37 / 44
37 二度目の嵐
しおりを挟む前の嵐の夜には斗翔が来たのを思い出して、窓の外を眺めいた。
今日はきっと来ない。
だから、これを手渡したのだろう。
斗翔が描いた家の絵を広げ、壁にはるとそっと指でなぞった。
玄関、縁側、斗翔が好きなレモンの木。
仰向けに寝転がってその家の絵を眺めていた。
飽きもせず。
なにを伝えたかったのかな。
「わからないよ、斗翔」
座布団に顔をうずめて目を閉じた。
もう斗翔の香りは消えてしまっている。
「斗翔のこと信じたいけど、そばにいないから……」
なにを考えているの?
彼女と婚約パーティーを開いたら、もう後戻りできなくなるんじゃないの?
それが本音。
須麻さんに悟られないように強気にしていたけど、私だって弱い気持ちはある。
答えがでないことをずっと考えていてもしかたない。
だから、こういう時は。
「飲もう!」
バッと跳ね起きた。
嵐の夜はぱぁーっと飲むに限るっておばあちゃんが言ってたもんね!
甘辛味のさんまの蒲焼き缶詰を開けて、からになったところへロウソクをおく。
停電に備えてよ、うん。
「おつまみもできて、停電にも対応可能なおばあちゃん直伝の一石二鳥の技よ!」
まあ、かっこよく防災の心得みたいに言ったけど、ただ飲みたかっただけ。
いそいそと皿と箸を持ってきて、ドドンッと保存容器を並べた。
作り置きしておいたトウモロコシとジャガイモの醤油バター炒め、枝豆の塩ゆでとトマトと青じそのサラダ。
いただきもの100%の顔ぶれよ……
ありがとう、民宿『海風』!
手を合わせて食べながら、おばあちゃんの梅酒と冷蔵庫のビールを並べて、ちょっとした宴会になった。
「よーし!今日は飲み明かすわよ!」
ガッツポーズを決め、外の風と雨の音、そして木が揺れるのを眺めながら、一人飲んでいた。
橋が封鎖されましたという放送と停電の恐れがあるというアナウンスが流れて、前よりもひどい嵐になるようだった。
「これは懐中電灯が必要かも」
せっかくいい気分で飲んでいたのにと思いながら、立ち上がった。
懐中電灯を探しに玄関に行った瞬間、ゴオオッと風の音がしてプツッと電気が消えてしまった。
学習とは……
「時すでに遅し」
ってそんなことを言ってる場合じゃないっ!
足元も見えないし、スマホも置いてきてしまった。
暗くてどこに懐中電灯があるかわからず、手探りで暗闇をなでる。
「たしか、下のほうに」
手をパタパタさせながら、懐中電灯があるんじゃないかというあたりを探っていると、玄関のドアを叩く音がした。
風ではない、人が叩く音。
まさか―――斗翔?
裸足で玄関に飛び出して、鍵を開けた。
「斗翔っ!」
ガラッと扉を開けるとそこには懐中電灯を手にしてレインコートを着た納多さんがいた。
「納多さん……」
駆け出してきたと思われる私の姿に納多さんは苦笑した。
「すみません。待ち人ではなくて」
その視線は足元を見ていた。
ハッとして、慌てて家の中に戻った。
「いえっ!納多さん、どうぞ。こんな酷い雨の中、よく来れましたね」
「星名さんと莉叶さんに頼まれまして。停電で一人だと心細いかもしれないから、今日は高吉の家に連れてきたらどうかと」
「大丈夫ですよ。えっと、懐中電灯もあるし、ロウソクもありますから」
「その懐中電灯はどこですか」
「こ、このへん?」
納多さんが呆れた顔をして懐中電灯を探してくれた。
「す、すみません」
「構いません」
懐中電灯を探しだすと渡してくれた。
「ありがとうございます。よかったら、台風が通りすぎるまで一緒に飲みます?こんな雨風が強い中、帰るよりは落ち着いてからのほうが安全ですから」
「はぁ……まあ、いいですけど」
うーんと納多さんは考えてから、曖昧な返事をしたけど、レインコートを脱いで玄関のポールにかけた。
「一人で飲むのも寂しいなって思っていたのでちょうどよかったです」
大きな懐中電灯を手に入れたおかげで部屋の中はかなり明るく感じた。
ロウソクもつけて、ランタンもつけるとなかなかいいかんじだった。
「納多さん、タオルどうぞ」
「どうも」
納多さんの髪はいつもきっちりしているのに今は前髪がぬれて、幼く見える。
もしかして、本当はけっこう若い?
「なんですか」
「いえいえ!」
あ、危ない。
じっーと見てたのがばれるとこだった。
「ビールとチューハイ、どっちがいいですか?おばあちゃんが作った梅酒もありますよ」
「ビールでお願いします」
「はーい」
ドンドンッと缶ビールを五本、ピラミッド型にして置いた。
それを納多さんは見て、私に言った。
「前から思ってましたけど」
「えっ!?なんですか?」
「大雑把ですよね」
「そ、そうね、少しね?」
「かなりですよ」
く、くそっー!やっぱりこの人、はっきり言ってくるわね。
わかってるわよ!
ちょっとばかり大雑把なのは!
言い返したいけど、日頃の行いのせいでなにも言えない……
「足をこちらへ」
「え?」
納多さんがぼっーとしていた私の足をつかむと汚れた足の裏をふいてくれた。
「玄関に裸足で出てきたでしょう?」
「そ、そうでした」
そういえば、飛び出したんだった……
男の人に足をふいてもらうなんて緊張するはずなのに自然でただ静かで穏やかな沈黙だった。
「いつも迷惑かけてしまって、すみません……」
「迷惑なんて思ってませんよ」
そう言ってくれたのは嬉しかったけど、なんとなく私も納多さんも次の言葉が出ずに黙っていた。
私の足に触れる指は優しく丁寧で、それが余計に嵐の音を大きくさせていた―――
28
あなたにおすすめの小説
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる