秘密がばれた竜王は従者たちに求愛される

天霧 ロウ

文字の大きさ
上 下
15 / 31

15

しおりを挟む
 竜将たちと恋人になって早二ヶ月。ゲオルグとハリューシカが朝の挨拶代わりにキスをしてくることとベルケットから告白された以外は変わったことはなかった。

「最近セレンケレンからの報告がないな」

 セレンケレンは竜将になってから一度も報告を欠いたことがない。あたりまえだと思っていたが、ここ二週間姿を見ていないのだ。なにげないクローツェルの呟きにベルケットが淡々と返した。

「セレンケレンなら成長期で東棟にある風の竜将にこもっております」
「成長期とはこもるほどつらいものなのか?」

 自我が目覚めた時からすでに成竜のため成長期でこもるというのがクローツェルにはわからない。クローツェルの疑問にゲオルグが大きなあくびをした。

「個体によるんじゃねえの? 俺は痛みとかなかったし」
「ベルケットはどうだ?」
「遠い昔のことなので正直覚えておりません。ただ、覚えてないということは記憶に残るほどのことでなかった出来事かと」
「そうか……」

 二匹とも竜の中では頑強な体の傾向がある。しなやかな風竜はどちらかといえば水竜と同じ部類だ。ハリューシカがいれば参考になったが、あいにく今日はハリューシカが見回り担当だ。
 とはいえ、クローツェルから見ても生真面目に映るセレンケレンがそのことを報告できずに自室にこもるほどだ。よほどのことなのだろう。

「ふむ、様子を見に行くか」
「はあ? あんたが行ってどうすんだよ。放っておけよ」
「竜将を癒やすのは私の責務だ。それにセレンケレンには以前花冠をもらってるからな。ベルケット、ゲオルグが変なことをしでかさないか見張っておいてくれ」
「王の命とあれば」

 背後でゲオルグが喚いていたが、その声もベルケットが一言告げれば聞こえなくなった。



「セレンケレン、入るぞ」

 セレンケレンの部屋の前に声をかける。元気なセレンケレンであればすぐに応答があるはずだが、いくら待っても返答はない。
 扉に触れて鍵を解き、中に入る。
 はじめて入るセレンケレンの部屋は窓際に植物の鉢がおいてあり、全体的にすっきりした印象の家具で統一されていた。その中でも目立つのが大きく盛り上がったベッドだ。クローツェルが入ってきたことに気づいてないのか、かすかだが呻き声のようなものが聞こえてくる。
 驚かさないようにゆっくりと近づいて掛け布団ごしに声をかけた 。

「セレンケレン、大丈夫か」
「クローツェル……様?」

 かすかに掛け布団が持ち上がり少しざらついた低い声が聞き返してくる。クローツェルは目線を合わせるように膝をつくと掛け布団の中から爛々と輝く翡翠色の瞳を見つめ返した。

「ああ、私だ。ベルケットから話は聞いた。成竜への成長おめでとう。それにしても声すごいな」
「成長期の影響で喉がすごく腫れてるとハリューシカさんに言われました」
「どのくらいで落ち着きそうだ?」
「体の変化は終わってるので、あと三日もすれば大丈夫みたいです。報告できず、申し訳ありませんでした」

 苦笑交じりに返してくると、もぞもぞとセレンケレンが動いた。

「あの、クローツェル様。どうして来てくださったんですか?」
「つらい思いをしている竜将を癒やすのは私の義務だからだ」
「……そう、ですよね」

 あからさまに落胆している声からどうやらセレンケレンの意に沿わなかったようだ。気が紛れるかわからないが布団越しに頭だと思われる場所を優しく撫でてやる。

「せっかく来たんだ。なにか私にしてほしいことはあるか」
「それじゃあ……手を、握ってくれませんか?」
「ああ、いいとも」
「ありがとうございます、クローツェル様」

 ためらいがちに差し出された手は少し節くれて独特の豆があり確かにセレンケレンの手だが、明らかにクローツェルの手より大きくなっていた。手が一回り以上大きくなったのであれば、体もそれ相応に大きくなっただろう。
 感心しながらセレンケレンの手を握れば、こわごわと握り返してくる。ガラス細工に触れるような接し方がおかしくて自然と笑い声が漏れてしまう。

「セレンケレン、私はお前が思うほどやわではないぞ」
「そうは言われましても、まだ力加減がうまくできなくて……。クローツェル様を傷つけたらと思うと怖いんです」
「お前が私を傷つけることなんて起きるはずない。お前は私を気遣ってくれるじゃないか」

 はっきりと言えば、かすかにセレンケレンが息を飲む音が聞こえた。ためらいがちに握られていた手に力がこもり「そんなことありません」とセレンケレンの声が震える。

「僕だってこれでも雄です。本能のままにクローツェル様を犯したいって考えてしまう時だってあります。でも、そんなことをしたらクローツェル様に嫌われる。それが怖くてしないだけなんです」

