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12 あなたにとって、この結婚の意味は? (3)
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「部屋に持ってきてもらえばいいか」
「部屋に?」
「俺が宿泊している部屋。一応、断っておくけど、大学を卒業するまでは君に手は出さない。井垣会長と約束している」
「はい」
だから、安心して部屋においでということだろう。
私を抱き締めていても壱都さんは平気みたいだし、きっとこれくらいなんとも思ってない。
テディベアを抱き締めたようなものだろう。
顔色ひとつ変えないんだから、私だけが意識するのも馬鹿馬鹿しい。
壱都さんはエレベーターのボタンを押し、上の階に向かう。
着いた部屋はリビングと寝室にわかれていて、天井にはシャンデリア、暖炉と燭台、テーブルには薔薇の花が飾られている。
中世の貴族を思わせるような部屋だった。
ルームサービスを壱都さんは流暢な英語で話し、頼んでいるのをみながら窓の外を眺めると隣の公園が見え、眺めもいい。
こんなすごい部屋にいつも泊まれるなんて、やっぱりお坊ちゃんなんだと思っていると、頼んだルームサービスが運ばれてきた。
「わぁ、美味しそう」
ティースタンドにミニケーキとサンドイッチ、スコーンにマカロン。
白地に青い花模様の皿とティーポットがかわいい。
「喜んでもらえてなにより」
ピンクのマカロンを手に取り、口にすると甘くてほろっと口の中で崩れた。
甘いものに飽きたら、サンドイッチを口にする。
紅茶も香りがよくて美味しかった。
「壱都さんは食べないんですか?」
「俺は紅茶だけでいい」
壱都さんは疲れているのかもしれない。
少し眠そうに見えた。
さっきまでは部屋の外だから、そんな気の緩んだところは一切見せてなかったけど、今は違っていた。
「朱加里。俺以外の男に誘われても部屋に入るなよ」
「……わかってます」
私だって、ちゃんと信用できる人なのかかどうか少しは判断できる―――たぶん。
壱都さんは私とは恋人というより、保護者のような目線なのかもしれない。
お祖父さんに頼まれてのことだろうし、きっと私のことはその程度。
「ならいい」
壱都さんは安心したのか、ソファーに深く腰かけると、目を閉じた。
やっぱり仕事で疲れているようだった。
よく考えると、メールでは今、フランスにいるって言っていたのにロンドンにいることがおかしい。
もしかして、私に会いに来てくれたの?
眠った顔は無防備で可愛らしく見えた。
毛布を持ってきて、そっとその体にかけた。
「私に会いに来てくれてありがとうございます」
そうお礼を言って―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
眩しい朝の光に目を開けた。
なんだか、暖かくて安心できて、甘い香りがする。
まだはっきりしない頭の中でそんなことを思っていた。
ふかふかのベッドは暖色系で床の絨毯と同じ色合いをしたカバーで寝室も豪華なのねって―――寝室にいる?
それも私の体を抱き抱えるようにして眠っているのは壱都さんだった。
ど、どういうこと―――!?
「ああ……起きたのか。おはよう」
「あ、あ、あのっ……この状況はいったい」
眠そうに何度か目を閉じ、うとうととしている壱都さんは私に言った。
「昨日、目が覚めたら君が眠っていたから、抱き上げてベッドに運んだ。起きる気配もないし、夜も遅かったから、このまま泊まらせたほうがいいと判断した。他に質問は?」
「ありません」
恥ずかしい。
昨日、壱都さんが起きるのを待ってから、自分の宿泊先のホテルに戻るつもりが、そのまま眠ってしまったようだった。
「すみません……」
「いいよ、別に」
壱都さんは私の前髪をなで、掻き分けるとおでこにキスををした。
「……っ!な、なにしてっ!」
転がり落ちそうになった体を支えて壱都さんは笑う。
ほ、保護者目線はどこに行ったの?
「これくらいなら手を出した範囲にはならないだろ?」
「なります!」
「厳しいな。ゆっくりしていたいけど、今日は俺もフランスに戻らないといけないし、朱加里は日本に帰るんだろ?」
「はい」
「空港まで送っていく」
私は声がでなくて、首を縦に振ってうなずいた。
なんとなく、別れがたいなんて言ったら迷惑かもしれないと思っていた。
ベッドから出て、リビングに行くとそこには箱と紙袋が置かれていた。
「これは?」
「プレゼントだ。スーツとワンピースとバッグ。なにかあった時、きちんとした服を持っていたほうが困らないだろう?」
ホテルのドレスコードを私が気にしていたのを壱都さんは察していたのかもしれない。
服が何着も入っていた。
「こんな贅沢はできません」
「贅沢じゃない。君は少し贅沢に慣れた方がいい。いいものを見て、いいものを着て、それにふさわしい立ち振る舞いを覚える。この先、必要となることだ」
「必要に?」
「俺と結婚するんだからな」
冗談抜きで本当にですか?
