39 / 45
35 王位を渡さない!?
しおりを挟む
ザカリア様の命を狙っている――その話を聞いた大臣たちはルドヴィク様の退位を考えるようになった。
荒れた王の領地や民の信頼を回復するためには、ザカリア様の存在が必要だった。
「ザカリア様には、幼いルチアノ王子が成長するまで、補佐していただかねばなりません」
大臣たちもザカリア様を守る意思を見せた。
けれど、ザカリア様のほうは大臣たちに対して、冷ややかだった。
「兄上を止められなかった大臣たちに、俺を守れるとは思えない」
デルフィーナを牢から逃がしてしまったことも、不信感を持つことになった原因のひとつ。
ザカリア様は、自分の身の回りの警護を領地から連れてきたジュストの部下に担当させ、ジュストをルチアノと私の護衛を担当するよう命じた。
「厳重すぎませんか?」
ジュストに私が言うと、そんなことはないとばかりに首を横に振った。
「ルドヴィク様が、ルチアノ様を誘拐する可能性があります」
「ルチアノを誘拐!?」
「王位を渡さないと、離宮からの使者が伝えてきたそうですよ」
「渡さないなんて……。ルドヴィク様は王の力を失っているのに……」
王の力を失っているルドヴィク様は、もはや王ではない。
ただ、ルチアノが幼いため、十八歳の成人を迎えるまでの間、形式上の王でいられる。
――自分が長く王としているために、ルチアノが必要だってこと……?
でも、ルドヴィク様がルチアノの世話をできるとは思えない。
ヤンチャな盛りである。
子育てをしたことのないルドヴィク様に、ルチアノを扱えるだろうか。
「ルチアノの件もあるが、兄上に王としての待遇を主張されるのは迷惑だ。それに、デルフィーナを使って、俺の命を狙った。失敗した兄上は次の手を考えるはずだ」
「ええ……」
「セレーネ。俺は簡単に殺される気はない」
――知っている。でも、あの時、ザカリア様がいなくなってしまったらと考え、怖くなった。
「私には、ザカリア様が必要なんです」
「それは、俺も同じだ」
ルチアノの後見人としてだけじゃなく……そう伝えたかったけれど、伝えることはできなかった。
でも、ザカリア様には伝わったのか、口元に微かな笑みを浮かべていた。
「兄上と一度話す必要があるな」
「そうですよね。私がルドヴィク様と話をします」
「駄目だ。俺が行く」
「え? ザカリア様がですか? でも、命を狙われているのはザカリア様ですし、私のほうが……」
「いや、俺が行く」
ザカリア様は絶対に譲ってくれそうになかった。
「でも、ザカリア様はルドヴィク様から命を狙われていますよね? 危険ではないですか?」
「兄上はセレーネを誘き寄せるつもりかもしれない」
「私を? 誘き寄せたいのは、ザカリア様ではなく?」
私が首を傾げていると、横からルチアノが割って入ってきた。
「ザカリア様、お母様。ぼくが行くよ!」
ルチアノが元気よく、『はいっ!』と手を挙げた。
「二人が駄目なら、ぼくが行けばいいんだよ。ロゼッテと一緒に行ってくるっ!」
「ルチアノ。あなた、遊びに行きたいだけじゃなくて?」
「そんなことないよ。ロゼッテと二人で行けば、向こうの様子がわかると思うな~」
ルチアノは否定していたけど怪しい。
でも、ルチアノとロゼッテ相手なら、ルドヴィク様も油断するだろう。
「ぼくから、王位をくださいって頼んでみる!」
「そんな……。簡単にくれるわけないでしょう?」
「セレーネ様。これは名案かもしれません。誰が行っても同じなら、ルチアノ様とロゼッテ様が行き、ルドヴィク様がなにを考えてるか、真意を探ってみるのも一つの手かと」
「それはそうだけど……」
ザカリア様が行くより、安全であることは確かだ。
いくらルドヴィク様でも、自分の子の命を奪ったりしないだろう。
「護衛なら、自分と部下にお任せを。ルドヴィク様が離宮に連れて行った護衛程度の腕なら、たいしたことはありません」
「え……ええ。もしもの時は……お願いね」
頼もしいけど、なんだか血生臭く感じたのは気のせいだろうか。
――ザカリア様の命を狙ったルドヴィク様を始末するつもりで、ジュストが離宮へ行きたいなんてことはないわよね?
