9 / 16
9
しおりを挟む
翌日、そろそろ終業というところで、カドゥルが変装してやってきた。
いつもきっちり決めているオレンジおびた桃色の髪は魔法で変えたのだろう。目元を隠したボサボサの茶髪はカーデルテッド大陸ではありふれた色だ。
念には念なのか、頬にそばかすを散らしているが、前髪で顔半分隠してもかえって顔の良さが際立っている。
外套は念のため脱いできたらしく、肌にぴったりと吸い付く黒い半袖インナーと騎士共通の白いズボンに鎧ブーツを履いていた。
家での傍若無人っぷりとは裏腹にカドゥルはこわごわと尋ねてきた。
「えっと、カウンセリングの時間。大丈夫ですか」
「かまわないよ。そこのイスに腰をかけて」
声まで魔法で変えたのかガサガサした声を聞くと、ほんの少しカドゥルの言ったとおり、ほかの王都を担当している騎士仲間なのかと考える。だが、すぐに杞憂だとわかった。
入ってきてからイスへ腰をかける動作が、はじめて会った時と同じ動作なのだ。その上で日頃からカドゥルの体を視界に入れていたため、引き締まった腕や体つきから答えを告げているようなものだ。
詰めが甘いなあと思いながら、腰をかけたのを見計らって尋ねた。
「名前を聞いてもいいかな」
「ルゥドカ、といいます」
「ルゥドカくんね。僕はテノだ。よろしくね」
名前を反転させただけの単純な偽名で笑いそうになるがぐっとこらえる。
偽名を名乗ってくるなら、テノもカドゥルの恋愛相談を付き合うことにした。真新しいカルテにルゥドカの名前を記入した後、膝の上に拳を握りしめてややうつむいているカドゥルに尋ねた。
「ルゥドカくんはどういうお悩みできたんだい?」
「友人のすすめで、その、恋愛相談で……きました」
前髪越しでもわかるほど顔を真っ赤にするカドゥルを眺めながら、ほかの騎士にしているよう一つ頷いて促した。
「よし、それじゃあゆっくりでいいから悩みを話してくれるかな?」
「え、えっと、その。俺、今同居してて。見た目は全然俺の好みじゃないし、そもそも男の魔物、なんです。それで、顔をつきあわせれば軽口叩いてばっかりなん……ですけど、飯うまいし、毎日弁当作ってくれるし、一緒にいるとすごく元気になるんです」
震える声で早口に告げると、カドゥルはさらに拳を握りしめて続けた。
「数ヶ月前、あいつがすごく綺麗な女性といた時、女性の方が俺好みなはずなのに、あいつと親しそうにしている女性の方にすごくムカムカして。あれから俺なりにアプローチしてるんですけど、全然恋愛対象として見られてない気がして」
「なるほど。それはまた大変な思いをしたね」
あの時の硬直は嫉妬で固まっていたのかと内心驚きつつ、カルテに書き込む。
胃袋ごと心を掴んでしまったなと他人事のように思いながら、体ごとカドゥルの方へ向き直った。
「率直に聞こう。キミはその相手とどうなりたいんだい?」
「その……、まずは恋人になって、行く行くは結婚して、ずっと俺の傍にいてほしい……です」
チラチラとテノの顔色をうかがいながら告げる思いは、普段と違って痛いぐらいまっすぐだ。
率直な好意に顔が熱くなりそうなのをなんとか抑えつつ、テノは「なるほど」と冷静に呟き、怖いもの見たさで尋ねた。
「じゃあ、もう一つ。その相手をおかずとして抜いたこととかあるかな」
今はともかく、初対面で見た目を馬鹿にされたのだ。ましてや、自分にはカドゥルの求める女体のような柔らかさは一切ない。とどのつまり、一緒にいたいことと肉欲が等しいとは限らないのがテノの持論だ。
しかし、返答は意外なものだった。
「え゛! あー……、あり、ます。というか、自覚してからずっとおかずにして、ます」
「あるのか……」
思わぬ墓穴を掘ってしまった。頭を抱えそうになるのをぐっとこらえ、一呼吸おくと続けた。
「念のため教えてほしいんだけど、キミは自分でも言っていたとおり女性が好きなんだよね?」
「は、はい。でも、その、同居人だけは別というか。洗い物してる時の無防備な後ろ姿とか見てるとすごくムラムラしてきて」
「なるほど……。その、なんだ。相手の許可なくいきなり抱きついたら相手も驚くだろうから注意するように」
