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5 憧れのモデル『リセ』
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ショーが終わり、会場近くのカフェにやってきた。
私が泊まっているプチホテルの近くのカフェへ行く予定だったけど、そんな余裕はない。
――早く描かなきゃ、頭の中のリセが色あせてしまう!
そう思ったからだ。
適当に選んだカフェだけど、けっこう広く、一階フロアだけでなく、テラス席と二階席がある。
入口から続く壁には、鏡がずらりと並んで店内を映す。
先に進むと、テイクアウト用の焼き菓子とパン、ケーキ、何種類もの色鮮やかなマカロンがショーケースの中に入っているのが見えた。
紅茶やジャム、コンフィチュール類は窓側に並ぶ。
お土産用の箱を選べるらしく、蝶や薔薇、蔦と鳥などがデザインされた箱がある。
あまりに可愛くて、全部欲しくなってしまう。
けれど、今の私には目の前の可愛らしいものより、心を奪われているものがある。
モデルのリセ。
私の頭の中は、彼女が着る服のイメージで頭がいっぱいだった。
テラス席に座り、ホットチョコレートとクロワッサン、クレームブリュレを頼んだ。
待っている間に、バッグに入っていたスケッチブックを取り出す。
小さいスケッチブックと鉛筆、色鉛筆は持ち歩くようにしている。
――リセに着てもらうなら、どんな服がいい?
その姿を思い浮かべただけで、うっとりした。
アイドルのコンサート後の気分である。
「紡生さんに感謝しないと。こんなリフレッシュできるなんて思わなかったわ」
一枚、描き終わったところで、中身が見えないくらいの生クリームが大盛りのホットチョコレートが出てきた。
クロワッサンは表面が香ばしくてさっくりしている。
「おいしい……!」
クレームブリュレはスプーンで表面の焦げたカラメルをパリッと崩し、口の中に入れた。
とろりとしたカスタードクリームとバニラビーンズの香りが口いっぱいに広がって、二個三個は軽く食べられそうな気がした。
「さてと、続きを描こう!」
スケッチブックを手にし、集中する。
目に浮かぶのはさっきのショーで見たリセの姿。
中性的なその顔立ち。
挑発するような目とオリエンタルな美しさ。
その姿を思い出せば、デザイン画を何枚でも飽きることなく、夢中になって描ける気がした。
夕暮れになって、店の外の灯りがともったことも気づかず、私は描き続けていた。
お酒を飲む人も増えてきて、騒がしくなってもその声すら耳に入らず、黙々と描いて――
「お嬢ちゃん。そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
――その声にハッと我に返った。
私はどれだけカフェにいたのだろう。
顔をあげると、隣のテーブルにサングラスをかけた女性が座っていた。
スタイルがいい女性で身長もある。
黒のテーラードジャケットに、体のラインを隠すシャツ、黒のパンプス。
オールブラックでも、まったく重たく感じさせない着こなし。
赤い口紅と首のストールは無造作に巻かれ、胸元にある大きめでシンプルなシルバーアクセサリーがワンポイントになっている。
ストールはパリのストールブランドのオリジナルデザインのもの。
私も一枚だけ持っているけど、ここまで似合ってない。
サングラスで目は見えなかったけど、すぐに誰なのかわかった。
だって、その人は――
「も、も、もしかしてっ! モデルのリセ!?」
「バレた?」
リセはサングラスを少しだけずらして、くすりと笑った。
声が低いけど、そんな女の人もいるから気にならなかった。
むしろ、かっこいい女性のイメージ。
完全に私は舞い上がってしまった。
「あ、あのっ! 今日のショー、すごく素敵でした! 『Lorelei』の専属モデルになったんですか?」
「たまたま『Lorelei』デザイナーの麻王悠世から、オファーがあっただけ。あの男の専属なんて冗談じゃない」
「そうですか? 『Lorelei』の専属になりたいモデルは多いとおもいますけど」
「こき使われて過労死だ。自分は『Lorelei』に限らず、ブランド専属モデルにならないよ」
リセの瞳は猫みたいな目だった。
きっと誰にも所有されない自由で気ままな人なのだろう。
不敵に笑う姿なんて、もうファッション雑誌の一ページを飾れてしまうくらい。
「そ、そうですか……」
恥ずかしいことに、私ときたら、緊張して声がうわずってしまった。
こんな近くで見れるとは思ってもみなかったし、口をきいてるなんて夢みたい……
アッシュブラックのふんわりしたショートボブ、前髪を分けたエアリーな髪型がよく似合ってる。
――リセなら、なんだって似合うんだけど!
ちらりと目に入った男物の腕時計はごつめだけど、かっこいい。
――もしかして、彼氏とおそろいなのかな?
彼氏もかなり素敵な人に決まってる。
「それ、デザイン画?」
「はい。まだ駆け出しですが、デザイナーなんです」
このデザイン画は、リセをイメージにしましたなんて、本人を目の前にして言うのは、自信もなく、図々しい気がして、言えなかった。
「えつと、これはリセみたいな中性的な女性をイメージしました」
そう言って、誤魔化しておいた。
「女性ね……」
リセが苦笑するのを見て、悪いことを言ってしまったうような気がした。
――もしかして、性別をあまり言われたくない人?
配慮が足りなかったかもしれない。
「君は表面だけじゃなく、中身をもっと見たほうがいいね」
「中身ですか!?」
「そう。悪い男に騙されないように」
リセにご教授いただいて、素直にこくこくとうなずいた。
今後の参考にしよう。
そうしよう。
いっそ、座右の銘とかにしてしまう?
「けれど、自分の中に明確なイメージがあるのはいいことだと思う。デザイン画をもっと見せてくれる?」
「私のデザイン画がをですか?」
一瞬、躊躇したけど、リセになら見せても――むしろ、見て欲しい。
――だって、これはリセを思って描いた服なんだから、意見を聞きたい。
そう思って、スケッチブックを渡した。
リセは興味深げに、一枚ずつ丁寧に見ていく。
「なるほど。男女兼用で着れる服か」
「はい。メンズものはシンプルなものが多いので、素材と形を工夫して男女兼用のデザインにできたらと考えてます」
「いいね」
――い、い、今、いいねって言われた!?
ふわぁっと舞い上がってしまった。
今なら余裕で、木にも登れそうな気がする。
「長く愛されるデザインだと思う」
「あ、ありがとうございますっ!」
「いつか、君がデザインした服を着てみたいな」
「本当ですか!?」
「ああ。楽しみにしてるよ」
楽しみにしてるって、私の服を!?
パーンッと心臓がぶち抜かれた。
とんでもない破壊力がある笑顔と言葉。
ひとつひとつに動悸がする。
――心臓がもたない!
女神様レベルの美しさである。
ひれ伏せと言われたら、きっと私はこの場にひれ伏していた。
「真面目な話はつまらない。せっかくのパリだし、楽しまなくちゃね。そうだ。よかったら、二人で飲まない?」
そんなリセの提案に、私が逆らえるわけがない。
「喜んで!」
当然、私は大喜びで答えたのだった。
私が泊まっているプチホテルの近くのカフェへ行く予定だったけど、そんな余裕はない。
――早く描かなきゃ、頭の中のリセが色あせてしまう!
そう思ったからだ。
適当に選んだカフェだけど、けっこう広く、一階フロアだけでなく、テラス席と二階席がある。
入口から続く壁には、鏡がずらりと並んで店内を映す。
先に進むと、テイクアウト用の焼き菓子とパン、ケーキ、何種類もの色鮮やかなマカロンがショーケースの中に入っているのが見えた。
紅茶やジャム、コンフィチュール類は窓側に並ぶ。
お土産用の箱を選べるらしく、蝶や薔薇、蔦と鳥などがデザインされた箱がある。
あまりに可愛くて、全部欲しくなってしまう。
けれど、今の私には目の前の可愛らしいものより、心を奪われているものがある。
モデルのリセ。
私の頭の中は、彼女が着る服のイメージで頭がいっぱいだった。
テラス席に座り、ホットチョコレートとクロワッサン、クレームブリュレを頼んだ。
待っている間に、バッグに入っていたスケッチブックを取り出す。
小さいスケッチブックと鉛筆、色鉛筆は持ち歩くようにしている。
――リセに着てもらうなら、どんな服がいい?
その姿を思い浮かべただけで、うっとりした。
アイドルのコンサート後の気分である。
「紡生さんに感謝しないと。こんなリフレッシュできるなんて思わなかったわ」
一枚、描き終わったところで、中身が見えないくらいの生クリームが大盛りのホットチョコレートが出てきた。
クロワッサンは表面が香ばしくてさっくりしている。
「おいしい……!」
クレームブリュレはスプーンで表面の焦げたカラメルをパリッと崩し、口の中に入れた。
とろりとしたカスタードクリームとバニラビーンズの香りが口いっぱいに広がって、二個三個は軽く食べられそうな気がした。
「さてと、続きを描こう!」
スケッチブックを手にし、集中する。
目に浮かぶのはさっきのショーで見たリセの姿。
中性的なその顔立ち。
挑発するような目とオリエンタルな美しさ。
その姿を思い出せば、デザイン画を何枚でも飽きることなく、夢中になって描ける気がした。
夕暮れになって、店の外の灯りがともったことも気づかず、私は描き続けていた。
お酒を飲む人も増えてきて、騒がしくなってもその声すら耳に入らず、黙々と描いて――
「お嬢ちゃん。そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
――その声にハッと我に返った。
私はどれだけカフェにいたのだろう。
顔をあげると、隣のテーブルにサングラスをかけた女性が座っていた。
スタイルがいい女性で身長もある。
黒のテーラードジャケットに、体のラインを隠すシャツ、黒のパンプス。
オールブラックでも、まったく重たく感じさせない着こなし。
赤い口紅と首のストールは無造作に巻かれ、胸元にある大きめでシンプルなシルバーアクセサリーがワンポイントになっている。
ストールはパリのストールブランドのオリジナルデザインのもの。
私も一枚だけ持っているけど、ここまで似合ってない。
サングラスで目は見えなかったけど、すぐに誰なのかわかった。
だって、その人は――
「も、も、もしかしてっ! モデルのリセ!?」
「バレた?」
リセはサングラスを少しだけずらして、くすりと笑った。
声が低いけど、そんな女の人もいるから気にならなかった。
むしろ、かっこいい女性のイメージ。
完全に私は舞い上がってしまった。
「あ、あのっ! 今日のショー、すごく素敵でした! 『Lorelei』の専属モデルになったんですか?」
「たまたま『Lorelei』デザイナーの麻王悠世から、オファーがあっただけ。あの男の専属なんて冗談じゃない」
「そうですか? 『Lorelei』の専属になりたいモデルは多いとおもいますけど」
「こき使われて過労死だ。自分は『Lorelei』に限らず、ブランド専属モデルにならないよ」
リセの瞳は猫みたいな目だった。
きっと誰にも所有されない自由で気ままな人なのだろう。
不敵に笑う姿なんて、もうファッション雑誌の一ページを飾れてしまうくらい。
「そ、そうですか……」
恥ずかしいことに、私ときたら、緊張して声がうわずってしまった。
こんな近くで見れるとは思ってもみなかったし、口をきいてるなんて夢みたい……
アッシュブラックのふんわりしたショートボブ、前髪を分けたエアリーな髪型がよく似合ってる。
――リセなら、なんだって似合うんだけど!
ちらりと目に入った男物の腕時計はごつめだけど、かっこいい。
――もしかして、彼氏とおそろいなのかな?
彼氏もかなり素敵な人に決まってる。
「それ、デザイン画?」
「はい。まだ駆け出しですが、デザイナーなんです」
このデザイン画は、リセをイメージにしましたなんて、本人を目の前にして言うのは、自信もなく、図々しい気がして、言えなかった。
「えつと、これはリセみたいな中性的な女性をイメージしました」
そう言って、誤魔化しておいた。
「女性ね……」
リセが苦笑するのを見て、悪いことを言ってしまったうような気がした。
――もしかして、性別をあまり言われたくない人?
配慮が足りなかったかもしれない。
「君は表面だけじゃなく、中身をもっと見たほうがいいね」
「中身ですか!?」
「そう。悪い男に騙されないように」
リセにご教授いただいて、素直にこくこくとうなずいた。
今後の参考にしよう。
そうしよう。
いっそ、座右の銘とかにしてしまう?
「けれど、自分の中に明確なイメージがあるのはいいことだと思う。デザイン画をもっと見せてくれる?」
「私のデザイン画がをですか?」
一瞬、躊躇したけど、リセになら見せても――むしろ、見て欲しい。
――だって、これはリセを思って描いた服なんだから、意見を聞きたい。
そう思って、スケッチブックを渡した。
リセは興味深げに、一枚ずつ丁寧に見ていく。
「なるほど。男女兼用で着れる服か」
「はい。メンズものはシンプルなものが多いので、素材と形を工夫して男女兼用のデザインにできたらと考えてます」
「いいね」
――い、い、今、いいねって言われた!?
ふわぁっと舞い上がってしまった。
今なら余裕で、木にも登れそうな気がする。
「長く愛されるデザインだと思う」
「あ、ありがとうございますっ!」
「いつか、君がデザインした服を着てみたいな」
「本当ですか!?」
「ああ。楽しみにしてるよ」
楽しみにしてるって、私の服を!?
パーンッと心臓がぶち抜かれた。
とんでもない破壊力がある笑顔と言葉。
ひとつひとつに動悸がする。
――心臓がもたない!
女神様レベルの美しさである。
ひれ伏せと言われたら、きっと私はこの場にひれ伏していた。
「真面目な話はつまらない。せっかくのパリだし、楽しまなくちゃね。そうだ。よかったら、二人で飲まない?」
そんなリセの提案に、私が逆らえるわけがない。
「喜んで!」
当然、私は大喜びで答えたのだった。
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