獣人は花嫁を選ぶ~百獣の王と少女の恋~【獣人シリーズ①】

椿蛍

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第一章

32 波乱の体育祭

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クラスメイト達のヒステリー事件は羽竜うりゅうさんが話を聞き、それを高也に伝えて獣人側で事態を収拾させた。
私達はどんな解決方法をとったのか詳しく教えてもらえなかった。
一乗寺いちじょうじ財閥に配慮して恩を売ったともささやかれているけれど、実際はどうなんだろう。
綾子さん達に対する態度はあれ以来、教師から生徒まで腫物に触れるように扱っていて教室の空気は重い。
そんな中で迎えた体育祭―――私と希和きわはマリアステラ学園の体育祭というものがどんなものなのか、当日になってその凄さをやっと理解した。

「ねえ、希和。私の知っている体育祭と違うんだけど」

「奇遇ね。佳穂かほ。あたしの知っている体育祭とも違うようだわ」

オリンピック並みに整備された競技場、観客席には保護者やマスコミ、来年度の入学予定の獣人の見学。
それから、外部から招待された偉そうにしている来賓。
あの中にもしかしたら、高也たかやのお父さんも来てるのかもしれない。
けど、今は―――

「希和! 屋台行こう! 屋台!」

競技場の周りにはお洒落な移動販売車がずらっと並んでいる。
焼きトウモロコシや焼きそば、たこ焼きじゃない。
ワッフルやクレープ、ジェラートやハンバーガー、有名コーヒーショップの屋外カフェ。
競技場の周りを取り囲むようにお洒落な店が並んでいる。

「クレープ食べたい。希和、見てよ! イチゴがタワーになってるんだよ? あれは絶対美味しいやつ!」

「あんたもあたしも競技でそれどころじゃないわよ」

「そうでした……」

ほとんどの競技に参加するから食べているヒマなんかない。

「佳穂ちゃーん、希和ちゃーん」

明るい声に私と希和は振り返ると鷹我おうがさんが手を振って走ってくるのが見えた。
その後ろから高也がゆっくりと歩いてくる。
鷹我さんも高也も黒のジャージに白いTシャツを着ているけど、どことなく漂う魔族感がある。

