16 / 59
第一章
16 王を守る騎士
しおりを挟む
この人は私の敵?
それとも味方?
そんな緊張感と警戒心を吹き飛ばす一言、それは―――
「はいっ! おまちどうっ。うどんとカツ丼大盛りねー」
私と狼谷さんが黙りこみ、対峙して緊張感を漂わせていたのを一瞬で粉砕してくる学食のおばちゃんの声。
なんという空気クラッシャー。
この学園で最強なのは学食おばちゃんかもしれない。
そう思いながら、ほわほわした白い湯気がたちのぼるうどんとトンカツ二枚を卵にとじたガッツリカツ丼を受け取った。
「ほらっ! うどんにちくわの磯辺揚げとかき揚げ、おまけしといたよ。元気だしな!」
「ありがとうございます」
心配してもらってなんだけど、元気もあるし食欲もあるよ。
でも、天ぷらは好きだからありがたく受け取っておいた。
「元気ないの?」
ラーメンを手にした狼谷さんが私をちらりと見た。
「いえ、そうでもないです」
「高也は元気なかったよ」
「えっ!?」
イライラしていたではなく?
狼谷さんを見上げた。
そのぼんやりした目からはなにも読み取れなかった。
「ほらほら、なにやってんだい。若い二人で立ち話もなんだろ。座りなよ!」
厨房側のカウンターから出てきて、テーブルをバンバンっと叩いた。
おばちゃん、強すぎ。
私と狼谷さんを見て目をキラキラさせている。
『私はなにも聞かなかったことにしてあげるよ』
なんて、顔で。
「麺がのびるから、食べながら話そう」
狼谷さんは抑揚のない声で言った。
この人からは敵意も好意も感じられない。
なんだか変わった人だなぁ。
しかも、高也の名前を呼び捨てにする人に初めて会ったかもしれない。
そう呼ぶことを高也が許しているってことは仲がいいのだろうか。
「俺は昔から高也の護衛を任されている。高也に護衛はいらないから、話し相手みたいなものだったけど」
私の疑問が顔に出ていたのか、狼谷さんはラーメンを食べながら教えてくれた。
「そうなんですか」
私が高也と一緒にいなかった七年間の話を聞くのはこれが初めてだった。
話してくれる人は貴重だ。
真剣な顔でうなずいた。
「高也から写真を見せてもらったけど、実物は思ったより小さいね」
「そういう感想はいいです。小さい言わないで下さい!」
「高也のこと、変わったと思わなかった?」
「思いましたけど、そのままなとこもありますよ。って、ラーメンのびますよ」
譲ってあげたのに!
せっせとうどんとカツ丼の山を崩しながら食べていると、狼谷さんはこっちをじっと見ていた。
「本当は君に会ったら忠告するつもりだったんだ。どう見ても普通の子だし、獅央家に関わるのは可哀想だと思ったから」
可哀想って、どんな厳しい家だよ!
いや、きっと厳しいよね。
わかってる、わかってるけど。
『おてやわらかに』なんて私が言ったところで手加減してくれる相手じゃない。
きっと。
「けど、高也が君を失った方が堪えるだろうから、やめた」
「私より高也ですか」
「そうだよ。俺はキングを守るナイトだからね。学園だけじゃなく、外でも」
「あ、そうなんですか」
「軽いね」
「いや、だから」
麺、のびるし。
特製チャーシューも厚切りでおいしいのに麺がのびたら、だいなしだよ。
「高也のことは好き?」
「好きじゃなかったら、こんな面倒くさい学校にわざわざ来ませんよ」
「それもそうか」
狼谷さんはふっと笑った。
「高也がいない間、君がどう過ごしていたかは知らない。けれど、高也は君が思うより苦しい日々だったよ」
うどんを食べる手を止めた。
七年前、私が高也を最後に見たのは綺麗な服を着て、黒塗りの車で去っていく姿だった。
『苦しい日々』というのは金銭的にという意味じゃない―――
「獅央家に来たばかりの高也は辛かったと思う。毎日、訓練と称して戦わされてね。いつもボロボロで怪我ばかりだった」
「高也のお母さんは?」
「母親は人質だよ。逃げたら、母親を殺すって言われてね。高也は必死で強くなった。そういうことを平気でやるよ。獅央家は。どう?怖い? 逃げたくなった?」
薄暗く、しんっとした学食に狼谷さんの声は不気味に響いた。
「おかしいなって思っていたんです」
私も本当のところ、なんだか変だな思っていた。
手紙の内容はいつも当たり障りのない報告だけで、一度も自分の詳しい生活内容を書いて来なかった。
高也のお母さんのことも。
そして、高也はいつも手紙だけで私に写真を一枚も送ってくれなかった。
「高也は自分の怪我をしている姿を私に見られたくなくて、写真を送らなかったんですね」
「写真、くれなかったのか」
「この七年間、一枚もですよ」
心配されるのが、嫌だったに違いない。
零れ落ちそうになった涙を手の甲でぬぐった。
「私は逃げませんよ」
グサッとちくわを箸で刺した。
「私はこう見えても強いんです」
小さいけど、弱くないってところを見せてやる。
私だって、ただ七年間生きていたわけじゃない。
「それならよかった」
狼谷さんは私が逃げないとわかって、安心したようだった。
高也が写真を見せるくらいだから、信頼はしているんじゃないだろうか。
もしや―――ここに来てくれたのは私を心配して?
「もしかして、私と話すために晩餐会をやめたんですか?」
「いや、ああいう賑やかな場所が嫌いなだけ」
きっぱりと淀みなく、狼谷さんは言い切った。
―――あ、そうですか。
私の返事を聞いて、ようやく狼谷さんはラーメンを口にしたのだった。
それとも味方?
