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ライヘンベルグの受難
しおりを挟む馬車の中で、アンジェリカ様から外の話を聞いた。
ライヘンベルグへの宣戦布告は、心優しいポピーに世界平和をプレゼントするのだと、世界制覇を目指す王子2人の暴走であるとのこと。
平和主義者の為に戦争を起こしましょうって、馬鹿か貴様らと思うけれど、国境がある以上この世から争いは消えない が2人の主張らしい。
世界が1つになれば、争う必要はなくなるから、と。
アンジェリカ様とサリナは、馬鹿馬鹿しい と鼻で笑っているが、その馬鹿馬鹿しい妄想を彼らが実現してしまうと、私は前世の知識で知っている。
全然、笑い事ではない。
そこでまず標的にされたのが、ライヘンベルグ。
理由は、ポピーを虐げた悪女・マーガレットの追悼式に、ライヘンベルグの王族が参加したから。
王太子妃になるポピーは、ひいてはイカレスの王妃になる。
国母に対する攻撃は、イカレスへの攻撃である。
その国逆だるマーガレットに肩入れをするのは、イカレスへの敵対を示している。
王族であるならば、それがどういう意味をもつのか重々わかった上で、行動したのだろう。
イカレスは売られた喧嘩を買いますね。
という論法だったらしい。
なにその、風が吹いたら桶屋が儲かるみたいな、無茶苦茶な話。こじつけじゃん。
その上、イカレス・ライヘンベルグ両国の話し合いの仲裁に名乗りをあげたのが、ファーマレスト。
話し合いもなにも、結果ありきの出来レースみたいなものだ。
目をつけられた時点で、ライヘンベルグは詰んでいたということだろう。
ポピー様が虐げられていた時期は、むしろ将来の国母はマーガレット様だったのでは?とのライヘンベルグのもっともなツッコミに、
「貴様、ポピーをただの小娘と抜かしたか!?」
と言ってもいないところで何故かファーマレストの王太子がブチ切れ、イカレスを差し置いてライヘンベルグに宣戦布告。
もう一度話し合いを、と追い縋るライヘンベルグを剣もほろろに追い返し、軍を編成。
大国ニ国の軍に包囲され、貿易路も封鎖され、ライヘンベルグの貴族たちはこぞって国を逃げ出しているらしい。
「このような恐ろしいことをするなんて…弟は女狐に踊らされているのだ と信じたかった。
だから、今回このようにローズライト公爵家まで出向いて、彼女と対面したんですの。」
「…ポピー様は、善良な少女ですよ」
少なくとも、ゲームではそうだった。
馬車に乗り込む前、アンジェリカ様と誰かの争うような声が聞こえた。
その中に、ポピーの声が混じっていた。
「ごめんなさい!」という泣き声が。
私達と出会ったせいでライヘンベルグに肩入れしたアンジェリカ様が、ポピーと敵対関係に なんて、絶対になって欲しくない。
私の発言に、アンジェリカ様はムッとしたような表情をする。
どうやら、ご不興を買ったらしい。
開いていた扇をパチンと閉じた。
自分の機嫌で周囲を振り回せる立場の女性ならではの行動だな、と内心苦笑した。
不機嫌さを隠さず、敢えて私に見せる。
とはいえ、そんな顔をされても、発言を撤回するつもりはない。
私だって、いずれ王族になるべく、教育はうけておりますとも。
じっと見つめ返すと、思った反応と違ったのだろう。
アンジェリカ様は、怯んだ後にだんだんと唇が尖ってきた。まるで子供だ。
すっかり怖くなくなった上、少しおかしくなってきて、うっすらと笑ってしまった。
恨めしそうな顔をしたアンジェリカ様だったが、根負けしたようにため息をついた。
「…そうですわね。
彼女が性質の悪い人間でないことは、確かでした。」
「王太子殿下は、彼女に夢中でしょう?
