獣人は花嫁を選ぶ~百獣の王と少女の恋~【獣人シリーズ①】

椿蛍

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第一章

2 マリアステラ学園へ!

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 高也たかやと離ればなれになってから、七年が経った。
 その間、手紙はくるけれど高也とは一度も会えないまま。
 私の写真が欲しいと言われれば、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に写真を選んで送った。
 小学校の遠足や運動会、卒業式と中学校の入学式も。
 高也が私のそばにいられない時間を埋めるみたいに手紙を送り続けていた。
 私は絶世の美女―――には当然ならず、相変わらずのショートボブと思ったように伸びない身長。
 だから、写真は一枚でいいんじゃないかなって思っていたけど、おじいちゃんとおばあちゃんは『高也君が欲しいと言うのなら、たくさん送ってあげなさい』と言われて、調子に乗って何枚も送った。
 けれど、高也からは写真を一枚も送ってきてはくれなかった。
 きっと超イケメンになっているはずなのに。
 それこそ、額に入れて飾れるくらいにはイケメンなんだろうなぁ。
 王子様みたいだったもんね……
 ゾウみたいに重たいため息もでるってもんよ。

佳穂かほ! あんた、マリアステラ学園に入学するって本当!?」

 茶の間でテレビを観ながら、おばあちゃんが隠してあったせんべいの缶を抱えこんでいたせいで慌ててしまった。
『おすすめのデートスポットは?』なんて特集だったからつい真剣に……
 彼氏もいないのに無駄に好奇心だけが前のめりだよ!

「う、うん。そうなんだー……」

 わたわたとテレビのリモコンでチャネルを変えた。
 茶の間に入ってきたのは美人でしっかり者の親友、希和きわだった。
 気配はあったけど、こっちが返事をする前に入ってくるとは油断ならない。
 いかにも妄想全開の特集を見ていたなんてバレたら、恥ずかしくて悶え死ぬわ!

「佳穂。なんだか挙動不審だけど、どうかした?」

「えっ……!? ぜんっぜん、フツーだよ、フツー!」

 慌てたせいでガランガランと煎餅の蓋が希和の足元に大きな音をたてて落ちた。

「そのせんべい、盗み食いしてたの?」

「うっ! どうしてわかったの!? このせんべいがおばあちゃんの隠してあったせんべいだってこと!」

「それは知らないわよ、なに自白してるのよ」

「自白させられたぁああ!」

「させてないわよ。勝手に話したんでしょ」

 この落ち着き―――さすが希和。
 しっかり者で眼鏡がよく似合う学級委員長タイプの希和。
 同じ中学校の同級生で親友。
 いつもお世話になっている。

「いいから、私の質問に答えなさいよ。マリアステラ学園に行くことになったの?」

 仁王像よりも怖い顔で希和は凄んできた。
 う、うわぁー……この迫力、尋問かな……?

「う、うん。入学するつもり。ほら、見て! 高也がね、入学手続きの書類と制服と鞄、それから手紙を送ってきてくれたんだよ!」

 じゃーんと制服を希和に見せた。
 白いジャケットにプリーツスカート、ジャケットの胸元には校章の星のマークが入っている。
 黒のシャツと赤いリボン、黒のタイツかソックス着用。
 中学の制服に比べて、おとなっぽくておしゃれだった。
 生地もいいし、かわいーなー。
 しかも、学費が政府負担。
 至れり尽くせりとはこのことだよね!

「でも、どうして学費タダなのかなあ?」

「当り前でしょ。政府も希少で優秀な獣人を絶滅させるわけにはいかないのよ。そのためなら、なんでもやるわよ。獣人は獣人で、獣人として生まれるのは男しかいないから、子孫を残せない。つまり、人間の女性を選ぶしかないのよ。学校くらいタダにして、勧誘するわよ」

「希和は物知りだねぇ」

 パリンッとせんべいをかじった。
 ゴマが香ばしくて美味しい。

「あんたが知らなさすぎるの!」

 希和がダダンッとちゃぶ台を叩いた。
 せんべいが入った銀色の缶が揺れ、湯呑みのお茶がちゃぷちゃぷと揺れている。
 慌てて湯呑みのお茶を一気飲みした。

「ふう……危なかった。あ、希和もお茶飲む? 出涸らしだけど」

 希和が頬を引きつらせ、その顔の形相が仁王から魔王に変化した。
 つまり、めちゃめちゃ怖い。

「佳穂! のんきすぎるわよ! マリアステラ学園はね、獣人の花嫁候補達が集められる場所なのよ! しかも、誰でもいいわけじゃないの。人間の女性で適合者じゃないとね」

「やだなー。私だってそれくらい知ってるよ。生まれた時に採血されて、適合者かどうか、調べられるんでしょ? 適合者の家には毎月、政府からお金が入るんだよね」

「そう。あんたもあたしも適合者。だけど、あたしには古柴こしばがいるから、学園には入らないつもりだったのよ」

 古柴と言うのは希和の彼氏で柴犬の獣人なのだ。
『おすすめのデートスポットは?』に行けるよ……希和はさ……
 そんな希和の彼氏の古柴君は背が高くて、がっちりしていて、茶色の短髪をしていてスポーツマンってかんじで外見はとっても爽やか。
 ただ、そう……なんというか―――カッコいいけど、希和のことを大好きすぎてちょっとおかしい。

「佳穂のことが心配だから、私も一緒にマリアステラ学園に入学するわ」

 希和は眼鏡を指であげた。

「えー!いいの!?」

「まあ、学費がタダだしね」

 そこかっ!
 でも、心強い。
 私一人で学園に乗り込むつもりだったから、希和の申し出はかなり嬉しかった。

「希和。ありがとう。親友っ!」

「いいのよ。あんたの世話ができるのはあたしくらいだからね」

「よーし! 希和も一緒に入学することになったし、頑張っていこー!」

「なにを頑張るの?」

「さあ……」

 希和の冷静なツッコミに首をかしげた。
 ま、まあ、いいのよ
 とにかくっ。
 私は高校生になるんだから!

「楽しみだねぇ。学校生活っ」

「あたしは不安しかないわよ」

「私にですか」

「あんた以外になにがあるっていうのよ?」

「ないねぇー」

 希和がガックリとちゃぶ台に顔を伏せた。
 いつもすみません。
 お世話になってます。

「高也の手紙には私と会うのが楽しみですって書いてあるけど、今の私を見たら、がっかりしないかな」

 切り揃えた髪を引っ張ってみた。
 耳の下のボブ。
 おじいちゃんやおばあちゃんには『おかっぱ』って言われるけど、あくまでショートボブ。
 いつもの美容院で『大人っぽくしてくださいっ!』って言ったのに少しだけ髪を茶色くされて終わる私の髪よ……
 でも、少しは大人っぽくなったよね?
 指でくるくると髪を巻いて、アピールしたのに希和から帰ってきた言葉は―――

「は? あんたは小学生の頃から、たいして変わってないから、安心していいわよ」

 今度は私がちゃぶ台に顔を伏せたのだった。
 お願い、親友よ……嘘でもいいから『成長して美人になったからわからないかもね』って言ってよー!
 そう思いながらも一緒に来てくれる希和が嬉しかった。
 不安な気持ちが少しだけやわらいだのだった。
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