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第一章
3 裏の顔(1)
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セレステは白い陶器のような肌に薔薇色の頬、目がぱっちりしていてお人形のように可愛らしい。
ピンク色のドレスには、フリルとレースの飾りが多く、とても豪華だ。
――物語の設定上、ルナリアが二番目なのはわかるけど、ここまで差をつける?
運命に一番を約束されたセレステだけあって、なにもかもが私より上。
「セレステ様。ルナリアの勉強をみていたのですよ」
私がルナリアで、セレステはセレステ『様』。
フリアンは私には妹のように気安い態度で接していたのに、ずいぶん違う。
「そう。私は音楽の先生が来ていたの。お待たせしてしまって、ごめんなさいね」
「セレステ様、大変ですね。休まれていますか?」
「大変だけど、お父様とお母様の期待を裏切りたくないから頑張るわ」
「無理するなよ」
フリアンとレジェスは、セレステをねぎらい優しい言葉をかける。
私はその様子を冷静に観察していた。
――これが二番目の姫効果。セレステがいると優先されるのはセレステなのね。
「私もルナリアのように自由でいたいわ」
セレステは大きな目を潤ませ、私を見る。
まるで、自分の存在を責められているような気がした。
「セレステ様……。辛いことがあれば、力になります。いつでも僕に相談してください」
「フリアン様。ありがとう」
イケメン王子と可憐な王女――背景には薔薇がバーンと咲いていて、花が舞っているような幻覚に襲われた。
――小説『二番目の姫』の作者に言いたいわ。やりすぎなのよ! こんなの、すでに私の暗い未来(婚約破棄されてポイ捨て)が確定してるようなものじゃないの~!
ルナリアでなくとも絶望したくなる。
そう思っていると――
「セレステ。ルナリアは賢いぞ。いずれ、このオルテンシア王国の女宰相になるかもな」
今まで少女漫画のように、セレステとフリアンが手を握り、お互いを見つめていた目が、私の方に向く。
「ルナリアが宰相?」
「そうだ」
レジェスは無邪気に笑う。
――もしかして、私とセレステが手を取り合いオルテンシア王国を治めるエンディングもアリ!?
絶望からの希望よ、こんにちは。
『姉妹仲良く国を治めました』そんな未来も悪くない。
ドキドキしながら、セレステからの言葉を待った。
「ルナリアは本を読むだけで、レジェス様に褒めてもらえてよかったわね」
「う、うん……」
――あ、あれ? なんだかトゲトゲしい……?
私に向けるセレステの目がどことなく冷たく見えた。
でも、きっと私の気のせいよね?
だって、セレステは優しくて美しい一番目の王女だし、誰からも愛されていて、二番目の私のことなんて気にする必要なんてない。
「レジェス様、フリアン様。庭の薔薇がとても綺麗なの。私とお散歩しませんか?」
「もちろん、ご一緒します」
「薔薇か」
フリアンは爽やかな笑みを浮かべ、レジェスのほうは面倒そうな顔をした。
レジェスは乗り気ではなさそうだ。
小説『二番目の姫』の舞台は小国オルテンシアである。
やがて、セレステの婚約者になるレジェスだけど、大国アギラカリサの王子であるレジェスの立場は作中でも強かった。
大国アギラカリサと婚姻関係を結びたい国は多い。
頻繁にレジェスが招待され、もてなされているのは、年の近いセレステを気に入ってもらおうという小国オルテンシア側の作戦だ。
小説『二番目の姫』がストーリーどおり進んだなら、レジェスとセレステは婚約する。
多くいる婚約者候補の中で選ばれるのは、やっぱり一番のセレステなのだ。
「レジェス様は薔薇がお嫌いですか?」
表情を曇らせ、泣きそうなセレステに乳母と侍女はハラハラしていた。
セレステが泣けば、お父様とお母様が大騒ぎする。
「わかった。フリアンとの剣の稽古があるから少しの間だけだぞ」
その返事を聞いて、セレステは胸の前に両手を握りしめて喜んだ。
可憐な仕草に乳母も侍女もにっこり微笑んでいる。
でも、私だけ違っていた。
――庭を散歩するのはいいけど、なんだかおかしいわ。どうしてセレステは図書館を待ち合わせ場所に選んだのかしら?
さっきから、ずっと疑問に思っていた。
セレステが『庭で散歩をしたい』と考えていたなら、待ち合わせを庭にすればよかったのでは?
