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27 弱み【斗翔】
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経営者になろうとは思わない。
社長で居続けるつもりもない。
けれど、森崎建設で働く人達をこのまま見捨てるわけにもいかないのは事実だ。
憎まれても逃げて二人で幸せになることができるのならば、こんなにも苦しまずにすんだかもしれないと考えることもあった。
森崎社長に利用され続けてきた自分が森崎建設の社長になるとは思いもよらなかった。
こんなのは笑い話だ。
俺が社長になったのを知った時に言われたのは
『お前が社長の椅子を狙っていたことは気づいていた』
気づいていた?
まったく見当違いもいいとこだ。
けど、今はこの立場と名前だけが俺が使える武器ならば、最大限に利用するしかない。
このまま何もせずに戻れば、優奈子は間違いなく今まで以上に俺から自由を奪おうとするだろう。
SP達もプロだ。
三度目はない。
まずは俺のそばから離れてもらわないことには仕事もままならない状況だった。
大元に掛け合うしか手はない。
雇い主。それは―――
「柴江頭取にお願いするか」
優奈子の父親はわかりやすい人間だった。
目に見える数字に利益、それを重視し、自分以外の他人がどうであろうと関係ない。
すべてはどれだけ自分にとって有益なものであるか。
それだけだった。
共和銀行に立ち寄ると優奈子の父親は自慢げに俺を行員達に紹介した。
娘の婚約者としてではなく、『建築デザイナーの森崎斗翔』として。
「頭取、森崎斗翔さんとお知り合いなんですね」
「先日、発表された新しい駅のデザイン、素敵でした」
「今後はどんなものを手がけていくんですか?」
何人かに話しけられて、笑顔でかわし、頭取と来客用の部屋に入る。
来客用の部屋には革のソファーが置かれ、金縁の絵画が飾ってあった。
「娘がなにかしたのかね」
さっきまで堂々としていた頭取が表情を曇らせていた。
これはなにかあるなと察しのいい人間なら誰でもわかる。
軽く探りをいれてみた。
「実は優奈子さんが職場に押しかけてきて困っています」
「優奈子が……」
「先日は仕上がった図面にコーヒーを投げつけられました」
「なんだと!」
頭取は顔を険しくさせた。
俺はわざとらしくため息をつく。
「今、森崎建設が大事な時期だということは頭取もご存じのはず」
「う、うむ」
「この時期に納期に間に合わないというような事態になればイメージダウンは避けられません」
「当然だ」
頭の悪い人ではない。
俺が言うことがマイナスであることはすぐに察した。
「仕事に支障が出るような女性はこちらとしてはお断りしたい」
「う、うむ、い、いや。申し訳なかったね。娘にはこちらからきつく言っておこう」
「ありがとうございます」
頭取は苦い表情を見せ、小さい声で『またか』と呟いたのを聴き逃さなかった。
「以前、優奈子さんがお付き合いされていた方はどんな方なのでしょうか」
「それを知ってどうするんだね……」
「どういうふうにお付き合いされていたのかと疑問に思いまして」
あれだけ気性の激しく、欲しいものに対して貪欲な人間が俺だけで満足するだろうか。
俺以外にもいたと考えるのが普通だ。
「話していただけますか。お嬢さんは俺をマンションに閉じ込め、自宅を勝手に壊して荷物を捨てさせました」
「な、なんだと!いや、そういえば、秘書がなにか私に言っていたな。娘が古い家を壊したいとかなんとか」
「それが俺の家です」
ぐっと柴江頭取が言葉に詰まった。
「すまない。娘は母親を亡くしてから目が行き届かず、不憫に思って欲しいものはなんでも与えてきた」
「人は物とは違いますよ」
「そのとおりだ。飽きたら捨てる。飽きるまで付き合ってもらえないか」
「それでは同じことことを繰り返すだけです」
頭取はポケットからハンカチを取り出して額に浮かんだ汗をぬぐった。
クーラーがよくきいている部屋だが、よほど娘に手を焼いているとみえる。
「俺には好きな人がいます。お嬢さんとは結婚できません」
「……そうだろうな」
「そうだろうな?」
「君で五人目なんだよ。恋人がいる男を奪うのは」
まるでゲームのように自分の手に落ちてくるのを楽しんでいるのか?
どれだけ人が苦しんでいるとも知らずに。
「頭取。お互いの利益のために手を結びませんか?」
そう俺は切り出した。
頭取が話に乗ってくることはわかっていた。
こんな俺を夏永には絶対見せれないな。
きっと叱るだろうし。
でも、こんな取引をする姿を俺は夏永に見せる気はないけどね。
夏永には俺が優しくて穏やかな人だってずっと思っていてほしい。
だから、今ここに夏永がいなくてよかった。
誰に嫌われたとしても構わない。
ただ一人だけを除いて。
嫌われたくないんだ―――夏永だけには。
社長で居続けるつもりもない。
けれど、森崎建設で働く人達をこのまま見捨てるわけにもいかないのは事実だ。
憎まれても逃げて二人で幸せになることができるのならば、こんなにも苦しまずにすんだかもしれないと考えることもあった。
森崎社長に利用され続けてきた自分が森崎建設の社長になるとは思いもよらなかった。
こんなのは笑い話だ。
俺が社長になったのを知った時に言われたのは
『お前が社長の椅子を狙っていたことは気づいていた』
気づいていた?
まったく見当違いもいいとこだ。
けど、今はこの立場と名前だけが俺が使える武器ならば、最大限に利用するしかない。
このまま何もせずに戻れば、優奈子は間違いなく今まで以上に俺から自由を奪おうとするだろう。
SP達もプロだ。
三度目はない。
まずは俺のそばから離れてもらわないことには仕事もままならない状況だった。
大元に掛け合うしか手はない。
雇い主。それは―――
「柴江頭取にお願いするか」
優奈子の父親はわかりやすい人間だった。
目に見える数字に利益、それを重視し、自分以外の他人がどうであろうと関係ない。
すべてはどれだけ自分にとって有益なものであるか。
それだけだった。
共和銀行に立ち寄ると優奈子の父親は自慢げに俺を行員達に紹介した。
娘の婚約者としてではなく、『建築デザイナーの森崎斗翔』として。
「頭取、森崎斗翔さんとお知り合いなんですね」
「先日、発表された新しい駅のデザイン、素敵でした」
「今後はどんなものを手がけていくんですか?」
何人かに話しけられて、笑顔でかわし、頭取と来客用の部屋に入る。
来客用の部屋には革のソファーが置かれ、金縁の絵画が飾ってあった。
「娘がなにかしたのかね」
さっきまで堂々としていた頭取が表情を曇らせていた。
これはなにかあるなと察しのいい人間なら誰でもわかる。
軽く探りをいれてみた。
「実は優奈子さんが職場に押しかけてきて困っています」
「優奈子が……」
「先日は仕上がった図面にコーヒーを投げつけられました」
「なんだと!」
頭取は顔を険しくさせた。
俺はわざとらしくため息をつく。
「今、森崎建設が大事な時期だということは頭取もご存じのはず」
「う、うむ」
「この時期に納期に間に合わないというような事態になればイメージダウンは避けられません」
「当然だ」
頭の悪い人ではない。
俺が言うことがマイナスであることはすぐに察した。
「仕事に支障が出るような女性はこちらとしてはお断りしたい」
「う、うむ、い、いや。申し訳なかったね。娘にはこちらからきつく言っておこう」
「ありがとうございます」
頭取は苦い表情を見せ、小さい声で『またか』と呟いたのを聴き逃さなかった。
「以前、優奈子さんがお付き合いされていた方はどんな方なのでしょうか」
「それを知ってどうするんだね……」
「どういうふうにお付き合いされていたのかと疑問に思いまして」
あれだけ気性の激しく、欲しいものに対して貪欲な人間が俺だけで満足するだろうか。
俺以外にもいたと考えるのが普通だ。
「話していただけますか。お嬢さんは俺をマンションに閉じ込め、自宅を勝手に壊して荷物を捨てさせました」
「な、なんだと!いや、そういえば、秘書がなにか私に言っていたな。娘が古い家を壊したいとかなんとか」
「それが俺の家です」
ぐっと柴江頭取が言葉に詰まった。
「すまない。娘は母親を亡くしてから目が行き届かず、不憫に思って欲しいものはなんでも与えてきた」
「人は物とは違いますよ」
「そのとおりだ。飽きたら捨てる。飽きるまで付き合ってもらえないか」
「それでは同じことことを繰り返すだけです」
頭取はポケットからハンカチを取り出して額に浮かんだ汗をぬぐった。
クーラーがよくきいている部屋だが、よほど娘に手を焼いているとみえる。
「俺には好きな人がいます。お嬢さんとは結婚できません」
「……そうだろうな」
「そうだろうな?」
「君で五人目なんだよ。恋人がいる男を奪うのは」
まるでゲームのように自分の手に落ちてくるのを楽しんでいるのか?
どれだけ人が苦しんでいるとも知らずに。
「頭取。お互いの利益のために手を結びませんか?」
そう俺は切り出した。
頭取が話に乗ってくることはわかっていた。
こんな俺を夏永には絶対見せれないな。
きっと叱るだろうし。
でも、こんな取引をする姿を俺は夏永に見せる気はないけどね。
夏永には俺が優しくて穏やかな人だってずっと思っていてほしい。
だから、今ここに夏永がいなくてよかった。
誰に嫌われたとしても構わない。
ただ一人だけを除いて。
嫌われたくないんだ―――夏永だけには。
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