獣人は花嫁を選ぶ~百獣の王と少女の恋~【獣人シリーズ①】

椿蛍

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第一章

15 学食

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私は案の定、獅央しおう豹路ひょうじなのか、それとも綾子さんの一乗寺いちじょうじからなのか―――敵が多すぎてわからないけど、圧力によってBクラスの待遇解除はないままで晩餐会は招待されなかった。
晩餐会の日は寮の中が大騒ぎだった。
ドレスや髪のセットを外部から頼んだり、アクセサリーや靴、ドレスが当日になって気に入らないと騒いだ女生徒が配達させたりと、大混乱になっていて、時間をもて余していた私は学食で買ったパックジュースを飲みながら学食で勉強しつつ大騒ぎになっているのを眺めていた。
特に一年生の適合者マリア達はまだパートナーがいないから、力の入りようは他の学年の女子生徒よりもすごかった。
晩餐会に招待されていない私が唯一気になっていることは―――

「ステーキ……お寿司……」

晩餐会は豪華な夕食って感じらしい。
今頃、みんな美味しいもの食べてるのかなぁ。
後で希和になにを食べたか教えてもらおう。
希和は行かないと言っていたけど、それは断った。
せっかく豪華な食事なのに食べないのはもったいないもん。

「もー、いいよ! 私だって学食で豪遊しちゃうんだから」

マリアステラ学園の学食はクラスによって分けられている。
高也達が使うのは上階にあるカフェテリアらしい。
AクラスとBクラスが使う学食は一階にある。
普通の学食だ。
学食には誰もいないし、こんなチャンスは滅多にない。

「まさかの貸し切り!」

私一人のために学食を開けてくれているのも悪いよね。
うん、決まった。
これは大盛りコース。
いそいそと学食メニューを眺めていると、カウンターから白の調理服に三角巾をつけたおばちゃんが顔を出した。

「あんた、夕食会はいいのかい」

「夕食会って晩餐会のことですか?」

「そう、それそれ!」

学食のおばちゃんは暇なのか、『ちょっと話していきなよ、アンタ』という空気をビシバシ感じた。
商店街の八百屋のおばちゃんに通じるものがある(噂好き)。

「私は出席できないそうです」

おばちゃんは訳知り顔でうなずいた。

「うんうん。聞いたよー。あんた、キングのカヴァリエなんだって?」

「カヴァリエの称号は剥奪はくだつされたので、今は違います」

「はー! ロマンチックだね! 身分違いの恋。金持ち坊ちゃんとさえない女生徒の恋! いいねぇ」

「さえないは余計です」

「あー、こりゃ、おばちゃんが悪かったね。ほーら、飴ちゃんあげようね」

小学生から変わらない扱いに頬を膨らませた。
高校生なのに!
飴はもらうけど。
しっかり飴をもらって、制服のポケットに入れた。

「それで、あんたはキングじゃなくて他の獣人を選ぶのかい?」

そんな立ち入ったことまで聞いてくる。
おばちゃんがどんどん話すから、学食で一番人気のチャーシューラーメンを注文したいのに注文できない。
食券を持ったまま、立ち尽くしていた。
この鉄壁の会話力があれば、無敵かもしれない。
どうやって、この会話から抜け出そうかと思案していると、厨房の奥から出てきた若いお姉さんが食券をおばちゃんの代わりに受け取ってくれた。

「おばちゃんがうるさくてごめんなさいね。食券もらうわね」

「みっちゃん、うるさいとはなんだね。私はね、相談に乗ってあげてるんだよ」

「なにが相談よ! ただのおしゃべりでしょ。ヒマだとすぐに仕事をサボるんだから」

働く人達の年齢層が高い中でも学食のエース料理人みっちゃんは負けておらず、厨房奥の冷蔵庫からラーメンの麺を取りだし、白い湯気があがるお湯に放り込む。
グラグラとお湯の中でラーメンの麺が踊っているのが見えた。
叱られても堪えてないおばちゃんが懲りずに話しかけてきた。

「みっちゃんも本当は知りたいくせに素直じゃないねー。私らはね、むしろアンタみたいな小さい子があのキングのカヴァリエによくなったもんだねって言っていたんだよ」

「ち、小さい!?」

私が一番気にしていることを遠慮なしにおばちゃんは平気な顔で言ってくる。

「やめなさいよ」

みっちゃんが注意してもおばちゃんは気にしていない。

「あの金髪の王様は化け物みたいに強くて怖いだろ?」

「怖い?」

「そうさ。今のキングは入学したなり、前のキングに決闘を申し込んだんだよ。あれは酷かった。三年から二年までの獣人達は怪我人だらけになったからねえ。血の臭いが学園中にするんじゃないかって有り様でね。あれは決闘なんてもんじゃない。戦争だったよ」

戦争って……思わず、苦笑した。

「それは大袈裟じゃ……」

「なーに言ってるんだい。獣人達があんなぼろぼろになるのを私がここで働いてから初めて見たね」

「獅央家が入学するとたいていあんなもんさ。あの子の父親の時の方が酷かった。入学式から救急車が学園に並んだ」

おばちゃんの背後からおばちゃんよりずっと古株のおじさんが口を挟んだ。
私を怖がらせるためというよりは心配してのことだったと思う。

「悪いことは言わねえ。獅央家はやめておいたほうがいい。あんな呪われたような家と関わらないほうが幸せになれるってもんだ」

「もうっ! あんまり新入生を怖がらせないでよ!」

みっちゃんの声が奥から聞こえてきた。
私は高也のことを怖いなんて思ったことない。
獅央家のことだって私は負けたくないってずっと思って―――
反論しようかどうしようか迷っていると背後からにゅっと手が出た。

「ラーメン」

「あ、ごめんねぇ。この子でラーメンは最後なんだよ」

「えー」 

覇気のない声に振り返った。

「あ、いいですよ。私、うどんとカツ丼にしますから。どうぞ」

さりげなくカツ丼を追加した。
しかも、大盛り。

「ありがとう」 

「いえいえ」

茶色の前髪で目が見えなかったけど、背が高く細身、見るからに覇気がない無気力そうな人だった。
ブレザーはどこへいったのか、上着の下に着る黒のシャツだけ。
そのシャツを腕捲りをしていて、ネクタイもない。
気崩しているというよりは面倒くさいから最低限の行動だけで済ませているという雰囲気だった。

「君、高也のカヴァリエだよね」

「いやー。なんか剥奪されちゃったから、違うんですけどね」

乙花おとはな佳穂かほさん」

名前まで知ってるの?
有名になったなあ。

「俺は狼谷かみや泉地いずち。ランクはナイト。昔から高也の護衛を任されている。狼の獣人だよ」

ナイト―――つまり、上位六名のうちの一人。
キリッとキメ顔をするところのはずが、ボサッとした頭のせいで、そのすごさがまったく伝わってこなかった。
私はこれで六名全員に会ったことになる。
高也の周りにいるであろう六名に。
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