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35 王位を渡さない!?
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ザカリア様の命を狙っている――その話を聞いた大臣たちはルドヴィク様の退位を考えるようになった。
荒れた王の領地や民の信頼を回復するためには、ザカリア様の存在が必要だった。
「ザカリア様には、幼いルチアノ王子が成長するまで、補佐していただかねばなりません」
大臣たちもザカリア様を守る意思を見せた。
けれど、ザカリア様のほうは大臣たちに対して、冷ややかだった。
「兄上を止められなかった大臣たちに、俺を守れるとは思えない」
デルフィーナを牢から逃がしてしまったことも、不信感を持つことになった原因のひとつ。
ザカリア様は、自分の身の回りの警護を領地から連れてきたジュストの部下に担当させ、ジュストをルチアノと私の護衛を担当するよう命じた。
「厳重すぎませんか?」
ジュストに私が言うと、そんなことはないとばかりに首を横に振った。
「ルドヴィク様が、ルチアノ様を誘拐する可能性があります」
「ルチアノを誘拐!?」
「王位を渡さないと、離宮からの使者が伝えてきたそうですよ」
「渡さないなんて……。ルドヴィク様は王の力を失っているのに……」
王の力を失っているルドヴィク様は、もはや王ではない。
ただ、ルチアノが幼いため、十八歳の成人を迎えるまでの間、形式上の王でいられる。
――自分が長く王としているために、ルチアノが必要だってこと……?
でも、ルドヴィク様がルチアノの世話をできるとは思えない。
ヤンチャな盛りである。
子育てをしたことのないルドヴィク様に、ルチアノを扱えるだろうか。
「ルチアノの件もあるが、兄上に王としての待遇を主張されるのは迷惑だ。それに、デルフィーナを使って、俺の命を狙った。失敗した兄上は次の手を考えるはずだ」
「ええ……」
「セレーネ。俺は簡単に殺される気はない」
――知っている。でも、あの時、ザカリア様がいなくなってしまったらと考え、怖くなった。
「私には、ザカリア様が必要なんです」
「それは、俺も同じだ」
ルチアノの後見人としてだけじゃなく……そう伝えたかったけれど、伝えることはできなかった。
でも、ザカリア様には伝わったのか、口元に微かな笑みを浮かべていた。
「兄上と一度話す必要があるな」
「そうですよね。私がルドヴィク様と話をします」
「駄目だ。俺が行く」
「え? ザカリア様がですか? でも、命を狙われているのはザカリア様ですし、私のほうが……」
「いや、俺が行く」
ザカリア様は絶対に譲ってくれそうになかった。
「でも、ザカリア様はルドヴィク様から命を狙われていますよね? 危険ではないですか?」
「兄上はセレーネを誘き寄せるつもりかもしれない」
「私を? 誘き寄せたいのは、ザカリア様ではなく?」
私が首を傾げていると、横からルチアノが割って入ってきた。
「ザカリア様、お母様。ぼくが行くよ!」
ルチアノが元気よく、『はいっ!』と手を挙げた。
「二人が駄目なら、ぼくが行けばいいんだよ。ロゼッテと一緒に行ってくるっ!」
「ルチアノ。あなた、遊びに行きたいだけじゃなくて?」
「そんなことないよ。ロゼッテと二人で行けば、向こうの様子がわかると思うな~」
ルチアノは否定していたけど怪しい。
でも、ルチアノとロゼッテ相手なら、ルドヴィク様も油断するだろう。
「ぼくから、王位をくださいって頼んでみる!」
「そんな……。簡単にくれるわけないでしょう?」
「セレーネ様。これは名案かもしれません。誰が行っても同じなら、ルチアノ様とロゼッテ様が行き、ルドヴィク様がなにを考えてるか、真意を探ってみるのも一つの手かと」
「それはそうだけど……」
ザカリア様が行くより、安全であることは確かだ。
いくらルドヴィク様でも、自分の子の命を奪ったりしないだろう。
「護衛なら、自分と部下にお任せを。ルドヴィク様が離宮に連れて行った護衛程度の腕なら、たいしたことはありません」
「え……ええ。もしもの時は……お願いね」
頼もしいけど、なんだか血生臭く感じたのは気のせいだろうか。
――ザカリア様の命を狙ったルドヴィク様を始末するつもりで、ジュストが離宮へ行きたいなんてことはないわよね?
