【完結】災厄の少女はやがて死に戻りの魔女となる

宵乃凪

文字の大きさ
52 / 58
第三幕

ep.21 願いの交差 (2)

しおりを挟む
 クラウスの足が、宮殿で最も豪奢な扉の前に立つ。抜き身の剣を一度振り、そこについた血や脂の類を落としてから、クラウスは扉に手を掛けた。

 重たい音を立てて、石造りの扉が開いていく。隙間から漂う空気には、濃い死臭の中に、城下町と同じく甘ったるい匂いが混じっていた。


 元はこの国の謁見室であったのであろう部屋は、その壁を茨の蔦で覆われていた。所々に揺れる赤が、クラウスの鼻へと香りを放つ。匂いの強いこの花は、腐臭を覆い隠してくれる為、シュヴァルツ王国では死者の眠る広場にも植えられていた。

 部屋の一番奥の、他より数段高い位置に、大きな石の玉座が設けられている。そこに赤い衣を纏った女が座っていた。

 女は酷く気怠げに頬杖をつき、顔のそばに咲いた花を尖った指先で弄っている。自らへと歩み寄ってくる男の硬い足音にふと顔を上げ、胡乱な瞳で見下ろした。

「お前一人か? 連れてきた部下はどうした」

 さほど興味なさそうに女が問うた。少し首を傾げたことで、真っ赤な髪が白い肩へと流れ落ちる。

 クラウスは剣を手に、歩みを止めないまま、その問いに答えた。

「下で屍兵を抑える役目を任せている」

 端的な返答の声には、何の温度も感じさせなかった。女は、そうか、とやはり興味なさげに返答する。

 やがてクラウスの足が、玉座へと続く階段の下へと辿り着いた。
 女はようやく少し身を起こし、ため息を吐きながら玉座に座ったまま僅かに身を前に乗り出す。

「すまないな、最近は屍兵に指示するばかりで、すっかり人間殿の言葉は忘れてしまったようだ。無礼があっても、許せよ」

「終末の魔女、お前を討伐にきた」

 間髪入れずに返された返答に、魔女は少し目を丸くして、次いでくすくすと大して面白くなさそうに笑った。

「随分なご挨拶だ、戦神殿。折角ゆっくりと見せてやったのに、私の国はお気に召さなかったか?」

「思考を奪われ、屍人が跋扈する。これを国とは呼ばない」

「つくづくご挨拶だ、戦神。ならば、お前の国はどうだというんだ。変わらず獣人ばかりを矢面に立たせ、人間様は高みの見物か」

「そのようなことはない。ここへと乗り込んだ者だけでなく、皆が脅威を排除せんと、各々が適した場所で行うべきことをやっている」

「ああ、国の防衛だな? 国境に向かわせた屍兵が、入れてくれぬと哭いている。ふふ、半分は元々お前の国の民なのにな」

 緩慢な動きで、魔女が玉座から立ち上がる。白い素足が赤い花弁を踏んだ。背後に立たせた屍兵から剣を受け取ると、抜き身の剣身を指先でなぞりながら、クラウスの目をじっと見下ろす。

「種族を問わず、皆が手を取り合い、愛する国家の為に一丸と。大層お美しい話だが、その割にはあまり嬉しそうな顔じゃないな。高潔な戦神は、戦がお嫌いか?」

「戦に依らずとも、皆が共存する。いずれそのような国となる。だがその前に、まずは国の脅威を取り除く」

 そう言って、クラウスの足が床を蹴った。数段の階段を瞬く間に駆け上がると、鈍い音を立てて剣先が玉座を突く。

 魔女の身体がふわりと飛び、音も無く階段の下へと舞い降りる。尚も己の身に迫る斬撃を、身を翻してかわしながら、赤い唇が吊り上がった。

 玉座の裏や、部屋の側面に複数設けられた小さな扉から、複数の青白い軀が飛び出す。
 室内に漂う死臭がより色濃くなった。

 一部を欠損したり、所々が腐りかけた手には、いずれも剣が握られている。
 少し錆びついた切れ味の悪そうなそれらが、まるで何かに吊られるような歪な動きで、宮殿に押し入った異物へと向けられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...