私はお世話係じゃありません!【時任シリーズ②】

椿蛍

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23 閉鎖【姫凪 視点】

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「おはようございまーす」
諏訪部すわべ社長は誕生日プレゼントまで買ってくれた。
本当に素敵な人よね。
新品のバッグを手に重役フロアに入ると、副社長の机の周りに重役の方達が集まっていた。
なんだろうと思っていると、机の下で毛布をかぶった副社長が桜帆さほさんを抱き枕のようにして眠る姿があった。
今まで見たことないくらい幸せそうな顔で副社長は眠っている。
おもわず、手からバッグが滑り落ちてゴトリと重い音ををたてて響いた。
「う…」
桜帆さんがその音に反応し、目を開けると、ぎょっとして起き上がった。
「えっ!?」
「桜帆ちゃん、おはよー」
にやにやと人の悪い笑みを浮かべながら、重役の方達はその反応を楽しんでいた。
「すっ……すみません……!夏向かなたっ!起きてっっ!!」
桜帆さんが泣きそうな声で副社長を揺さぶり起こすと、腕からすり抜け、全員に平謝りしていた。
「こ、こんな、会社でなんてことを!うっかり眠ってしまって」
「いや、いいよ、いいよ!昨日、副社長はほとんど徹夜だっただろうからさ」
真辺まなべ専務がそう言ったけれど、桜帆さんすっかり恐縮してしまっていた。
「ねむいー」
「夏向っっ!眠いとかじゃなくてっ!一緒に謝って!あっ!しっ、仕事に行かないと。本当にすみませんでした」
桜帆さんは顔を赤くして何度もお詫びしていた。
私の横を通り過ぎる時も軽く会釈していたけれど――――すれ違う瞬間、桜帆さんの首すじには赤い痕があった。
誰がつけたかなんて、聞かなくてもわかった。
どこまで私を傷つけるんだろう。
この人は―――
だったら、私にだって考えがあるんだから。
そう思いながら、秘書室に行くと、秘書室の前には備中びちゅう本部長が待っていた。
秘書室で働いている社員全員が集められ、うつむき青い顔をしていた。
「遅い」
「す、すみません」
「今日から秘書室は閉鎖し、全員、新しい辞令が出るまでは自宅待機とする」
「えっ…じ、自宅待機ですか」
声が震えた。
「昨日、秘書室のパソコンで開いたメールからウィルスが見つかったらしいのよ」
「誰がそんな迂闊うかつな真似を?」
先輩達がひそひそと話していた。
備中本部長は誰がそのメールを開いたか、わかっているようだった。
「今は言えない。悪意あってやったことなら、警察や訴訟も考えている」
麻友子まゆこを見ると、ガタガタと震えていた。
私は知らないけど、佐藤君になにか頼まれていたのかもしれない。
「今日はとりあえず、帰宅させて頂きます。申し訳ありませんでした」
先輩達が深々と備中さんに頭を下げた。
それに続き、私も頭を下げて、そっと備中本部長を盗み見た。
怖い顔で私と麻友子を見ている。
私も?
私はメールを開いてないわ。
それに諏訪部さんと会ったのは昨日だけなのに。
どうして、私もにらまれなきゃいけないの。
麻友子が悪いんじゃない?
いつも一緒にいるから、共犯だと思われたのかもしれない。
皆、すぐに帰ったけれど、私は残って本部長に駆け寄った。
「あのっ…私、犯人が誰なのかわかってます」
冷ややかな目で備中さんは私を見る。
「犯人は確かに問題だ。だが、須山すやまさん、君のメールにも問題がある」
「なんでしょう」
「どうして、彼女をそそのかすようなことを?」
「唆すだなんて!」
「うまく彼女を動かして自分の思い通りにするつもりだったんだろうが。そうはいかない」
「そんなつもりありません!」
「どうだろう。それじゃあ、なぜ、諏訪部で働く佐藤の連絡先を渡した?君しか名刺をもらっておらず、その連絡先を社内メールで彼女に送り、佐藤という男と連絡をとらせた。そして、君は諏訪部社長を狙った。社内メールの履歴を時系列で追うと、君が佐藤と彼女が付き合うように仕向けている。違うかな?」
「……そんな」
「秘書室で気軽にお喋りができなくなったから、社内メールでやり取りをしていたんだろうが。それが仇になったね。消してもメールは復元できるんだ。知っておくといい」
知らなかった……。
私と麻友子はお喋りがばれたくなくて、一日の最後には削除していた。
それを見られた―――全部。
顔が赤くなるのがわかった。
「今日、社長が出張から帰ってくる。それから、どうするか決める。おかしなことをせず、自宅にいるんだな」
さっと私の横を通り過ぎって行った。
どうして―――ひどい―――
そう言いたかったけれど、お喋りの内容をすべて見られてしまったことで、その言葉達を吐き出すことはできなかったのだった。
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