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第6話 見えないモノ見えるモノ
幻獣召喚
しおりを挟むイルザがスミレの“隷属の鍵”を解く少し前。
絶体絶命の危機を迎えていたエルザは“月女神の輝護”による“ムーンサイド・レイ”を打破する方法を思いついていた。
上空から一筋の光線を確実にエルザめがけて降り注ぐ“ムーンサイド・レイ”と“極光の月弓”から放たれる、光の短剣の円陣攻撃。
縦と横の隙の無い攻撃。一度は凌いだものの、威力を抑えた短剣を一本腕に受けてしまった。同じ方法で凌ぐには、諸刃の剣である。
(・・・あと何回この痛みに耐えられるだろうか)
最も厄介なのは“ムーンサイド・レイ”である。
最初の攻撃を試しにと、落下地点へ一点集中型の防御魔術である“プロテクション”をかけてみたのだが、ものの見事に魔術ごと打ち砕いた。
きっと“妖精の輝剣”と同じ、魔術を無効化する力が“ムーンサイド・レイ”に付与されているのだろう。
それに反し、光の短剣はある程度は魔術で威力を軽減することが出来る。おそらく、力の大半を“月女神の輝護”に回しているせいで、魔術の無効化を付与することが出来なかったのだろう。
もし、あの“月女神の輝護”が持続顕現型の魔術と同じならば、術者を直接叩けば発動を阻止できるかもしれない。そんな隙があればの話だが。
(・・・ちょっとだけ、グレンの真似をしてみるね)
「さっきは私の攻撃を凌いだことに驚いたが、あと何回その方法が通用するかな? 見届けるのもまた一興だろ? さあ! 三回目はどんな反応を見せてくれるか!」
弦を引き短剣をエルザの周囲に展開する。
エルザは上空からの光線を避けつつ、塗装がはがれている地面に何かを素早く刻み、それを消さないように別の魔法陣“守護方陣・界”を描く。
マントを体の前に重ね、短剣の威力が弱まったところを突撃する。
「っぐ・・・!」
痛い。
魔術とは言え刃物と変わらない。
鋭い痛みに何とか耐えながらも腕に刺さった短剣を抜き、次の位置へと移動する。
「ほら! ほらほら! ほらほらほらほら! もっと踊りなよ!」
四回。
五回。
六回。
七回。
何度も、何回も同じ方法でブランの怒涛の攻撃を凌ぐ。エルザのマントは既にボロボロだった。
だが。
(・・・準備はできた!)
後は術者を叩く隙を伺うのみ。ベストなタイミングとしては次の短剣攻撃の時だ。
僅かの時間だが、短剣を動かした後のブランはエルザの様子を見たいのか、覗くような動作をする。その隙を狙えばこちらの攻撃が届くかもしれない。
意識が半分朦朧としてきている。
身体強化の魔術をかけているとはいえ、何度も切り傷を負わされ、出血すれば体力も失っていく。きっと、次の攻撃で耐えられるのは最後だろう。
エルザの生きて帰る覚悟がほんの少し揺らぐ。
「そろそろ辛そうだね? いいねぇ! 少女の苦しそうな表情というのはさぁ!」
弓を構えるブラン。
(・・・来るっ!)
慎重に、タイミングを計る。“ムーンサイド・レイ”を避けつつ、防御魔術の魔法陣を描く。
(・・・来いっ!)
その時。
「さぁ、反撃よブラン!」
姉の、イルザの声が部屋に響いた。
ブランは驚愕の表情を見せ、手を止めた。
エルザはそれを見逃さなかった。
「・・・今!」
杖で地面を叩き魔術を発動させる。その魔力の行き先は攻撃を凌いでいるときに、捲れている地面に描いた五か所の魔法陣へと伝っていく。
その五か所の魔法陣は五角形の巨大な魔法陣となり、紫電が轟く。
「召喚、“雷帝ボルティック・ペガサス”!」
激しい轟音と共に魔法陣の中心から、一体の巨大な紫電を帯びた天馬が顕現する。
「召喚だと!?」
ほんの少しの隙がとんでもないものを呼び寄せてしまった。
(しかし、なぜ、魔法陣が残っている? 発動している個所はどこもかしこも“ムーンサイド・レイ”の焼き跡が・・・)
ブランはそこで気づいた。遅すぎた気付きだった。
召喚の魔法陣のすぐ横には、魔力吸収の魔宝石の塵が残っていた。それを使ってエルザは魔法陣を守っていたのである。
「くそおおおおおおお!」
怒りの声を上げると同時に紫電の天馬が翼を広げ、ブランの体を額の角で貫き天を駆ける。
そして、貫いた体を巨大な月、“月女神の輝護”に叩きつけ、砕いた。
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