やや早口で告げられた報告に冷や汗が背中を伝う。テノが思っているよりも深刻な状況にはじめて頭痛を覚えつつ、ふと浮かんだ疑問を口にした。
「そこまで好意を持ってるなら告白をすればいいじゃないか。同居人とは悪くないんだろ?」
張本人である自分としては困るが、一般的に見ればカドゥルほど優良物件はない。見た目もさながら、騎士というエリートだから安定した収入もある。テノに対しては暴言を吐きがちだが、同じ騎士仲間をはじめとした相手には暴言を吐いていない様子から、テノ以外には朗らかに接しているだろう。
カドゥルは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたと思いきや、ボンッと音が鳴りそうなほど耳や首まで真っ赤になった。
「それができてたら相談は、しません……」
「そりゃそうか。なら、キミ自身、思うところがあるわけだ」
「ぐっ」
ぎゅっと胸元を握りしめてうつむくカドゥルにテノは腕を組んだ。
「キミが考える原因を言ってごらん。可能な限り助言するからさ」
そうすれば、カドゥルは胸元からそっと手を離し、顔を上げるとポツポツと語り出した。
「俺は孤児院出身で、そこでは年長だったからずっとあいつらの兄ちゃんをしてて。だから、その特別扱いとかされたことなくて。優しくされると照れくさくて、それをごまかすために言い方が荒くなってしまうというか」
「ありゃりゃ、それはまた難儀だね」
カドゥルの告白を聞いた上で改めて今までの言動を考えれば納得いく。
逆に言えば、それをしてしまうのは、テノなら許してくれるというカドゥルの無自覚な甘えでもあるのだ。だが、カドゥルも言っているとおり、きつい物言いをされて好きになる物好きは早々にいない。それこそ、されている方が心底惚れているなら別だが――。
現状、カドゥルから見てテノが向けてくる感情は、魔物であるが故に契約上仕方なく同居人をしているだけに映っているのだろう。その点に関しては事実なためテノも否定しようがない。
テノは自身の顎を撫でながら「そうだねえ」とのんびりと呟いた。
「なら、まずは同居人の優しさを素直に受け止めるのはどうかな」
「素直に……」
「うん。同居を続けているのなら少なくともキミのことを嫌っていないはずだ」
それはテノのまぎれもない本音だ。金銭面をカドゥルが担っているという現金な部分もあるが、それはそれとして、カドゥルとの生活は一人で気ままに暮らすよりずっと楽しいのだ。
シンと静まり、窓からかすかに聞こえる街の喧騒が妙にはっきり聞こえる。窓から差し込む夕日は沈みかけているからか、いくぶん部屋が薄暗い。
気まずい雰囲気を断ち切るため、テノは時計に目をやるとあえて明るい声で告げた。
「おっと、時間だ! はい、今日のカウンセリングはここでおしまい! ほら、ルゥドカくんも帰った帰った!」
「え、でも、俺」
イスから立ち上がると眉を下げて不安な表情をするカドゥルの肩を軽く叩いた。
「カウンセリングしてほしいなら明日もおいで。僕はここにいるからさ」
視線を合わせるようかがめば、カドゥルは唇を引き結ぶとコクコクと勢いよく頷いて立ち上がった。そして「ありがとうございました」とぎこちなく礼を述べるなり、早足で出て行った。
一人残ったテノは姿勢を正すと、片手を腰に手を当てながら妙に早い鼓動と火照る顔をごまかすようにクリップボードを手に取って顔を扇いだ。
「ただいまー」
顔の火照りが引くまで仕事場を整理してきたせいか、いつもより遅れた。てっきりカドゥルの文句が飛んでくると思っていたが、意外にも返答がない。
手を洗って、リビングキッチンに入れば、カドゥルはソファに座って本を読んでいたようだ。長い足を組んで集中して読書をする姿はやはり絵になる。自室ならともかく、リビングキッチンで本を読むのは珍しい。鞄をソファの端に置くと、興味本位で尋ねた。
「カドゥルくん、なんの本読んでんの?」
「え゛っ、あー。なんでもねえよ!」
テノが本の表紙を見ようとしゃがめば、慌てて閉じた本をソファと腰の間へと隠した。視線を少しさまよわせた後、緊張した声でぼそりと言ってきた。
