あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍

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30 王のたくらみ

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 ――ルドヴィク様が、ロゼッテを育てることを拒んだ。
 
 それは私たちだけでなく、デルフィーナにも伝えられた。
 捕まったデルフィーナの望みは、ロゼッテをルドヴィク様の元で、育てることだった。
 王宮では、信用できないと思われたのだろう。
 その気持ちはわかる。
 私も自分が一番信用できる人間に預けるだろう。

「セレーネ?」

 無意識にザカリア様を見つめてしまっていたようで、目が合った。

「どうかしたか?」
「いえ……。ザカリア様がいてくださってよかったと、思っていたところです」

 以前なら、微笑まなかったザカリア様だけど、今は違う。
 ルチアノといると、自然と笑顔になることが多く、今では自然に微笑まれるようになった。

「それは、こちらもだ。領地の者が、寂しいと手紙に書いて寄越すくらいだからな」
「嬉しいですわ。落ち着いたら、ザカリア様の領地で休暇を過ごしたいと思ってますの。不思議な話ですけど、ザカリア様の領地は穏やかで、私の故郷のように懐かしく感じます」

 私の人生で、一番穏やかで幸福だった時間を与えてくれた場所。
 ルチアノが独り立ちしたら、小さなお屋敷で静かに暮らしたい。
 お妃候補の頃から、私が望んでいたのは、そんなささやかな暮らしだった。
 
「そうだな。ルチアノが妻をもらったら、二人で領地に戻り、静かに暮らすのも悪くない」
「二人で……」
 
 何気なく、ザカリア様は言ったのだろうけど、それが私には、なによりも嬉しい約束だった。

「そんな日が早く来るといいですわね」
「まだ、ルチアノは手がかかる。さっきもジュストに大人用の剣を使わせてくれと言って、駄々をこねていた」
「また、ジュストを困らせて……」

 ルチアノは、ジュストと剣の稽古をしている。
 王の子の力を使わないよう、体を動かす時間を増やした。
 じっとしていると、色々考えてしまうだろうと、思ってのことだ。
 それがよかったのか、ルチアノは明るさを取り戻し、食欲も戻った。
 でも――

「ロゼッテの様子はどうでしょうか」

 人の心を読み続けたロゼッテは、人が話している言葉のように、心の声が聞こえるようになってしまったらしい……
 そのため、ロゼッテは部屋に閉じ籠り、一人で過ごす時間が多くなり、孤独な生活をいられている。

「七歳の子が一人で過ごすのは、寂しいはずです。ロゼッテをこのままにはしておけません」
「それについては、俺に考えがある」
「考えが?」
「ああ」

 ザカリア様は、それ以上、なにも言わなかった。
 特別な力を受け継いできた王族には、私が知り得ない方法があるのかもしれない。

「お母様! ロゼッテに花を持っていってあげてもいいかなぁ? きっと退屈していると思うんだ」

 ルチアノが剣の稽古を終え、こちらに走ってきた。

「どうでしょうか? ザカリア様」
「そうだな。ずっと一人にさせておくわけにはいかない」

 そう言うと、ザカリア様は立ち上がった。

「私もご一緒しますわ」
「いや、ジュストだけでいい。セレーネはルチアノといてくれ」
「でも……」
「駄目だ。俺がいいと言うまで近づくな」

 ザカリア様の視線はルチアノを追っている。
 もしかしたら、ザカリア様の特異な力に関係していることなのかもしれない。

「わかりました。待っています」
「そうしてくれ」

 ザカリア様はジュストと共にいなくなった。
 ルチアノは二人の後を追って行きたいという顔をしていた。
 ロゼッテのことが、ルチアノは心配なのだろう。

「大丈夫よ。ザカリア様とジュストなら、ロゼッテを助けてくれるわ。ルチアノは二人を信じているでしょう?」
「もちろん!」
「それなら、大丈夫」

 ルチアノは気にしていたものの、納得してうなずいてくれた。

「ルチアノ。庭園の花で、ロゼッテのために花束を作ったらどうかしら?」
「そうだね! 花かんむりも作るよ。ロゼッテ、花かんむりの作り方を知らないって言ってたから、きっと喜ぶと思うんだ」
「どの花がいいか、庭師に聞いてみましょう」

 私とルチアノは、ロゼッテのための花を集めた。
 ザカリア様がロゼッテと会い、私が色とりどりの花で、花束を作っている頃。
 まさか、ルドヴィク様が誰にも告げず、王宮に忍び込み、デルフィーナと会っていたとは、夢にも思わなかったのである。
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