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第二章
14 レジェスの婚約者
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私たちが王都に入り、王宮へたどり着いたのは陽が落ちた後だった。
でも、アギラカリサ王都は賑やかでとても明るい。
――オルテンシア王国より栄えているから、夜も明るいし賑やかね。
商人たちの行き来も多い。
王宮から見える美しい都の夜景を眺め、前世を思い出し、しんみりしてしまった。
けれど、そのしんみりした気持ちは長く続かなかった。
なぜなら――
「レジェス、遅かったね。やっと着いたのかい?」
「お前は生まれてくるのも遅かったが、到着ものんびりしてるな」
「俺たちからのプレゼントは楽しめたか?」
アギラカリサ王宮の出迎えは、王子たちの挨拶から始まった。
レジェスの三人の兄で、お父様を罠にはめた血も涙もない王子たちである。
「暗殺者の腕前はどうだった?」
「お前に味方する連中が何人か死んだか?」
なにこの会話……
まさか暗殺者をレジェスにプレゼントしたって言ってるの?
まだ王宮の中に入ってもいないのに、きつい先制パンチを繰り出してくる三人の兄。
レジェスは慣れているのか、気にする様子はなく、余裕の顔で笑みを浮かべている。
でも、フリアンのほうは私のそばを離れず、険しい表情で相手を警戒する。
シモン先生はニコニコしていたけど、心なしか、王子たちに向ける目は冷たかった。
「出迎えの余興にしては手ごたえがなかったな。俺一人で片付けてしまったぞ」
レジェスの一言で、三人の兄たちは苛立つのがわかった。
アギラカリサ王家のギスギスぶりは、私の想像以上。
これが日常なのか、命のやりとりをしているというのに、レジェスたちは笑顔のままだった。
「おい、レジェス。その子供と背後の者たちはなんだ?」
「アギラカリサ王宮は招かれた者しか入れないんだぞ」
「父上の了承を得ているのか?」
これ以上、もめないようにかフリアンが前に出て挨拶をする。
「我々はオルテンシア王国から参りました。こちらは第二王女のルナリア様。自分はルナリア様を護衛する騎士です」
フリアンは公爵の子息という身分を隠したつもりが、そうはいかなかった。
「俺たちを馬鹿だと思っているのか?」
「剣でレジェスと対等にやれる奴はそう多くない。お前は王家に次ぐ公爵家の一人息子のフリアンだろう?」
「どうだ? 俺の配下にならないか? 大金で雇ってやるぞ」
フリアンは名前を知られていた。
三人はレジェスの剣の腕に敵わないらしく、フリアンを雇えばなんとかなると思っているようだ。
――なんて失礼なの。
小国とはいえ、公爵の子息であるフリアンに対して、大金を払うから雇ってやるなんて、上から目線にもほどがある。
本当にレジェスの兄なのか疑いたくなるわ。
「ありがたい申し出ですが、オルテンシア王家に忠誠を誓う身。そして、僕はレジェスの友人です」
さわやかな微笑みに空気がやわらいだ。
――これがフリアンの力!
さわやか全開、王子より王子な設定。
フリアン、さすがすぎるわ。
ギスギスで血なまぐさい王子たちを浄化するなんて、フリアンにしかできないことだ。
そんなフリアンは、アギラカリサ王宮の女性たちの視線を釘付けにした。
「あれはどなた?」
「オルテンシア王国公爵家のご子息ですって」
「まあ! なんて美しい方かしら」
アギラカリサ王宮は連日、パーティー三昧だと聞いていたけど、それは本当らしい。
着飾ったドレスの貴婦人、令嬢が王宮の前に集まり、中へ入っていく。
「まあっ! レジェス様だわ!」
「ご立派になられたこと」
「今日のパーティーにご出席されるのかしら?」
通りすぎる貴婦人や令嬢たちは、レジェスに熱い視線を送る。
注目を集めるレジェスを面白く思ってないのが、他の王子たちだ。
「ふん。父上に王宮の出入りを許可されている身分でありながら、卑しい奴らめ」
「小汚ない格好をしたレジェスのどこがいいんだ」
「腹黒いレジェスに騙されているんだろう」
言いたい放題だった。
レジェスは知らん顔していたけれど、私は違う。
我慢の限界である。
「レジェス様は優しくて信頼できる立派な方です」
私のほうに視線が向く。
顔をあげ、視線を外さず挨拶をした。
「オルテンシア王国の第二王女ルナリアと申します。お見知りおきください」
私にも暴言を吐くだろうと思っていたけど、予想に反して三人は考え込んでいた。
――あ、あら? おかしいわね。ここで『俺たちに戦線布告か! いい度胸だ!』って言ってくるだろうって思っていたのに言わないの?