「その、なんだ。おかえり」
まさかの言葉にテノは思わずカドゥルを凝視した。カドゥルの頬を赤く、額には緊張からかほんのり汗が浮かんでいる。
ありきたりな、たった一言だ。テノはパチパチと目をしばたいた。
「カドゥルくん。おかえりって言葉知ってたの?」
「てめえ、俺をなんだと思ってやがる」
唸るように睨んでくるカドゥルに、テノは目をこれでもかと見開いて大げさに肩をすくめた。
「だって、キミ。同居してから結構経つのに、僕が帰ってきても一言目には『飯!』か『おう』だったじゃん。だから、てっきり『おかえり』って言葉知らないかと思って」
「べ、別にっ、なんか、その……、言いづらかっただけだっつーの!」
さらに耳を真っ赤にしてそっぽを向いたカドゥルはわざとらしく怒鳴った。
今までだったらこの反応も怒りっぽいおこちゃまだとあきれたが、恋愛相談を聞いてからだと単に恥ずかしがっているだけなのだとわかる。
こうして理解して目にすると、かわいげがあるじゃないかと思ってしまう。だからなのか、頬がゆるんだ。
「おかえりがきちんと言えたカドゥルくんには、ご褒美にシャーベット作ってあげるよ」
ふふっと小さく笑って言えば、視線だけテノに向けたカドゥルがすねた口調で言ってきた。
「んじゃ、レモンジンジャーがいい」
「はいはい。レモンジンジャーね」
助言したことをすぐ実行する行動力と素直なところはカドゥルの長所だろう。
思いっきり頭を撫でて褒めてやりたいが、あくまでルゥドカとして相談しに来ているため我慢だ。
いつもきっちり決めているオレンジおびた桃色の髪は魔法で変えたのだろう。目元を隠したボサボサの茶髪はカーデルテッド大陸ではありふれた色だ。
念には念なのか、頬にそばかすを散らしているが、前髪で顔半分隠してもかえって顔の良さが際立っている。
外套は念のため脱いできたらしく、肌にぴったりと吸い付く黒い半袖インナーと騎士共通の白いズボンに鎧ブーツを履いていた。
家での傍若無人っぷりとは裏腹にカドゥルはこわごわと尋ねてきた。
「えっと、カウンセリングの時間。大丈夫ですか」
「かまわないよ。そこのイスに腰をかけて」
声まで魔法で変えたのかガサガサした声を聞くと、ほんの少しカドゥルの言ったとおり、ほかの王都を担当している騎士仲間なのかと考える。だが、すぐに杞憂だとわかった。
入ってきてからイスへ腰をかける動作が、はじめて会った時と同じ動作なのだ。その上で日頃からカドゥルの体を視界に入れていたため、引き締まった腕や体つきから答えを告げているようなものだ。
詰めが甘いなあと思いながら、腰をかけたのを見計らって尋ねた。
「名前を聞いてもいいかな」
「ルゥドカ、といいます」
「ルゥドカくんね。僕はテノだ。よろしくね」
名前を反転させただけの単純な偽名で笑いそうになるがぐっとこらえる。
偽名を名乗ってくるなら、テノもカドゥルの恋愛相談を付き合うことにした。真新しいカルテにルゥドカの名前を記入した後、膝の上に拳を握りしめてややうつむいているカドゥルに尋ねた。
「ルゥドカくんはどういうお悩みできたんだい?」
「友人のすすめで、その、恋愛相談で……きました」
前髪越しでもわかるほど顔を真っ赤にするカドゥルを眺めながら、ほかの騎士にしているよう一つ頷いて促した。
「よし、それじゃあゆっくりでいいから悩みを話してくれるかな?」
「え、えっと、その。俺、今同居してて。見た目は全然俺の好みじゃないし、そもそも男の魔物、なんです。それで、顔をつきあわせれば軽口叩いてばっかりなん……ですけど、飯うまいし、毎日弁当作ってくれるし、一緒にいるとすごく元気になるんです」
震える声で早口に告げると、カドゥルはさらに拳を握りしめて続けた。
「数ヶ月前、あいつがすごく綺麗な女性といた時、女性の方が俺好みなはずなのに、あいつと親しそうにしている女性の方にすごくムカムカして。あれから俺なりにアプローチしてるんですけど、全然恋愛対象として見られてない気がして」
「なるほど。それはまた大変な思いをしたね」
あの時の硬直は嫉妬で固まっていたのかと内心驚きつつ、カルテに書き込む。
