死配人ー勒死の狂ーCRIMSON CHAIN of DEATHー

不幸中の幸い

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Chain_5

照合遊戯 ― Matching Error

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Scene1:「選定された部屋」
2025年12月21日 午前3時15分。
女子寮・南棟。
 
室温は24.3度。
加湿器が赤ランプを点灯させながら、
かすれた蒸気を小刻みに吐き出している。
 
毛布の下、堀川菜月は浅い眠りの中でゆっくりと眼を開けた。
天井の隅で小さく瞬いた緑色のLED。
スマホの通知ランプだ。
 
隣には神谷千咲が眠っていた。
その寝息は極めて浅く、呼吸音すら耳に届かない。
けれど、背中越しに伝わる体温と布団の重みが、
確かに“誰かと繋がっている”という感覚を保証していた。
 
右手を布団の外に出し、枕元のスマホをそっと手に取る。
そのとき、
——ピッ
かすかに画面が明滅した。
 
【Message from Unknown】
《対象:Horikawa Natsuki》
《選定完了》
《記録開始まで 01:59:36》
 
「……え?」
 
スクリーンに表示された文字列を、菜月は二度見した。
“Horikawa Natsuki”。
自分の名前だ。
間違いない。
 
「……だれ……?」
 
声にならない問いが唇を滑り、消えていく。
 
時計を見た。
1時27分。
つまり、約2時間後に“記録”が始まると書かれている。
 
(記録……って何……?)
 
その意味はわからない。
だが、直感だけがはっきりと告げていた。
 
“これは、危険だ”と。
 
背後で、千咲が微かに寝返りを打つ。
菜月は慌ててスマホの画面を伏せた。
画面の明かりが、彼女の頬に触れないように。
 
その動作ひとつにも、指先が震えていた。
 
(やばい、見られたら……なんて言えば……)
 
だが、千咲の顔に表情はない。
呼吸も変わらない。
静かで、あまりに静かで——
まるで“呼吸のふりをしている人形”のように感じた。
 
怖くなった。
 
菜月はスマホを伏せたまま布団に滑り込み、目を閉じた。
見なかったことにしよう。
きっとバグ。
広告か、詐欺。
知らない番号から変なURLが来るのと同じ。
 
自分に関係ない。
 
関係ないはずだった。
 
——ぽん、と音がした。
枕元。
スマホのバイブレーションではない。
“何かが上から落ちてきたような”音だった。
 
反射的に体を起こす。
けれど天井には何もない。
照明も蛍光灯も、そのままだ。
 
自分の幻聴か?
一度深呼吸をして、布団の中に潜る。
 
そのとき。
右耳の奥で、囁くような音がした。
 
——……ホリカワ……ホリカワ……
——……ナツキ……きこえてますか……
 
「っ!」
 
ガバッと身体を起こす。
呼吸が荒い。
けれど、部屋は静かだった。
 
千咲もまだ眠っている。
毛布の中で、目元までくるまり、まるで包帯のように布団を巻いていた。
 
自分だけが聞いた声。
自分だけに届いた音。
 
(……本当に、私が……選ばれたの……?)
 
カレンダーを見る。
今日の講義、ゼミ、レポート。
普段通りの生活。
 
それが、あと2時間で終わる。
——記録される。
何が?
どこに?
どうやって?
 