肩透かしをくらった気分だ。
三人はお互いの顔を見、首をかしげたり、天を仰いだりしている。
いわゆる『反応に困る』という空気。
「おい、レジェス。お前、頭は大丈夫か? 本気でどうかしているぞ」
「王になる気がないのか?」
「次にアギラカリサ王宮に顔を出す時は、婚約者となる者を連れてこいと、父上に言われていたはずだ」
――こっ、婚約者~!?
そんなこと聞いてない。
レジェスを振り仰ぐ。
フリアンとシモン先生も同様にレジェスを見ていた。
レジェスは胸の前に腕を組み、にやりと笑った。
「言ってたな」
「レジェス様。婚約者って……」
私がレジェスの婚約者なんて聞いてない。
王宮に入るための嘘だとしても、無理がある。
――だって私は十二歳! こんな嘘、苦しすぎるっ!
「俺の婚約者としてルナリアを父上に紹介する」
誰もが『そんなバレバレの嘘をついていいのか?』という顔をしていた。
私もそう思う。
レジェスの服をつかみ、懸命に背伸びする。
私のほうへ屈んでくれたので、ようやく耳に届いた。
「あ、あのっ! レジェス様。作戦だとわかってますけど、私が婚約者だなんて、レジェス様の評判が悪くなってしまいます」
なるべく小声で言った。
「それほど良くもない。俺の評判は気にするな」
笑い飛ばしたレジェスだけど、レジェスの兄三人は、ひきつった笑いを浮かべていた。
――そうよね。そうなるわよね。王位継承戦の大事な時期に、十二歳の婚約者候補を連れてくるなんて正気じゃないわ。
王になるのを放棄したと思われてもおかしくない。
「王宮前で騒いでいる奴がいると思ったら、またレジェスか。お前は毎回、なにかやらかすな」
その声はレジェスに似ているけど、もっと威圧感があって太い声だった。
一瞬で空気が変わる。
さっきまでニヤニヤしていた三人の王子の表情がこわばり、さっと身を引いた。
「父上」
声の主はアギラカリサ王だった。
黒髪に青い目をし、髭を生やしたアギラカリサ王は、レジェスとよく似ていた。
「レジェスが騒がしくしてしまい、申し訳ありません」
「こいつときたら、ふざけて十二歳の子供を婚約者にすると言って連れてきたんですよ」
「父上の言葉を軽んじている証拠です」
三人は口々にレジェスを悪く言ったけど、アギラカリサ王はそれを笑い飛ばした。
「ふん、レジェスのことだ。なにか思惑があってやっているのだろう。お前たちは騒ぎすぎだ」
レジェスを信頼する父親に不満を持っているのは一目瞭然。
三人はレジェスをにらんだ。
にらみつける目をものともせず、レジェスは言った。
「父上。オルテンシア王国の一行を王宮に入れてもかまいませんか?」
「かまわん。お前の婚約者だろう?」
「はい」
「なにをするつもりか知らんが、お前は退屈させないからな。レジェスとオルテンシア王国の一行に部屋を用意してやれ」
王の命令を聞くため、控えていた侍女たちがいっせいに動きだし、にわかに慌ただしくなった。
「国王陛下。滞在を許可していただきありがとうございます」
私がお礼を言うと、アギラカリサ王と目があった。
「我が国は王位継承戦のさなか。滞在は許可したが、命を落とさぬよう気をつけよ」
「はい」
国王陛下は経験上、王位継承戦がどんなものであるかわかっている。
自分もまた戦いを勝ち抜いて王になったからだ。
だから、レジェスが兄に命を狙われていると知っている。
そして、その婚約者として連れてきた私も危険だとわかっているのだ。
でも、わかっていても、どうすることもできない。
これは、アギラカリサの次代の王を選ぶ戦いなのだから、王は介入できないルールだ。
「ルナリア。部屋は王宮の奥だ。行くぞ」
レジェスが手を差し出し、なにも考えずに手をとった。
視線を感じて、隣を見るとフリアンが怖い顔をしていた。
――フリアン? 怖い顔をして怒るなんて珍しいわね。
「レジェス。オルテンシア王国側に相談なく、ルナリアとの婚約を決めるのはよくないよ。たとえ、フリだとしてもね」
「反対されると面倒だ。だから、俺は言わなかった。だが、他に方法があったか?」
オルテンシア王国から突然やってきて、『王宮のパーティーに参加させてください』なんて、無理に決まっている。
嘘だとしても、レジェスの婚約者という肩書きをつければ、扱いがまったく違う。
「それは……」
「ないだろう?」
フリアンは言い返せなかった。
