33 / 44
強国ファーマレストの王族
しおりを挟むどこからともなく聞こえてくる声。
その声が余りにも心細くか弱い泣き声で、すぐにその場を立ち去ることが出来なかった。
どこから聞こえてきてるんだろ?
周りを見渡し…上からだったらすぐに見つけられそうなのにな、と思った瞬間、視点が切り替わって腰を抜かしそうになった。
恐らく、冒険ゲームでとったスキル「鷹の目」の効果なんだろう。
まるで上空から見下ろしているような視点で、辺りを見渡すことが出来る。
しかも目がいい。物凄くいい。
木の葉の影に埋もれるように見える、真っ赤なドレスなんて、すぐさま見つけ出せた。
私から2~3m離れたところの木の上だ。
少し離れただけで、人の泣き声って案外気づかないくらいまでの小ささになるものだ。
そっと近づいて、ドレスの中が見えない位置から慎重に声をかけてみる。
「…そのようなところで、どうされました?」
「あ、あ!おろして!おろしてちょうだい!」
どうやら、木の上に上って、降りられなくなってしまっているらしい。
猫みたいだ。
声や体格から成人女性と見えるが、公爵家の人間ではなさそうだ。
ポピーでもない。
またもや、外部のお客様らしい。
公爵家の人間には、もうちょっとお客様に目配りして欲しいものだ。
つい元公爵家の一員として、責任を感じてしまった。
ひとまず彼女を木の上から救出しよう。
周囲に人は と鷹の目で確認するが、この周辺にいるのは…あ、サリナだ。
私に気づいているらしく、まっすぐこちらに向かっている。
それ以外、近くに人が見当たらない。
誰も居ないなら、人助けをしていても、まあ、大事にはならないだろう。
そういえば裏の納屋に、梯子があったはず。
呑気にそう思い、
「わかりました。梯子を取ってくるので、もうしばらくお待ちください」
と言ったのだが。
「待って、行かないで!」
ようやくきてくれた助けがどこかに行ってしまうと思って、パニックになってしまったらしい。
足場の悪い木の上で、慌てて動こうとする。
こちらも慌てそうになるのをグッと堪え、なるべく落ち着いた声で呼びかけた。
「此処に居ますから、落ち着いてください。動かないで。」
「足がぐらぐらするわ!早く私をおろして!早く!」
ええー…困ったなあ。
離れなくても、興奮がおさまらないぞ。
首を突っ込むべきではなかったかと、早速後悔する。
私の目算はいつも甘い。
そんなこんなしているうちに、サリナが合流。
木の上の悲鳴から、状況がなんとなくわかったらしく、なんでこの状況で人助けを…?という目で見られたが、何も言われなかった。
ごめん。
しかし木の上の女性は、そのうちにぽろりと落ちてきそうな勢いだ。
仕方なく、もう、直接のぼって助けることにした。
サリナが行こうとしたが、サリナはレディとして振舞ってもらうためにドレスを着ている。
行くなら男装をしていて、身軽な私が適任だろう。
その上、スマホの力で人智を超えた力を得ているはずなので、まあなんとでもなるやろ の精神だ。
「わかりました、ではしっかり木に捕まってください!」
「どうして!?」
「今から貴女のいるところまで上ります。木が揺れますよ」
「嫌よ、揺らさないで!」
「揺らさなくても揺れます、さあ、しっかりつかまって!上りますよ!」
「きゃー!いやー!」
泣き声はあがったが、同時にひしっと木の幹にしがみつくのが見える。
なるべく揺らさないように気を配りながら彼女のいる木の枝まで辿りつき、さっと身体をホールドして落ちないようにしてしまう。
本当にほとんど揺れなかったので、私が辿り着いているのに気づかなかったのだろう。
突然身体に触れられた彼女は、ビクッとしてこちらを振り返り…
「え…」
とこちらを凝視したまま、幹から手を離した。
あっ、ヤバい。
この人、ファーマレストのアンジェリカ王女だ。
気づいた時には、もうどうしようもない。
ファーマレストは王太子がポピーに惚れたことから、我がイカレス王国と手を組んで世界の覇権を握る大国だ。
そこの王族なんて、関わっていいことなどなかったのだが…目算の甘さが、どんどん悪い方に転がっていくのが怖い。
とにかく、これ以上の深入りは厳禁だ。
レディの身体に許可なく触れるのは云々と言われる前に、そのままサッと抱き上げて地面に飛び降りる。
騒ぎにしないためには、迅速に動くのが1番。
パッと私が距離をとれば、代わりにサリナがケガがないかを確認する。
呆然としている彼女のドレスを整え、乱れた髪をなおしてやり、サリナもさっと距離をとってカーテシーをする。
「お怪我がなくて何よりでした。
お気をつけてお戻りください。
では、私達はこれにて失礼します。」
さあ、とっとと乳牛のところへ行くぞ!