震える手でスマホを再び確認する。
 
【Message from Unknown】
《選定完了》
《記録まで 01:42:12》
 
カウントダウンが進んでいる。
 
選ばれた。
そう書いてあった。
 
菜月は恐る恐る、千咲の肩に手を置いた。
 
「……ちさき……起きて……」
 
千咲はすぐに目を開けた。
瞬きもせず、まっすぐ菜月を見つめる。
 
「……どうしたの?」
 
「スマホ……変な通知が来て……私の名前……“選定”とか……」
 
千咲は起き上がると、すぐに菜月の肩に手を置いた。
 
「だいじょうぶ。私もそれ、前に来たことある」
 
「……ほんと?」
 
「うん。きっと、ただの脅しか何か。
最近変なチェーンメール流行ってるらしいし」
 
「……なら、よかった……」
 
けれど千咲の目は、決して笑っていなかった。
声のトーンは柔らかいのに、視線だけがひどく冷えていた。
 
——だいじょうぶ。
 
菜月はその言葉を信じることにした。
信じるしかなかった。
 
午前1時47分。
室温は18.2度。
加湿器が唸るような音を立て始める。
 
その頃、寮の裏手にある木製ベンチの下で、
一台のスマートフォンが、無人のまま震えていた。
 
画面には、こう表示されている。
 
【Message_REVERB】
《記録:待機解除》
《処理対象:Horikawa.N》
——《開始条件:観測成立》
 
 
Scene2:「記録、開始」
2025年12月22日(月) 午前02時58分。
女子寮・南棟。
 
部屋の中は冷えていた。
加湿器は停止し、薄暗い空気の中、
布団を被っていた堀川菜月の呼吸は細く震えていた。
 
スマホの画面にはまだ、あの通知が点滅している。
 
【Message from Unknown】
《選定完了》
《記録まで 00:01:37》
 
死刑台のカウントダウン。何の記録かも、
どこに送られるのかもわからない。ただ、感覚で理解できてしまう。
 
「殺される」と。
 
隣で眠っている神谷千咲のスマホが、突如光った。
淡く、短く、画面が明滅する。
菜月は反射で視線を動かした。そこに映ったのは、**《Message》**という文字。
 
それだけだった。
すぐに画面は消えた。内容は読めない。言葉の続きはわからない。
 
けれど——
 
(来てる……千咲にも……!)
 
心臓が一段跳ねた。
菜月は千咲の肩を掴んだ。
 
「ちさき、起きて! ちさき、お願い……!」
 
肩を揺すっても、千咲は目を開けない。
整った寝息だけが、一定のリズムで続いている。
 
「……うそでしょ……なんで起きないの……!?」
 
焦燥、恐怖、孤独。
背筋に、冷水を垂らされたような感覚が這い上がってくる。
 
(このままじゃ、2人とも……!)
 
視界が狭まる。呼吸が浅くなる。思考がとぎれとぎれに寸断される。
反射でベッドから飛び出し、ドアへと駆ける。
 
ノブが滑る。二度目で開く。
廊下に飛び出した瞬間、冷気が頬を撫でた。
青白い非常灯だけが灯り、誰の気配もしない。
 
「はぁっ……はっ……!」
 
裸足のまま、菜月は全力で駆け出した。
廊下を突っ切り、階段を飛び降り、1階へ。
指先まで震えて、体温が逃げていくのがわかる。
 
途中、洗面室のドアを引いた。閉まっていた。
次にトイレの扉を開けようとした。鍵が閉まっていた。
ノックしたが応答はない。何も、誰も、応じない。
 
(なんで誰も……っ!)
 
食堂横を駆け抜ける。
棚の影が誰かの姿に見えて、息が止まりそうになった。
 
知人の部屋の前で立ち止まる。竹中しおりの部屋。
扉をノックする手が震える。
 
「……しおり……起きて……」
 
だが返事はなかった。
 
(ダメ……このままじゃ巻き込む……)
 
再び駆け出す。目の端が潤む。
どこにも助けはない。空間がすべて敵に見えた。
 
ようやく寮のエントランスにたどり着いたとき——
 
ポケットの中、スマホが震えた。
 
手が勝手に動いて取り出す。画面が点灯する。
 
【Message from Unknown】
《記録条件:確定》
《記録:開始中》
——「逃げた先も、記録されます」
 
思考が空白になる。
 
(ダメだったの……? 逃げても……)
 
扉が開く。冷気が吹き込む。
目の前の風景が一瞬、遠ざかっていくような錯覚に囚われる。
 
ガラスに映る自分の顔は、泣いていた。
しかし、それはまるで別人のように見えた。
目が合わない。
頬が濡れている。
顎がわずかに震えている。
自分の姿なのに、自分ではない。
 
足が動かない。声も出ない。
 
誰も来ない。
 
通知は消えていない。画面の光だけが、この空間を照らしている。
 
菜月はスマホを抱きしめ、うずくまった。
体が震え、世界が凍っていく。
 
ただ一つだけ、確信できたこと。
 
この夜は終わらない。
 
 
Scene3:「記録、完了」
2025年12月22日(月) 午前04時11分
女子寮・エントランスホール。
 
足元の床は濡れていた。
いつの間にか、冷たい水か汗か涙か、何かが落ち続けていた。
堀川菜月はスマホを胸に抱き、丸まっていた。
 
脈が、暴れるように跳ねたかと思えば、次の瞬間には止まりかける。
風の音がしない。外の自動ドアは開いたまま。
誰も来ない。誰も来てくれない。
 
【Message from Unknown】の通知は、
画面の中央で点滅を繰り返していた。
 
《記録中》
《確認待機中》
《対象:Horikawa Natsuki》
 
(……何を、待ってるの……)
 
目を閉じて、耳を澄ます。
空気の奥底、どこか遠くで、水滴が落ちる音がした。
 
ピチャン……ピチャン……。
 
いや、それは“水”ではなかった。
もっと粘り気があり、跳ねずに床に吸い込まれていく音。
 
その音が、だんだん近づいてくる。
 
——ピチャン
——ピチャ
——……チャ……
 
呼吸を止めた。
声を出したら、“それ”に気づかれる。
そう思った。
 
だがそのとき、背後から声がした。
 
「え!?...あ...あなたは...どうして?」
 
低く、乾いて、衣擦れの摩擦音のような声。
振り返る暇もなかった。
瞬間、首の後ろに冷たい何かが触れた。
それは、硬いようで柔らかく、細いようで太く、
人間の手とは思えなかった。

紅いマニュキュアをコーティングした指先が見えた瞬間
首筋に圧が加わった。
喉の奥が、バキ、と軋んだ。
空気が喉に入らない。
指が動かない。
脳が、命令を発信しているのに、手足がまったく応答しない。
 
視界の端で、スマホが振動しているのが見えた。
 
《記録:最終段階》
《記録形式:映像/音声/位置データ》
 
ガク、と頭が引かれた。
首に何かが巻きついた。
縄のようなもの。
だけど、繊維の感触ではなかった。
 
筋肉のように、生きていた。
 
食い込む感触。
喉が凹む。
耳が破裂しそうになるほどの血流音。
だけど、それすら次の瞬間には止まった。
 
首が、背中に向かってねじられる。
 
「が……はっ……ぅぐ……」
 
背骨が悲鳴を上げる。
関節が軋む。
眼球の焦点がずれる。
 
その直後——
 
首が、180度反転した。
 
バキィッ!
 
鈍く、濁った爆裂音。
筋繊維と神経と血管と骨が一斉に“千切れて、跳ねた”音。
首筋に内出血した血筋が幾重にも広がっていく。
それはまるで紅い紐を彷彿させるように太い一筋に束ねられた。
 
菜月の意識はまだ微かに残っていた。
 
目の奥に焼き付いたのは、
自分の体が、自分を見下ろしているような構図だった。
 
胸が上下している。
けれど空気は入ってこない。
舌が硬直し、喉が詰まり、視界が狭まる。
 
最後に、耳に届いたのは。
 
「記録、完了」
 
誰かの声だった。
けれど、その声が男か女か、若いか年寄りかさえ分からなかった。
ただその声が、“異常なほど穏やかだった”ことだけが、脳裏に残った。
——堀川菜月は、記録された。
 
背骨を破裂させられ、顔を背中に向けられたまま、
自動ドアの開きっぱなしの玄関前に転がっていた。
 
スマホの画面は、もう何も表示していない。
 
ただ、カメラレンズだけが開いたまま、
まだ誰かを“見ていた”。
 
 
Scene4:「記録後」
2025年12月22日(月) 午前05時11分。
女子寮・南棟。エントランスホール。
 
警察と救急車のサイレンはまだ遠く、
最初に駆けつけたのは、同じ棟の寮生たちと、呼び出された神谷千咲だった。
 
白いタイルの床に、堀川菜月の身体がうつ伏せに倒れていた。
けれどその顔は、異常な角度でこちらを向いていた。
 
千咲は息を呑み、歩みを止めた。
背中に氷を差し込まれたような、硬直した冷気が駆け上がる。
 
——顔が、背中側にある。
 
目は見開かれ、唇がわずかに開いている。
その間を縫うように、涙と血の筋が交差していた。
 
「うそ……」
 
か細い声が喉の奥で割れた。
足が震え、体が落ちるようにしゃがみ込む。
 
(どうして……菜月が……)
 
誰かの足音が、急ぎ足で近づいてくる。
 
「千咲、大丈夫? 無事だった……?」
 
駆け寄ってきたのは、宇田川 梓だった。
室内着のまま、髪も乱れ、顔色は蒼白。
だがその目は千咲を強く捉えていた。
 
千咲はゆっくりと、首を横に振った。
 
「……私、寝てたの……ずっと……何で……」
 
声がかすれていた。喉が乾いて、言葉が出るたび舌が震えた。
 
すぐそばで、警官たちが現場を囲い、テープが張られていく。
他の寮生たちは遠巻きに立ち尽くしていた。
 
「発見時刻、午前4時03分」
「頸椎破裂、回転角度180度以上。絞殺との併用の可能性あり」
「被害者の両手に明確な抵抗痕」
「スマートフォン未発見。記録デバイス不明」
 
——スマホ。
 
千咲は思い出した。
ポケットの中で、たしかに振動した感覚。
“記録”という言葉。観測。誰かが、どこかで、何かを視ていた。
 
(……見られてた……菜月の最期……)
 
意識が落ちていきそうになるのを、かろうじて止めた。
 
そのとき、ポケットがわずかに揺れた。
周囲に気づかれぬように、そっとスマホを覗く。
 
【Message_REVERB】
《観測中:Kamiya.C》
《選定支点:Horikawa Natsuki》
《観測継続判定中……》
 
言葉が、出ない。
思考の端を、冷たい鋭角が撫でていくような感触。
それはもう「誰かがいる」のではなく——“誰かがずっと見ている”という確信だった。
 
画面が消える。視線を上げると、宇田川の顔があった。
 
「……千咲……今夜、菜月ちゃんと同室だったよね……?」
 
問いかけは柔らかい。
だが、その奥に何かを探るような色があった。
 
千咲は、ほんのわずか、口を開いて答えた。
 
「……うん……本当に、寝てたの……何も知らなかった……」
 
宇田川はそれ以上、何も言わなかった。
ただ小さく頷き、千咲の肩にそっと手を添えた。
 
「今は、大丈夫。ここ、冷えるから……少し下がろう」
 
その優しさが、逆に怖かった。
 
遠くで、ストレッチャーの金属音が響いた。
遺体が運び出される。
だが菜月の顔が、最後まで千咲を見ていたような錯覚が、拭えなかった。
 
(……観測は、終わっていない)
 
そしてまた。
千咲だけが知っていた。
REVERBは、“観測”の対象をすでに更新していることを——
 
 
Scene5:「裂け目」
2025年12月23日(火) 午前05時32分。
南秋大学女子寮・神谷千咲自室
 
空はまだ群青で、夜の名残を手放さない。
女子寮の部屋。ベッドの上。
 
神谷千咲は、天井を見上げていた。
眠っていない。眠れない。
目を閉じても、あの瞬間が、鮮明に瞼の裏に焼き付いている。
 
——首が折れる音
——逆さに向けられた顔
——あの声
 
(あなたは……どうして……)
 
耳にまとわりつく。
空気に染み込んだ声の残響。
それが、ベッドの上の彼女の体を縛りつけていた。
 
***
同日午前9時5分。
南秋大学キャンパス
 
宇田川梓は、濡れたキャンパスの歩道を静かに踏みしめていた。
革靴の裏が水たまりを撫で、低い音を残す。
寒さは薄く、けれど指先には残る。
白く曇る吐息が、息苦しさの証だった。
 
歩く場所が分からなかった。
南秋大学の構内は、知っているはずなのに——“誰かに会うのが怖い”。
 
鞄は持ってきていなかった。
スマホもマナーモードのまま、通知はない。
だが心の中では、ずっと何かが鳴っている。
 
(……菜月が……)
視線が泳ぐ。
自販機、講義棟、カフェテラス。
誰にも相談できない。
何よりも、“千咲には、相談できない”。
 
あの夜、千咲は震えていた。
部屋の中、菜月が死んだ直後、泣き崩れていた。
それは、本物の恐怖に見えた。
 
……けれど。けれどその中で、一箇所だけ“色を欠いていた”。
「……どうして、起きてなかったの……?」
 
梓は呟いた。
(あの夜、菜月がエントランスで……。
 けれど、千咲は、何も知らないって、泣いて……)
 
思い出すたびに、胸がざわついた。
あの震え方、声の出し方、涙。
でも、なぜ——起きなかったの?
同じ部屋にいて、すぐ傍にいたのに。
菜月が泣いて逃げていったあの瞬間。
彼女の声は、千咲には届かなかったのか?
それとも、届いていたのに、何もできなかったのか?
 
(……違う……千咲を責めたいわけじゃない……でも……)
 
言葉にできない。
けれど、胸の中に“何かが生まれてしまった”ことだけは確かだった。
 
誰にも言えないまま、気づけば、足は構内を彷徨っていた。
講義棟。食堂のテラス。都市伝説研究会の掲示板前。
けれど、サークルの部室へは行けなかった。
誰にも顔を合わせたくなかった。
自分の中に芽生えたこの“問い”が、見透かされるのが怖かった。
 
最終的に辿り着いたのは、文学部の資料室——
静まり返った、書庫と研究机が並ぶ、朝の校舎の一角だった。
 
その前で、偶然、声をかけられた。
 
「宇田川さん?」
 
振り返ると、文学部助手の野瀬 蓮が立っていた。
淡い色のカーディガンに、眼鏡。
相変わらず感情の色が薄い表情。
 
「こんな時間に……何かありましたか?」
 
宇田川は、唇を噛みながら、ついに声を出した。
 
「……堀川菜月が……殺されました」
 
その場の空気が、わずかに揺れた。
 
野瀬は目を伏せ、数秒の沈黙ののち、淡々と答えた。
 
「また……ですか。
 ……そうですか。残念です。堀川さん……よく、教室で笑ってましたよね」
 
「……どうして……千咲は、起きてなかったんでしょうか……」
 
それは思わず出た言葉だった。
堰を切ったように、梢の目に涙が滲む。
 
「一緒にいたのに、隣で寝てたのに……。
 菜月が逃げ出して、エントランスで殺されたのに、千咲は……」
 
野瀬は、彼女をじっと見た。
その目には、一切の驚きがなかった。
 
「宇田川さん、気づいてますか。
 そういう問いが生まれる時、人は——既に“その先”を見ているんです」
 
「その先……?」
 
「“次は自分なのかもしれない”という、予感です。
 隣で何かが終わったなら、自分もまた、観測される番が来る。
 そういう順番です」
 
***
 
女子寮・千咲の部屋。
ベッドの上。
神谷千咲は、まだ背を向けたまま、動かない。
 
手元のスマホが、ひとりでに光を放つ。
 
【Message_REVERB】
《対象更新中……》
《次なる観測支点を設定中……》
 
光が消える。
部屋はまた静寂に包まれる。
しかし、REVERBは記録をやめない。
 
***
 
その夜、宇田川梓のスマホが、一度だけ、微かに震えた。
画面には何も表示されなかった。
ただ、通知領域の一部が、不自然に数ドットぶれていた。
 
梓はそれに気づき、画面を閉じた。
 
——もう何も起きませんように。
そう願った。
けれど、胸の奥にはすでに不安感だけが居座っていた。
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