 握りしめてくる手は自分の手よりも大きいのに不思議と小さく見える。小刻みに震える手を握り返せば、ビクッと跳ねた。

「セレンケレンは優しいな」
「クローツェル様、僕の話聞いてました?」
「聞いていたとも。その上で私はお前は優しい竜だと判断したのだ」

 わずかに目を伏せて掛け布団越しにセレンケレンの頭を撫でた。

「お前の自己保身が結果的に私の意思を尊重しているのは事実だろう。なにを気に病む必要がある」

 それで助かっているのだからクローツェルからしてみればなんの問題もない。ベッドからはみ出たセレンケレンの尻尾の先が丸まり、握る手にさらに力がこもる。

「クローツェル様、もう一つお願いしてもいいですか?」
「なんだ、言ってみろ」

 気分がいいこともあって今ならたいていのことは叶えてやってもよかった。セレンケレンは意を決したようにガバッと起き上がると掛け布団を放った。

「クローツェル様を抱きしめたいです」

 そう言ってきたセレンケレンはこの間までクローツェルより頭一つ分小さくあどけない竜とは思えないほど男前になっていた。クローツェルから見ても細かった腕や薄かった体と腕も雄らしく筋肉がついて引き締まっていた。下半身だってそうだ。
 あどけなさを残しつつ大人びた顔立ちは記憶にあるセレンケレンの名残は残っていてももはや子竜とはいえない。あまりにも変わった姿にあっけにとられている間にためらいがちに握っている手に力が込められる。

「今の僕は嫌、ですか?」
「そうはいってないだろう」

 成長期による興奮作用のせいなのかやや強引なセレンケレンに戸惑う。しばらく見つめ合った末、クローツェルは立ち上がるとベッドへと腰をかけてセレンケレンに寄りかかった。

「ク、クローツェル様?」
「私を抱きしめたいのだろう? 好きにするがいい」

 ちらっと上目遣いでセレンケレンを見据えれば、セレンケレンは唇を噛みしめるとためらいがちに背後から腕を回してきた。そのままクローツェルの肩に額を押し当ててくる。

「ありがとうございます、クローツェル様」
「礼など不要だ。……恋人とはそういうものなのだろう?」

 クローツェルには恋人というものがまだなにかわからない。それでも密着するのは恋人の特権だというのはほかの竜将からの行動で察することができた。それらを経験した上でセックスはまだ抵抗感があるが抱きしめられてお互いの体温を感じるのはまんざら悪くない。
 かすかに息をのむ音についで腹に回された腕に力がこもる。くしゃくしゃとセレンケレンの頭を撫で、お互いの尻尾をどちらとともなく絡めるとくすぐったさもあるが充足感を覚えた。
 しばらくそうしていると「クローツェル様」とセレンケレンが呼んできた。

「どうした」
「まだ先の話なんですけど、もう少し寒くなったら二匹だけで出かけませんか? クローツェル様と一緒に見たいものがあるんです」
「なら今度は雨で体を冷やさないようにしないとな」

 以前一緒に出かけたときのことを思い出して呟けば、うめき声とともに「精進します」とセレンケレンが応えたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真面目な部下に開発されました

佐久間たけのこ
BL
社会人BL、年下攻め。甘め。完結までは毎日更新。 ※お仕事の描写など、厳密には正しくない箇所もございます。フィクションとしてお楽しみいただける方のみ読まれることをお勧めします。 救急隊で働く高槻隼人は、真面目だが人と打ち解けない部下、長尾旭を気にかけていた。 日頃の努力の甲斐あって、隼人には心を開きかけている様子の長尾。 ある日の飲み会帰り、隼人を部屋まで送った長尾は、いきなり隼人に「好きです」と告白してくる。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

兄に魔界から追い出されたら祓魔師に食われた

紫鶴
BL
俺は悪魔!優秀な兄2人に寄生していたニート悪魔さ! この度さすがに本業をサボりすぎた俺に1番目の兄が強制的に人間界に俺を送り込んで人間と契約を結べと無茶振りをかましてきた。 まあ、人間界にいれば召喚されるでしょうとたかをくくっていたら天敵の祓魔師が俺の職場の常連になって俺を監視するようになったよ。しかもその祓魔師、国屈指の最強祓魔師なんだって。悪魔だってバレたら確実に殺される。 なんで、なんでこんなことに。早くおうち帰りたいと嘆いていたらある日、とうとう俺の目の前に召喚陣が現れた!! こんな場所早くおさらばしたい俺は転移先をろくに確認もせずに飛び込んでしまった! そして、目の前には、例の祓魔師が。 おれ、死にました。 魔界にいるお兄様。 俺の蘇りの儀式を早めに行ってください。あと蘇ったら最後、二度と人間界に行かないと固く誓います。 怖い祓魔師にはもうコリゴリです。 ーーーー ざまぁではないです。基本ギャグです(笑) こちら、Twitterでの「#召喚される受けBL」の企画作品です。 楽しく参加させて頂きました!ありがとうございます! ムーンライトノベルズにも載せてますが、多少加筆修正しました。

処理中です...