星を戴く王と後宮の商人

ソウヤミナセ

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11章 晩餐の席で妃は微笑む

 「そう?ところで、今日の装いもとても素敵ね。わたくしが贈ったブローチとバングルをつけて来てくれたの?」
「はい。ようやく直接お礼が言えますね。とても気に入ってるんです。ありがとうございます。」

 ブローチとバングルを並べて見せる。するとオハラは嬉しそうにコロコロと声を転がした。

「良いのよ。どれもあなたに似合うと思って選んだものだから。」

 明け透けな褒め言葉に、アリムはカァっと頬を染めた。
 顔こそ似ていないが、直接的な物言いはさすが親子である。
 その息子が「んんっ!」と咳払いをした。

「……なぁに?ラシード。」
「母上、もう1人の息子の事も是非褒めてください?」
「……。」

 ラシードが自慢気に胸のスカーフを指し示す。オハラは心底嫌そうに眉を顰めると、感情の籠らない声で「お前にしては珍しい色ね。」と言う。そしてまたアリムを振り返ると、満面の笑みを見せた。

「アリムの見立てね!流石だわ!」

 アリムはその身代わりの速さに飲んでいたシャンパンを詰まらせた。

 ーーさっきと同じやりとりを……。

 騎士のうち、1人はブフッと吹き出しかけて、もう1人に強く尻をつねられている。
 ラシードはそれをジロリと睨みつけてから、フンッと顎を上げた。

「でしょう?俺の好みをわかってくれてるんですよ。しかも揃いだなんて、可愛いと思いませんか?」
「お前は全く可愛くないけど、確かにアリムは可愛いわね。」
「あー、あの!実は今日は母さんにも贈り物があるんですよ!」また火花を散らし始めた親子に、アリムが声をひっくり返す。投下された爆弾に、親子の目がギラリと光った。

「なんだって!?」
「なんですって!?」
「あ、あの……先日のお礼も兼ねて……。」

 アリムは炎の様に燃える目と、宝石のようにきらめく瞳にたじろぎながら、キシュワールに目をやった。キシュワールは会釈をすると、丁寧に包装された箱を差し出す。

「母さんに頂いたような上等なものではないのですが。」
「まぁ!何かしら?」

 オハラは両手で箱を受け取ると、包装紙すら勿体無いというように、丁寧に包装を解いた。

「あらまぁ!綺麗なハンカチだこと!」

 小さな箱には、レースのあしらわれた、ローズピンクのハンカチが入っていた。
 オハラはそれを広げると、肌触りを確かめる。

「柔らかいわね。」
「僕がグナード長に教わりながら染めたんです。」
「アリムが?」

 目を丸くしたオハラに、アリムは少しだけ不安そうに頷いた。
 実は、レイブンにオハラへの贈り物としてハージーを染めたいのだと相談した所、一度止められたのだ。
 それでもアリムは、どうしてもやりたいのだと頼み込んだ。
 妃になる前から可愛がってくれたオハラへの、感謝の思いを込めたかったのだ。

「グナード長には、妃が手仕事をするのは、と止められましたが……僕が母さんに差し上げたかったんです。素朴なもので申し訳ないのですが……。」

 オハラはジッとハンカチを見つめ、表情を強張らせた。
 食堂の空気が静まり返る。
 後ろで控えている給仕達が、こっそりと視線を交わし合っているようだ。
 アリムは心の中ではぁっとため息をつく。
 やはりレイブンの言うとおりだったようだ。
 だが今回はアリムの真心の押し付けなのだから、仕方がない。

 だが向かいのラシードは、行儀悪く肘をつきながら、嫉妬丸出しの目で「見ろ。」とオハラを示した。

「え……?」

 オハラは目を潤ませて、グズっと鼻を鳴らしていた。

「……勿体無くて使えないのに、涙が出てくるわ……。」
「か、母さん?」
「感激して涙が出てくるのよ……。」

 オハラは目を真っ赤に腫らして、ウルウルとアリムを見つめた。

「この可愛い息子は、なんて素敵な事をするのかしら。あぁ……食事の前なのに……胸がいっぱいだわ……。待っててね。今涙を拭くから。」

 オハラはアリムからのハンカチを「勿体無いわ。」と言い、丁寧に箱に戻した。
 アリムは慌てて胸ポケットからハンカチを取り出すと、オハラの目元に押し当てる。

「何で泣いてるんですか?」

 アリムは嬉しさに頬が緩むのを止められなかった。

「こんなに心の籠った贈り物を受け取ったのは、ラシードが小さな頃以来よ。」
「バーリですか?」

 今朝したやり取りと似た状況に、アリムは「やっぱり親子だな」と笑う。

「あの木偶の坊がまだ可愛かった頃、わたくしの誕生日に手紙と似顔絵をくれたのよ。世界で一番好きな母上と書いてあったのよ?天使かと思ったわ。」

 なんと可愛らしい言葉だろうか。
 ただ今も昔も彼の愛情表現は変わっていないらしい。
 アリムはまだ溢れるオハラの涙を押しとりながら、首を傾げた。

「まだその絵はありますか?見てみたいです。」
「もちろんあるわよ。あとで見せてあげるわ。」
「楽しみです。バーリも朝、母さんと全く同じ事を言っていましたよ。子供の頃に母さんからもらった剣が、一番嬉しかったんですって。」
「……ラシードが?」

 オハラがラシードを振り返ると、ラシードは肩肘をついたまま、照れ臭そうに目を逸らす。そして耳を赤く染めたまま、不貞腐れたように呟いた。

「感謝を込めて、執務室に飾っているじゃないですか。」
「あらまぁ……。」
「僕にも今度お見せくださいね。」

 ラシードは素早く頷くと、にやりと笑って「仕事中に隣にいてくれるならな」と付け加えた。

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