わざわざ図書館にする必要はない。
――幼いルナリアなら、外で散歩したいって言い出すわよね。乳母も侍女も困るだろうけど、わがままを押し通すと思うわ。
昨日までの自分を振り返ったら、そうしていたと思う。
勉強しているより、明るい外で花を眺めたほうが楽しいとわかるから。
私の選ぶべき選択肢は――
「ルナリア、お勉強するから、またね~!」
――回避である。
五歳児らしく、セレステたちにバイバーイと笑って手を振った。
「ど、どうしたのかしら? いつもなら、私も行くと言って暴れるルナリア様が!」
「ちょっと勉強を始めたわよ!?」
「大変! 洗濯係に雨が降るって伝えてこなきゃ!」
いつもと違う私の行動に侍女たちがざわめく。
――はあ……勉強しよ。自分の行動ひとつで死ぬとわかったら必死にもなるわ。
「ルナリア、本当に私たちと外へ行かないの?」
セレステが戸惑いの表情を浮かべていた。
「うん! ここでお勉強してる!」
「セレステ様。ルナリア様はお勉強の時間ですので、ご遠慮させていただきますわ」
乳母は私の様子を見て、乳母からもセレステにお断りしてくれた。
「そんな……。私はルナリアともっと仲良くしたいと思っているのよ。妹と遊ぶ時間もないなんて悲しいわ」
「え……仲良く……?」
「ね、ルナリア。一緒に庭へ行きましょうよ」
セレステは私を誘う。
「ルナリア。休憩も大事だよ。レジェスも国へ帰る日が近いし、今は庭を散歩したらいいんじゃないかな」
フリアンが優しく私に語りかけてきて、少しだけならいいかもと思ってしまった。
「じゃあ、お姉様とお散歩しようかな……」
「まあ! 嬉しい!」
セレステが微笑むと花のようで、見惚れてしまう。
「ルナリアは私が面倒を見るから、乳母は休んでいていいわ」
「セレステ様。そんなわけには……」
「庭を一周するだけだから。ね? ルナリア?」
「うん。ルナリア、お姉様とお散歩する!」
年齢以上のしっかりした振る舞いと優しい気遣いに、乳母もセレステを信用した。
「まあ、セレステ様がご一緒なら大丈夫ですわね。ルナリア様、淑女らしくしてくださいね。犬のように駆け回ってはいけませんよ」
――うわ、セレステの信頼度高すぎ。
そして、私への信頼度は低すぎた。
乳母は私に帽子をかぶせ、セレステに一礼する。
「では、ルナリア様をお願いします」
「ええ」
私の手を引き、セレステは庭へ向かう。
「今日の朝咲いた薔薇なのよ。ルナリア、トゲに気をつけてね」
「うん!」
セレステは非の打ち所がない素敵なお姉様で、小説『二番目の姫』に書いてあったとおり優しい子だった。
――セレステがおかしいなんてことないわよね。小説の設定では優しくて誰からも愛される子なんだし。私の考えすぎだったみたい。
いろいろ疑って悪かったな……なんて、反省しながらセレステの隣を歩く。
私とセレステの前をレジェスとフリアンが歩き、虫がどうの、水路に魚がいるとか、男の子らしい話をしている。
――それにしても、王宮内の水路に観賞用の魚がいるってすごいわ。
浅いけど池まであるし、とてもゴージャスだ。
でも、水路は流れが速い。
今の私は五歳で、落ちたら流されてしまうかもしれない。
「こちらが今日咲いた薔薇ですわ」
「綺麗だね。王宮の庭師は腕がいいと、僕の父上が言っていたよ」
「香りがいいな」
セレステが見せたかった薔薇の花は、他の薔薇より大きく美しかった。
庭師がやってきて、その薔薇を惜しみなく切り落とした。
「どうぞ、セレステ様」
庭師はトゲを処理し、一番いい薔薇をセレステの金髪に飾る。
「セレステ、可愛いよ」
フリアンに褒められ、セレステは頬を赤らめた。
「ありがとう」
庭師は私に花を切ってくれなかった。
セレステはそんな私に気づき、水路の横に自生する花を指さした。
「ルナリアと同じ名前の花はそこにあるわ。雑草と同じでどこにでも生えるのよ」
――セレステは薔薇で、私は雑草。
悪意がないとわかっていても、胸が痛んだ。
