転生覚醒が遅すぎたので全力ヒキニートします!

カカオ70

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拠点

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うわ、やっぱりゲームの世界なんだな。

ゾワ と背筋が逆立つような恐怖が、不快感と混ざり合う。
食中毒の時の苦しみ、末端と骨が痛くなるような身体を刺す石牢の寒気、鼻の奥にこびりつく臭気の不快さ…それ以前のものも含め、全ての悲しみや苦しみはあんなにもリアルだったのに。
ゲームの中だというのなら、痛みや苦しみなんかはふんわりと輪郭のないものにしてくれればいいのに。
苦しみが強かったばかりに、あまりにもこの世界はリアルだ。
理不尽に感じるこの気持ちを出すわけにもいかず、そっと歯を強く噛んで飲み込む。

「ヒロインというには、まだ彼女は何者でもないわ。
けれど、私の天啓が外れたことはないもの。
恐らくは、これから何かを成す人物なのでしょう。」
「世界を巻き込みかねないこの戦争を、止める役割 とかではありませんか?」

2人がこれからのポピーに期待を抱いているのを見ると、見て見ぬ振りが出来ない。
戦争の引き金にはなっても、彼女は抑止力にはなれなかった。

「いえ恐らくは、この世界に愛されている という意味でしょう。
世界の行く末を握るキーになる男性全ての愛を受けることこそ、彼女の役割といいますか」
「ではあなたも、彼女を愛してらっしゃるの?」
「えっ?私ですか?」

思いもよらない返しがきて、戸惑う。
私は死ぬのが役割であって、世界の行く末には関係ない悪役ポジションだからなー。そもそも本当は男性でもないし。
ライヘンベルグの貴族という設定上、戦争の原因になったと言われるポピーを憎んでもおかしくはないが。

「いえ、特別な感情は待ち合わせておりません」
「本当ですか、ぶっ殺してやりたいとは思わないので」
「サリー、どうどう」

敢えて自分の正直な気持ちを答えたら、サリナが感情的なことを言い出すものだから、慌てて口を押さえた。

「王女様の前だよ、気をつけて」
「はい…申し訳ありません」

サリナはしゅんとして謝るが、サリナはポピーに思うところがあったのかあ…と今更に胸が痛んだ。
ポピーが居なくたって、私の人生はどのみち地獄だったのだけどね。
その上、ポピーは思ったよりもフワフワ幸せに生きてるわけではなさそうだし、大変そうで同情してしまう。
むしろ、彼女の人生に幸あれと願わずにはいられないじゃないか。
まあでも、ライヘンベルグの貴族の立ち位置で考えるならば…

「もちろん彼女が争いを止めてくれるなら、それに越したことはありません。
ですが世界を巻き込む大戦の行く末を、少女1人に背負わせるというのは、荷が重い話でしょう」
「結局は当事者とその周辺で、考えるしかないということですね。」

サリナがため息混じりに呟く。
大体、世界は統一されるべきか否かなんて、一介の囚人である私が考えても仕方ない。
ここは、ちゃんとした身分と力のある人に考えてもらうしかない。

イカレスとファーマレストの王様は、何やってるんだろ?

ふと思いついた疑問に、何気なくアンジェリカ様を見つめると、彼女は居心地悪そうに俯いていた。
それもそうか。彼女は攻め込む側のファーマレストの王女だものね。
なんとなく全員が黙り込み、街の外れで別れる時まで空気が暗いままとなってしまった。



「助けていただいて、本当にありがとうございました。」
「とんでもない。こちらこそ、助かりました」

馬車から降りて挨拶を交わす。
後は馬車に乗って去っていくアンジェリカ様をお見送りすれば、自由時間だ。乳牛だ!
内心ワクワクソワソワする私たちだったが、なぜか挨拶が済んでも、アンジェリカ様は物言いたげに佇んでいる。
側仕えの女性から、そろそろ馬車へ戻るように促され、ようやく意を決したように顔を上げた。

「貴方のお名前を教えていただきたいの」
「…マークです。家名はお許しください。」
「どうか、本当のお名前を」

先程、彼女の天啓を目の当たりにしたところだ。
何をどこまで見通されているんだろう と、そわそわした気持ちになるが、引くわけにはいかない。
笑顔で焦りを隠して、言葉を続けた。

