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Chain_6
変調域 ― Modulation Syndrome
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Scene1:「視線の温度」
2025年12月25日(木) 午前08時02分。
南秋大学都市伝説研究会部室
夜が明けていた。
だがその光は、どこか“乾いていた”。
冷たい透明のフィルムをかぶせたような朝焼けが、南秋大学のキャンパスを照らしていた。
教室棟のガラス窓に、うっすらと千咲の顔が映っている。
ピンクベージュのマフラーに顔の下半分をうずめ、
やけに整ったその顔には、いつもの気配がなかった。
何も、感じていない。
神谷千咲は、黙ってスマートフォンの画面をスリープにした。
【Message_REVERB】
未読の通知は、一切表示されていない。
(その直前、千咲の指先が、既に削除操作をしていたかは
——誰にもわからない)
部室の扉を開けた瞬間、
空気の密度が違う、と感じた。
都市伝説研究会の一室。
長机と折りたたみ椅子。背面の書棚。貼りっぱなしの幽霊目撃地図。
そのすべてが、昨日と同じ位置にあるのに、何かが微妙に変わっていた。
そこに、宇田川梓の姿があった。
「……あ、千咲ちゃん……おはよう」
ぎこちなく笑う声。
千咲は、笑顔を返す前に一瞬“躊躇った”。
(——まだ梓ちゃん、私を見てる)
その気配が、肌をなぞるように伝わってきた。
柔らかく、しかし確実に、観測されているという“違和感”。
「……うん。おはよう、梓ちゃん」
「大丈夫……だった?」
その問いは、表面上は“心配”という形をしていた。
だがその奥には、
まるで“答えの正しさ”を測るかのような圧が含まれている。
「うん。……寝れてないけど、大丈夫」
椅子に腰を下ろしながら、千咲は視線をわざと外した。
観測から逃れるように。
けれど、それもまた“観測されていることの証明”だった。
その数秒後、伊藤歩夢が部室に現れた。
「やあ……重い空気の中で悪いけど、資料届いてたよ」
千咲は軽く頷き、机の上の封筒を受け取った。
中には都市怪異の新聞記事スクラップが綴じられていた。
「少女の絞殺体発見」「不可解なメッセージ」「掲示板に吊るされた死体」
新聞の活字すら、千咲にとってはもう“他人事”だった。
(3日前、堀川菜月が死んだ。それでも、授業はあって、大学は動いてる)
それが、この世界の“正しさ”。
彼女の中で、何かが少しずつ溶けていっていた。
「……都市伝説って、本当は“誰かの中”にしか存在しないのかもね」
梓が呟いた。
「え?」
「最近、そう思うようになってきた。
誰かが“見る”から、それが伝説になる。
でも、“誰にも見られなかった死”って、どうなるんだろうね。
……消えるのかな」
その言葉に、千咲はほんのわずかに息を止めた。
(梓ちゃん……私に聞いてるの?)
だが、返す言葉はすぐに浮かばなかった。
代わりに、伊藤が冗談交じりに割って入った。
「そういうこと言うとまた怖い怪談になっちゃうから。
そろそろ論文も意識していかないと」
「……うん、ごめん」
梓は微笑んだが、その瞳は千咲の方を向いていなかった。
まるで、誰か“見えないもの”を通して千咲を見ようとしているようだった。
昼。
構内の公園のベンチに、千咲は一人腰掛けていた。
冷たい空気に、冬の気配が混じりはじめていた。
鳥が一羽、ベンチの背後から飛び立ち、どこかへ消えていった。
彼女のスマートフォンが、手の中で静かに振動する。
ただし画面は暗いまま。
(違う。REVERBじゃない)
そう思いながら、千咲は画面をタップする。
画面には何も表示されていなかった。通知欄も、メールボックスも空。
(——でも、震えたよね)
その違和感が、腹の底で静かに熱を持ち始めていた。
遠くから、誰かの足音が聞こえた。
振り返ると、背の低い女の子がノートを抱えて歩いてくる。
中原あおいだった。
目が合ったその瞬間、
あおいは軽く千咲に頭を下げたが、言葉はなかった。
そのままベンチ脇を通り過ぎていく。
千咲の視線が、あおいの背中に吸い寄せられた。
(この子……確か、1年の時……あのプレゼンで)
ふと、思い出す。
些細な口論。発表内容の引用に対して千咲が指摘を入れた。
その後、特に関わりはなかったが、
どこかで“背中の視線”を感じることがあった。
(でも、もうどうでもいい)
そう思っていたのに、
今、視線の先で歩いていくあおいの足音がやけに耳に残っていた。
——ざっ、ざっ、ざっ。
それは、夜の空気の中に潜む“何か”を呼ぶ足音のようにも思えた。
(——誰かがまた、死ぬ)
千咲は、手のひらでスマートフォンを強く握りしめた。
空には、もう雲の輪郭が滲みはじめていた。
変わる、季節。
変わる、空気。
変わっていく、神谷千咲という存在。
そして、何よりも先に——
“視ている”者の気配が、すでに近づいていた。
Scene2:「水底のような午後」
2025年12月25日(木) 午後01時42分。
文学部第二講義棟の地下階段
千咲は、階段を降りていた。
この階段は、いつも薄暗くて、照明も妙に青白い。
壁には古びたポスターが剥がれかけ、
階段の隅には細かな砂埃がたまっている。
(あおい……)
午前の最後、講義が終わった後。
廊下の向こうで、あおいが誰かに何かを話しかけられていたのを見た。
あの距離では声は届かない。
けれど、その表情だけが印象に残っている。
「……すごく、怖い顔してたな」
呟くと、声は冷えた階段のコンクリに吸い込まれた。
そのとき、階段の下の自動ドアが開いた音がした。
開いた先は、地下書庫と、都市民俗学資料室。
千咲はそっと視線を落とし、息を整えると歩を進めた。
扉を開けた瞬間、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
外の空気より数度は低い。
誰かが、資料室の奥で何かをめくる音がする。
ページがめくられる音が、規則的に響いている。
その主は——
「……あれ、神谷さん」
目を上げたのは、中原あおいだった。
資料室の大テーブルに、民俗誌と大学の研究年報を並べて、
何やら比較をしている様子。
眼鏡の奥の目は、
まるで“どこも見ていない”かのような静けさを持っていた。
千咲は軽く頭を下げた。
「あおいさん……何を?」
「……”中原”です。いま、怪異伝承と事件記録の符号を見てます。
特に、戦後~現代にかけての“同種反復”的死因記録と都市逸話の関連を」
抑揚のない口調。
だが、言葉の一つ一つには明らかな“鋭利さ”があった。
(同種反復……)
千咲の胸に、不快なざらつきが走った。
「……なんで、そんなことを?」
「“また誰かが死ぬ”って、言ってましたよね。神谷さん」
「……え?」
「昨日、学食の横で聞きました。
あなた、誰にも聞こえないくらいの声で言ってました。
“誰かがまた死ぬ”って。……偶然、録音にも入ってたんです。
私、録音癖があるので」
一瞬、背筋が氷に包まれたような感覚がした。
(——録音……?)
「私、そういう“前言”と“事件”の時系列を見るのが癖なんです。
個人的な研究テーマみたいなものですけど。
……神谷さんは、どうしてそう思ったんですか?
誰かが死ぬって」
千咲は笑おうとしたが、喉が震えて、声にならなかった。
「……予感が、しただけ。最近、変なことが続いてたし……」
「ふうん……」
あおいは、何も言わずに手元のノートを閉じた。
「神谷さん」
「……なに?」
「あなた、自分が見られてるって思うこと、あります?」
「……は?」
「あなたは、見る側じゃなくて、見られる側なんじゃないかって。
都市伝説の観測者じゃなくて、観測対象になってる。
……そういう錯覚、しません?」
千咲は、息を呑んだ。
言葉を返す余裕がなかった。
「じゃあ、私、先に失礼します。……この資料、後で戻しといてください」
中原あおいはノートとペンを片手に、静かに資料室を出て行った。
(なんなの……この子)
千咲は、小さく震える膝を押さえるようにして椅子に座り込んだ。
その瞬間、スマートフォンがまた、静かに震えた。
画面は暗い。
だが、背面の通知ライトが、微かに青く点滅している。
(来る……)
その予感だけが、確かに、神谷千咲の鼓膜の奥で鳴り響いていた。
——REVERBの鼓動。
Scene3:「誰も見ていない廊下」
2025年12月25日(木) 午後01時29分。
南秋大学 文学部棟・中廊下。
放課後のキャンパスは、すでに夕暮れの色に染まっていた。
薄い橙がガラス越しに差し込む。
窓の外では風が木の枝を擦らせ、時折カラスの声が響く。
宇田川梓は、その廊下を一人で歩いていた。
講義はもう終わった。
誰もいない校舎の一角。
けれど、あえて誰もいない方へと足を向けていた。
(気づかれている気がする)
誰かに、ではない。
何かに。
昨日——
菜月が死んだ。
千咲の部屋で、一緒に寝ていたはずの菜月が、
真夜中に飛び出し、エントランスで“誰か”に殺された。
そして今朝、
千咲は怯えていた。
いや、震えていた。
——本当に、あれは“怯えていた”のか?
梓の足取りが止まる。
小さな物音が、後ろから響いた。
(……誰?)
振り返る。
誰もいない。
(まただ……誰もいないのに……)
そのとき、スマホが一度だけブル、と震えた。
取り出すと、通知はない。
履歴にも何も残っていない。
でも、震えた感覚は“確かにあった”。
(電波の錯乱?)
違う。
そういう“機械的な揺れ”ではなかった。
(やっぱり……見られてる)
そう思った瞬間——
階段の方から、誰かの足音が近づいてきた。
梓はとっさにロッカーの影に隠れた。
足音は一つ。
女性。
ヒールではない。
スニーカーの、柔らかいソールが、床を撫でるような音。
(……野瀬蓮?)
理学部所属の、野瀬 蓮。
あの、冷徹な“観察者”。
梓は安堵しながら、影から出ようとした。
——そのとき。
すれ違いざま、野瀬が“誰もいない空間”に向かって、つぶやいた。
「……次は、あなたの番なんですか?」
その言葉に、梓の呼吸が止まった。
(今……誰に言った?)
——まるで、目に見えない何かと会話しているように。
——いや、“観測している者”として、誰かに話しかけているように。
次の瞬間。
野瀬は、何事もなかったかのように歩き去った。
その背中が遠ざかるたびに、
廊下の空気が薄くなる。
視界が白んでいく。
梓は、冷たい壁にもたれながら、
もう一度スマホを開いた。
画面は、まだ真っ黒だ。
だが、通知ランプが点滅していた。
(また……何かが、始まる)
体が、勝手に震え始めた。
あの夜の音が、再び耳の奥で鳴り始めていた——
Scene4:「錯視 - Optical Trap」
2025年12月25日(木) 午後02時41分。
南秋大学 文学部第二講義棟の裏手。
風は鋭く、頬を撫でるというよりも、皮膚を切り裂くような感触だった。
冬の午後、陽射しはあるのに、光だけが空気から剥がれてしまったような
冷たさが残る。
宇田川梓は、通路の端で立ち尽くしていた。
空は群青に沈み、木々の枝は葉を落として剥き出しになっている。
その隙間から、講義を終えた学生たちの声が、風に乗って聞こえてくる。
けれど、ここには誰もいない。
むしろ、誰も“来てはいけない場所”に来てしまったような——そんな錯覚が、足元からせり上がってくる。
(……誰が“次”になるのか。
私じゃないとは、誰にも言えない)
そう思った瞬間、視界の隅に黒い影が差し込んだ。
「宇田川さん?」
名を呼ばれて、梓は反射的に振り返る。
そこにいたのは、冷たい黒髪を肩にかけた女子学生だった。
中原あおい。文学部二年。都市伝説研究会の後輩。
深緑のロングニットと黒のスキニー。
視線は冷たく、しかし妙に整った立ち姿。
「最近、姿を見ませんでしたよね。……大丈夫ですか?」
その声音は穏やかだった。
けれど、その穏やかさが、“本心”ではないと即座にわかるだけの精度で、
彼女の言葉は研ぎ澄まされていた。
「……まあ、なんとか」
梓は曖昧に笑う。
それは返礼というよりも、
“あまり関わりたくない”という意志の表明でもあった。
しかし、あおいは意に介した様子もなく、静かに続ける。
「今、図書館の地下閲覧室、空いてるんです。……少し、話しませんか?」
その誘いに、数秒だけ迷った末、梓は頷いた。
(誰かといた方が、まだマシかもしれない。一人きりになるよりは)
―――
同日午後3時12分。
文学部 地下閲覧室。
重い自動ドアが閉じる音とともに、空気が変わった。
ここは、階上の喧騒から切り離された密室空間だ。
薄い蛍光灯の照明。書架には古びた民俗学文献が並び、カビと紙の混じった匂いが漂っている。
誰もいない閲覧室に、あおいは迷いなく進んでいった。
テーブルに文献を広げ、ノートを開き、静かに語る。
「……神谷さん、最近変ですね」
唐突な名指しに、梓は指を止めた。
「何が?」
「昨日、学食の裏庭で聞こえました。“また、誰かが死ぬ”って。
神谷さんが、誰にも聞こえないくらいの声で、呟いてました」
ぞくりと、背筋が冷える。
「聞き間違い、じゃない?」
「そうかもしれません。でも、私、録音癖があるんです。
……証拠、あります」
さらりとそう言って、あおいは自分のノートをめくった。
メモの間に、スマホのスクリーンショットのような紙片が挟まれていた。
再生記録。音声波形。日付と時刻。
(……ほんとに録ってたの?)
「宇田川さんは、自分が見られてるって思うこと、ありますか?」
その問いは、感情ではなく興味から出たものだった。
「え……?」
「神谷さんは、——“観測されてる側”じゃないですか?」
言葉が、鈍器のように梓の意識に食い込む。
「……あなた、何を知ってるの?」
「私は、全容を知りたいだけです」
あおいはそう言って、立ち上がった。
「この資料、書棚に戻してもらえますか?
私はもう少し図書館で調べ物をしたいので。では…」
あおいは無表情のまま、別の書棚に向かう。
梓は資料を書棚に戻して、図書館を出て行った。
自動ドアが開き、閉まる音が、妙に長く響いた。
その残響を背中で感じ、梓は深く息を吐いた。
同日午後3時42分。
梓が出て行ったその瞬間。
廊下の奥、図書館の隅から——
物音がした。
「……だれ……?」
もうここにはあおいしかいない筈だった。
更に続けて、書棚の裏から鈍い物音。
机に何かが倒れる音、椅子が軋む音。
あおいは反射的に振り向いた。
「宇田川さん?」
返事はない。
再び、何かが落ちる音。
そのとき、背後の照明がパチ、と点滅した。
首に巻き付く紐状のもの。
あおいの首をギリギリと締め上げる。
その締め付けを外そうと首筋に手をやるが、更に首の肉に食い込んでいく。
「グゲ……ゴッツゴッ」
咳とも声ともつかない音が喉から滲む。
その時——耳の奥で、“何か”が這う音がした。
“ぐちゅ……ずぶ、ずぶ、ずぶ……”
湿り気を帯びた異音が、耳の内側から響いた。
——異物だ。
鼓膜を突き破り、針のような“なにか”が、脳を目指して突き進む。
音ではない、感覚だった。
中耳の奥、細かく連なる耳小骨を破砕するように、何かが進んでくる。
ズズ……ズリュッ。
——刺さった。
内耳の蝸牛の奥、岩様部の骨を軋ませながら、
それは“やや上向きの角度で脳幹へ”到達する。
その瞬間——世界が、音を失った。
感覚が反転する。
声を出したつもりが、呼吸が止まっている。
眼球がブレる。視界が凍る。
“脳が内側から壊れていく”。
咳も、呻きも、悲鳴ももう出ない。
ただ、思考だけが奇妙に明瞭なまま、意識だけが崩れ落ちる。
——耳の中で何かが“プツン”と弾けた。
それが最後の命綱だったのだと、
気づいたときには全ての終わりだった。
彼女は、その瞬間絶命した。
声にならない断末魔。
目を見開いたまま、膝から崩れ落ちるように倒れる。
開かれたノートが血で濡れていく。
——記録された“観測”対象。
机の上で、スマートフォンの画面が光を放った。
【Message_REVERB】
《観測支点:Nakahara.A》
《観測完了。映像保存中……》
……“観測”は、完了した。
“記録”も、完了している。
——だが、誰がそれを行っているのかは。
まだ、“誰にも”知られていない。
2025年12月25日(木) 午前08時02分。
南秋大学都市伝説研究会部室
夜が明けていた。
だがその光は、どこか“乾いていた”。
冷たい透明のフィルムをかぶせたような朝焼けが、南秋大学のキャンパスを照らしていた。
教室棟のガラス窓に、うっすらと千咲の顔が映っている。
ピンクベージュのマフラーに顔の下半分をうずめ、
やけに整ったその顔には、いつもの気配がなかった。
何も、感じていない。
神谷千咲は、黙ってスマートフォンの画面をスリープにした。
【Message_REVERB】
未読の通知は、一切表示されていない。
(その直前、千咲の指先が、既に削除操作をしていたかは
——誰にもわからない)
部室の扉を開けた瞬間、
空気の密度が違う、と感じた。
都市伝説研究会の一室。
長机と折りたたみ椅子。背面の書棚。貼りっぱなしの幽霊目撃地図。
そのすべてが、昨日と同じ位置にあるのに、何かが微妙に変わっていた。
そこに、宇田川梓の姿があった。
「……あ、千咲ちゃん……おはよう」
ぎこちなく笑う声。
千咲は、笑顔を返す前に一瞬“躊躇った”。
(——まだ梓ちゃん、私を見てる)
その気配が、肌をなぞるように伝わってきた。
柔らかく、しかし確実に、観測されているという“違和感”。
「……うん。おはよう、梓ちゃん」
「大丈夫……だった?」
その問いは、表面上は“心配”という形をしていた。
だがその奥には、
まるで“答えの正しさ”を測るかのような圧が含まれている。
「うん。……寝れてないけど、大丈夫」
椅子に腰を下ろしながら、千咲は視線をわざと外した。
観測から逃れるように。
けれど、それもまた“観測されていることの証明”だった。
その数秒後、伊藤歩夢が部室に現れた。
「やあ……重い空気の中で悪いけど、資料届いてたよ」
千咲は軽く頷き、机の上の封筒を受け取った。
中には都市怪異の新聞記事スクラップが綴じられていた。
「少女の絞殺体発見」「不可解なメッセージ」「掲示板に吊るされた死体」
新聞の活字すら、千咲にとってはもう“他人事”だった。
(3日前、堀川菜月が死んだ。それでも、授業はあって、大学は動いてる)
それが、この世界の“正しさ”。
彼女の中で、何かが少しずつ溶けていっていた。
「……都市伝説って、本当は“誰かの中”にしか存在しないのかもね」
梓が呟いた。
「え?」
「最近、そう思うようになってきた。
誰かが“見る”から、それが伝説になる。
でも、“誰にも見られなかった死”って、どうなるんだろうね。
……消えるのかな」
その言葉に、千咲はほんのわずかに息を止めた。
(梓ちゃん……私に聞いてるの?)
だが、返す言葉はすぐに浮かばなかった。
代わりに、伊藤が冗談交じりに割って入った。
「そういうこと言うとまた怖い怪談になっちゃうから。
そろそろ論文も意識していかないと」
「……うん、ごめん」
梓は微笑んだが、その瞳は千咲の方を向いていなかった。
まるで、誰か“見えないもの”を通して千咲を見ようとしているようだった。
昼。
構内の公園のベンチに、千咲は一人腰掛けていた。
冷たい空気に、冬の気配が混じりはじめていた。
鳥が一羽、ベンチの背後から飛び立ち、どこかへ消えていった。
彼女のスマートフォンが、手の中で静かに振動する。
ただし画面は暗いまま。
(違う。REVERBじゃない)
そう思いながら、千咲は画面をタップする。
画面には何も表示されていなかった。通知欄も、メールボックスも空。
(——でも、震えたよね)
その違和感が、腹の底で静かに熱を持ち始めていた。
遠くから、誰かの足音が聞こえた。
振り返ると、背の低い女の子がノートを抱えて歩いてくる。
中原あおいだった。
目が合ったその瞬間、
あおいは軽く千咲に頭を下げたが、言葉はなかった。
そのままベンチ脇を通り過ぎていく。
千咲の視線が、あおいの背中に吸い寄せられた。
(この子……確か、1年の時……あのプレゼンで)
ふと、思い出す。
些細な口論。発表内容の引用に対して千咲が指摘を入れた。
その後、特に関わりはなかったが、
どこかで“背中の視線”を感じることがあった。
(でも、もうどうでもいい)
そう思っていたのに、
今、視線の先で歩いていくあおいの足音がやけに耳に残っていた。
——ざっ、ざっ、ざっ。
それは、夜の空気の中に潜む“何か”を呼ぶ足音のようにも思えた。
(——誰かがまた、死ぬ)
千咲は、手のひらでスマートフォンを強く握りしめた。
空には、もう雲の輪郭が滲みはじめていた。
変わる、季節。
変わる、空気。
変わっていく、神谷千咲という存在。
そして、何よりも先に——
“視ている”者の気配が、すでに近づいていた。
Scene2:「水底のような午後」
2025年12月25日(木) 午後01時42分。
文学部第二講義棟の地下階段
千咲は、階段を降りていた。
この階段は、いつも薄暗くて、照明も妙に青白い。
壁には古びたポスターが剥がれかけ、
階段の隅には細かな砂埃がたまっている。
