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35 朝
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朝日が差し込み、目を開けるとそこには知久がいた。
華やかな顔立ちと自信に満ち溢れた美しさがあり、その顔をいつまでも飽きずに眺めていられるような気がした。
―――いつまでも今は見ていられる。
「一緒にいられる……」
これが現実だと、私はまだ信じられなかった。
前髪を指であげて、知久の整った顔を見つめた。
「ん……、小百里?」
眠そうに知久は目を薄っすらと開けて、手で私の涙をぬぐった。
「なんで、泣いてるのか……?」
まだ眠り足りないのか、知久がうとうととしているのが可笑しかった。
「……秘密よ」
「俺と一緒にいられて嬉しいから?」
笑いながら知久は抱き締め、髪にや頬にキスをする。
犬のようにじゃれる知久を手で押しやり、その腕をほどく。
知久がキスをやめ、驚いた顔で私を見た。
「あ、あれ!? ここから二泊目のターン……」
「こないわよ、二泊目は」
甘い空気はここまで。
するりと知久の腕を抜けて私は起き上がり、目を細めた。
「それで、なにがどうして、こうなったのか説明してもらいましょうか?」
種明かしをすると言っていたくせにどさくさに紛れてまだ話をしていない。
あー……と知久が気まずそうにして、私から目をそらした。
どうやら、最初から私に話す気はなかったようで、今もなにかを考えている。
それが無駄な足掻きだと教える必要があるわね。
「言わないなら、二度と知久のお願いはきかないわよ」
「二度と!? つまり、もうお風呂はダメってことか……まさか、温泉も!? いや、それはきついだろ」
真剣に悩まないで欲しいんだけど……
うーんと知久は唸ってから、諦めたのかようやく口を開いた。
「えーと、それはあれだよ。俺と小百里が結ばれるのは運命だったってことなんだ」
「なにが運命よ。こんな都合よく知久も私も婚約がなくなるなんていくらなんでも都合よすぎるでしょ!」
「あっ、そうだ。小百里。俺のバイオリンを聴きたくない? 特別に愛を語るように弾く……」
王子様のように私の手の甲にキスをし、そして上目遣いで私を誘惑する。
残念だけど、私にそれは通用しない。
「愛を語る前に真実を語りなさい」
厳しい声に知久は諦めたように前髪をかきあげた。
「あー、降参! 降参だよ。もう小百里は怒ると怖いからなー。そうだよ、俺がいろいろやりました。でも詳しいことは内緒!」
「どうして教えてくれないの?」
「小百里は知らなくていい。地獄に落ちるのは俺一人で十分だから」
くすりと笑って知久は腕をつかんで自分のほうへ抱き寄せた。
無機質な金属の感触に知久が目を細めた。
「喜びの涙に変わるって本当だったね」
胸元のティアドロップのネックレスのシルバーチェーンを指に絡める。
そして、鎖骨にキスをし、赤い印をつけた。
昨日、散々つけたのにまだ足りないのだろうか。
流れるような動きで知久は私の唇にキスをして、ベッドに押し倒した。
「ちょっ、ちょっと知久!」
「二泊どころか一週間でも二週間でもこうしていたいな。小百里をずっと堪能していたい」
「に、二週間!?」
知久の目を見ると、今の言葉を本気で言っているってことはすぐにわかった。
確かにずっと一緒にいたいと思ったわよ!?
でも、それは常識の範囲内でのこと。
だいたい知久にも仕事があるし、私にはお店がある。
頭の中が冷静になってきて、知久の唇を手で受け止めて言った。
「あのね、私にはお店があるの! それにうまく誤魔化せたと思っているようだけど、説明がまだ……」
私が知久にお説教を始めたその時、スマホが鳴った。
ずっと鳴っているスマホに気づき、知久もさすがに手を止めて起き上がった。
「油断した。電源切っておけばよかった」
もう邪魔者は入らないと思っていたのか、知久は私のスマホまでは電源を切らなかったらしい。
「お店からだわ。今日は私、お休みをもらっていたんだけど、なにかあったのかしら」
「休みなら任せておけば……」
にこっと笑った知久を無視して、スマホを手に取る。
「俺にこんな仕打ちをするのは小百里だけだよ……」
「もしもし? 穂風?」
『ああ、ごめん。小百里。実は今、店に毬衣が来ていて小百里を出せって騒いでいるんだよ』
「毬衣さんが!?」
『毬衣一人なら私も追い返せるけど、母親と一緒に来ている』
母親―――つまり章江さんもいる。
知久が私のスマホを奪って穂風に言った。
「わかったよ。二人には俺も一緒に行くって伝えておいてくれる? 少しはおとなしくなるはずだからさ」
『知久君!?』
スマホを切ると、知久は髪をゴムでまとめた。
その顔は険しい。
「小百里に文句を言うか、嫌がらせをするかのどちらかだろうな。俺だけで行ってもいい」
「だめよ」
「小百里」
「知久が地獄に落ちるというのなら、私も一緒に行くわ」
『知久はメフィストフェレスね』
『あの世でお前は私のものとなる?』
『俺はもっと貪欲だよ』
そんな懐かしい会話を思い出して、笑ってしまった。
笑った私を不思議そうに知久は見る。
死んだ後も私はあなたのものなのだから、ずっと一緒なら行く場所も同じ。
「大丈夫よ、知久。私はもうあの日の私じゃないのよ」
まだ知久の中での私は青ざめて座る少女のままだったのかもしれない。