「佳穂。なんだ? ジッと見て」

「えっ!? 魔王っぽいなんて思ってないよ!」

「佳穂ちゃん、心の声が漏れてるよ」

「魔王でもなんでもいいが、気をつけろよ」

軽くかわされた私は微妙な顔をしてうなずいた。

「うん。わかってるよ……」

まるで高也は小学生を諭す高校生のお兄さんポジションだ。

「ふーん。のんびりしていると思ったら、獣人側の種目は少ないのね」

希和はパラパラと体育祭のプログラムを開いてチェックし、つまらなさそうにしていた。

「個々の運動能力に差があるからな。それを考慮された結果だ」

「へぇ、そうなの。騎馬戦と借りもの競争はわかるけど、この模擬戦って誰と誰が戦うのかしら?」

希和の問いかけに鷹我さんが答えた。

「それはねー。キングをはじめとする僕達と獣人の生徒達が戦うんだよ」

「えっ!? 獣人全員が相手なの!?」

「そーだよー」

鷹我さんはなんでもないことのように言った。

「上位六名と他の獣人達の模擬戦は体育祭の一番の目玉なんだっ!」

いえーいと鷹我さんがピースしたけど、本当に戦うってことだよね!?
気だるげな様子で高也は言った。

「面倒くさい」

「もしかして去年のマリアステラ学園の体育祭、佳穂ちゃんはテレビで観てなかったんだ?」

「うん。だって、高也が出るって教えてくれなかったし」

教えてくれればよかったのにと高也を見ると、私からすっと目を逸らした。

「あんなもの面白くもなんともない」

「見たかったのに……」

「今年もライブ放送されるよ」

ほらと鷹我さんが指差した方向にはテレビカメラがずらっと並んでいた。

「外部から完全隔離されたマリアステラ学園に入れる機会はそうそうないからね。世の中の皆さんも興味があるってことだよ」

「一年に一度しか外部を受け入れないからな」

「はー」

思っていた体育祭と本当に違うなあ。

「佳穂。女子クラス対抗の棒倒しが始まるわよ」

「がんばれよ」

「うん。高也もね」

鉢巻をして、シューズの紐を括り直した。
女子の一年クラス、二年クラス、三年クラスの三本の棒があり、棒を倒すか棒の上の旗をとったら勝ち。 

「活躍次第ではランキング評価の際に加味されるらしいわよ」

「いいねぇ」

「一年の棒はすぐに狙われるからね。みんなは棒を守っていてね」

クラスメイト達は真剣に頷いた。
これは体力テストの成績にも点数が加わるとあって真剣そのもの。

「じゃあ、一人一本ずつね。希和」

「健闘を祈る」

ぱんっとお互いの手を叩き、別れた。

「ふん、二人で何ができるのかしら」

「負けるだけなのにね」

ひそひそと綾子さん達が囁いていた。
 
「二人だから、できるんだよ」

私がそう告げると同時に笛の音が鳴った。
すばやくスタートダッシュをした。
案の定、二年と三年の女子生徒は一年の旗をめがけて走ってきた。

「いっくよー!」

怯んでいる三年生の女子の姿が見えたけど、攻めている人数が多くて陣地はガラ空き。
精いっぱいの助走をつけてだんっと地面を蹴り、高く跳んだ。

「ええええ!?」

「な、なにこの子っ!」

ぱしっと頂点の棒を掴み、体重をかけて、棒を傾けて旗を取るとそのまま、棒を片手で持って地面に着地する。

「おおおー!」

歓声が上がった。
希和を見ると、希和は二年の女子の肩を踏み台にすると、ジャンプして旗を取った。
決着があっさりつき、棒が置かれた。

「チビッ子、早すぎ!」

「あれ、中身は人間じゃないだろ」

「あのチビッ子。キングのカヴァリエじゃないか」

「前から雰囲気のある子だったけど」

「綺麗になったよなあ」

ぎろりと高也ににらまれ、獣人側の席が静まり返った。
なんて大人げない……
解説席まであるらしく、会場の大画面に放送の様子が映し出されている。

「早かったですね! 最速で女子クラス三年を倒したのは一年生の乙花おとはな佳穂かほさん!キングのカヴァリエです。さすがですねー!」

「二年女子の旗を軽々ととったのは一年生にして女子クラストップの桑名くわな希和きわさんです」

旗を手に高也に手を振ると高也は笑って手を振り返した。

「キングが手を振ったぞ!」

「笑ってる……」

それだけで衝撃なのか、獣人側の席がざわついていた。
その高也の隣にはクイーンである豹路ひょうじさんを始めとする他のメンバーが揃う。
高也に合わせたのか、全員黒色のジャージだった。
全員、イケメンでかっこいいんだけど、日曜午前の敵役みたいな光景で威圧感がありすぎだった……

「次は障害物競争です」 

私の待望競技、パン食いじゃない障害物競争の時間がやってきた。
目的のパンを目で追う。
ジャム、クリーム、チョコ、あんこ―――素晴らしいラインナップ。

「十時ののおやつ感覚だよね。どのパンにしようかなー」  

網くぐり、跳び箱、ハードル、平均台、パン食いの順番で並んでいる。

「佳穂。気を付けなさいよ。なにを仕掛けてあるかわからないわよ」

「うん」

スタートし、網、跳び箱、ハードル難なくクリアした。
そして、平均台―――平均台に足をのせた瞬間、ぐらりと足場がふらついた。

「佳穂!」

平均台の足が切られていた。
えーい!
こんなとこで転んでたまるか!
幅跳びの要領で跳んで着地するとそのまま、透明な袋に入ったクリームパンまでダッシュした。
絶対正義カスタードクリームぅ!
そして、ゴール。
やりきった。
全てはこのクリームパンのために。