(あおい……)
午前の最後、講義が終わった後。
廊下の向こうで、あおいが誰かに何かを話しかけられていたのを見た。
あの距離では声は届かない。
けれど、その表情だけが印象に残っている。
「……すごく、怖い顔してたな」
呟くと、声は冷えた階段のコンクリに吸い込まれた。
そのとき、階段の下の自動ドアが開いた音がした。
開いた先は、地下書庫と、都市民俗学資料室。
千咲はそっと視線を落とし、息を整えると歩を進めた。
扉を開けた瞬間、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
外の空気より数度は低い。
誰かが、資料室の奥で何かをめくる音がする。
ページがめくられる音が、規則的に響いている。
その主は——
「……あれ、神谷さん」
目を上げたのは、中原あおいだった。
資料室の大テーブルに、民俗誌と大学の研究年報を並べて、
何やら比較をしている様子。
眼鏡の奥の目は、
まるで“どこも見ていない”かのような静けさを持っていた。
千咲は軽く頭を下げた。
「あおいさん……何を?」
「……”中原”です。いま、怪異伝承と事件記録の符号を見てます。
特に、戦後~現代にかけての“同種反復”的死因記録と都市逸話の関連を」
抑揚のない口調。
だが、言葉の一つ一つには明らかな“鋭利さ”があった。
(同種反復……)
千咲の胸に、不快なざらつきが走った。
「……なんで、そんなことを?」
「“また誰かが死ぬ”って、言ってましたよね。神谷さん」
「……え?」
「昨日、学食の横で聞きました。
あなた、誰にも聞こえないくらいの声で言ってました。
“誰かがまた死ぬ”って。……偶然、録音にも入ってたんです。
私、録音癖があるので」
一瞬、背筋が氷に包まれたような感覚がした。
(——録音……?)
「私、そういう“前言”と“事件”の時系列を見るのが癖なんです。
個人的な研究テーマみたいなものですけど。
……神谷さんは、どうしてそう思ったんですか?
誰かが死ぬって」
千咲は笑おうとしたが、喉が震えて、声にならなかった。
「……予感が、しただけ。最近、変なことが続いてたし……」
「ふうん……」
あおいは、何も言わずに手元のノートを閉じた。
「神谷さん」
「……なに?」
「あなた、自分が見られてるって思うこと、あります?」
「……は?」
「あなたは、見る側じゃなくて、見られる側なんじゃないかって。
都市伝説の観測者じゃなくて、観測対象になってる。
……そういう錯覚、しません?」
千咲は、息を呑んだ。
言葉を返す余裕がなかった。
「じゃあ、私、先に失礼します。……この資料、後で戻しといてください」
中原あおいはノートとペンを片手に、静かに資料室を出て行った。
(なんなの……この子)
千咲は、小さく震える膝を押さえるようにして椅子に座り込んだ。
その瞬間、スマートフォンがまた、静かに震えた。
画面は暗い。
だが、背面の通知ライトが、微かに青く点滅している。
(来る……)
その予感だけが、確かに、神谷千咲の鼓膜の奥で鳴り響いていた。
——REVERBの鼓動。
Scene3:「誰も見ていない廊下」
2025年12月25日(木) 午後01時29分。
南秋大学 文学部棟・中廊下。
放課後のキャンパスは、すでに夕暮れの色に染まっていた。
薄い橙がガラス越しに差し込む。
窓の外では風が木の枝を擦らせ、時折カラスの声が響く。
宇田川梓は、その廊下を一人で歩いていた。
講義はもう終わった。
誰もいない校舎の一角。
けれど、あえて誰もいない方へと足を向けていた。
(気づかれている気がする)
誰かに、ではない。
何かに。
昨日——
菜月が死んだ。
千咲の部屋で、一緒に寝ていたはずの菜月が、
真夜中に飛び出し、エントランスで“誰か”に殺された。
そして今朝、
千咲は怯えていた。
いや、震えていた。
——本当に、あれは“怯えていた”のか?
梓の足取りが止まる。
小さな物音が、後ろから響いた。
(……誰?)
振り返る。
誰もいない。
(まただ……誰もいないのに……)
そのとき、スマホが一度だけブル、と震えた。
取り出すと、通知はない。
履歴にも何も残っていない。
でも、震えた感覚は“確かにあった”。
(電波の錯乱?)
違う。
そういう“機械的な揺れ”ではなかった。
(やっぱり……見られてる)
そう思った瞬間——
階段の方から、誰かの足音が近づいてきた。
梓はとっさにロッカーの影に隠れた。
足音は一つ。
女性。
ヒールではない。
スニーカーの、柔らかいソールが、床を撫でるような音。
(……野瀬蓮?)
理学部所属の、野瀬 蓮。
あの、冷徹な“観察者”。
梓は安堵しながら、影から出ようとした。
——そのとき。
すれ違いざま、野瀬が“誰もいない空間”に向かって、つぶやいた。
「……次は、あなたの番なんですか?」
その言葉に、梓の呼吸が止まった。
(今……誰に言った?)
——まるで、目に見えない何かと会話しているように。
——いや、“観測している者”として、誰かに話しかけているように。
次の瞬間。
野瀬は、何事もなかったかのように歩き去った。
その背中が遠ざかるたびに、
廊下の空気が薄くなる。
視界が白んでいく。
梓は、冷たい壁にもたれながら、
もう一度スマホを開いた。
画面は、まだ真っ黒だ。
だが、通知ランプが点滅していた。
(また……何かが、始まる)
体が、勝手に震え始めた。
あの夜の音が、再び耳の奥で鳴り始めていた——
Scene4:「錯視 - Optical Trap」
2025年12月25日(木) 午後02時41分。
南秋大学 文学部第二講義棟の裏手。
風は鋭く、頬を撫でるというよりも、皮膚を切り裂くような感触だった。
冬の午後、陽射しはあるのに、光だけが空気から剥がれてしまったような
冷たさが残る。
宇田川梓は、通路の端で立ち尽くしていた。
空は群青に沈み、木々の枝は葉を落として剥き出しになっている。
その隙間から、講義を終えた学生たちの声が、風に乗って聞こえてくる。
けれど、ここには誰もいない。
むしろ、誰も“来てはいけない場所”に来てしまったような——そんな錯覚が、足元からせり上がってくる。
(……誰が“次”になるのか。
私じゃないとは、誰にも言えない)
そう思った瞬間、視界の隅に黒い影が差し込んだ。
「宇田川さん?」
名を呼ばれて、梓は反射的に振り返る。
そこにいたのは、冷たい黒髪を肩にかけた女子学生だった。
中原あおい。文学部二年。都市伝説研究会の後輩。
深緑のロングニットと黒のスキニー。
視線は冷たく、しかし妙に整った立ち姿。
「最近、姿を見ませんでしたよね。……大丈夫ですか?」
その声音は穏やかだった。
けれど、その穏やかさが、“本心”ではないと即座にわかるだけの精度で、
彼女の言葉は研ぎ澄まされていた。
「……まあ、なんとか」
梓は曖昧に笑う。
それは返礼というよりも、
“あまり関わりたくない”という意志の表明でもあった。
しかし、あおいは意に介した様子もなく、静かに続ける。
「今、図書館の地下閲覧室、空いてるんです。……少し、話しませんか?」
その誘いに、数秒だけ迷った末、梓は頷いた。
(誰かといた方が、まだマシかもしれない。一人きりになるよりは)
―――
同日午後3時12分。
文学部 地下閲覧室。
重い自動ドアが閉じる音とともに、空気が変わった。
ここは、階上の喧騒から切り離された密室空間だ。
薄い蛍光灯の照明。書架には古びた民俗学文献が並び、カビと紙の混じった匂いが漂っている。
誰もいない閲覧室に、あおいは迷いなく進んでいった。
テーブルに文献を広げ、ノートを開き、静かに語る。
「……神谷さん、最近変ですね」
唐突な名指しに、梓は指を止めた。
「何が?」
「昨日、学食の裏庭で聞こえました。“また、誰かが死ぬ”って。
神谷さんが、誰にも聞こえないくらいの声で、呟いてました」
ぞくりと、背筋が冷える。
「聞き間違い、じゃない?」
「そうかもしれません。でも、私、録音癖があるんです。
……証拠、あります」
さらりとそう言って、あおいは自分のノートをめくった。
メモの間に、スマホのスクリーンショットのような紙片が挟まれていた。
再生記録。音声波形。日付と時刻。
(……ほんとに録ってたの?)
「宇田川さんは、自分が見られてるって思うこと、ありますか?」
その問いは、感情ではなく興味から出たものだった。
「え……?」
「神谷さんは、——“観測されてる側”じゃないですか?」
言葉が、鈍器のように梓の意識に食い込む。
「……あなた、何を知ってるの?」
「私は、全容を知りたいだけです」
あおいはそう言って、立ち上がった。
「この資料、書棚に戻してもらえますか?
私はもう少し図書館で調べ物をしたいので。では…」
あおいは無表情のまま、別の書棚に向かう。
梓は資料を書棚に戻して、図書館を出て行った。
自動ドアが開き、閉まる音が、妙に長く響いた。
その残響を背中で感じ、梓は深く息を吐いた。
同日午後3時42分。
梓が出て行ったその瞬間。
廊下の奥、図書館の隅から——
物音がした。
「……だれ……?」
もうここにはあおいしかいない筈だった。
更に続けて、書棚の裏から鈍い物音。
机に何かが倒れる音、椅子が軋む音。
あおいは反射的に振り向いた。
「宇田川さん?」
返事はない。
再び、何かが落ちる音。
そのとき、背後の照明がパチ、と点滅した。
首に巻き付く紐状のもの。
あおいの首をギリギリと締め上げる。
その締め付けを外そうと首筋に手をやるが、更に首の肉に食い込んでいく。
「グゲ……ゴッツゴッ」
咳とも声ともつかない音が喉から滲む。
その時——耳の奥で、“何か”が這う音がした。
“ぐちゅ……ずぶ、ずぶ、ずぶ……”
湿り気を帯びた異音が、耳の内側から響いた。
——異物だ。
鼓膜を突き破り、針のような“なにか”が、脳を目指して突き進む。
音ではない、感覚だった。
中耳の奥、細かく連なる耳小骨を破砕するように、何かが進んでくる。
ズズ……ズリュッ。
——刺さった。
内耳の蝸牛の奥、岩様部の骨を軋ませながら、
それは“やや上向きの角度で脳幹へ”到達する。
その瞬間——世界が、音を失った。
感覚が反転する。
声を出したつもりが、呼吸が止まっている。
眼球がブレる。視界が凍る。
“脳が内側から壊れていく”。
咳も、呻きも、悲鳴ももう出ない。
ただ、思考だけが奇妙に明瞭なまま、意識だけが崩れ落ちる。
——耳の中で何かが“プツン”と弾けた。
それが最後の命綱だったのだと、
気づいたときには全ての終わりだった。
彼女は、その瞬間絶命した。
声にならない断末魔。
目を見開いたまま、膝から崩れ落ちるように倒れる。
開かれたノートが血で濡れていく。
——記録された“観測”対象。
机の上で、スマートフォンの画面が光を放った。
【Message_REVERB】
《観測支点:Nakahara.A》
《観測完了。映像保存中……》
……“観測”は、完了した。
“記録”も、完了している。
——だが、誰がそれを行っているのかは。
まだ、“誰にも”知られていない。
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