相手が呆然としているうちに、てきぱきと挨拶を済ませて離れる。が、
「ま、待って!待ってください!」
後ろから駆け寄ってくる声に、うわあどうしよう とサリナをチラリと見る。
サリナは 手を出せば、そりゃこうなります と目で語って返してきた。
走って逃げれば、それこそ不審人物扱いされそうだし、公爵家の客に私のような容貌の男が居ないかと尋ねられて大事になるのも、望ましくない。
仕方なく足を止めれば、回り込むように前に立たれ、手を取られた。
えっ、いきなり異性の手を握るって、マジで?
「助けてくださって、ありがとうございます。
私は、ファーマレストの第一王女、アンジェリカと申します。」
知ってます。
実はお茶会をご一緒させていただいたこともあります。
「是非お礼をしたいのです、お名前をお伺いしても?」
「いえ、大したことはしておりませんよ」
やんわりと手を握り返して、異性の手を握ってますよー、お気づきですかー?とアピールしてみる。
途端にアンジェリカ王女は、カッと火がついたように赤くなって、その場にへたへたと座り込んでしまった。
しかし手が離れてない。
安心した今になって、一連の恐怖が蘇ってきて、腰が抜けたのかもしれない。
仕方ない。
「サリー、お水を」
「…はい」
一瞬、何か言いたそうな顔をしたが、サリナは水を取りに行く。
元侍女なので、人目につかずに水を汲んでこれるだろうと思ったが、無茶振りだっただろうか。
心配になりながら見送り、このままだと身動きが取れないので、少し強引にアンジェリカ殿下の手を引き剥がす。
途端に地面に突っ伏しそうになる王女は、余程精神的に辛かったのだろう。
とにかく休める場所へ と、木の根元に自分の上着を敷き、その上に彼女を誘導した。
「そんな、貴方の上着が汚れてしまいます。」
「殿下のお召し物を守れるなら、上着も本望でしょう。
遠慮せず、どうぞ」
余りに恐縮するので冗談を言ってみたけど、アンジェリカ様は一層身体を固くしてしまう。
まあ、初対面の男と2人きりではね。
このまま気が休まらないのも可哀想で、早くサリナが戻ってこないかと、落ち着かない。
サリナの去った方向を眺めていたら、アンジェリカ様がポツリと声をかけてきた。
「先ほどの、サリー様とおっしゃる方は、婚約者ですか?」
「いえ、そういうわけでは…」
先ほど、サリーと呼びかけたのは、お互いに外で呼び合う時用の人物設定を決めていたからだ。
咄嗟にサリナ マーガレット様と呼びそうになってしまうことを想定して、元の名前に近い名前に設定した。
サリナが、名前がサラで愛称がサリー。
私が、名前がマーカスで愛称がマークだ。
2人とも、ライヘンベルグ出身の貴族という設定にしている。
先日、久しぶりに出会った人がライヘンベルグの王子で、かつ私の死を悼んでくれたりしていて好感度が上がっていたからだ。
けど、こんなに話し込むことは想定していなかったので、関係性については練り上げてなかった。
エスコートして って設定だったんだから、婚約者と言ってしまえばよかった。
うっかり否定して、無茶苦茶後悔する。
ではどういう関係かと突っ込まれたら…咄嗟の言い訳を思いつかない。
内心、冷や汗ドバドバだったが、幸いにもアンジェリカ王女はそれ以上は突っ込んでこず、小さく微笑んだ。
「そうなのですね。失礼ですが、ご出身はどこかお聞きしても?」
「ええ…私はライヘンベルグの者です」
「えっ」
え?
アンジェリカ王女の反応が余りに強く、内心動揺する。
サッと青ざめたきり、俯いて震え始めたのだ。
口元で両手を握りしめているが、指先まで血の気を失って白くなっている。
「大丈夫ですか?顔色が…」
「あの、先ほど名乗りましたが、私は…私の名は」
「存じております、アンジェリカ殿下」
「ああ…!」
王女は今度こそ悲鳴をあげ、両手で顔を覆って泣き始めてしまった。
えー!?なに?なんなの??
10
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる