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11 危険な古巣
しおりを挟む「社長」
「直真さん、もしくは直真と呼ぶように。二人の時はそうしろと言ったよな?」
社長―――直真さんと私は今、勝負をしている。
私が直真さんを好きになれば、私の負け。
直真さんが諦めたら、私の勝ち。
勝てば自由に有給をとらせてくれる。
有給最高!
「爽やかな直真さんはどこに行ったんですか?」
「あっちのほうが、好みなのか?」
「いや、どっちでも構いませんけど。好みとか考えたことないので」
「そうだろうな」
な、なんか、バカにされた気が。
勢い余って、ネトゲをカミングアウトしちゃったけど。
返ってきた反応が意外と普通で拍子抜けした。
わかってないのかもね。
この闇の深さが。
コーヒーを置き、出ていこうとすると言った。
「午後から、取引先に行くぞ」
「あ、はい。どちらまで?」
「宮ノ入本社だ。瑞生《たまき》様に売り上げと今後の展望について報告する」
「わかりました」
弟さんなのに様付けなのね。
名字も違うし、わけありすぎて、気になるけど、聞いたらオシマイっていうか。
あんまり、知りすぎるとね。危険な気がする。
情に負けるかもしれないし。
「なにか言いたそうな顔だな」
「いやー。あははは」
笑って、誤魔化しておいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
久しぶりの宮ノ入本社に来ると懐かしい気がした。
まだ、ちょっとしか離れていないのにね。
しんみり。
「瑞生様と話してくる」
「はい」
「木村さん!」
「先輩」
沖重先輩―――宮ノ入先輩が私をわざわざ待っていてくれたのか、会社の受付前にいた。
「今日、木村さんが来るって八木沢さんから聞いていたから、待っていたのよ」
「わあ、嬉しいです」
「秘書室に行きましょうか」
「はい」
エレベーターに乗ろうとすると、視線を感じたような気がして、振り返った。
受付の子と目があったけど、目をそらされた。
おかしい。
前は話しかけてきてくれたのに。
「木村さん。秘書を引き受けてもらって本当にありがとう。八木沢さんも残業が減って、ちゃんと帰宅しているみたいだし」
「いえいえ!たいしたことはしてないです。雑用しかしていませんし」
「そんなことないわ。口には出さないけど、八木沢さんは感謝していると思うわ。最近、楽しそうだし」
「…はぁ。そうですか」
きっと私をからかって楽しいだけなんですよ。それ。と思ったけれど、口には出せなかった。
先輩にまだネトゲの話はしてないというか、できない……。
秘書室に入ると、お茶とお菓子が用意してあった。
「わー、ここのカステラ美味しいですよね。ふんわりしてて」
「そうなの。瑞生さんも八木沢さんもここのカステラが好きなのよ。やっぱり、兄弟ね」
「どうして八木沢さんは弟さんのこと、様付けで呼んでいるんですか」
つい、好奇心に負けて聞いてしまった。
「八木沢さんのお母様は八木沢さんがお腹に出来たとき、宮ノ入から逃げたの。お母様が亡くなる直前まで八木沢さんは自分が宮ノ入の子と知らなかったのよ」
なんて、重い話だ。
「八木沢さんが昔、荒れていた頃、瑞生さんに助けられ恩があるって言っていたけれど、宮ノ入を名乗らないのはお母様の遺志を尊重しているんじゃないかしら。ああ見えて、真面目で義理堅いから」
「そうですね」
真面目といえば、真面目なのかも。
仕事を頑張りすぎて、ぶっ倒れる程度には。
「あ、ちょっとお手洗いに行ってきますね」
「ええ」
前にいた課に挨拶にしておこう。
また戻ることになるだろうし。
課に入ると、ざわめきが広がった。
な、なに?
「木村さん、あなた、ここに来ない方がいいわよ」
ひそ、と私の席の隣に座っていた人が言った。
「え?」
「あなたが社長秘書になって、私達をバカにしているとか、若菜ちゃんが言いふらしたあげくに木村さんにイジメられたって泣きだしたのをみんなが慰めてたから」
「そんな!」
「わかっているわよ。でも、木村さんを知ってる人ばかりじゃないから。早く!」
「う、うん」
身の危険すら、あるわけ?
慌てて、廊下に出ると若菜ちゃんの取り巻きなのか、若菜ちゃんと女子社員が道を塞いだ。
「先輩。挨拶もないなんて、酷いじゃないですか」
「挨拶は大事ですよ」
両脇をつかまれ、ずるずると引きずられて会議室に放り込まれた。
「なにするのよ!」
「先輩。私に恥をかかせて楽しかったですよね」
若菜ちゃんの声は怒りで震えていた。
「若菜ちゃん、かわいそう」
「ひどいよね」
「営業から、倉庫に行かされて」
ネイルは剥がれてボロボロになり、手も荒れていた。
しかも、制服は作業服だった。
若菜ちゃんはグイッと髪を掴み、他の子が口を手で塞ぎ、腹を殴った。
「っ!」
痛みで涙が出そうになった。
「木村さん!貴方達、なにをしているの!」
誰かが先輩を呼びに言ったらしく、先輩が飛び込んできた。
「大丈夫?木村さん」
「は、はい」
「私達、木村さんとお喋りしていただけなのにひどいです」
「ねえ」
「何がお喋りしてた、だ」
入り口に冷ややかな目をした直真さんがいた。
ヤクザかな?というくらいの威圧感がある。
「一部始終、カメラに残してあるからな」
会議室に監視カメラがあった。
まるで、準備されていたかのように―――いや、準備されていたのかもしれない。
こうなることを全て見通していた。
決定的に相手を会社から、追い出すためにこんなことをしたんじゃ―――直真さんの笑顔がそれを肯定している気がした。
腹を殴られたせいか、ふらふらと目眩がして意識を失い、床に倒れてしまった。
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