もう私の代わりに怒らなくていいのよ。
それを伝えたくて、私から知久にキスをした。
優しい知久に。
華やかな顔立ちと自信に満ち溢れた美しさがあり、その顔をいつまでも飽きずに眺めていられるような気がした。
―――いつまでも今は見ていられる。
「一緒にいられる……」
これが現実だと、私はまだ信じられなかった。
前髪を指であげて、知久の整った顔を見つめた。
「ん……、小百里?」
眠そうに知久は目を薄っすらと開けて、手で私の涙をぬぐった。
「なんで、泣いてるのか……?」
まだ眠り足りないのか、知久がうとうととしているのが可笑しかった。
「……秘密よ」
「俺と一緒にいられて嬉しいから?」
笑いながら知久は抱き締め、髪にや頬にキスをする。
犬のようにじゃれる知久を手で押しやり、その腕をほどく。
知久がキスをやめ、驚いた顔で私を見た。
「あ、あれ!? ここから二泊目のターン……」
「こないわよ、二泊目は」
甘い空気はここまで。
するりと知久の腕を抜けて私は起き上がり、目を細めた。
「それで、なにがどうして、こうなったのか説明してもらいましょうか?」
種明かしをすると言っていたくせにどさくさに紛れてまだ話をしていない。
あー……と知久が気まずそうにして、私から目をそらした。
どうやら、最初から私に話す気はなかったようで、今もなにかを考えている。
それが無駄な足掻きだと教える必要があるわね。
「言わないなら、二度と知久のお願いはきかないわよ」
「二度と!? つまり、もうお風呂はダメってことか……まさか、温泉も!? いや、それはきついだろ」
真剣に悩まないで欲しいんだけど……
うーんと知久は唸ってから、諦めたのかようやく口を開いた。
「えーと、それはあれだよ。俺と小百里が結ばれるのは運命だったってことなんだ」
「なにが運命よ。こんな都合よく知久も私も婚約がなくなるなんていくらなんでも都合よすぎるでしょ!」
「あっ、そうだ。小百里。俺のバイオリンを聴きたくない? 特別に愛を語るように弾く……」
王子様のように私の手の甲にキスをし、そして上目遣いで私を誘惑する。
残念だけど、私にそれは通用しない。
「愛を語る前に真実を語りなさい」
厳しい声に知久は諦めたように前髪をかきあげた。
「あー、降参! 降参だよ。もう小百里は怒ると怖いからなー。そうだよ、俺がいろいろやりました。でも詳しいことは内緒!」
「どうして教えてくれないの?」
「小百里は知らなくていい。地獄に落ちるのは俺一人で十分だから」
くすりと笑って知久は腕をつかんで自分のほうへ抱き寄せた。
無機質な金属の感触に知久が目を細めた。
「喜びの涙に変わるって本当だったね」
胸元のティアドロップのネックレスのシルバーチェーンを指に絡める。
そして、鎖骨にキスをし、赤い印をつけた。
昨日、散々つけたのにまだ足りないのだろうか。
流れるような動きで知久は私の唇にキスをして、ベッドに押し倒した。
「ちょっ、ちょっと知久!」
「二泊どころか一週間でも二週間でもこうしていたいな。小百里をずっと堪能していたい」
「に、二週間!?」
知久の目を見ると、今の言葉を本気で言っているってことはすぐにわかった。
確かにずっと一緒にいたいと思ったわよ!?
でも、それは常識の範囲内でのこと。
だいたい知久にも仕事があるし、私にはお店がある。
頭の中が冷静になってきて、知久の唇を手で受け止めて言った。
「あのね、私にはお店があるの! それにうまく誤魔化せたと思っているようだけど、説明がまだ……」
私が知久にお説教を始めたその時、スマホが鳴った。
ずっと鳴っているスマホに気づき、知久もさすがに手を止めて起き上がった。
「油断した。電源切っておけばよかった」
もう邪魔者は入らないと思っていたのか、知久は私のスマホまでは電源を切らなかったらしい。
「お店からだわ。今日は私、お休みをもらっていたんだけど、なにかあったのかしら」
「休みなら任せておけば……」
にこっと笑った知久を無視して、スマホを手に取る。
「俺にこんな仕打ちをするのは小百里だけだよ……」
「もしもし? 穂風?」
『ああ、ごめん。小百里。実は今、店に毬衣が来ていて小百里を出せって騒いでいるんだよ』
「毬衣さんが!?」
『毬衣一人なら私も追い返せるけど、母親と一緒に来ている』
母親―――つまり章江さんもいる。
知久が私のスマホを奪って穂風に言った。
「わかったよ。二人には俺も一緒に行くって伝えておいてくれる? 少しはおとなしくなるはずだからさ」
『知久君!?』
スマホを切ると、知久は髪をゴムでまとめた。
その顔は険しい。
「小百里に文句を言うか、嫌がらせをするかのどちらかだろうな。俺だけで行ってもいい」
「だめよ」
「小百里」
「知久が地獄に落ちるというのなら、私も一緒に行くわ」
『知久はメフィストフェレスね』
『あの世でお前は私のものとなる?』
『俺はもっと貪欲だよ』
そんな懐かしい会話を思い出して、笑ってしまった。
笑った私を不思議そうに知久は見る。
死んだ後も私はあなたのものなのだから、ずっと一緒なら行く場所も同じ。
「大丈夫よ、知久。私はもうあの日の私じゃないのよ」
まだ知久の中での私は青ざめて座る少女のままだったのかもしれない。
もう私の代わりに怒らなくていいのよ。
それを伝えたくて、私から知久にキスをした。
優しい知久に。
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