そう私は尋ねたかった。
でも、その言葉はでなかった。
今となっては答えを聞くのが怖い。
私はこの人を好きになってしまった。
一緒に過ごす時間が心地よくて、少なくとも嫌いになんてなれなかった。
好きになってはいけないのに―――お祖父さんが亡くなった後、どうなるかわからない私達の婚約。
お互いの目を見つめあった。
それは静かな時間だった。
なにも言わず、どちらからともなく、唇を重ねた。
お互いの熱が唇から伝わるのだと、私が初めて知ったキスだった。
「部屋に?」
「俺が宿泊している部屋。一応、断っておくけど、大学を卒業するまでは君に手は出さない。井垣会長と約束している」
「はい」
だから、安心して部屋においでということだろう。
私を抱き締めていても壱都さんは平気みたいだし、きっとこれくらいなんとも思ってない。
テディベアを抱き締めたようなものだろう。
顔色ひとつ変えないんだから、私だけが意識するのも馬鹿馬鹿しい。
壱都さんはエレベーターのボタンを押し、上の階に向かう。
着いた部屋はリビングと寝室にわかれていて、天井にはシャンデリア、暖炉と燭台、テーブルには薔薇の花が飾られている。
中世の貴族を思わせるような部屋だった。
ルームサービスを壱都さんは流暢な英語で話し、頼んでいるのをみながら窓の外を眺めると隣の公園が見え、眺めもいい。
こんなすごい部屋にいつも泊まれるなんて、やっぱりお坊ちゃんなんだと思っていると、頼んだルームサービスが運ばれてきた。
「わぁ、美味しそう」
ティースタンドにミニケーキとサンドイッチ、スコーンにマカロン。
白地に青い花模様の皿とティーポットがかわいい。
「喜んでもらえてなにより」
ピンクのマカロンを手に取り、口にすると甘くてほろっと口の中で崩れた。
甘いものに飽きたら、サンドイッチを口にする。
紅茶も香りがよくて美味しかった。
「壱都さんは食べないんですか?」
「俺は紅茶だけでいい」
壱都さんは疲れているのかもしれない。
少し眠そうに見えた。
さっきまでは部屋の外だから、そんな気の緩んだところは一切見せてなかったけど、今は違っていた。
「朱加里。俺以外の男に誘われても部屋に入るなよ」
「……わかってます」
私だって、ちゃんと信用できる人なのかかどうか少しは判断できる―――たぶん。
壱都さんは私とは恋人というより、保護者のような目線なのかもしれない。
お祖父さんに頼まれてのことだろうし、きっと私のことはその程度。
「ならいい」
壱都さんは安心したのか、ソファーに深く腰かけると、目を閉じた。
やっぱり仕事で疲れているようだった。
よく考えると、メールでは今、フランスにいるって言っていたのにロンドンにいることがおかしい。
もしかして、私に会いに来てくれたの?
眠った顔は無防備で可愛らしく見えた。
毛布を持ってきて、そっとその体にかけた。
「私に会いに来てくれてありがとうございます」
そうお礼を言って―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
眩しい朝の光に目を開けた。
なんだか、暖かくて安心できて、甘い香りがする。
まだはっきりしない頭の中でそんなことを思っていた。
ふかふかのベッドは暖色系で床の絨毯と同じ色合いをしたカバーで寝室も豪華なのねって―――寝室にいる?
それも私の体を抱き抱えるようにして眠っているのは壱都さんだった。
ど、どういうこと―――!?
「ああ……起きたのか。おはよう」
「あ、あ、あのっ……この状況はいったい」
眠そうに何度か目を閉じ、うとうととしている壱都さんは私に言った。
「昨日、目が覚めたら君が眠っていたから、抱き上げてベッドに運んだ。起きる気配もないし、夜も遅かったから、このまま泊まらせたほうがいいと判断した。他に質問は?」
「ありません」
恥ずかしい。
昨日、壱都さんが起きるのを待ってから、自分の宿泊先のホテルに戻るつもりが、そのまま眠ってしまったようだった。
「すみません……」
「いいよ、別に」
壱都さんは私の前髪をなで、掻き分けるとおでこにキスををした。
「……っ!な、なにしてっ!」
転がり落ちそうになった体を支えて壱都さんは笑う。
ほ、保護者目線はどこに行ったの?
「これくらいなら手を出した範囲にはならないだろ?」
「なります!」
「厳しいな。ゆっくりしていたいけど、今日は俺もフランスに戻らないといけないし、朱加里は日本に帰るんだろ?」
「はい」
「空港まで送っていく」
私は声がでなくて、首を縦に振ってうなずいた。
なんとなく、別れがたいなんて言ったら迷惑かもしれないと思っていた。
ベッドから出て、リビングに行くとそこには箱と紙袋が置かれていた。
「これは?」
「プレゼントだ。スーツとワンピースとバッグ。なにかあった時、きちんとした服を持っていたほうが困らないだろう?」
ホテルのドレスコードを私が気にしていたのを壱都さんは察していたのかもしれない。
服が何着も入っていた。
「こんな贅沢はできません」
「贅沢じゃない。君は少し贅沢に慣れた方がいい。いいものを見て、いいものを着て、それにふさわしい立ち振る舞いを覚える。この先、必要となることだ」
「必要に?」
「俺と結婚するんだからな」
冗談抜きで本当にですか?
そう私は尋ねたかった。
でも、その言葉はでなかった。
今となっては答えを聞くのが怖い。
私はこの人を好きになってしまった。
一緒に過ごす時間が心地よくて、少なくとも嫌いになんてなれなかった。
好きになってはいけないのに―――お祖父さんが亡くなった後、どうなるかわからない私達の婚約。
お互いの目を見つめあった。
それは静かな時間だった。
なにも言わず、どちらからともなく、唇を重ねた。
お互いの熱が唇から伝わるのだと、私が初めて知ったキスだった。
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