ぎゅっとスカートを握り、笑顔を作る。
「うん。ルナリアと同じ名前のお花だよね! 知ってる!」
紫色の花がどこにでも生い茂り、庭師が邪魔にして引き抜いているのを知っている。
レジェスが水路の際に咲いていたルナリアの花を摘む。
そして、自分の髪を結んでいた紐を取り、ブーケを作ると私の髪に飾った。
「俺と同じ目の色をした紫色の花だ。おそろいだな」
レジェスは私が傷ついたのがわかったのだろうか。
解けた黒髪をかきあげたレジェス様は、すごくかっこよかった。
「月の名を持つルナリアの花は、アギラカリサにも咲いている。強くて綺麗な花だと思う。俺は好きだぞ」
「あ、ありがとう! レジェス様!」
レジェス様の優しさだろうけど、ルナリアの花が好きだと言ってくれたことが嬉しかった。
――薔薇の花ばかりが美しいわけじゃない。
私が笑うとレジェス様も笑った。
「……レジェス様。あの花をとってくださいませんか?」
「うん? いいぞ」
セレステがレジェスに頼んだのは、木に咲く白い花だった。
「レジェスに届くかな」
「フリアンも届かないだろ?」
二人の視線は花へ向けられる。
私も花を見上げようとして、セレステと目があった。
セレステが私ににっこり微笑み、私も微笑み返す。
私がセレステとずっと仲良しなら、みんなから嫌われたりしないし、平和に暮らせる。
――なーんだ、簡単!
そう思っていた。
この瞬間までは。
セレステの手が伸び、私の肩を強く押した。
「え?」
突き飛ばされた私は、水路のほうへ体が傾き、足が宙に浮く。
自分の背に水の感触を感じたかと思ったら、冷たい水の中に落ちたのがわかった――違う、落とされた。
ほんの一瞬ことだった。
――今、なにが起きたの?
誰かに気づいてもらおうとして、水面より上に顔をあげる。
けれど、水を飲んでしまい、声がでない。
手足をバタつかせても、ドレスが水を吸って体にはりつき、重くて動けなかった。
帽子が顔を覆い、呼吸できず、水の中へ体が沈んでいく。
――私、ここで死んじゃうの!?
ピンク色のドレスには、フリルとレースの飾りが多く、とても豪華だ。
――物語の設定上、ルナリアが二番目なのはわかるけど、ここまで差をつける?
運命に一番を約束されたセレステだけあって、なにもかもが私より上。
「セレステ様。ルナリアの勉強をみていたのですよ」
私がルナリアで、セレステはセレステ『様』。
フリアンは私には妹のように気安い態度で接していたのに、ずいぶん違う。
「そう。私は音楽の先生が来ていたの。お待たせしてしまって、ごめんなさいね」
「セレステ様、大変ですね。休まれていますか?」
「大変だけど、お父様とお母様の期待を裏切りたくないから頑張るわ」
「無理するなよ」
フリアンとレジェスは、セレステをねぎらい優しい言葉をかける。
私はその様子を冷静に観察していた。
――これが二番目の姫効果。セレステがいると優先されるのはセレステなのね。
「私もルナリアのように自由でいたいわ」
セレステは大きな目を潤ませ、私を見る。
まるで、自分の存在を責められているような気がした。
「セレステ様……。辛いことがあれば、力になります。いつでも僕に相談してください」
「フリアン様。ありがとう」
イケメン王子と可憐な王女――背景には薔薇がバーンと咲いていて、花が舞っているような幻覚に襲われた。
――小説『二番目の姫』の作者に言いたいわ。やりすぎなのよ! こんなの、すでに私の暗い未来(婚約破棄されてポイ捨て)が確定してるようなものじゃないの~!
ルナリアでなくとも絶望したくなる。
そう思っていると――
「セレステ。ルナリアは賢いぞ。いずれ、このオルテンシア王国の女宰相になるかもな」
今まで少女漫画のように、セレステとフリアンが手を握り、お互いを見つめていた目が、私の方に向く。
「ルナリアが宰相?」
「そうだ」
レジェスは無邪気に笑う。
――もしかして、私とセレステが手を取り合いオルテンシア王国を治めるエンディングもアリ!?
絶望からの希望よ、こんにちは。
『姉妹仲良く国を治めました』そんな未来も悪くない。
ドキドキしながら、セレステからの言葉を待った。
「ルナリアは本を読むだけで、レジェス様に褒めてもらえてよかったわね」
「う、うん……」
――あ、あれ? なんだかトゲトゲしい……?
私に向けるセレステの目がどことなく冷たく見えた。
でも、きっと私の気のせいよね?
だって、セレステは優しくて美しい一番目の王女だし、誰からも愛されていて、二番目の私のことなんて気にする必要なんてない。
「レジェス様、フリアン様。庭の薔薇がとても綺麗なの。私とお散歩しませんか?」
「もちろん、ご一緒します」
「薔薇か」
フリアンは爽やかな笑みを浮かべ、レジェスのほうは面倒そうな顔をした。
レジェスは乗り気ではなさそうだ。
小説『二番目の姫』の舞台は小国オルテンシアである。
やがて、セレステの婚約者になるレジェスだけど、大国アギラカリサの王子であるレジェスの立場は作中でも強かった。
大国アギラカリサと婚姻関係を結びたい国は多い。
頻繁にレジェスが招待され、もてなされているのは、年の近いセレステを気に入ってもらおうという小国オルテンシア側の作戦だ。
小説『二番目の姫』がストーリーどおり進んだなら、レジェスとセレステは婚約する。
多くいる婚約者候補の中で選ばれるのは、やっぱり一番のセレステなのだ。
「レジェス様は薔薇がお嫌いですか?」
表情を曇らせ、泣きそうなセレステに乳母と侍女はハラハラしていた。
セレステが泣けば、お父様とお母様が大騒ぎする。
「わかった。フリアンとの剣の稽古があるから少しの間だけだぞ」
その返事を聞いて、セレステは胸の前に両手を握りしめて喜んだ。
可憐な仕草に乳母も侍女もにっこり微笑んでいる。
でも、私だけ違っていた。
――庭を散歩するのはいいけど、なんだかおかしいわ。どうしてセレステは図書館を待ち合わせ場所に選んだのかしら?
さっきから、ずっと疑問に思っていた。
セレステが『庭で散歩をしたい』と考えていたなら、待ち合わせを庭にすればよかったのでは?
わざわざ図書館にする必要はない。
――幼いルナリアなら、外で散歩したいって言い出すわよね。乳母も侍女も困るだろうけど、わがままを押し通すと思うわ。
昨日までの自分を振り返ったら、そうしていたと思う。
勉強しているより、明るい外で花を眺めたほうが楽しいとわかるから。
私の選ぶべき選択肢は――
「ルナリア、お勉強するから、またね~!」
――回避である。
五歳児らしく、セレステたちにバイバーイと笑って手を振った。
「ど、どうしたのかしら? いつもなら、私も行くと言って暴れるルナリア様が!」
「ちょっと勉強を始めたわよ!?」
「大変! 洗濯係に雨が降るって伝えてこなきゃ!」
いつもと違う私の行動に侍女たちがざわめく。
――はあ……勉強しよ。自分の行動ひとつで死ぬとわかったら必死にもなるわ。
「ルナリア、本当に私たちと外へ行かないの?」
セレステが戸惑いの表情を浮かべていた。
「うん! ここでお勉強してる!」
「セレステ様。ルナリア様はお勉強の時間ですので、ご遠慮させていただきますわ」
乳母は私の様子を見て、乳母からもセレステにお断りしてくれた。
「そんな……。私はルナリアともっと仲良くしたいと思っているのよ。妹と遊ぶ時間もないなんて悲しいわ」
「え……仲良く……?」
「ね、ルナリア。一緒に庭へ行きましょうよ」
セレステは私を誘う。
「ルナリア。休憩も大事だよ。レジェスも国へ帰る日が近いし、今は庭を散歩したらいいんじゃないかな」
フリアンが優しく私に語りかけてきて、少しだけならいいかもと思ってしまった。
「じゃあ、お姉様とお散歩しようかな……」
「まあ! 嬉しい!」
セレステが微笑むと花のようで、見惚れてしまう。
「ルナリアは私が面倒を見るから、乳母は休んでいていいわ」
「セレステ様。そんなわけには……」
「庭を一周するだけだから。ね? ルナリア?」
「うん。ルナリア、お姉様とお散歩する!」
年齢以上のしっかりした振る舞いと優しい気遣いに、乳母もセレステを信用した。
「まあ、セレステ様がご一緒なら大丈夫ですわね。ルナリア様、淑女らしくしてくださいね。犬のように駆け回ってはいけませんよ」
――うわ、セレステの信頼度高すぎ。
そして、私への信頼度は低すぎた。
乳母は私に帽子をかぶせ、セレステに一礼する。
「では、ルナリア様をお願いします」
「ええ」
私の手を引き、セレステは庭へ向かう。
「今日の朝咲いた薔薇なのよ。ルナリア、トゲに気をつけてね」
「うん!」
セレステは非の打ち所がない素敵なお姉様で、小説『二番目の姫』に書いてあったとおり優しい子だった。
――セレステがおかしいなんてことないわよね。小説の設定では優しくて誰からも愛される子なんだし。私の考えすぎだったみたい。
いろいろ疑って悪かったな……なんて、反省しながらセレステの隣を歩く。
私とセレステの前をレジェスとフリアンが歩き、虫がどうの、水路に魚がいるとか、男の子らしい話をしている。
――それにしても、王宮内の水路に観賞用の魚がいるってすごいわ。
浅いけど池まであるし、とてもゴージャスだ。
でも、水路は流れが速い。
今の私は五歳で、落ちたら流されてしまうかもしれない。
「こちらが今日咲いた薔薇ですわ」
「綺麗だね。王宮の庭師は腕がいいと、僕の父上が言っていたよ」
「香りがいいな」
セレステが見せたかった薔薇の花は、他の薔薇より大きく美しかった。
庭師がやってきて、その薔薇を惜しみなく切り落とした。
「どうぞ、セレステ様」
庭師はトゲを処理し、一番いい薔薇をセレステの金髪に飾る。
「セレステ、可愛いよ」
フリアンに褒められ、セレステは頬を赤らめた。
「ありがとう」
庭師は私に花を切ってくれなかった。
セレステはそんな私に気づき、水路の横に自生する花を指さした。
「ルナリアと同じ名前の花はそこにあるわ。雑草と同じでどこにでも生えるのよ」
――セレステは薔薇で、私は雑草。
悪意がないとわかっていても、胸が痛んだ。
ぎゅっとスカートを握り、笑顔を作る。
「うん。ルナリアと同じ名前のお花だよね! 知ってる!」
紫色の花がどこにでも生い茂り、庭師が邪魔にして引き抜いているのを知っている。
レジェスが水路の際に咲いていたルナリアの花を摘む。
そして、自分の髪を結んでいた紐を取り、ブーケを作ると私の髪に飾った。
「俺と同じ目の色をした紫色の花だ。おそろいだな」
レジェスは私が傷ついたのがわかったのだろうか。
解けた黒髪をかきあげたレジェス様は、すごくかっこよかった。
「月の名を持つルナリアの花は、アギラカリサにも咲いている。強くて綺麗な花だと思う。俺は好きだぞ」
「あ、ありがとう! レジェス様!」
レジェス様の優しさだろうけど、ルナリアの花が好きだと言ってくれたことが嬉しかった。
――薔薇の花ばかりが美しいわけじゃない。
私が笑うとレジェス様も笑った。
「……レジェス様。あの花をとってくださいませんか?」
「うん? いいぞ」
セレステがレジェスに頼んだのは、木に咲く白い花だった。
「レジェスに届くかな」
「フリアンも届かないだろ?」
二人の視線は花へ向けられる。
私も花を見上げようとして、セレステと目があった。
セレステが私ににっこり微笑み、私も微笑み返す。
私がセレステとずっと仲良しなら、みんなから嫌われたりしないし、平和に暮らせる。
――なーんだ、簡単!
そう思っていた。
この瞬間までは。
セレステの手が伸び、私の肩を強く押した。
「え?」
突き飛ばされた私は、水路のほうへ体が傾き、足が宙に浮く。
自分の背に水の感触を感じたかと思ったら、冷たい水の中に落ちたのがわかった――違う、落とされた。
ほんの一瞬ことだった。
――今、なにが起きたの?
誰かに気づいてもらおうとして、水面より上に顔をあげる。
けれど、水を飲んでしまい、声がでない。
手足をバタつかせても、ドレスが水を吸って体にはりつき、重くて動けなかった。
帽子が顔を覆い、呼吸できず、水の中へ体が沈んでいく。
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