胃袋ごと心を掴んでしまったなと他人事のように思いながら、体ごとカドゥルの方へ向き直った。
「率直に聞こう。キミはその相手とどうなりたいんだい?」
「その……、まずは恋人になって、行く行くは結婚して、ずっと俺の傍にいてほしい……です」
チラチラとテノの顔色をうかがいながら告げる思いは、普段と違って痛いぐらいまっすぐだ。
率直な好意に顔が熱くなりそうなのをなんとか抑えつつ、テノは「なるほど」と冷静に呟き、怖いもの見たさで尋ねた。
「じゃあ、もう一つ。その相手をおかずとして抜いたこととかあるかな」
今はともかく、初対面で見た目を馬鹿にされたのだ。ましてや、自分にはカドゥルの求める女体のような柔らかさは一切ない。とどのつまり、一緒にいたいことと肉欲が等しいとは限らないのがテノの持論だ。
しかし、返答は意外なものだった。
「え゛! あー……、あり、ます。というか、自覚してからずっとおかずにして、ます」
「あるのか……」
思わぬ墓穴を掘ってしまった。頭を抱えそうになるのをぐっとこらえ、一呼吸おくと続けた。
「念のため教えてほしいんだけど、キミは自分でも言っていたとおり女性が好きなんだよね?」
「は、はい。でも、その、同居人だけは別というか。洗い物してる時の無防備な後ろ姿とか見てるとすごくムラムラしてきて」
「なるほど……。その、なんだ。相手の許可なくいきなり抱きついたら相手も驚くだろうから注意するように」
やや早口で告げられた報告に冷や汗が背中を伝う。テノが思っているよりも深刻な状況にはじめて頭痛を覚えつつ、ふと浮かんだ疑問を口にした。
「そこまで好意を持ってるなら告白をすればいいじゃないか。同居人とは悪くないんだろ?」
張本人である自分としては困るが、一般的に見ればカドゥルほど優良物件はない。見た目もさながら、騎士というエリートだから安定した収入もある。テノに対しては暴言を吐きがちだが、同じ騎士仲間をはじめとした相手には暴言を吐いていない様子から、テノ以外には朗らかに接しているだろう。
カドゥルは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたと思いきや、ボンッと音が鳴りそうなほど耳や首まで真っ赤になった。
「それができてたら相談は、しません……」
「そりゃそうか。なら、キミ自身、思うところがあるわけだ」
「ぐっ」
ぎゅっと胸元を握りしめてうつむくカドゥルにテノは腕を組んだ。
「キミが考える原因を言ってごらん。可能な限り助言するからさ」
そうすれば、カドゥルは胸元からそっと手を離し、顔を上げるとポツポツと語り出した。
「俺は孤児院出身で、そこでは年長だったからずっとあいつらの兄ちゃんをしてて。だから、その特別扱いとかされたことなくて。優しくされると照れくさくて、それをごまかすために言い方が荒くなってしまうというか」
「ありゃりゃ、それはまた難儀だね」
カドゥルの告白を聞いた上で改めて今までの言動を考えれば納得いく。
逆に言えば、それをしてしまうのは、テノなら許してくれるというカドゥルの無自覚な甘えでもあるのだ。だが、カドゥルも言っているとおり、きつい物言いをされて好きになる物好きは早々にいない。それこそ、されている方が心底惚れているなら別だが――。
現状、カドゥルから見てテノが向けてくる感情は、魔物であるが故に契約上仕方なく同居人をしているだけに映っているのだろう。その点に関しては事実なためテノも否定しようがない。
テノは自身の顎を撫でながら「そうだねえ」とのんびりと呟いた。
「なら、まずは同居人の優しさを素直に受け止めるのはどうかな」
「素直に……」
「うん。同居を続けているのなら少なくともキミのことを嫌っていないはずだ」
それはテノのまぎれもない本音だ。金銭面をカドゥルが担っているという現金な部分もあるが、それはそれとして、カドゥルとの生活は一人で気ままに暮らすよりずっと楽しいのだ。
シンと静まり、窓からかすかに聞こえる街の喧騒が妙にはっきり聞こえる。窓から差し込む夕日は沈みかけているからか、いくぶん部屋が薄暗い。
