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30.彼女はどうにも考えなしなんだ
しおりを挟む私はそれを分かっていて、でもここでしか話が出来ないのだから仕方がない。
「それにフリーダが私に媚薬を盛った理由も私は知っているから、余計、拒否感が強くなっているのかもしれないとは思っているよ」
だが、その理由が、あまりにもくだらなさ過ぎた。
私よりも1歳年上のフリーダは、身体が大人の女性に近づくにつれ、男を手玉に取るようになった。いや、あれは遊び慣れた男どもにいいようにされていたのかもしれないけどね。
彼女がそれを知っていたのかどうか分からないけれど、男どもに囲まれてちやほやされる日々は、派手好きな彼女には刺激的でさぞ楽しかったんだと思う。
そのせいか半年も経つと、そのうちの何人かと体の関係を持つまでに至った。
私の言葉にレオノーラ嬢が目を見開く。
うん、ごめんね。女性には刺激が強すぎる話だよね。
レオノーラ嬢の反応に、ちらりとクストディオを見遣れば、彼は彼で、盛大に眉間に皺を寄せ不快感を現していた。
王族に嫁ぐのであれば身ぎれいでなくてはならないのに、それを聞いた時には本気で呆れたよ。
そんな状態で正妃になれると思っているのなら馬鹿だとしか思えないし。
まず王族が彼女の行状に気がつかないと思ってること自体も甘いというか。それで、もし万が一婚姻後にそれが発覚したら、即刻病を得て北の塔に幽閉、のちに毒杯を賜る事になるって分からないのかなって。
まあ、もちろん婚約者には候補の段階から王家の影をつけているから、万が一にもそういった事は起こる訳もないんだけど、それが分かっていないのがフリーダという女性なんだ。
それでも処女を失ったのは不味いと思ったんだろうね、だから私に媚薬を盛ろうとした。
彼女的には、薬で訳が分からなくなっているうちにヤッてしまえば、なんとかなるとでも思ったのかな。あまりの頭の悪さに吐き気すら覚えるよ。
王太子である私が、そういう事への対策をしていないわけがないのにね。
でもね、私の身体はある程度の毒や薬に慣らしてあるから、大抵のものは効かないんだ。特に普通に出回っている媚薬程度なら、少し息苦しくなるくらいかな。
たぶん、そんな事もフリーダは知らないだろうけどね。
私がそう言って笑えば、クストディオの眉間の皺が更に凄いことになった。
思わず、人間ってそんな表情もできるんだと、どうでも良い事を考えてしまう。
彼は後ろ盾のない役立たずな第三王子と揶揄されるから、王太子の受ける特別な訓練については知らなかったんだろう。
ああ、これは言わない方が良かったかな、なんて今さらながらにそう思ったけれど、口にしてしまったものはしょうがない。
そこで私はようやく冷めてしまった紅茶に口をつけた。すると皆も喉の渇きを覚えたようで、同じように紅茶に手を伸ばす。
冷めた紅茶は、馥郁たる香りも消え、僅かな渋みも感じるけれど、喉を潤すだけなら充分だった。
視界の端で、このサロンの給仕が無表情で狼狽えているけれど、今はまだ私の話が聞こえる範囲には来て欲しくはないと思う。
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