いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍

文字の大きさ
3 / 31
第一章

3 裏の顔(1)

しおりを挟む
 セレステは白い陶器のような肌に薔薇色の頬、目がぱっちりしていてお人形のように可愛らしい。
 ピンク色のドレスには、フリルとレースの飾りが多く、とても豪華だ。
 
 ――物語の設定上、ルナリアが二番目なのはわかるけど、ここまで差をつける?

 運命に一番を約束されたセレステだけあって、なにもかもが私より上。

「セレステ様。ルナリアの勉強をみていたのですよ」

 私がルナリアで、セレステはセレステ『様』。
 フリアンは私には妹のように気安い態度で接していたのに、ずいぶん違う。

「そう。私は音楽の先生が来ていたの。お待たせしてしまって、ごめんなさいね」
「セレステ様、大変ですね。休まれていますか?」
「大変だけど、お父様とお母様の期待を裏切りたくないから頑張るわ」
「無理するなよ」

 フリアンとレジェスは、セレステをねぎらい優しい言葉をかける。
 私はその様子を冷静に観察していた。

 ――これが二番目の姫効果。セレステがいると優先されるのはセレステなのね。

「私もルナリアのように自由でいたいわ」

 セレステは大きな目を潤ませ、私を見る。
 まるで、自分の存在を責められているような気がした。

「セレステ様……。辛いことがあれば、力になります。いつでも僕に相談してください」
「フリアン様。ありがとう」

 イケメン王子と可憐な王女――背景には薔薇がバーンと咲いていて、花が舞っているような幻覚に襲われた。

 ――小説『二番目の姫』の作者に言いたいわ。やりすぎなのよ! こんなの、すでに私の暗い未来(婚約破棄されてポイ捨て)が確定してるようなものじゃないの~!

 ルナリアでなくとも絶望したくなる。
 そう思っていると――

「セレステ。ルナリアは賢いぞ。いずれ、このオルテンシア王国の女宰相になるかもな」

 今まで少女漫画のように、セレステとフリアンが手を握り、お互いを見つめていた目が、私の方に向く。

「ルナリアが宰相?」
「そうだ」

 レジェスは無邪気に笑う。
 
 ――もしかして、私とセレステが手を取り合いオルテンシア王国を治めるエンディングもアリ!?

 絶望からの希望よ、こんにちは。
『姉妹仲良く国を治めました』そんな未来も悪くない。
 ドキドキしながら、セレステからの言葉を待った。

「ルナリアは本を読むだけで、レジェス様に褒めてもらえてよかったわね」
「う、うん……」

 ――あ、あれ? なんだかトゲトゲしい……?

 私に向けるセレステの目がどことなく冷たく見えた。
 でも、きっと私の気のせいよね?
 だって、セレステは優しくて美しい一番目の王女だし、誰からも愛されていて、二番目の私のことなんて気にする必要なんてない。
 
「レジェス様、フリアン様。庭の薔薇がとても綺麗なの。私とお散歩しませんか?」
「もちろん、ご一緒します」
「薔薇か」

 フリアンは爽やかな笑みを浮かべ、レジェスのほうは面倒そうな顔をした。
 レジェスは乗り気ではなさそうだ。
 小説『二番目の姫』の舞台は小国オルテンシアである。
 やがて、セレステの婚約者になるレジェスだけど、大国アギラカリサの王子であるレジェスの立場は作中でも強かった。
 大国アギラカリサと婚姻関係を結びたい国は多い。
 頻繁にレジェスが招待され、もてなされているのは、年の近いセレステを気に入ってもらおうという小国オルテンシア側の作戦だ。
 小説『二番目の姫』がストーリーどおり進んだなら、レジェスとセレステは婚約する。
 多くいる婚約者候補の中で選ばれるのは、やっぱり一番のセレステなのだ。

「レジェス様は薔薇がお嫌いですか?」

 表情を曇らせ、泣きそうなセレステに乳母と侍女はハラハラしていた。
 セレステが泣けば、お父様とお母様が大騒ぎする。

「わかった。フリアンとの剣の稽古があるから少しの間だけだぞ」

 その返事を聞いて、セレステは胸の前に両手を握りしめて喜んだ。
 可憐な仕草に乳母も侍女もにっこり微笑んでいる。
 でも、私だけ違っていた。

 ――庭を散歩するのはいいけど、なんだかおかしいわ。どうしてセレステは図書館を待ち合わせ場所に選んだのかしら?

