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第二章
4 嫉妬と独占欲
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大学が終わり、宮ノ入本社に来た。
沖重グループよりずっと大きなビルは中もお洒落で、働いている人も高そうなスーツを着ている人が多い。
仕事も出来そうだった。
こういうの見ると、やっぱり雅冬さんって雲の上の人だったんだなぁって思い知らされる。
「あら、副社長夫人じゃないの」
綾香さんが外からの帰りらしく、数人の男の人達を従えて現れた。
美人で自信たっぷりなせいか、従者達を従えた女王様のようだった。
「こんにちは」
にこりと微笑んで、友好的に挨拶をした。
それなのに―――
「その服装なんなの?」
「えっ?これは大学の帰りで」
白のシャツに紺のジャケット、イエローのスカートに紺のパンプスで教科書の入った布カバンを持っていた。
「それは知っているわ。聖子おばさまがおっしゃっていたから。副社長夫人にしたら、安っぽい服だと思って」
「そんな高価な服を大学に着ていけませんから。学生ですし」
「あら、私は着ていたわよ」
そうでしょうね、と心の中で呟いた。
そう言った綾香さんはシャネルのスーツを着ていた。
「雅冬に買ってもらえないの?」
「そんな理由で着ていないわけじゃありません。私にそんな贅沢は必要ないですから」
「あなたがよくても、雅冬が恥ずかしい思いをするのよ?わかってるの?」
「恥ずかしいなんて、一度も言われたことないです」
「雅冬は優しいから、言わないだけよ。本当にあなたのどこがよかったのか、私にはわからないわ」
くすっと笑って、顔を近づけ、耳元で囁いた。
「雅冬はベッドでも優しいわよね」
そう言うと、顔を離し、去っていった。
体が強ばり、足が動かず、ただぼんやり去っていく綾香さんの後ろ姿を眺めていた。
付き合っていたってことはそういうことだと思ってたけど。
なぜか、副社長室に行くことができなかったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『菜々子、具合が悪いってどうしたんだ?』
「すみません。今日は帰って寝ます」
宮ノ入本社のビルから出て、電話を掛けた。
『大丈夫なのか?』
「はい、眠れば治りますから。仕事頑張ってください」
『ああ。早めに帰るからな』
はあ……。
なんで、こんなこと。
自分の器の小ささとお子様ぶりに嫌になる。
久しぶりにベイエリアのベンチのある場所でぼんやりと海を眺めていた。
雅冬さんと出会った場所だった。
ペットボトルの暖かいミルクティーを飲みながら海鳥を眺めていた。
夜と違って、景色がよく見渡せた。
あの頃と違うのは薬指に銀色の指輪があるくらい。
「私だって……まさか、結婚するなんて思いもしなかったからな……」
涙がこぼれた。
「雅冬さんが普通の人ならよかったのに」
「十分、普通の人だ。馬鹿」
声に振り返ると、雅冬さんがいた。
「ど、どうしてここにいるんですかっ!」
「電話の様子がおかしかったからだ」
「よくわかりましたね……」
「勘はいい方だ」
「知ってます」
だから、嘘はつけない。
「何を泣いているんだよ」
ハッとして、涙をぬぐった。
「あいつに何言われた?」
「言いたくないです」
「言えよ!」
そんなの言えるわけない。
雅冬さんに手を伸ばされて、思わず、体を引いた。
「……だいたいわかった」
「なにがですか」
素早く腕をつかみ、逃げれないよう抱え込まれると、強く抱きしめられた。
「このまま二人でどこか行くか」
低い声にハッとして声をあげた。
怒っている―――優しい?そんなわけない。
「い、いいえ!大丈夫です!それは大丈夫です!!」
焦って答えると、雅冬さんはまだ苛立った声のまま、言った。
「ふーん。でも、これでわかっただろ?」
「なにがですか?」
「お前が元彼と会ってた時の俺の気持ちだよ」
「まだ根に持っていたんですか!?」
どれだけ、心狭いの!?
「言っておくけど、俺はお前より独占欲は強いと思うぞ。俺から簡単に逃げれると思うなよ」
きっぱりと言い切ったのだった。
そうだった。
「わ、わかってます」
「そうか?わかってないから、今、俺の手を避けたんじゃないか」
「気のせい!気のせいですからっ」
「そうか。じゃあ、行くか」
車のキーを見せて、雅冬さんは微笑んだ。
「ど、どこに?」
「夕飯、食べに行く約束しただろ」
「そうでした」
絶対、わざとだ!
そう思ったけど、これ以上、怒らせると面倒なことになりそうで、何も言えなかった。
沖重グループよりずっと大きなビルは中もお洒落で、働いている人も高そうなスーツを着ている人が多い。
仕事も出来そうだった。
こういうの見ると、やっぱり雅冬さんって雲の上の人だったんだなぁって思い知らされる。
「あら、副社長夫人じゃないの」
綾香さんが外からの帰りらしく、数人の男の人達を従えて現れた。
美人で自信たっぷりなせいか、従者達を従えた女王様のようだった。
「こんにちは」
にこりと微笑んで、友好的に挨拶をした。
それなのに―――
「その服装なんなの?」
「えっ?これは大学の帰りで」
白のシャツに紺のジャケット、イエローのスカートに紺のパンプスで教科書の入った布カバンを持っていた。
「それは知っているわ。聖子おばさまがおっしゃっていたから。副社長夫人にしたら、安っぽい服だと思って」
「そんな高価な服を大学に着ていけませんから。学生ですし」
「あら、私は着ていたわよ」
そうでしょうね、と心の中で呟いた。
そう言った綾香さんはシャネルのスーツを着ていた。
「雅冬に買ってもらえないの?」
「そんな理由で着ていないわけじゃありません。私にそんな贅沢は必要ないですから」
「あなたがよくても、雅冬が恥ずかしい思いをするのよ?わかってるの?」
「恥ずかしいなんて、一度も言われたことないです」
「雅冬は優しいから、言わないだけよ。本当にあなたのどこがよかったのか、私にはわからないわ」
くすっと笑って、顔を近づけ、耳元で囁いた。
「雅冬はベッドでも優しいわよね」
そう言うと、顔を離し、去っていった。
体が強ばり、足が動かず、ただぼんやり去っていく綾香さんの後ろ姿を眺めていた。
付き合っていたってことはそういうことだと思ってたけど。
なぜか、副社長室に行くことができなかったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『菜々子、具合が悪いってどうしたんだ?』
「すみません。今日は帰って寝ます」
宮ノ入本社のビルから出て、電話を掛けた。
『大丈夫なのか?』
「はい、眠れば治りますから。仕事頑張ってください」
『ああ。早めに帰るからな』
はあ……。
なんで、こんなこと。
自分の器の小ささとお子様ぶりに嫌になる。
久しぶりにベイエリアのベンチのある場所でぼんやりと海を眺めていた。
雅冬さんと出会った場所だった。
ペットボトルの暖かいミルクティーを飲みながら海鳥を眺めていた。
夜と違って、景色がよく見渡せた。
あの頃と違うのは薬指に銀色の指輪があるくらい。
「私だって……まさか、結婚するなんて思いもしなかったからな……」
涙がこぼれた。
「雅冬さんが普通の人ならよかったのに」
「十分、普通の人だ。馬鹿」
声に振り返ると、雅冬さんがいた。
「ど、どうしてここにいるんですかっ!」
「電話の様子がおかしかったからだ」
「よくわかりましたね……」
「勘はいい方だ」
「知ってます」
だから、嘘はつけない。
「何を泣いているんだよ」
ハッとして、涙をぬぐった。
「あいつに何言われた?」
「言いたくないです」
「言えよ!」
そんなの言えるわけない。
雅冬さんに手を伸ばされて、思わず、体を引いた。
「……だいたいわかった」
「なにがですか」
素早く腕をつかみ、逃げれないよう抱え込まれると、強く抱きしめられた。
「このまま二人でどこか行くか」
低い声にハッとして声をあげた。
怒っている―――優しい?そんなわけない。
「い、いいえ!大丈夫です!それは大丈夫です!!」
焦って答えると、雅冬さんはまだ苛立った声のまま、言った。
「ふーん。でも、これでわかっただろ?」
「なにがですか?」
「お前が元彼と会ってた時の俺の気持ちだよ」
「まだ根に持っていたんですか!?」
どれだけ、心狭いの!?
「言っておくけど、俺はお前より独占欲は強いと思うぞ。俺から簡単に逃げれると思うなよ」
きっぱりと言い切ったのだった。
そうだった。
「わ、わかってます」
「そうか?わかってないから、今、俺の手を避けたんじゃないか」
「気のせい!気のせいですからっ」
「そうか。じゃあ、行くか」
車のキーを見せて、雅冬さんは微笑んだ。
「ど、どこに?」
「夕飯、食べに行く約束しただろ」
「そうでした」
絶対、わざとだ!
そう思ったけど、これ以上、怒らせると面倒なことになりそうで、何も言えなかった。
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