ポピー様と仲がこじれれば、姉弟関係にもヒビが入らないとも限りません。
どうかライヘンベルグが原因で、アンジェリカ様のお立場が悪くなりませんよう、お気をつけください」
「…ポピーではなく、私のために?」
「勿論ですとも。」
なぜかこのタイミングでアンジェリカ様は扇を開き、しばし俯いて黙り込む。
ん?と思って、隣のサリナを見ると、何故か半分目が閉じたような遠い目をして、まっすぐ前を向いていた。
私とアンジェリカ様だけでお喋りしてて、疎外感を感じていたのかもしれない。
とはいえ、この状況では王女との情報交換が最優先。
ごめん、サリナ!と内心で謝って、話を続けさせてもらった。
聞くと、ポピーと揉めたのは、私達のせいではなかったそうだ。
ポピーから、公爵に贈られた馬が素晴らしいのだと言って、見せてもらったのがことの発端。
確かに素晴らしい馬で、乗せてもらえると嬉しいと零したアンジェリカ様に、ポピーは快諾したそうだ。
自分の馬が褒められて、嬉しかったのだろう。
むしろ、喜んでいたそうだ。
しかし、大人しくて聞き分けの良い子だと言うので安心したのに、跨った途端に馬が暴走。
アンジェリカ様いわく、乗馬に長けていた私でなければ、すぐさま振り落とされて死んでいた。とのこと。
必死でしがみついて耐え、手が痺れて振り落とされそうになってきたところで、なんとか木の枝に捕まって飛び移り、難を逃れたのだそうだ。
「それで、木の上に?」
「ええ。後で聞いたら、とても癖のある子で、ポピー以外は背中に乗せない性質だった なんて言うのよ。
ポピーはそれを知らなかった って言うのだけど、自分の馬の性質くらい、把握しておいて欲しいものだわ。」
「ご無事で何よりでした。」
思い出したら腹が立ってきたのか、アンジェリカ様はプリプリしながら腕組みをする。
そりゃそうだ。
うっかりで死ぬような目にあわされたわけだし。
「何より腹が立つのは、ポピーのお取り巻き達よ。
薦めたポピーではなく、安易に馬に跨った私が悪いだなんて言うのよ!弟もよ!あんな子じゃなかったと思っていたのだけど」
「それは酷い」
「そうでしょう?その上、気分が悪いことがあって…」
何事か思い出したのか、アンジェリカ様は口元を押さえて顔色を悪くした。
「…何かに取り憑かれてでもいるようよ。
ポピーの好意を得られるなら、なんでもするでしょうね」
「馬車に乗る前も、揉めていらっしゃったようですね」
「もう公爵家で時間を過ごす気にはなれないから、気晴らしに街に行くって言ったんですの。
落ち度のある向こうは、止められないでしょう?でも…」
アンジェリカ様の怒りが解けていないことを気に病んだポピーを見て、また取り巻きが騒ぎ出したらしい。
このままポピーを苦しませたまま、出かける気か!?と。
「なぜ被害者の私が気遣わなければいけないの?
挙げ句の果てに、私に謝れですって?なぜ私が?」
アンジェリカ様は、ポピーよりむしろポピーの取り巻きに対して、嫌悪感を覚えているらしい。
揉み合いになりそうなところで、ポピーが取り巻きを押さえ込み、
「どうぞ、馬車へ!殿下、ごめんなさい!」
と、アンジェリカ様を送り出してくれたそうだ。
ゲームの時は、強いイケメン達に愛されて、ポピーはいいなーくらいの感じだったけど、なんか…大変そうだ。
「身内には天啓が働かないから、弟がどんな人間なのか、私にもわからないんですの」
「天啓?」
「ご存じありませんでした?
私、天啓の巫女姫と呼ばれておりましてよ」
あっ、聞いたことある。
アンジェリカ様は、お告げみたいなのが出来る みたいな。
てっきりインチキ宗教みたいなものだと思って、ふーんって聞き流してたわ。
え、本当にわかるの?
じゃあ、私は?ドキドキ。
聞いちゃおっかな!
「では、私はどう見えますか」
「………」
思い切って聞いてみたら、アンジェリカ様は困ったように眉を下げた。
「それが、見えないんですの。
木の上で初めてお会いした時に、何か見えたような気がしたのですが、色々と衝撃が強くて。」
「では、サリーはどうでしょう」
話を振られたサリナに、私とアンジェリカ様の視線が集中する。
見せ物じゃない と嫌がるかと思ったけれど、アンジェリカ様はこくりと頷き、サリナに向かって手を伸ばした。
「手袋をとって、手のひらを私の手の上に重ねなさい。直接触れる必要があるの。」
「…はい」
「貴女は…マーガレット様の侍女?あら?もしや亡き公爵令嬢の侍女だったの?」
わ、わーー!本物だーー!!!
えー!こわーい!すごーい!!
「そして、癒しの使い手ですって。優しい方なのかしら。」
いえ、確かにサリナは優しいですが。
恐らく、ヒーラーに転職させたからです。
これって、称号を読み取ってるよね、多分。
「そうか。これでポピー様を、善良だと判断されたのですね」
「その通りですわ。
彼女は、この世界の善良なるヒロイン ですって。」
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