「ロゼッテもお父様に会って、お話したいって言うし」
「そうね。ロゼッテは寂しいわよね……」
母親のデルフィーナが修道院へ入り、ルドヴィク様は離宮に行ったきり戻ってこない。
ロゼッテは両親がいない状態なのだ。
時々は、会わせてあげたいと思っている。
「ね、お母様。離宮に行ってきてもいいでしょ?」
ザカリア様のほうを見ると、少し寂しそうな顔でうなずいた。
ルチアノが父であるルドヴィク様に会いたいのかもしれないと、ザカリア様は思ったようだ。
「セレーネ。ルチアノがこれだけ言うのなら、兄上に会わせてやったほうがいいだろう」
「そう……ですね」
私もなんとなく、寂しい気持ちになりながら了承した。
けれど、ルチアノとロゼッテには、考えがあった。
私はそれをまだ知らない。
ルチアノとロゼッテは、自分たちの思惑を隠して、離宮へ向かったのだった。
荒れた王の領地や民の信頼を回復するためには、ザカリア様の存在が必要だった。
「ザカリア様には、幼いルチアノ王子が成長するまで、補佐していただかねばなりません」
大臣たちもザカリア様を守る意思を見せた。
けれど、ザカリア様のほうは大臣たちに対して、冷ややかだった。
「兄上を止められなかった大臣たちに、俺を守れるとは思えない」
デルフィーナを牢から逃がしてしまったことも、不信感を持つことになった原因のひとつ。
ザカリア様は、自分の身の回りの警護を領地から連れてきたジュストの部下に担当させ、ジュストをルチアノと私の護衛を担当するよう命じた。
「厳重すぎませんか?」
ジュストに私が言うと、そんなことはないとばかりに首を横に振った。
「ルドヴィク様が、ルチアノ様を誘拐する可能性があります」
「ルチアノを誘拐!?」
「王位を渡さないと、離宮からの使者が伝えてきたそうですよ」
「渡さないなんて……。ルドヴィク様は王の力を失っているのに……」
王の力を失っているルドヴィク様は、もはや王ではない。
ただ、ルチアノが幼いため、十八歳の成人を迎えるまでの間、形式上の王でいられる。
――自分が長く王としているために、ルチアノが必要だってこと……?
でも、ルドヴィク様がルチアノの世話をできるとは思えない。
ヤンチャな盛りである。
子育てをしたことのないルドヴィク様に、ルチアノを扱えるだろうか。
「ルチアノの件もあるが、兄上に王としての待遇を主張されるのは迷惑だ。それに、デルフィーナを使って、俺の命を狙った。失敗した兄上は次の手を考えるはずだ」
「ええ……」
「セレーネ。俺は簡単に殺される気はない」
――知っている。でも、あの時、ザカリア様がいなくなってしまったらと考え、怖くなった。
「私には、ザカリア様が必要なんです」
「それは、俺も同じだ」
ルチアノの後見人としてだけじゃなく……そう伝えたかったけれど、伝えることはできなかった。
でも、ザカリア様には伝わったのか、口元に微かな笑みを浮かべていた。
「兄上と一度話す必要があるな」
「そうですよね。私がルドヴィク様と話をします」
「駄目だ。俺が行く」
「え? ザカリア様がですか? でも、命を狙われているのはザカリア様ですし、私のほうが……」
「いや、俺が行く」
ザカリア様は絶対に譲ってくれそうになかった。
「でも、ザカリア様はルドヴィク様から命を狙われていますよね? 危険ではないですか?」
「兄上はセレーネを誘き寄せるつもりかもしれない」
「私を? 誘き寄せたいのは、ザカリア様ではなく?」
私が首を傾げていると、横からルチアノが割って入ってきた。
「ザカリア様、お母様。ぼくが行くよ!」
ルチアノが元気よく、『はいっ!』と手を挙げた。
「二人が駄目なら、ぼくが行けばいいんだよ。ロゼッテと一緒に行ってくるっ!」
「ルチアノ。あなた、遊びに行きたいだけじゃなくて?」
「そんなことないよ。ロゼッテと二人で行けば、向こうの様子がわかると思うな~」
ルチアノは否定していたけど怪しい。
でも、ルチアノとロゼッテ相手なら、ルドヴィク様も油断するだろう。
「ぼくから、王位をくださいって頼んでみる!」
「そんな……。簡単にくれるわけないでしょう?」
「セレーネ様。これは名案かもしれません。誰が行っても同じなら、ルチアノ様とロゼッテ様が行き、ルドヴィク様がなにを考えてるか、真意を探ってみるのも一つの手かと」
「それはそうだけど……」
ザカリア様が行くより、安全であることは確かだ。
いくらルドヴィク様でも、自分の子の命を奪ったりしないだろう。
「護衛なら、自分と部下にお任せを。ルドヴィク様が離宮に連れて行った護衛程度の腕なら、たいしたことはありません」
「え……ええ。もしもの時は……お願いね」
頼もしいけど、なんだか血生臭く感じたのは気のせいだろうか。
――ザカリア様の命を狙ったルドヴィク様を始末するつもりで、ジュストが離宮へ行きたいなんてことはないわよね?
「ロゼッテもお父様に会って、お話したいって言うし」
「そうね。ロゼッテは寂しいわよね……」
母親のデルフィーナが修道院へ入り、ルドヴィク様は離宮に行ったきり戻ってこない。
ロゼッテは両親がいない状態なのだ。
時々は、会わせてあげたいと思っている。
「ね、お母様。離宮に行ってきてもいいでしょ?」
ザカリア様のほうを見ると、少し寂しそうな顔でうなずいた。
ルチアノが父であるルドヴィク様に会いたいのかもしれないと、ザカリア様は思ったようだ。
「セレーネ。ルチアノがこれだけ言うのなら、兄上に会わせてやったほうがいいだろう」
「そう……ですね」
私もなんとなく、寂しい気持ちになりながら了承した。
けれど、ルチアノとロゼッテには、考えがあった。
私はそれをまだ知らない。
ルチアノとロゼッテは、自分たちの思惑を隠して、離宮へ向かったのだった。
428
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
【完結】貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる