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13 パーティー
しおりを挟む気がづくとソファーで眠ってしまっていたようだった。
間水さんはもういなかった。
まだ眠くて、ぼんやりしていると、起きていたらしい惟月さんが現れて熱いコーヒーを手渡してくれた。
「あ…ありがとうございます」
「家まで送る。恭士さんに殴られるかもな」
「……気を付けてください」
否定はできなかった。
昨日、電話した時も父は事情を清永のおじ様からも聞いていたから、了承してくれたけど、途中で電話を奪った恭士お兄様は今すぐ帰れの一点張りだった。
コーヒーを飲み終わると、会社を出て、高辻の家に送ってもらった。
そのまま、惟月さんは帰るのかと思ったけれど、そのまま、車を降りた。
「惟月さん?」
「高辻のご両親から、寄るように言われている」
「え?」
一緒に家に入ると、玄関に怖い顔をした恭士お兄様が待ち構えてた。
「惟月、お前っ…」
「恭士坊ちゃま。旦那様が惟月様とお話しになられるんですから、こんなところで立ち話はいけませんよ」
静代さんに叱られると、渋々退いた。
リビングに入るとお父様とお母様が並んで座っていた。
怒ってはいないようだったけれど、真面目な顔をしている。
「惟月君。どうして呼ばれたかわかるね」
「もちろんです。高辻の力をお借りし、助けて頂きありがとうございました。損失はわずかで済みましたし、信頼も取り戻せました」
「そんな大したことはしていませんけど……」
「いや、高辻の名前を出すということはそういうことだ」
惟月さんは真剣な顔で言った。
「仕事のことは別にいい」
お父様は気にしていないようだった。
「咲妃とのことだ。親として、ここできちんとけじめをつけ、どうするのか聞きたいと思っていた」
「もちろん。咲妃さんとは結婚させて頂きたいと思っています」
結婚―――!?
惟月さんを見ると、頷いた。
「そうか。それでは婚約披露パーティーを開こう」
お父様は大喜びだった。
まさか、こんなことになるとは思わず、呆然としていると惟月さんが言った。
「どうして驚いているんだ。結婚するつもりだったんだろう?」
「そうですけど……。突然すぎて」
惟月さんはコンビニの時と同じように笑っていた。
だから―――私との結婚は嫌ではないとわかり、嬉しかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
婚約披露パーティーは盛大に行われた。
ホテルのホールを貸し切り、大勢の人を招待し、仕事関係者や友人、親戚、一通り挨拶に回るだけでも大変だった。
学生時代の友人達は会場に飾る花を習っていた生け花の先生と一緒に飾り付けてくれたり、ピアノやヴァイオリンや琴の演奏をして祝ってくれた。
「咲妃さん、おめでとう」
「ありがとう。とても嬉しいわ」
なかなか抜け出せず、困っていると恭士お兄様がやってきて、友人達に微笑んだ。
「今日は咲妃の婚約祝いにきてくれて、ありがとう」
「恭士様!」
「お久しぶりです!」
恭士お兄様がくると、友人達の興味は恭士お兄様に移ってくれた。
やっと私は解放されて、ホッと息をついていると隣の恭士お兄様が耳うちした。
「咲妃。控え室に飲み物と軽食を用意してもらってある。少し休んできたらどうだ?」
「ええ。ありがとう。恭士お兄様」
会場から、そっと抜け出すと、近くの控え室に向かった。
惟月さんも休んでいるのか、部屋の灯りがついている。
「惟月が結婚するとは思わなかった」
「うるさい」
間水さんがからかうように惟月さんに言っていた。
「中井はいいのか?」
その名前を聞くと部屋に入れず、固まってしまった。
浮かれていたけれど、惟月さんの口から別れたとは聞いていない。
「ああ。海外支店に行くとあいつが決めた時にきっぱり別れた。もう終わった話だ」
「そうか。それなら、言わないほうがいいか」
間水さんは困った顔をして、うつむいた。
「どうかしたのか?」
「この間、海外支店で大きな失敗しただろう?高辻のおかげでかなりの契約先を取り戻せたから、損失は少なくて済んだが。それが原因で中井はひどく落ち込んでいるみたいだ。少し話をきいてやってほしいんだ」
はあっと惟月さんはため息をついた。
「落ち込んだからと言って、どうなるものじゃない」
「そうなんだが。だいぶ参っているんだ。頼むよ」
中井さんが気落ちされているのはわかるけれど、惟月さんには連絡して欲しくなかった。
断って欲しい―――祈るような気持ちでいた。
けれど、惟月さんは間水さんに頼み込まれて、結局、引き受けてしまった。
「わかった」
「そうか!良かった!」
間水さんは喜んでいたけど、私は喜べず、その場から逃げるように立ち去った。
逃げすに連絡しないでと言えばいいだけだったのに―――
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