秘密がばれた竜王は従者たちに求愛される

天霧 ロウ

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 自室に戻った途端、勝手に室内に入っていたベルケットとハリューシカが一気に距離を詰めてきた。

「陛下! どこに行っていたんですか?! 急に魔力が感知できなくなって私は心臓が止まりましたよ!」
「王よ、出かける時は必ずどこに行くか告げてから出るとの決まりだったはずだが」

 青い瞳に涙をにじませてぎゅうぎゅうと抱きしめてくるハリューシカと表情こそ変わらないがベルケットからにじみ出る空気がいつになく重い。

「心配かけてすまない。今後は気をつける」
「わかっていただければ自分はじゅうぶんです。お怪我は?」
「ああ、大丈夫だ」

 ハリューシカの背中をポンポンと叩きながらベルケットに微笑めば、ベルケットは耳の先を赤くしてわずかに目を伏せた。

「であれば、自分からは何も言うことはありません。セレンケレンとゲオルグに王が戻ってきたことを伝えておきます」
「セレンケレンはともかく、ゲオルグも私を探していたのか?」

 たくさんの両性具有を囲うゲオルグにとってクローツェルもその一匹でしかないのと元々忠誠心がほかの三匹よりも感じなかったため気にしていないと思っていた。きょとんとするクローツェルの額にキスをしたハリューシカが「はい」と応えた。

「私ほどではありませんが、陛下がいなくなったと知るなりすごい勢いで島から出ていきましたよ。ベルケット殿の報告を受けてそろそろ帰ってくると思います」
「そうか、セレンケレンはどうだ?」
「セレンケレンも今こちらに向かっております」
「わかった。……そろい次第、お前たちに伝えたいことがある」

 先ほどクオルに言われたことを思い出して言えば、二匹の顔と尻尾が固まった。だが、それも一瞬でいつも通りになる。
 ハリューシカがそっとクローツェルから離れると優しく微笑んだ。

「では玉座に向かいましょう。陛下のお言葉を聞くなら、あそこが一番ふさわしいです」
「いや、王としてではなく私一個体としての言葉だから私の部屋でいい。それとハリューシカ、紅茶を入れてくれるか。今は無性にお前の紅茶が飲みたい」

 ハリューシカを少し見上げて頼めば、ハリューシカがパッと顔を輝かせて大きく頷いた。

「わかりました! すぐにお入れしますのでお待ちください!!」
「ああ、頼む」

 深々と頭を下げた後水竜とは思えない早さでハリューシカが部屋を出て行く。
 ベルケットに促されてベッドに腰を下ろそうとすれば、ハリューシカと入れ違いに慌ただしく駆け込んできたセレンケレンによっていきなり背後から抱きしめられた。

「クローツェル様! よかった……。無事で本当によかった……」

 体に回るセレンケレンの腕は小さく震え、肩に押しつけられた顔からはほんの少しだけ湿り気を感じた。珍しく取り乱したセレンケレンを肩越しでじっと見つめるとポンポンと優しく頭を叩いた。

「セレンケレンにも心配かけたな」
「ほんと、もう。でかける時はきちんと言ってください……」

 スンと鼻を鳴らしてセレンケレンの腕がそっと緩まった。セレンケレンの方を振り返ると今度は少し乱暴にわしゃわしゃと頭を撫でてやった。
 その様子を眺めていたベルケットに気づくとクローツェルは腕を精一杯伸ばしてセレンケレンと同じようにベルケットの頭を撫でてやった。

「王よ、急にどうされた」
「お前もしてほしいのかと思ったが。違うのか」

 セレンケレンとは違って硬い髪はさすが地竜だろう。背伸びをして撫でているとベルケットがそっち身をかがめた。その様子にクローツェルはふっと微笑んだ。

「こういうのもたまには悪くないだろう?」
「そう、だな……」

 古竜なこともあってさすがに照れくさいのかベルケットの耳の先がほんのりと赤くなっていた。
 二匹の頭を飽きることなく撫でていれば、荒々しい足音が近づいてくる。ついで扉を壊す勢いで乱暴に開かれた。

「おい、クローツェル! 俺様の卵を孕んだくせに勝手にいなくなるんじゃねえ!!」

 扉も開けっぱなしにして大股でゲオルグがそばに来ると腕を組んでギロッと見下ろしてくる。

「あと俺の目の前でほかの奴にデレんな。甘やかすな。優しくするな」
「いつまで経ってもお前は幼竜みたいだな」
「あ゛?」

 ゲオルグは苛立ちを隠す気もないのかバシバシと尻尾を荒々しく床に叩きつけた。
 クローツェルはセレンケレンとベルケットを撫でるのを止めていまだに抱きしめているセレンケレンに離れるように促した。セレンケレンはハッとすると顔を赤くして抱きしめていた腕を解いた。
 ゲオルグは自分の要望が通ったのが嬉しかったのか、一転して唇の端をつり上げて満足げに笑った。そしてバッと両手を広げた。