レジェスは王宮の奥を目指して歩き出す。
後ろを歩くシモン先生がレジェスに言った。
「婚約者に仕立てるのは構いませんが、ルナリア様の安全だけは責任をもって、守っていただかねばなりません。約束できますか?」
「当然だ。俺の命にかえても守ろう」
「それならば、けっこうです」
シモン先生は納得してくれたようだ。
「レジェス様。こちらのお部屋でございます。王より自由に使えと仰せです」
王宮の侍女が待っていて、レジェスに言った。
お部屋というより、王宮の一角まるごとである。
――う、うわぁ、大きな王宮よね。オルテンシア王国と規模が違いすぎるわ。
きらびやかで少し異国風なアギラカリサ。
外国にきたというかんじがする。
案内されてすぐに、レジェスの護衛が数人、周辺に散らばった。
暗殺者や危険なものがないか確認しているようだ。
「こちらがレジェス様とルナリア様のお部屋でございます」
「えっ? 同じ部屋!?」
「婚約者だと聞いております」
侍女が粛々とした態度で答えた。
「父上なりの配慮だ」
「配慮!?」
「俺がルナリアを守れるように、同じ部屋にしたんだろう」
――あ、そういう意味で同じ部屋なのね。
自分が十二歳であることを思い出した。
レジェスにすれば、子守りみたいなものだ。
中身が十二歳じゃないから、変に意識してしまって恥ずかしくなった。
フリアンが私とレジェスの間に入り、冷ややかな声で言った。
「僕も同じ部屋で眠るよ」
「フリアンも!?」
「ん? いいぞ。部屋は広いからな!」
明るいレジェスと不機嫌なフリアン。
暗殺者に狙われ危険なのはわかるけど、なんだか安眠できそうにない……
でも、アギラカリサ王都は賑やかでとても明るい。
――オルテンシア王国より栄えているから、夜も明るいし賑やかね。
商人たちの行き来も多い。
王宮から見える美しい都の夜景を眺め、前世を思い出し、しんみりしてしまった。
けれど、そのしんみりした気持ちは長く続かなかった。
なぜなら――
「レジェス、遅かったね。やっと着いたのかい?」
「お前は生まれてくるのも遅かったが、到着ものんびりしてるな」
「俺たちからのプレゼントは楽しめたか?」
アギラカリサ王宮の出迎えは、王子たちの挨拶から始まった。
レジェスの三人の兄で、お父様を罠にはめた血も涙もない王子たちである。
「暗殺者の腕前はどうだった?」
「お前に味方する連中が何人か死んだか?」
なにこの会話……
まさか暗殺者をレジェスにプレゼントしたって言ってるの?
まだ王宮の中に入ってもいないのに、きつい先制パンチを繰り出してくる三人の兄。
レジェスは慣れているのか、気にする様子はなく、余裕の顔で笑みを浮かべている。
でも、フリアンのほうは私のそばを離れず、険しい表情で相手を警戒する。
シモン先生はニコニコしていたけど、心なしか、王子たちに向ける目は冷たかった。
「出迎えの余興にしては手ごたえがなかったな。俺一人で片付けてしまったぞ」
レジェスの一言で、三人の兄たちは苛立つのがわかった。
アギラカリサ王家のギスギスぶりは、私の想像以上。
これが日常なのか、命のやりとりをしているというのに、レジェスたちは笑顔のままだった。
「おい、レジェス。その子供と背後の者たちはなんだ?」
「アギラカリサ王宮は招かれた者しか入れないんだぞ」
「父上の了承を得ているのか?」
これ以上、もめないようにかフリアンが前に出て挨拶をする。
「我々はオルテンシア王国から参りました。こちらは第二王女のルナリア様。自分はルナリア様を護衛する騎士です」
フリアンは公爵の子息という身分を隠したつもりが、そうはいかなかった。
「俺たちを馬鹿だと思っているのか?」
「剣でレジェスと対等にやれる奴はそう多くない。お前は王家に次ぐ公爵家の一人息子のフリアンだろう?」
「どうだ? 俺の配下にならないか? 大金で雇ってやるぞ」
フリアンは名前を知られていた。
三人はレジェスの剣の腕に敵わないらしく、フリアンを雇えばなんとかなると思っているようだ。
――なんて失礼なの。
小国とはいえ、公爵の子息であるフリアンに対して、大金を払うから雇ってやるなんて、上から目線にもほどがある。
本当にレジェスの兄なのか疑いたくなるわ。
「ありがたい申し出ですが、オルテンシア王家に忠誠を誓う身。そして、僕はレジェスの友人です」
さわやかな微笑みに空気がやわらいだ。
――これがフリアンの力!