「名前はマーカスで、彼女には愛称でマークと呼ばれて」
「………っ」

言葉の途中で、アンジェリカ様が眉を吊り上げて、いきなり掴みかかってくる。
わっ!?と思った時には、既に私とアンジェリカ様の間にサリナが飛び込んで来て、アンジェリカ様の手を防いでいた。

「何をなさいますか」

抑揚のない声だけれど、サリナの顔が敵を見る目になっている。
それに対して、ぐしゃっと表情を歪ませたアンジェリカ様が、泣きそうな顔で私を見た。

「もしや貴方は、マーガレット様なのではありませんか?」



え、ええ…!?なんでバレる??


流石に男の姿でそんなことを言われるとは思ってもおらず、私は咄嗟に言葉を返せず目を見開いてしまった。
さっきの動きは、どうやら私の手を握って、天啓で情報を読み取ろうとしたのだろう。
無言が肯定になったしまったようで、アンジェリカ様は やっぱり…と呟いている。
違う違う!違わないけど、やめてくれ!

「公爵家に伺えば、またお会いできますか?」
「いえ、あそこで私は死んだことに…いえ、あの」
「ああ、マーガレット様…どうか今後の私との交流をお許しください」

あー!もうダメだー!!!

潮時をすっかり見過ごしてしまっていた。
私はサリナの手を掴むと、慌ててその場をダッシュで逃げた。





「迂闊だった、ごめん…」
「いいえ、まさかマーガレット様だと気づくとは、思いませんよ」
「だよね、どこからどう見ても、男に見えるよね?」
「大丈夫です、見えます。」

幸いにも、追いかけてくる気配はない。
変装の上着はお返ししてきたので、私たちは改めて貴族お忍び風の姿に変えていた。
それにしても体はともかく、気持ちがクタクタだ。
毎日自堕落な生活をしていたので、緊張でどっと疲れてしまった。
早く帰りたい気持ちは山々だったが、折角こうやって外に出られたのだ。
サリナにポータルの登録が出来ないか、是非とも試していただきたい。

「どう?」
「…ここは拠点ではありません、登録できません という声が聞こえます」
「登録すれば拠点になるわけじゃない ってことかしら」
「そうかもしれません…ならば、方法を変えましょう」

サリナはそう言うと、道行く人を次々と捕まえては、何事か聞き込みを始めた。
私は動かないように言われて、建物の影から見守る係だ。
飛雄馬ひゅうま…とか呟きたい気持ちになる。
戻ってきたサリナは、

「この辺りで1番、信用のおける不動産屋を割り出しました。拠点を買いましょう。」
「拠点って、えっ?拠点?」

家を手に入れれば、確かにそこが私たちの拠点だと主張できるだろうけど、でも。

「え、え、でももし買っても拠点に出来なかったら」
「その時はまた、売ればよいのです。拠点が必要なのでしょう?」
「…うん」

必要かと言われると、あればいいなー欲しいなー くらいだったんだけど。
今日は気疲れしたせいか、これ以上考えるのが億劫で、頷いてしまう。
サリナはその足で不動産屋に特攻し、貴族の出てある雰囲気をここぞとばかりに出して、家をゲットしてくれた。
あれよあれよという間だ。
私とサリナが忍ぶ恋とかしていて、密会場所に買ったと思われたようなセリフが、ちらちらと不動産屋の口から出ていたが、サリナは敢えて否定も肯定もしなかった。
下世話な話だと思っていてもらった方が、話が早いのだろう。

「さ、拠点が手に入りました!」

一等地からはだいぶ離れた街外れの、こじんまりとした一軒家。
しかし、ジャーン!と効果音が聞こえてきそうだ。
サリナの表情もどことなく得意げに見える。

「サリナすごい、本当にすごい」

迅速!有能!
手を叩いて褒めちぎる。
早速受け取った鍵で中に入ると、続けて入ってきたサリナが呟いた。

「拠点登録も出来ました!」
「すごい!サリナすごい!」

これで私達はその気になれば、いつでも地下牢から出ることが出来るようになったのだった。



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