 さっきから、ずっと疑問に思っていた。
 セレステが『庭で散歩をしたい』と考えていたなら、待ち合わせを庭にすればよかったのでは?
 わざわざ図書館にする必要はない。 

 ――幼いルナリアなら、外で散歩したいって言い出すわよね。乳母も侍女も困るだろうけど、わがままを押し通すと思うわ。
 
 昨日までの自分を振り返ったら、そうしていたと思う。
 勉強しているより、明るい外で花を眺めたほうが楽しいとわかるから。
 私の選ぶべき選択肢は――

「ルナリア、お勉強するから、またね~!」

 ――回避である。

 五歳児らしく、セレステたちにバイバーイと笑って手を振った。
 
「ど、どうしたのかしら? いつもなら、私も行くと言って暴れるルナリア様が!」
「ちょっと勉強を始めたわよ!?」
「大変! 洗濯係に雨が降るって伝えてこなきゃ!」

 いつもと違う私の行動に侍女たちがざわめく。
 
 ――はあ……勉強しよ。自分の行動ひとつで死ぬとわかったら必死にもなるわ。

「ルナリア、本当に私たちと外へ行かないの?」

 セレステが戸惑いの表情を浮かべていた。

「うん! ここでお勉強してる!」 
「セレステ様。ルナリア様はお勉強の時間ですので、ご遠慮させていただきますわ」

 乳母は私の様子を見て、乳母からもセレステにお断りしてくれた。

「そんな……。私はルナリアともっと仲良くしたいと思っているのよ。妹と遊ぶ時間もないなんて悲しいわ」
「え……仲良く……?」
「ね、ルナリア。一緒に庭へ行きましょうよ」

 セレステは私を誘う。

「ルナリア。休憩も大事だよ。レジェスも国へ帰る日が近いし、今は庭を散歩したらいいんじゃないかな」

 フリアンが優しく私に語りかけてきて、少しだけならいいかもと思ってしまった。

「じゃあ、お姉様とお散歩しようかな……」
「まあ! 嬉しい!」
 
 セレステが微笑むと花のようで、見惚れてしまう。

「ルナリアは私が面倒を見るから、乳母は休んでいていいわ」
「セレステ様。そんなわけには……」
「庭を一周するだけだから。ね? ルナリア?」
「うん。ルナリア、お姉様とお散歩する!」

 年齢以上のしっかりした振る舞いと優しい気遣いに、乳母もセレステを信用した。

「まあ、セレステ様がご一緒なら大丈夫ですわね。ルナリア様、淑女らしくしてくださいね。犬のように駆け回ってはいけませんよ」

 ――うわ、セレステの信頼度高すぎ。

 そして、私への信頼度は低すぎた。
 乳母は私に帽子をかぶせ、セレステに一礼する。

「では、ルナリア様をお願いします」
「ええ」

 私の手を引き、セレステは庭へ向かう。

「今日の朝咲いた薔薇なのよ。ルナリア、トゲに気をつけてね」
「うん!」

 セレステは非の打ち所がない素敵なお姉様で、小説『二番目の姫』に書いてあったとおり優しい子だった。

 ――セレステがおかしいなんてことないわよね。小説の設定では優しくて誰からも愛される子なんだし。私の考えすぎだったみたい。

 いろいろ疑って悪かったな……なんて、反省しながらセレステの隣を歩く。
 私とセレステの前をレジェスとフリアンが歩き、虫がどうの、水路に魚がいるとか、男の子らしい話をしている。
 
 ――それにしても、王宮内の水路に観賞用の魚がいるってすごいわ。

 浅いけど池まであるし、とてもゴージャスだ。
 でも、水路は流れが速い。
 今の私は五歳で、落ちたら流されてしまうかもしれない。

「こちらが今日咲いた薔薇ですわ」
「綺麗だね。王宮の庭師は腕がいいと、僕の父上が言っていたよ」
「香りがいいな」

 セレステが見せたかった薔薇の花は、他の薔薇より大きく美しかった。
 庭師がやってきて、その薔薇を惜しみなく切り落とした。

「どうぞ、セレステ様」

 庭師はトゲを処理し、一番いい薔薇をセレステの金髪に飾る。

「セレステ、可愛いよ」

 フリアンに褒められ、セレステは頬を赤らめた。

「ありがとう」

 庭師は私に花を切ってくれなかった。
 セレステはそんな私に気づき、水路の横に自生する花を指さした。

「ルナリアと同じ名前の花はそこにあるわ。雑草と同じでどこにでも生えるのよ」

 ――セレステは薔薇で、私は雑草。

 悪意がないとわかっていても、胸が痛んだ。
 ぎゅっとスカートを握り、笑顔を作る。

「うん。ルナリアと同じ名前のお花だよね! 知ってる!」

 紫色の花がどこにでも生い茂り、庭師が邪魔にして引き抜いているのを知っている。
 レジェスが水路の際に咲いていたルナリアの花を摘む。
 そして、自分の髪を結んでいた紐を取り、ブーケを作ると私の髪に飾った。