気まずい雰囲気を断ち切るため、テノは時計に目をやるとあえて明るい声で告げた。
「おっと、時間だ! はい、今日のカウンセリングはここでおしまい! ほら、ルゥドカくんも帰った帰った!」
「え、でも、俺」
イスから立ち上がると眉を下げて不安な表情をするカドゥルの肩を軽く叩いた。
「カウンセリングしてほしいなら明日もおいで。僕はここにいるからさ」
視線を合わせるようかがめば、カドゥルは唇を引き結ぶとコクコクと勢いよく頷いて立ち上がった。そして「ありがとうございました」とぎこちなく礼を述べるなり、早足で出て行った。
一人残ったテノは姿勢を正すと、片手を腰に手を当てながら妙に早い鼓動と火照る顔をごまかすようにクリップボードを手に取って顔を扇いだ。
「ただいまー」
顔の火照りが引くまで仕事場を整理してきたせいか、いつもより遅れた。てっきりカドゥルの文句が飛んでくると思っていたが、意外にも返答がない。
手を洗って、リビングキッチンに入れば、カドゥルはソファに座って本を読んでいたようだ。長い足を組んで集中して読書をする姿はやはり絵になる。自室ならともかく、リビングキッチンで本を読むのは珍しい。鞄をソファの端に置くと、興味本位で尋ねた。
「カドゥルくん、なんの本読んでんの?」
「え゛っ、あー。なんでもねえよ!」
テノが本の表紙を見ようとしゃがめば、慌てて閉じた本をソファと腰の間へと隠した。視線を少しさまよわせた後、緊張した声でぼそりと言ってきた。
「その、なんだ。おかえり」
まさかの言葉にテノは思わずカドゥルを凝視した。カドゥルの頬を赤く、額には緊張からかほんのり汗が浮かんでいる。
ありきたりな、たった一言だ。テノはパチパチと目をしばたいた。
「カドゥルくん。おかえりって言葉知ってたの?」
「てめえ、俺をなんだと思ってやがる」
唸るように睨んでくるカドゥルに、テノは目をこれでもかと見開いて大げさに肩をすくめた。
「だって、キミ。同居してから結構経つのに、僕が帰ってきても一言目には『飯!』か『おう』だったじゃん。だから、てっきり『おかえり』って言葉知らないかと思って」
「べ、別にっ、なんか、その……、言いづらかっただけだっつーの!」
さらに耳を真っ赤にしてそっぽを向いたカドゥルはわざとらしく怒鳴った。
今までだったらこの反応も怒りっぽいおこちゃまだとあきれたが、恋愛相談を聞いてからだと単に恥ずかしがっているだけなのだとわかる。
こうして理解して目にすると、かわいげがあるじゃないかと思ってしまう。だからなのか、頬がゆるんだ。
「おかえりがきちんと言えたカドゥルくんには、ご褒美にシャーベット作ってあげるよ」
ふふっと小さく笑って言えば、視線だけテノに向けたカドゥルがすねた口調で言ってきた。
「んじゃ、レモンジンジャーがいい」
「はいはい。レモンジンジャーね」
助言したことをすぐ実行する行動力と素直なところはカドゥルの長所だろう。
思いっきり頭を撫でて褒めてやりたいが、あくまでルゥドカとして相談しに来ているため我慢だ。
24
あなたにおすすめの小説
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
悪役のはずだった二人の十年間
海野璃音
BL
第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。
破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!
永川さき
BL
魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。
ただ、その食事風景は特殊なもので……。
元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師
まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。
他サイトにも掲載しています。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる