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53.それはとても珍しいこと、のはず
しおりを挟むわたくしはすっかり周りのことを忘れておりましたわ。
だって風の精霊様がわたくしに名前を付けてほしいだなんて仰るのですもの。
「なんと、アデリア嬢、風の精霊と契約したか」
けれどぼそりと聞こえた陛下の言葉に、わたくし思わず振り向いてしまいましたわ。
「陛下、今なんと」
「だから、アデリア嬢は今、風の精霊様と契約されたんだよ、お名前をつけて差し上げただろう?」
『精霊との契約は、契約者が精霊に名前を付けることで成る。だからアデリアは今、風花の契約者になったのだよ』
陛下と陛下の水の上位精霊様から説明されてしまいましたわ。まさか名前を付けるだけで契約が完了だなんて、そんなことで契約が出来てしまうなんて誰が思うものですか。
『ふふ、元々我々の姿を見られる者は少ない。そして精霊から名を求めたのだから、簡単でいいのだよ。さてジュリオ、お前には光の、アルフォンソには土の、そして王妃よ、そなたには花と木を』
楽しそうに笑う水の上位精霊様は、次々とまあるい光を殿下方や王妃様にお渡しになりました。
突然の出来事に、皆さま呆然と掌に置かれた光を見つめておりますわ。
でもわたくしと陛下の目には、その光が小さな精霊様の姿として見えております。
「セイン、良いのか……」
『良いんだよ、彼らがそれを求めているのだから』
陛下は感無量という表情を浮かべておりますわ。それはそうでしょう。だって王族全てに精霊様がついてくださるというのです。
精霊王様を神と崇めるこの世界で、精霊様と契約するという事は聖人と崇められるほどの偉業ですのよ。ですから陛下も腹心以外には水の上位精霊様と契約されており事は黙っておりますし、精霊様の姿や声が聞こえるわたくしにも、それを口にしてはいけないと教えてくださいましたもの。
「名か、光の精霊よ、我が光となりて共に歩んで欲しい。あなたにはフォスという名を」
「私がつけてもよろしいの? そう、では花の精霊様には輝くばかりの美しさと誇りという花言葉を持つアマリリスからリリスと、そして木の精霊様には私は死ぬまであなたの友としてありましょう、その願いと共にローレルと」
「土の精霊様に敬意を表して、テラと」
『ここに居るものには教えておこう、ジュリオお前の愛するエミナージェには闇の精霊がついている。光と闇は対でなくてはならない、だから決して離すでないよ』
「!」
水の上位精霊様のお言葉に、ジュリオ殿下の目が見開かれましたわ。かと思いますと感情が高ぶってしまわれたのか、ぶわりとその綺麗な青い瞳に涙の膜が浮かび上がりました。
けれどジュリオ殿下は一粒の涙も零すことなく、ただ静かに水の上位精霊様に深く頭を垂れて謝意を示します。
わたしには先ほど聞いたエミナージェ様とジュリオ殿下のことしか分かりませんわ。けれど、今の態度を見るだけでも、ジュリオ殿下の想いが透けて見えるような気がいたしますわね。
ジュリオ殿下はどれほどエミナージェ様を求めていらっしゃったのでしょう。
四年前のわたくしとの婚約から、学院で過ごされてる間ずっとサリュース様と偽りの愛を騙る、それをいったいどんな気持ちで行っておられたのでしょうか。
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