「ロゼッテもお父様に会って、お話したいって言うし」
「そうね。ロゼッテは寂しいわよね……」
母親のデルフィーナが修道院へ入り、ルドヴィク様は離宮に行ったきり戻ってこない。
ロゼッテは両親がいない状態なのだ。
時々は、会わせてあげたいと思っている。
「ね、お母様。離宮に行ってきてもいいでしょ?」
ザカリア様のほうを見ると、少し寂しそうな顔でうなずいた。
ルチアノが父であるルドヴィク様に会いたいのかもしれないと、ザカリア様は思ったようだ。
「セレーネ。ルチアノがこれだけ言うのなら、兄上に会わせてやったほうがいいだろう」
「そう……ですね」
私もなんとなく、寂しい気持ちになりながら了承した。
けれど、ルチアノとロゼッテには、考えがあった。
私はそれをまだ知らない。
ルチアノとロゼッテは、自分たちの思惑を隠して、離宮へ向かったのだった。
荒れた王の領地や民の信頼を回復するためには、ザカリア様の存在が必要だった。
「ザカリア様には、幼いルチアノ王子が成長するまで、補佐していただかねばなりません」
大臣たちもザカリア様を守る意思を見せた。
けれど、ザカリア様のほうは大臣たちに対して、冷ややかだった。
「兄上を止められなかった大臣たちに、俺を守れるとは思えない」
デルフィーナを牢から逃がしてしまったことも、不信感を持つことになった原因のひとつ。
ザカリア様は、自分の身の回りの警護を領地から連れてきたジュストの部下に担当させ、ジュストをルチアノと私の護衛を担当するよう命じた。
「厳重すぎませんか?」
ジュストに私が言うと、そんなことはないとばかりに首を横に振った。
「ルドヴィク様が、ルチアノ様を誘拐する可能性があります」
「ルチアノを誘拐!?」
「王位を渡さないと、離宮からの使者が伝えてきたそうですよ」
「渡さないなんて……。ルドヴィク様は王の力を失っているのに……」
王の力を失っているルドヴィク様は、もはや王ではない。
ただ、ルチアノが幼いため、十八歳の成人を迎えるまでの間、形式上の王でいられる。
――自分が長く王としているために、ルチアノが必要だってこと……?
でも、ルドヴィク様がルチアノの世話をできるとは思えない。
ヤンチャな盛りである。
子育てをしたことのないルドヴィク様に、ルチアノを扱えるだろうか。
「ルチアノの件もあるが、兄上に王としての待遇を主張されるのは迷惑だ。それに、デルフィーナを使って、俺の命を狙った。失敗した兄上は次の手を考えるはずだ」
「ええ……」
「セレーネ。俺は簡単に殺される気はない」
――知っている。でも、あの時、ザカリア様がいなくなってしまったらと考え、怖くなった。
「私には、ザカリア様が必要なんです」
「それは、俺も同じだ」
ルチアノの後見人としてだけじゃなく……そう伝えたかったけれど、伝えることはできなかった。
でも、ザカリア様には伝わったのか、口元に微かな笑みを浮かべていた。
「兄上と一度話す必要があるな」
「そうですよね。私がルドヴィク様と話をします」
「駄目だ。俺が行く」
「え? ザカリア様がですか? でも、命を狙われているのはザカリア様ですし、私のほうが……」
「いや、俺が行く」
ザカリア様は絶対に譲ってくれそうになかった。
「でも、ザカリア様はルドヴィク様から命を狙われていますよね? 危険ではないですか?」
「兄上はセレーネを誘き寄せるつもりかもしれない」
「私を? 誘き寄せたいのは、ザカリア様ではなく?」
私が首を傾げていると、横からルチアノが割って入ってきた。
「ザカリア様、お母様。ぼくが行くよ!」
ルチアノが元気よく、『はいっ!』と手を挙げた。
「二人が駄目なら、ぼくが行けばいいんだよ。ロゼッテと一緒に行ってくるっ!」
「ルチアノ。あなた、遊びに行きたいだけじゃなくて?」
「そんなことないよ。ロゼッテと二人で行けば、向こうの様子がわかると思うな~」
ルチアノは否定していたけど怪しい。
でも、ルチアノとロゼッテ相手なら、ルドヴィク様も油断するだろう。
「ぼくから、王位をくださいって頼んでみる!」
「そんな……。簡単にくれるわけないでしょう?」
「セレーネ様。これは名案かもしれません。誰が行っても同じなら、ルチアノ様とロゼッテ様が行き、ルドヴィク様がなにを考えてるか、真意を探ってみるのも一つの手かと」
「それはそうだけど……」
ザカリア様が行くより、安全であることは確かだ。
いくらルドヴィク様でも、自分の子の命を奪ったりしないだろう。
「護衛なら、自分と部下にお任せを。ルドヴィク様が離宮に連れて行った護衛程度の腕なら、たいしたことはありません」
「え……ええ。もしもの時は……お願いね」
頼もしいけど、なんだか血生臭く感じたのは気のせいだろうか。
――ザカリア様の命を狙ったルドヴィク様を始末するつもりで、ジュストが離宮へ行きたいなんてことはないわよね?
「ロゼッテもお父様に会って、お話したいって言うし」
「そうね。ロゼッテは寂しいわよね……」
母親のデルフィーナが修道院へ入り、ルドヴィク様は離宮に行ったきり戻ってこない。
ロゼッテは両親がいない状態なのだ。
時々は、会わせてあげたいと思っている。
「ね、お母様。離宮に行ってきてもいいでしょ?」
ザカリア様のほうを見ると、少し寂しそうな顔でうなずいた。
ルチアノが父であるルドヴィク様に会いたいのかもしれないと、ザカリア様は思ったようだ。
「セレーネ。ルチアノがこれだけ言うのなら、兄上に会わせてやったほうがいいだろう」
「そう……ですね」
私もなんとなく、寂しい気持ちになりながら了承した。
けれど、ルチアノとロゼッテには、考えがあった。
私はそれをまだ知らない。
ルチアノとロゼッテは、自分たちの思惑を隠して、離宮へ向かったのだった。
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