「キングのカヴァリエ! 身軽です! アクシデントがありましたが、難なくゴールしました」

解説の人が驚いていた。
後方の人達は倒れた平均台の横を走って競技は続けられた。

「佳穂。怪我はなかった?」

次の組だった希和が駆け寄ってくる。

「うん。平均台だけど。細工されてたね」

「そうね」

みんな、楽しんでるのに水を差すようなことをしたのは誰だろう。
ちらりと一年クラスの席を見ると綾子さん達が悔しそうな顔をしている。

「佳穂!」

高也が席からやってくると怒りが伝わるのか、周りの獣人が小さく悲鳴をあげて逃げていく。

「木が腐っていたみたい」

「そんなわけあるか!」

高也の怒気をはらんだ声に係員の生徒が震えていた。
誰がやったかなんてことはどうでもいい。
ようはどうやって、綾子さん達の裏にいる存在をおびき出すかなんだから。

「はい、高也。クリームパン、半分あげる」

「話をそらすな!」

「まあまあ。体育祭を楽しもうよ」

「楽しむ? 怪我をしたらどうする。今すぐ犯人を突き止める」

高也がうるさいので、ぎゅむっと口にクリームパンを詰め込んだ。

「カヴァリエを心配したキングが駆け寄り、カヴァリエが勝利のパンを食べさせるシチュエーション。これぞ青春!」

気づくと、アップになっていた。
そんなつもりはなかったけど、そういうことにしておこう。
高也も悪い気はしないらしく、黙ってクリームパンを食べていた。
むしろどことなく嬉しそうだった。

「た、高也。次は獣人クラスの騎馬戦でしょ!? 行かなくていいの?」

「俺達は模擬戦しかでない」

なにそれ特別待遇過ぎる。
しかも俺達ってことは上位六名は模擬戦のみってことよね。
高也は私から離れず、誰も近寄れないように隣に立って一緒に騎馬戦を眺めているけど、もう目立った嫌がらせはされないと思う。
さっきから私と高也の周りを避けて通る人々よ……
この無駄な空きスペースをどうするのよ。

「希和っー! 俺頑張ってるよー!」

騎馬戦に出場している古柴こしば君が希和に手を振っていた。
その手には奪い取ったと思われるハチマキが握りしめられていた。

「なにあの大量のハチマキ……」

「犬、やるな」

古柴君は動きが早い。
他の獣人達の隙をつき、軽やかにハチマキを奪い取っていく。
騎馬戦終了の笛に古柴君はぴょんっと地面に降り立つと、観戦していた希和のもとへと駆け寄った。

「希和、見てた? 俺の活躍を!」

「何本?」

「待ってよー。えーと……九本! うわあああ! 一本、た、足りなかったあああ!」

がっくりと古柴君は地面に膝をついた。
さっきまでのいい笑顔は消え、深い悲しみで肩をがっくりと落としていた。

「ど、どうしたの?」

あまりの落胆ぶりに驚いて古柴君に尋ねると涙目になった顔をこちらに向けてきた。

「ハチマキを十本とったら、希和がご褒美くれるって言ってたんだ……」 

だから、あんなにがんばっていたんだ。

「残念だったわね。古柴」

「ううっ……ご褒美っ……」

ハラハラと涙が地面に落ちる。
マジ泣きしている古柴君を高也はあきれ顔で眺めていた。
獣人のプライドはどこへいったと思っているに違いない。

「キング。席に戻ってください」

なかなか戻らない高也を豹路さんが呼びに来たらしい。
豹路さんはこっちを睨みつけている。
ちょっとは敵意を隠す努力をしようよ……

「今戻る」

この二人の間には緊張感ある。
獅央家と豹路家は親戚って言っていたけど、まったく仲のいい感じはしない。
鷹我おうがさん達のほうが高也は気を許していると思う。

「佳穂。またな」

「豹路家から父が来ていますよ」

高也の顔が険しくなった。

「だから、なんだ」

「いいえ。来ていると報告したまでです」

豹路さんがゴミでも見るような目で私を見ているのがわかる。
気に食わないのはわかるけど、そこまで嫌わなくてもいいのに。

「クイーンは完全にこっちを敵視してるわね」

希和も同じことを思ったらしい。
豹路さんは自分の妹である智香ちかさんこそが高也のカヴァリエに相応しいと考えていたところへ私が登場。
嫌がらせをして追い出すつもりがしぶとく生き残っている私の存在が許せないのだろう。
今回の体育祭で私がキングのカヴァリエと呼ばれているのも面白くないはずだ。

「佳穂さん、希和さん。競技の準備をして!」

「はーい」

豹路家の父が来ているってわざわざ高也に言うってことは高也のお父さんは来てないってことで―――意味ありげだったけど、あれは高也への脅しだよね。

「佳穂。考え事は後にして。集中しないと怪我するわよ」

「うん。そうだね」

色々気になったけれど、今は考えている余裕はなかった。
まだ体育祭は前半が終了したところ。
メインディッシュはこれからなんだから。
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