転生覚醒が遅すぎたので全力ヒキニートします!

カカオ70

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強国ファーマレストの王族

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どこからともなく聞こえてくる声。

その声が余りにも心細くか弱い泣き声で、すぐにその場を立ち去ることが出来なかった。

どこから聞こえてきてるんだろ?

周りを見渡し…上からだったらすぐに見つけられそうなのにな、と思った瞬間、視点が切り替わって腰を抜かしそうになった。
恐らく、冒険ゲームでとったスキル「鷹の目」の効果なんだろう。
まるで上空から見下ろしているような視点で、辺りを見渡すことが出来る。
しかも目がいい。物凄くいい。
木の葉の影に埋もれるように見える、真っ赤なドレスなんて、すぐさま見つけ出せた。
私から2~3m離れたところの木の上だ。
少し離れただけで、人の泣き声って案外気づかないくらいまでの小ささになるものだ。
そっと近づいて、ドレスの中が見えない位置から慎重に声をかけてみる。

「…そのようなところで、どうされました?」
「あ、あ!おろして!おろしてちょうだい!」

どうやら、木の上に上って、降りられなくなってしまっているらしい。
猫みたいだ。
声や体格から成人女性と見えるが、公爵家の人間ではなさそうだ。
ポピーでもない。
またもや、外部のお客様らしい。
公爵家の人間には、もうちょっとお客様に目配りして欲しいものだ。
つい元公爵家の一員として、責任を感じてしまった。

ひとまず彼女を木の上から救出しよう。
周囲に人は と鷹の目で確認するが、この周辺にいるのは…あ、サリナだ。
私に気づいているらしく、まっすぐこちらに向かっている。
それ以外、近くに人が見当たらない。

誰も居ないなら、人助けをしていても、まあ、大事にはならないだろう。
そういえば裏の納屋に、梯子があったはず。

呑気にそう思い、

「わかりました。梯子を取ってくるので、もうしばらくお待ちください」

と言ったのだが。

「待って、行かないで!」

ようやくきてくれた助けがどこかに行ってしまうと思って、パニックになってしまったらしい。
足場の悪い木の上で、慌てて動こうとする。
こちらも慌てそうになるのをグッと堪え、なるべく落ち着いた声で呼びかけた。

「此処に居ますから、落ち着いてください。動かないで。」
「足がぐらぐらするわ!早く私をおろして!早く!」

ええー…困ったなあ。
離れなくても、興奮がおさまらないぞ。

首を突っ込むべきではなかったかと、早速後悔する。
私の目算はいつも甘い。
そんなこんなしているうちに、サリナが合流。
木の上の悲鳴から、状況がなんとなくわかったらしく、なんでこの状況で人助けを…?という目で見られたが、何も言われなかった。
ごめん。

しかし木の上の女性は、そのうちにぽろりと落ちてきそうな勢いだ。
仕方なく、もう、直接のぼって助けることにした。
サリナが行こうとしたが、サリナはレディとして振舞ってもらうためにドレスを着ている。
行くなら男装をしていて、身軽な私が適任だろう。
その上、スマホの力で人智を超えた力を得ているはずなので、まあなんとでもなるやろ の精神だ。

「わかりました、ではしっかり木に捕まってください!」
「どうして!?」
「今から貴女のいるところまで上ります。木が揺れますよ」
「嫌よ、揺らさないで!」
「揺らさなくても揺れます、さあ、しっかりつかまって!上りますよ!」
「きゃー!いやー!」

泣き声はあがったが、同時にひしっと木の幹にしがみつくのが見える。
なるべく揺らさないように気を配りながら彼女のいる木の枝まで辿りつき、さっと身体をホールドして落ちないようにしてしまう。
本当にほとんど揺れなかったので、私が辿り着いているのに気づかなかったのだろう。
突然身体に触れられた彼女は、ビクッとしてこちらを振り返り…

「え…」

とこちらを凝視したまま、幹から手を離した。


あっ、ヤバい。
この人、ファーマレストのアンジェリカ王女だ。

気づいた時には、もうどうしようもない。
ファーマレストは王太子がポピーに惚れたことから、我がイカレス王国と手を組んで世界の覇権を握る大国だ。
そこの王族なんて、関わっていいことなどなかったのだが…目算の甘さが、どんどん悪い方に転がっていくのが怖い。
とにかく、これ以上の深入りは厳禁だ。
レディの身体に許可なく触れるのは云々と言われる前に、そのままサッと抱き上げて地面に飛び降りる。
騒ぎにしないためには、迅速に動くのが1番。
パッと私が距離をとれば、代わりにサリナがケガがないかを確認する。
呆然としている彼女のドレスを整え、乱れた髪をなおしてやり、サリナもさっと距離をとってカーテシーをする。

「お怪我がなくて何よりでした。
お気をつけてお戻りください。
では、私達はこれにて失礼します。」

さあ、とっとと乳牛のところへ行くぞ!

相手が呆然としているうちに、てきぱきと挨拶を済ませて離れる。が、

「ま、待って!待ってください!」

後ろから駆け寄ってくる声に、うわあどうしよう とサリナをチラリと見る。
サリナは 手を出せば、そりゃこうなります と目で語って返してきた。
走って逃げれば、それこそ不審人物扱いされそうだし、公爵家の客に私のような容貌の男が居ないかと尋ねられて大事になるのも、望ましくない。
仕方なく足を止めれば、回り込むように前に立たれ、手を取られた。

えっ、いきなり異性の手を握るって、マジで?

「助けてくださって、ありがとうございます。
私は、ファーマレストの第一王女、アンジェリカと申します。」

知ってます。
実はお茶会をご一緒させていただいたこともあります。

「是非お礼をしたいのです、お名前をお伺いしても?」
「いえ、大したことはしておりませんよ」

やんわりと手を握り返して、異性の手を握ってますよー、お気づきですかー?とアピールしてみる。
途端にアンジェリカ王女は、カッと火がついたように赤くなって、その場にへたへたと座り込んでしまった。
しかし手が離れてない。
安心した今になって、一連の恐怖が蘇ってきて、腰が抜けたのかもしれない。
仕方ない。

「サリー、お水を」
「…はい」

一瞬、何か言いたそうな顔をしたが、サリナは水を取りに行く。
元侍女なので、人目につかずに水を汲んでこれるだろうと思ったが、無茶振りだっただろうか。
心配になりながら見送り、このままだと身動きが取れないので、少し強引にアンジェリカ殿下の手を引き剥がす。
途端に地面に突っ伏しそうになる王女は、余程精神的に辛かったのだろう。
とにかく休める場所へ と、木の根元に自分の上着を敷き、その上に彼女を誘導した。

「そんな、貴方の上着が汚れてしまいます。」
「殿下のお召し物を守れるなら、上着も本望でしょう。
遠慮せず、どうぞ」

余りに恐縮するので冗談を言ってみたけど、アンジェリカ様は一層身体を固くしてしまう。
まあ、初対面の男と2人きりではね。
このまま気が休まらないのも可哀想で、早くサリナが戻ってこないかと、落ち着かない。
サリナの去った方向を眺めていたら、アンジェリカ様がポツリと声をかけてきた。

「先ほどの、サリー様とおっしゃる方は、婚約者ですか?」
「いえ、そういうわけでは…」

先ほど、サリーと呼びかけたのは、お互いに外で呼び合う時用の人物設定を決めていたからだ。
咄嗟にサリナ マーガレット様と呼びそうになってしまうことを想定して、元の名前に近い名前に設定した。
サリナが、名前がサラで愛称がサリー。
私が、名前がマーカスで愛称がマークだ。
2人とも、ライヘンベルグ出身の貴族という設定にしている。
先日、久しぶりに出会った人がライヘンベルグの王子で、かつ私の死を悼んでくれたりしていて好感度が上がっていたからだ。
けど、こんなに話し込むことは想定していなかったので、関係性については練り上げてなかった。
エスコートして って設定だったんだから、婚約者と言ってしまえばよかった。
うっかり否定して、無茶苦茶後悔する。
ではどういう関係かと突っ込まれたら…咄嗟の言い訳を思いつかない。
内心、冷や汗ドバドバだったが、幸いにもアンジェリカ王女はそれ以上は突っ込んでこず、小さく微笑んだ。

「そうなのですね。失礼ですが、ご出身はどこかお聞きしても?」
「ええ…私はライヘンベルグの者です」
「えっ」

え?

アンジェリカ王女の反応が余りに強く、内心動揺する。
サッと青ざめたきり、俯いて震え始めたのだ。
口元で両手を握りしめているが、指先まで血の気を失って白くなっている。

「大丈夫ですか?顔色が…」
「あの、先ほど名乗りましたが、私は…私の名は」
「存じております、アンジェリカ殿下」
「ああ…!」

王女は今度こそ悲鳴をあげ、両手で顔を覆って泣き始めてしまった。



えー!?なに?なんなの??



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