さわやか全開、王子より王子な設定。
フリアン、さすがすぎるわ。
ギスギスで血なまぐさい王子たちを浄化するなんて、フリアンにしかできないことだ。
そんなフリアンは、アギラカリサ王宮の女性たちの視線を釘付けにした。
「あれはどなた?」
「オルテンシア王国公爵家のご子息ですって」
「まあ! なんて美しい方かしら」
アギラカリサ王宮は連日、パーティー三昧だと聞いていたけど、それは本当らしい。
着飾ったドレスの貴婦人、令嬢が王宮の前に集まり、中へ入っていく。
「まあっ! レジェス様だわ!」
「ご立派になられたこと」
「今日のパーティーにご出席されるのかしら?」
通りすぎる貴婦人や令嬢たちは、レジェスに熱い視線を送る。
注目を集めるレジェスを面白く思ってないのが、他の王子たちだ。
「ふん。父上に王宮の出入りを許可されている身分でありながら、卑しい奴らめ」
「小汚ない格好をしたレジェスのどこがいいんだ」
「腹黒いレジェスに騙されているんだろう」
言いたい放題だった。
レジェスは知らん顔していたけれど、私は違う。
我慢の限界である。
「レジェス様は優しくて信頼できる立派な方です」
私のほうに視線が向く。
顔をあげ、視線を外さず挨拶をした。
「オルテンシア王国の第二王女ルナリアと申します。お見知りおきください」
私にも暴言を吐くだろうと思っていたけど、予想に反して三人は考え込んでいた。
――あ、あら? おかしいわね。ここで『俺たちに戦線布告か! いい度胸だ!』って言ってくるだろうって思っていたのに言わないの?
肩透かしをくらった気分だ。
三人はお互いの顔を見、首をかしげたり、天を仰いだりしている。
いわゆる『反応に困る』という空気。
「おい、レジェス。お前、頭は大丈夫か? 本気でどうかしているぞ」
「王になる気がないのか?」
「次にアギラカリサ王宮に顔を出す時は、婚約者となる者を連れてこいと、父上に言われていたはずだ」
――こっ、婚約者~!?
そんなこと聞いてない。
レジェスを振り仰ぐ。
フリアンとシモン先生も同様にレジェスを見ていた。
レジェスは胸の前に腕を組み、にやりと笑った。
「言ってたな」
「レジェス様。婚約者って……」
私がレジェスの婚約者なんて聞いてない。
王宮に入るための嘘だとしても、無理がある。
――だって私は十二歳! こんな嘘、苦しすぎるっ!
