。
レオンまで、うるうるの目でこちらを見上げて、ずっとヒンヒン鳴いている。
罪悪感がもの凄かった。

なんとか宥めて、自己ヒールで手を治してもらって。
楽しみだったベーコンステーキを食べる時には、もうすっかりご飯は冷め切っていた。しょんぼりだ。
ただし、味は絶品だった。

「テレポートアイテム、ですか。」
「ランダムな位置に出現することになるから、思うところに出られるわけではないのだけどね。
帰還スクロールもあるから此処にはすぐに帰って来られるし、あわせて使えば利用方法はありそうだわ。」

よほどショックがデカかったらしい。
いまだに顔色が優れないサリナは、不安そうな顔をする。
私は元気づけるように手を握ってやった。

「大丈夫よ。利用できるからって、利用しなくちゃいけないわけじゃないんだし」

特に、外に出なくてはいけない用事もない。
だが本音を言うと…。

牛が欲しい。乳牛。
あと、鶏が欲しい。卵欲しい。
買いに行きたい…!

だって、まだ動物を飼うクエストが解放されない。
絶対お庭で飼えるはずなのに。
動物用の柵とサイロはあるのに!

牛乳がない。
バターも食べられない。
生クリームもチーズもない。当然アイスもない。
最高のベーコンがあっても、ベーコンエッグもグラタンもカルボナーラも食べられない。
お庭でカカオが採れたのに、ミルクチョコレートもココアも飲めない!嗚呼…!

でもな、でもなあ。
危険を冒してまで行くべきか。
さっきからずっと、サリナの表情が暗い。
手をボロボロにしながら私を心配していたサリナのことを考えると、安易に外に行くのは憚られる。
サリナの気持ちを考えるなら、封印するべきじゃない?と思う。

そこまで考えたところで、黙ってお茶を飲んでいたサリナが、意を決したように顔をあげた。

「マーガレット様は…外に出たいと、お思いなのですね」

ん?
なんの質問?

「外に出たいわけじゃなくて、乳牛が!」
「にゅうぎゅ…?」
「牛乳がないんだもの。サリナに食べさせたら絶対喜ぶだろうなーっていう、あれもこれもぜーんぶ牛乳がいるの!」

プリン、クッキー、スコーンにショートケーキ、生クリームとカスタードをたっぷり詰めたシュークリーム、ホワイトシチュー、さくさくのパイに、たっぷりチーズのキッシュやピザ、ラクレット、バスクチーズケーキ!

全部全部、大好物なのに!

「でも、サリナを心配させたいわけじゃないし、牛乳はきっとその内にクエストが解放されると信じて、待つしかないって思って我慢するよ。」
「あらそんな!公爵家には乳牛もおりましたし、ぜひ一頭いただきましょう」
「えっ?」

気がつけば、サリナはとても明るい表情である。
なんだなんだ。
牛乳効果か?

「私もご一緒する方法は、ないのですか?」
「んー…どうかな。手を繋いでたら、一緒に出られるかな」
「試してみましょう」

ん?自分も外に出られると思ったら、めっちゃ乗り気?
ええ…。
私は別に外に遊びに行きたいなんて、思ってないのになあ。
サリナとレオンが居てくれたら、それだけで充分なのに。
そう思うと、ちょこっと胸の奥がチリっと痛んだ。

なんだろう、この気持ち。
自分だけ今の生活に満足していて、サリナは不満だったのかと思ったら、モヤっとする。
我慢を強いている罪悪感だろうか。

「今日はもう遅いから、また今度ね」

気持ちが不安定だったせいか、ちょっと冷たくあしらってしまって、サリナを少ししょんぼりさせてしまった。

気持ちを立て直せたら、外に連れてってあげよう。

仕方なく、そう心に決めた。



「よし、じゃあ行くか」

覚悟が決められたのは、そこから一ヶ月ほどが過ぎた辺りだった。
ニートの月日が過ぎるのは、驚くほど早かった。
嫌なことをしなければと思ったら、妙に早く過ぎる。

まずは、美容ゲームでゲットしたヘアセットを、アイテムボックスからサリナに着用させる。
黒髪ストレートロングだったサリナが、ゆるふわウェーブの栗色の髪色に。
これだけで全然印象が違って、親しい人でもよく見ないとサリナとはわからないだろう。
更に化粧でクールな切れ長の瞳を、たぬき顔によせていく。
メイク道具は何故か美容ゲームじゃなくお庭のラズベリーの限定クエストでゲットした。
ラズベリージューシィな愛されパレット だそうな。
ネーミングセンスがアレだが、プロっぽいでかいボックスに赤・ピンクメインにカラーバリエーション豊富なメイク道具がズラリと揃っている。
一方の私だが、外に出る時は全てのゲームモードで選択可能な「性別変更」を利用することにした。
流石に性別が違ったら、絶対に私とバレないだろう。
サリナと男女ペアで動いていれば、エスコートされている貴人として振る舞いやすいし、使用人からはおいそれと声を掛けづらくなる。
執事とメイド長辺りは、お客様の顔を全て把握してそうだから、二人に気をつけてさえいれば大丈夫だ。

「私は女言葉で喋らないよう、気をつけないとね。」
「そうですね。今の所、あまり違和感はないかもしれませんが。」
「目立たないようにしなきゃいけないのに、女言葉で喋る男はマズいでしょ」
「もう充分に目立っておりますが」

えっ、銀髪だからかな。
この国でも、珍しい髪色だもんね。
じゃあ、髪色も変えていこう。

ということで、黒髪に変更。
サリナが身近に居たのと、前世の記憶の影響だろうか。
黒髪にすると、気持ちがめちゃくちゃしっくりくる。
まあ、この国では黒髪も希少ではあるのだけど。
とはいえサリナの一家も全員黒髪だったし、銀髪ほどは目立たないはずだ。
服もなるべくシックに、黒を基調にしたベーシックな貴族服をチョイスする。
流石に一年以上やり込んでいると、選択肢が多くなって、便利である。

「よし、じゃあ行こう。手を離さないようにね。」
「…はい」

意を決した顔で私の手を握るサリナに、安心するように微笑みかけて、テレポートアイテムを使う。
手を繋いでアイテムを使用すれば、一緒に移動できるんじゃないかと踏んだ…のだが。

「ああ~…勝負運ないなあ」

残念ながらその読みは外れて、別々に転移してしまっている。
こんなこともあろうかと、サリナにも帰還アイテムは渡している。
落ち合う場所も決めてある。
目的地である、公爵家の敷地内にある牛舎だ。
お代として渡すお金は、地下に持ってきてくれたサリナの財産から、用意してもらった。
不甲斐ないが、現金は持っていないので仕方がない。
お金があるなら、外に買いに出られれば良いのだけど、流石に正体不明のまま門を潜るのは難しい。
テレポートアイテムは屋敷の中しか移動してくれない可能性もあったし。
こそこそすると怪しまれてしまうので、なるべく優雅に、でも素早く移動する。
私が転移したのは、屋敷の表の庭園。
牛舎があるのは、庭をつっきり屋敷をグルリと回った裏にある。
むしろ、牛舎から1番遠いとこに出てしまった感がある。
裏手は、ちょっとした森に囲まれたようになっていて、屋敷に近い方に馬場があり、屋敷から離れたあたりに牛舎がある。
敷地の中には、小さいが畑もあって、ちょっとした籠城に耐えられる仕様なのだ。
牛舎は屋敷の人間は、全く近寄ることはない。
牛舎で働いているベンという男が、屋敷に毎朝牛乳を届けているが、それも勝手口に置いて帰るだけだ。
なぜ知っているかって?
小さい頃、まだお転婆な部分があったマーガレットが、自分ちの中を冒険して知り合ったからだ。
搾りたての牛乳を飲ませてもらって、それが衝撃的に美味しくて、こっそり抜け出しては遊びに行っていたものだ。
いつからか遊びに行く暇もなくなって、久しい。
きっとベンはもう、私のことなど忘れているに違いない。
それでも縁あった人だ。
今も元気にやっている姿が見られたなら、嬉しい。

無事に辿り着ければ。だが。

私はポケットの中の帰還スクロールを、そっと布の上から確認して、緊張を押し隠した。
裏手は客人が立ち入る場所ではないので、裏手に向かって屋敷の脇を通るのが1番緊張する瞬間だ。
誰かに見咎められても、あくまで迷い込んだのだと言い張れるように、景色に見惚れながら散策しているふりをし、そろそろと裏手を目指す。

あとちょっと…あとちょっと!

ドキドキしながら、足を早めた時だった。

「誰か、いないんですの…?」

どこからともなく、細く啜り泣くような女の声がした。

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