「俺と同じ目の色をした紫色の花だ。おそろいだな」

 レジェスは私が傷ついたのがわかったのだろうか。
 解けた黒髪をかきあげたレジェス様は、すごくかっこよかった。
 
「月の名を持つルナリアの花は、アギラカリサにも咲いている。強くて綺麗な花だと思う。俺は好きだぞ」
「あ、ありがとう! レジェス様!」

 レジェス様の優しさだろうけど、ルナリアの花が好きだと言ってくれたことが嬉しかった。
 
 ――薔薇の花ばかりが美しいわけじゃない。

 私が笑うとレジェス様も笑った。

「……レジェス様。あの花をとってくださいませんか?」
「うん? いいぞ」

 セレステがレジェスに頼んだのは、木に咲く白い花だった。

「レジェスに届くかな」
「フリアンも届かないだろ?」

 二人の視線は花へ向けられる。
 私も花を見上げようとして、セレステと目があった。
 セレステが私ににっこり微笑み、私も微笑み返す。
 私がセレステとずっと仲良しなら、みんなから嫌われたりしないし、平和に暮らせる。

 ――なーんだ、簡単!
 
 そう思っていた。
 この瞬間までは。
 セレステの手が伸び、私の肩を強く押した。

「え?」

 突き飛ばされた私は、水路のほうへ体が傾き、足が宙に浮く。
 自分の背に水の感触を感じたかと思ったら、冷たい水の中に落ちたのがわかった――違う、落とされた。
 ほんの一瞬ことだった。

 ――今、なにが起きたの?

 誰かに気づいてもらおうとして、水面より上に顔をあげる。
 けれど、水を飲んでしまい、声がでない。
 手足をバタつかせても、ドレスが水を吸って体にはりつき、重くて動けなかった。
 帽子が顔を覆い、呼吸できず、水の中へ体が沈んでいく。

 ――私、ここで死んじゃうの!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

男装の騎士に心を奪われる予定の婚約者がいる私の憂鬱

恋愛
私は10歳の時にファンタジー小説のライバル令嬢だと気付いた。 婚約者の王太子殿下は男装の騎士に心を奪われ私との婚約を解消する予定だ。 前世も辛い失恋経験のある私は自信が無いから王太子から逃げたい。 だって、二人のラブラブなんて想像するのも辛いもの。 私は今世も勉強を頑張ります。だって知識は裏切らないから。 傷付くのが怖くて臆病なヒロインが、傷付く前にヒーローを避けようと頑張る物語です。 王道ありがちストーリー。ご都合主義満載。 ハッピーエンドは確実です。 ※ヒーローはヒロインを振り向かせようと一生懸命なのですが、悲しいことに避けられてしまいます。

あなたが捨てた花冠と后の愛

小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。 順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。 そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。 リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。 そのためにリリィが取った行動とは何なのか。 リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。 2人の未来はいかに···

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

後悔は手遅れになってから

豆狸
恋愛
もう父にもレオナール様にも伝えたいことはありません。なのに胸に広がる後悔と伝えたいという想いはなんなのでしょうか。

[完結]裏切りの果てに……

青空一夏
恋愛
王都に本邸を構える大商会、アルマード男爵家の一人娘リリアは、父の勧めで王立近衛騎士団から引き抜かれた青年カイルと婚約する。 彼は公爵家の分家筋の出身で、政争で没落したものの、誇り高く優秀な騎士だった。 穏やかで誠実な彼に惹かれていくリリア。 だが、学園の同級生レオンのささやいた一言が、彼女の心を揺らす。 「カイルは優しい人なんだろ? 君が望めば、何でもしてくれるはずさ。 でも、それは――仕事だからだよ。結婚も仕事のうちさ。 だって、雇い主の命令に逆らえないでしょ? 君に好意がなくても、義務でそうするんだ」 その言葉が頭から離れないリリアは、カイルの同僚たちに聞き込み、彼に病気の家族がいると知った。「治療費のために自分と結婚するの?」 そう思い込んだリリアに、父母がそろって事故死するという不幸が襲う。 レオンはリリアを惑わし、孤立させ、莫大な持参金を持って自分の元へ嫁ぐように仕向けるのだった。 だが、待っていたのは愛ではなく、孤独と裏切り。 日差しの差さない部屋に閉じ込められ、心身を衰弱させていくリリア。 「……カイル、助けて……」 そう呟いたとき。動き出したのは、かつて彼女を守ると誓った男――カイル・グランベルだった。そしてリリアも自らここを抜けだし、レオンを懲らしめてやろうと決意するようになり…… 今、失われた愛と誇りを取り戻す物語が始まる。

(完結)私が貴方から卒業する時

青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。 だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・ ※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

処理中です...