「俺の婚約者としてルナリアを父上に紹介する」
誰もが『そんなバレバレの嘘をついていいのか?』という顔をしていた。
私もそう思う。
レジェスの服をつかみ、懸命に背伸びする。
私のほうへ屈んでくれたので、ようやく耳に届いた。
「あ、あのっ! レジェス様。作戦だとわかってますけど、私が婚約者だなんて、レジェス様の評判が悪くなってしまいます」
なるべく小声で言った。
「それほど良くもない。俺の評判は気にするな」
笑い飛ばしたレジェスだけど、レジェスの兄三人は、ひきつった笑いを浮かべていた。
――そうよね。そうなるわよね。王位継承戦の大事な時期に、十二歳の婚約者候補を連れてくるなんて正気じゃないわ。
王になるのを放棄したと思われてもおかしくない。
「王宮前で騒いでいる奴がいると思ったら、またレジェスか。お前は毎回、なにかやらかすな」
その声はレジェスに似ているけど、もっと威圧感があって太い声だった。
一瞬で空気が変わる。
さっきまでニヤニヤしていた三人の王子の表情がこわばり、さっと身を引いた。
「父上」
声の主はアギラカリサ王だった。
黒髪に青い目をし、髭を生やしたアギラカリサ王は、レジェスとよく似ていた。
「レジェスが騒がしくしてしまい、申し訳ありません」
「こいつときたら、ふざけて十二歳の子供を婚約者にすると言って連れてきたんですよ」
「父上の言葉を軽んじている証拠です」
三人は口々にレジェスを悪く言ったけど、アギラカリサ王はそれを笑い飛ばした。
「ふん、レジェスのことだ。なにか思惑があってやっているのだろう。お前たちは騒ぎすぎだ」
レジェスを信頼する父親に不満を持っているのは一目瞭然。
三人はレジェスをにらんだ。
にらみつける目をものともせず、レジェスは言った。
「父上。オルテンシア王国の一行を王宮に入れてもかまいませんか?」
「かまわん。お前の婚約者だろう?」
「はい」
「なにをするつもりか知らんが、お前は退屈させないからな。レジェスとオルテンシア王国の一行に部屋を用意してやれ」
王の命令を聞くため、控えていた侍女たちがいっせいに動きだし、にわかに慌ただしくなった。
「国王陛下。滞在を許可していただきありがとうございます」
私がお礼を言うと、アギラカリサ王と目があった。
「我が国は王位継承戦のさなか。滞在は許可したが、命を落とさぬよう気をつけよ」
「はい」
国王陛下は経験上、王位継承戦がどんなものであるかわかっている。
自分もまた戦いを勝ち抜いて王になったからだ。
だから、レジェスが兄に命を狙われていると知っている。
そして、その婚約者として連れてきた私も危険だとわかっているのだ。
でも、わかっていても、どうすることもできない。
これは、アギラカリサの次代の王を選ぶ戦いなのだから、王は介入できないルールだ。
「ルナリア。部屋は王宮の奥だ。行くぞ」
レジェスが手を差し出し、なにも考えずに手をとった。
視線を感じて、隣を見るとフリアンが怖い顔をしていた。
――フリアン? 怖い顔をして怒るなんて珍しいわね。
「レジェス。オルテンシア王国側に相談なく、ルナリアとの婚約を決めるのはよくないよ。たとえ、フリだとしてもね」
「反対されると面倒だ。だから、俺は言わなかった。だが、他に方法があったか?」
オルテンシア王国から突然やってきて、『王宮のパーティーに参加させてください』なんて、無理に決まっている。
嘘だとしても、レジェスの婚約者という肩書きをつければ、扱いがまったく違う。
「それは……」
「ないだろう?」
フリアンは言い返せなかった。
レジェスは王宮の奥を目指して歩き出す。
後ろを歩くシモン先生がレジェスに言った。
「婚約者に仕立てるのは構いませんが、ルナリア様の安全だけは責任をもって、守っていただかねばなりません。約束できますか?」
「当然だ。俺の命にかえても守ろう」
「それならば、けっこうです」
シモン先生は納得してくれたようだ。
「レジェス様。こちらのお部屋でございます。王より自由に使えと仰せです」
王宮の侍女が待っていて、レジェスに言った。
お部屋というより、王宮の一角まるごとである。
――う、うわぁ、大きな王宮よね。オルテンシア王国と規模が違いすぎるわ。
きらびやかで少し異国風なアギラカリサ。
外国にきたというかんじがする。
案内されてすぐに、レジェスの護衛が数人、周辺に散らばった。
暗殺者や危険なものがないか確認しているようだ。
「こちらがレジェス様とルナリア様のお部屋でございます」
「えっ? 同じ部屋!?」
「婚約者だと聞いております」
侍女が粛々とした態度で答えた。
「父上なりの配慮だ」
「配慮!?」
「俺がルナリアを守れるように、同じ部屋にしたんだろう」
――あ、そういう意味で同じ部屋なのね。
自分が十二歳であることを思い出した。
レジェスにすれば、子守りみたいなものだ。
中身が十二歳じゃないから、変に意識してしまって恥ずかしくなった。
フリアンが私とレジェスの間に入り、冷ややかな声で言った。
「僕も同じ部屋で眠るよ」
「フリアンも!?」
「ん? いいぞ。部屋は広いからな!」
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