「ん」
「なんだその手は」

 意図は察するもののあえて聞くとゲオルグはフンフンと鼻を鳴らした。

「俺にもぎゅっとしろ」
「お前からすればいいだろう」

 あきれて言い返せばゲオルグはあっけにとれるものの、すぐに唇を尖らせた。

「やだ。俺からしたらなんか癪だし。とにかく! お前からぎゅっとしろ!!」

 ギャンギャンと吠えるゲオルグにクローツェルは深いため息をついた。ゲオルグの方を向くと体当たりする勢いで抱きついた。そうすればゲオルグの体温が一瞬だが一気に熱くなったが、すぐに体温は下がり乱暴に力強く抱きしめてきた。

「勝手にどっかいってんじゃねーよ。心配させんな」
「お前が私を心配する日がくるとはな。そういえば、さっき私の名前を呼んだし、長生きしてみるものだ」
「……」

 感慨深さに思わず呟くがゲオルグからの返答はない。
 ハリューシカの鼻歌交じりにワゴンを引く音が聞こえてきてゲオルグに離れるよう背中を叩くもののまるで時が止まったかのようにぴくりと動きもしない。不思議に思って顔をのぞき込めば、ゲオルグは唇を引き結び、汗を浮かべて真っ赤になっていた。
 珍しいゲオルグの照れをまじまじと眺めていればふわりと嗅ぎ慣れた紅茶の匂いがした。

「陛下、紅茶をお持ちしまし……、ゲオルグ! 貴様、陛下から離れろ!!」

 クワッと目を見開いてハリューシカが怒鳴れば、ゲオルグもハッとしてぎこちなくクローツェルを離した。同時にさっきと打って変わってクローツェルと目を合わせないように顔をそむける始末だ。
 ようやく解放されたクローツェルはベッドに腰を下ろした。
 ハリューシカから入れたての紅茶を受け取ると一口飲んで、改めて気持ちを落ち着かせる。これから告げる内容を思うとお気に入りの紅茶もいつになく渋さを感じる。受け皿とともに紅茶をベッドサイドテーブルに置く。祈るように組んだ両手を足を組んだ膝の上に置いて竜将たちを一瞥する。

「全員そろったな。立っているのもなんだ。各々楽にしてくれ」

 そう告げるものの珍しく全員クローツェルの方を向いて一斉に床に片膝をついて頭を垂れた。こういうときに限ってかしこまられるとかえってやりづらい。だが、これが本来竜王と竜将の正しい関係なのだ。
 クローツェルはゆっくり瞬きをするとまっすぐ竜将たちを見据えて告げた。

「私は竜王だ。特定のものを愛することは決してない。常に平等であるべきだと考えていた。それはお前たちと恋人という間柄になっても変わらない」

 そこで一度言葉を句切ると早鐘を打つ鼓動を落ち着かせるようにぎゅっと手を握りしめた。

「変わらないと、思っていたのだ。けれど、竜将ではなく一個体としてのお前たちと一緒にいると以前は感じなかった胸の高鳴り、顔が熱くなって落ち着くのに落ち着かないというわけのわからない気分になってしまう。おまけに不快と恐怖しかなかったセックスが今はとても満たされた心地になるのだ」

 クオルからもらった助言の通りにあのとき思ったことをそのまま口にする。
 ベッドに腰掛けているのに今までにない不安に妙な浮遊感を覚えた。それでもさっきの思いを吐露したのをきっかけに言葉は滑り落ちてくる。

「私はお前たちを愛してしまったのだろう。卵ができたのがその証拠だ。だが、お前たちが私という個に好意をもっているのか、それとも私がとうに滅んだ雌竜の素質を持っているから好意を抱いているのか。その違いがいまだにわからないのだ」

 クローツェルの言葉に竜将たちが息をのむが伝わってくる。
 シンと静まった室内はいつになく重い。だが、それもほんの一瞬で真っ先に顔を上げて口を開いたのはベルケットだった。

「王よ、勝手に顔を上げることをどうか許してほしい。自分は以前あなたに告げたとおり、芽生えた自我があなたでよかった。それは自分がクローツェルという自我を愛しているからだ」

 ベルケットを凝視していると「クローツェル様」とかけ声とともにセレンケレンが顔を上げた。

「確かに今思えば、僕はクローツェル様の雌竜の素質をきっかけに好きになったかもしれません。でも、クローツェル様と恋人になってクローツェル様という個を知って僕はどこか遠くに感じたクローツェル様を身近に感じるようになったし愛おしいと思うようになりましたよ」

 顔を真っ赤にして照れくささを隠すように眉を下げてセレンケレンは笑った。ベルケットとセレンケレンをまじまじと見つめていれば、強く手を握りしめたハリューシカが勢いよく顔を上げて口を開こうとした瞬間ゲオルグが荒々しく立ち上がった。

「なーにが『違いがいまだにわからないのだ』だっつーの! ほかの奴らはどうか知らねーが、散々あんたに反発していたこの俺がデートに誘ったりあんたがいなくなって探し回った時点で察しろ!」
「ゲオルグ! 貴様、陛下に対してその無礼な態度はなんだ! そんな態度だから陛下に違いがわからないといわれるのだ!」

 青筋を浮かべて立ち上がったハリューシカがゲオルグを睨めば、ゲオルグも負けじと目尻をつり上げて鼻で笑った。

「はっ、そういうてめえこそそうやって陛下陛下言ってるから気づかれねえだよ」
「わ、私は二匹だけの時のみお名前を呼ぶと決めているのだ!」

 さっきまでの重い空気はどこにいったのやら、室内はゲオルグとハリューシカの魔力が充満していく。今にも爆発しそうな魔力の膨れ上がりにベルケットが見かねたのか一瞬にして岩牢が二匹を包み込んだ。ハッとした二匹はベルケットの方へと振り返った。

「ベルケット、てめえなにしやがる!」
「そうですよ! ゲオルグならともかくなんで私まで岩牢の刑なんですか?!」

 すっかりいつもの騒ぎに戻ったことにクローツェルはあっけにとられつつも、さっきに比べたらずっと心地いい空気にふっと微笑んだ。

「ベルケット、ゲオルグとハリューシカの岩牢を解いてやれ」
「王が言うのならば」
 
 ベルケットにしては珍しくいささか不満そうだったが、クローツェルの言うとおりに岩牢を解いた。そうすれば、ハリューシカがクローツェルの目の前にくるとクローツェルの両手をとって包み込むように握った。

「陛下、さきほどの無礼をお許しください。私の愛が陛下に伝わっていなかったのはひとえに私の言動不足です。これからはもっと陛下に私の愛が伝わるよう心身込めて尽くさせていただきます。これからもこの先もずっと愛しています」

 微笑みとともにハリューシカが顔を寄せてくると触れるだけのキスをしてきた。相変わらず暴走すると周りが見えなくなるハリューシカの行動力には感嘆しそうになる。
 頬を赤く染め微笑むハリューシカを見つめていれば、ゲオルグが大股で近づいてくるなりハリューシカを引き剥がすとクローツェルを横抱きした。

「俺の女王様に気安くキスしてんじゃねえ」
「いやいや、クローツェル様は僕らの中の誰かが好きとは言ってないから」

 低く唸るゲオルグにセレンケレンがあきれたように言い返せば、ゲオルグは無表情になるとクローツェルを見下ろした。

「俺が一番だよな。な?」
「一番は決められない。私はお前もセレンケレンもベルケットもハリューシカも愛している」

 自分でも驚くほど自然と言葉が溢れた。だが、ゲオルグは納得いかないのかバシバシと尻尾を床に叩いた。

「卵四つできたっていったじゃねえか」
「卵は四つあるが、全部が火とはいってないだろう」
「は? じゃあなに? もしかして地水火風で一つずつできたのかよ」
「そうだが」

 ゲオルグの疑問に答えれば、ゲオルグが「変なところで平等さをだすんじゃねえよ」とがっくりとうなだれた。

「ゲオルグ、抱き上げてくれたところ悪いがベッドに下ろしてくれ」
「へいへい」

 自分だけの卵じゃないのがよほどショックだったのかゲオルグはあっさりと応じた。てっきり今までのように投げられるかと思ったが、ゲオルグは膝を折るとそっとベッドに下ろしてくれた。
 まさかの丁寧さにゲオルグを凝視しているとこれ見よがしにため息をついた。

「俺だって、卵ができてる奴を投げたりしねえよ」
「陛下、新しく紅茶を入れましたのでどうぞ」

 仕返しとばかりにハリューシカが話に割って入ってくると入れ立ての紅茶を差し出してくる。「ありがとう」と礼を述べて受け取り一口飲めば、さっき感じた渋さはなく今まで通りクローツェル好みの香りと味だ。
 ほっと息をつくと改めて竜将たちを見つめる。慣れ親しんだ騒がしさはクオルの言ったとおり杞憂だったかもしれない。

「私の恋人になったのがお前たちでよかった」
「卵が出来たんだから恋人じゃなくて今は夫だろ」
「ひとまず陛下はしばらく安静にしてください」
「そうですよ。してほしいことがあったら僕らに何でも言ってください」

 口々に好き勝手言う様子にクローツェルは「そうだな」と返した。
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