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第6話 見えないモノ見えるモノ
アンロック
しおりを挟むエルザとブランの戦いを、ただ檻の中で見ることしかできないイルザ。
一方的に追い詰められている妹を助けたいもどかしさを枷が邪魔をしていた。
“妖精の輝剣”は手元に出せる。しかし、身動きは出来ないので枷を斬ることも、檻を破ることも出来なかった。
出来ることと言えば言葉を話すことのみであるが、ブランにとっては檻の中で吠え続ける動物と変わらないだろう。
この状況で唯一言葉を交わすことが出来るのは、監視するように檻の傍で虚空を見つめながら立っている、人形の様なスミレだけだった。
目が覚めて、スミレが現れた時は裏切られたことにショックを受けたが、冷静になってスミレの様子を観察していると大きな違和感があった。
感情が、生物らしさが一切感じられない。
別れる前の感情表現が下手な少女の面影は一切なく、命令に忠実な木偶人形として動いているようだった。
「スミレ・・・スミレ・・・!」
小声で呼びかけてみるがスミレはこちらを見向くどころか反応すら見せない。
どうにかスミレの意識を戻すことが出来ればこの状況を打破することが可能かもしれない。昨晩の様子だと、スミレの主であるブランに対してあまり良い印象を持っていない、それだけでなく恐れの感情も抱いているはずだ。
そうでなければ、こんな小さな少女が夜に震えるわけがない。
それに、命を玩具の様に弄ぶ糞野郎の傍に少女を置いておくわけにはいかない。
神界器(デュ・レザムス)がなんだ。
魔王がなんだ。
イルザにとってはそんなことはどうでもよかった。意識の奥底で苦痛に耐えている人間の少女を救いたい。ただそれだけのことだった。
(何か、何か方法は・・・)
一度は危機に陥り、紙一重のところで窮地を脱した妹はギリギリの戦いを今も続けている。そう長くはもたないだろう。
虚ろな瞳の青髪の少女。彼女が来ている巫女装束の懐をよく見ると、濃紺の布切れが見えていた。
それはエルザが作った全員お揃いのマントだった。
(なんだ・・・ちゃんと大切に持ってるじゃない)
例え最初から裏切るつもりだったとしても、あの表情は、少し照れくさそうな笑顔は、嘘じゃない。彼女の本心の現れだろう。
イルザはそう確信していた。
「スミレ・・・聞くだけ聞きなさい」
一切反応を見せないスミレに対し、言葉を続ける。
「あなたも何かの使命の為に魔界に来た。だけどそれは、あなたにとって苦しいことだったはず。怖いなら、苦しいのなら、私たちの元へ来なさい。あなたがそう願うなら、あなたが今を変えたいなら胸に手を当てて。あいつの能力なんて打ち破ってしまいなさい!」
力強く、心の底からスミレに語り掛ける。言葉だけで能力を打破できるとは思えなかったが、それでも伝えずにはいられなかった。
「・・・い、です・・・」
感情を奪われた少女の唇が微かに動いた。
「怖いです、苦しいです」
虚空を見つめるだけだった少女は一粒の涙を零し、イルザの方へ向いて心中を吐露する。イルザ達とのほんの僅かな温かい時間は、決して無駄ではなくスミレの心に刻まれていた。
「よく言ったわ。胸に手を当てなさい。エルザのマントが、“隷属の鍵”から守ってくれるわ」
首を縦に振り、マントをしまっている懐に左手を当てる。
濃紺のマントがスミレの首筋に刻んでいる鍵穴を打ち壊した。そして少女の悲しい虚ろだった瞳には、優しい光が戻った。
「ありがとうです。いますぐ、イルザさんの鍵も解きます・・・です」
スミレは“極光の月弓”を左手に出現させ、檻の鍵穴、足と手の枷を打ち抜きイルザの拘束を解いた。
「こちらこそありがとうスミレ。さぁ、反撃開始よブラン!!」
エルザを追い詰めることに夢中になっていたブランは、突然のイルザの呼びかけに驚愕の表情をみせた。
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