そんな緊張感と警戒心を吹き飛ばす一言、それは―――
「はいっ! おまちどうっ。うどんとカツ丼大盛りねー」
私と狼谷さんが黙りこみ、対峙して緊張感を漂わせていたのを一瞬で粉砕してくる学食のおばちゃんの声。
なんという空気クラッシャー。
この学園で最強なのは学食おばちゃんかもしれない。
そう思いながら、ほわほわした白い湯気がたちのぼるうどんとトンカツ二枚を卵にとじたガッツリカツ丼を受け取った。
「ほらっ! うどんにちくわの磯辺揚げとかき揚げ、おまけしといたよ。元気だしな!」
「ありがとうございます」
心配してもらってなんだけど、元気もあるし食欲もあるよ。
でも、天ぷらは好きだからありがたく受け取っておいた。
「元気ないの?」
ラーメンを手にした狼谷さんが私をちらりと見た。
「いえ、そうでもないです」
「高也は元気なかったよ」
「えっ!?」
イライラしていたではなく?
狼谷さんを見上げた。
そのぼんやりした目からはなにも読み取れなかった。
「ほらほら、なにやってんだい。若い二人で立ち話もなんだろ。座りなよ!」
厨房側のカウンターから出てきて、テーブルをバンバンっと叩いた。
おばちゃん、強すぎ。
私と狼谷さんを見て目をキラキラさせている。
『私はなにも聞かなかったことにしてあげるよ』
なんて、顔で。
「麺がのびるから、食べながら話そう」
狼谷さんは抑揚のない声で言った。
この人からは敵意も好意も感じられない。
なんだか変わった人だなぁ。
しかも、高也の名前を呼び捨てにする人に初めて会ったかもしれない。
そう呼ぶことを高也が許しているってことは仲がいいのだろうか。
「俺は昔から高也の護衛を任されている。高也に護衛はいらないから、話し相手みたいなものだったけど」
私の疑問が顔に出ていたのか、狼谷さんはラーメンを食べながら教えてくれた。
「そうなんですか」
私が高也と一緒にいなかった七年間の話を聞くのはこれが初めてだった。
話してくれる人は貴重だ。
真剣な顔でうなずいた。
「高也から写真を見せてもらったけど、実物は思ったより小さいね」
「そういう感想はいいです。小さい言わないで下さい!」
「高也のこと、変わったと思わなかった?」
「思いましたけど、そのままなとこもありますよ。って、ラーメンのびますよ」
譲ってあげたのに!
せっせとうどんとカツ丼の山を崩しながら食べていると、狼谷さんはこっちをじっと見ていた。
「本当は君に会ったら忠告するつもりだったんだ。どう見ても普通の子だし、獅央家に関わるのは可哀想だと思ったから」
可哀想って、どんな厳しい家だよ!
いや、きっと厳しいよね。
わかってる、わかってるけど。
『おてやわらかに』なんて私が言ったところで手加減してくれる相手じゃない。
きっと。
「けど、高也が君を失った方が堪えるだろうから、やめた」
「私より高也ですか」
「そうだよ。俺はキングを守るナイトだからね。学園だけじゃなく、外でも」
「あ、そうなんですか」
「軽いね」
「いや、だから」
麺、のびるし。
特製チャーシューも厚切りでおいしいのに麺がのびたら、だいなしだよ。
「高也のことは好き?」
「好きじゃなかったら、こんな面倒くさい学校にわざわざ来ませんよ」
「それもそうか」
狼谷さんはふっと笑った。
「高也がいない間、君がどう過ごしていたかは知らない。けれど、高也は君が思うより苦しい日々だったよ」
うどんを食べる手を止めた。
七年前、私が高也を最後に見たのは綺麗な服を着て、黒塗りの車で去っていく姿だった。
『苦しい日々』というのは金銭的にという意味じゃない―――
「獅央家に来たばかりの高也は辛かったと思う。毎日、訓練と称して戦わされてね。いつもボロボロで怪我ばかりだった」
「高也のお母さんは?」
「母親は人質だよ。逃げたら、母親を殺すって言われてね。高也は必死で強くなった。そういうことを平気でやるよ。獅央家は。どう?怖い? 逃げたくなった?」
薄暗く、しんっとした学食に狼谷さんの声は不気味に響いた。
「おかしいなって思っていたんです」
私も本当のところ、なんだか変だな思っていた。
手紙の内容はいつも当たり障りのない報告だけで、一度も自分の詳しい生活内容を書いて来なかった。
高也のお母さんのことも。
そして、高也はいつも手紙だけで私に写真を一枚も送ってくれなかった。
「高也は自分の怪我をしている姿を私に見られたくなくて、写真を送らなかったんですね」
「写真、くれなかったのか」
「この七年間、一枚もですよ」
心配されるのが、嫌だったに違いない。
零れ落ちそうになった涙を手の甲でぬぐった。
「私は逃げませんよ」
グサッとちくわを箸で刺した。
「私はこう見えても強いんです」
小さいけど、弱くないってところを見せてやる。
私だって、ただ七年間生きていたわけじゃない。
「それならよかった」
狼谷さんは私が逃げないとわかって、安心したようだった。
高也が写真を見せるくらいだから、信頼はしているんじゃないだろうか。
もしや―――ここに来てくれたのは私を心配して?
「もしかして、私と話すために晩餐会をやめたんですか?」
「いや、ああいう賑やかな場所が嫌いなだけ」
きっぱりと淀みなく、狼谷さんは言い切った。
―――あ、そうですか。
私の返事を聞いて、ようやく狼谷さんはラーメンを口にしたのだった。
24
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる