星を戴く王と後宮の商人

ソウヤミナセ

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閑話 主人と騎士

「なんでっすか?」
「何でって?そんなの、ノイだからに決まってるだろ?」

 ノイは何を言われたのかわからないらしく、眉を顰めながら自分の膝に肘をつく。そして少しの間思案顔をした。
 アリムは「なんでわからんかね!」と唇を尖らせる。

「俺の名誉の為に戦ってくれただろ!俺の大切な騎士に、それくらいの贈り物をしたいって思うのは、当然だろう?」
「……はぁ……。」

 ノイは間抜けな声を漏らすと、アリムの顔を凝視した。

「さっきの夕飯、変なもん入ってたんじゃねぇの?」
「なんでそうなるんだよ!」
「いや、だって。大切な騎士とか言うから。」

 ノイは信じられないものを見る目でアリムを見つめる。アリムはその怪訝な顔が心底心外で、肩を怒らせた。

「なんでそんな反応になるんだよ!」

 アリムは眉を吊り上げて、ノイの膝をペシペシと叩く。
「いていてっ!」とノイはアリムの手を払いながら、慌てて距離をとった。
 ノイは渋面を作りながら膝を撫でる。

「……別に俺がムカついたからやっただけだし。」
「それがありがたいって言ってるの!」
「ふぅん。そんなもんなんすかね。」

 不思議そうに首を傾げながら、耳をかくノイ。
 人を守ることが常になっている男の態度だ。
 アリムは眉を下げて苦笑いする。

「そういうものだよ。今日は本当にありがとう。」

 軽く言ったつもりだが、ほんの少し照れて、目元に朱が刺す。
 ノイは赤くなったアリムの顔を見て、同じように耳の先を赤くした。

「……うっす。」
「だからさ、ノイの礼服は絶対に作らせてね。嫌じゃなかったら、妹さんと新郎新婦のも。聞いてみてくれる?」

 アリムは照れ隠しをするように、目を背けながらパタパタと手を動かした。

「あぁ……。はい。俺とマヤのはお願いします。カヤと旦那さんのはちょっと聞いてみます。」
「うんうん。カヤさんの方は、気を遣わないでと伝えてね。特別な祝い着なんだし、カヤさんの望むようにして欲しいからさ。」
「喜ぶんじゃねぇかな。」
「どうかな?そうだと嬉しいんだけど。もし祝い着を贈ることができなくても、一等特別なタラーレンは贈るよ!」
「そしたらさ、俺、あれがいいっす。あの鳥のやつ。」

 ノイの申し出に、アリムはキョトンっと目を丸くした。

「カンザの?」
「はい。あれで礼服を作ってください。」
「でもあれは、平民に向けての事業だよ?質はいいんだけどさ。もっと高級なもので……。」
「あれがいいんですけど。」

 ノイが食い気味に言葉を被せる。
 珍しく食い気味な様子に、アリムはまた目を丸くした。ノイも気まずそうに鼻に皺を寄せて、そろそろと体を引いた。

「ノイがそうしたいなら構わないけど……。」
 
 アリムはコテンッと首を傾げる。

「マヤさんとよく相談してみて。でもカヤさんの婚礼衣装は伝統的なハージーにするからね?」
「……うっす。」

 ノイはポリポリと頰をかき、大きめの口を歪めた。ちらりとアリムを見る目には、何ともなしに照れくさそうだ。
 いつもは関心の薄いノイが見せた表情に、アリムはフフッと頰を緩めた。

「楽しみにしててね。ノイにも似合う服を用意するよ。」
「……。」

 ノイが食い入るようにアリムの瞳を見つめて、黙り込んだ。
 ゆらりと、ライトグリーンの瞳に、熱のような何かがが揺らぐ。

「ノイ……?」

 その時、さぁっと風が吹き抜けた。

「さむっ!」

 夜更けの風は、凍えるほどに冷たい。
 アリムは肩を抱いて、ブルリと身震いした。 

「あ……。」

 ノイが咄嗟に立ち上がり、自分のコートをアリムの肩にかけた。
 コートに残っていた、ノイの体温。
 長い時間馬に乗っていたせいだろう。
 わずかな汗と、石鹸のような甘い香り。

「いいよノイ。寒いだろ?」

 アリムは気恥ずかしくなり、ノイにコートを返そうとする。
 その時、また風が吹いた。
 今度はフワフワと、頬を撫でる程度の柔らかい風。
 風はイタズラをするように、二人の髪の毛を揺らす。 

「…‥動くなよ。隠れる……。」
「え?」

 ノイが手を伸ばして、アリムの髪の毛を摘んだ。
 慎重に髪の毛だけに触れ、一筋をそっと耳にかける。耳にも頬にも触れない指先は、器用に髪の毛だけに触れて離れていった。
 目が露わになり、アリムの視界がクリアになる。

「ノイ?」

 ほんの一瞬。
 ノイは目を伏せて、柔らかく微笑んだように見えた。

「……。」

 ノイはまたフイっと顔を背けると、立ち上がる。そしておもむろに建物の扉を開けた。

「そろそろお帰りの時間です。」
「ん?そうだね。」

 アリムは唐突なノイの行動に、一拍遅れた返事をする。
 ノイは折目正しく腰を折ると、丁寧な仕草でアリムを中へと誘導した。
 彼らしくない騎士の手本のような行動に、アリムは面食らう。

「どうしたの?」
「そろそろバーリがお戻りになりますから。入浴なさって、ゆっくりとお休みください。」
「ちょっと、どうしたのさ。変なもの食べたの?なんで騎士らしい事してるのさ?」

 ノイは片眉を上げて、またフンっと顔を逸らす。

「俺は騎士でございますよ。」
「はぁ?」
「さぁ。バーリがお戻りになる前に、お早く。」

 睨みつけられながら中へと入るように催促されれば、アリムの負けん気に火がつく。だが反抗しようとする前に、ノイに本気で睨みつけられてしまった。
 目が「去ねっ」と口悪くアリムに命令している。
 アリムは渋々と頷いて、屋敷の中へと入ることにした。

「おやすみ、ノイ。」
「おやすみなさいませ。」

 扉が閉まる瞬間、ため息混じりの礼儀正しい言葉が返される。
 アリムがノイの顔を見ようと振り返った時には、すでに扉は閉まった後だった。

「はぁぁ?」

 アリムはあっさりと締め出しを食らったことに唖然とし、ドアの向こうに向かって思い切り不満を吐き出したのだった。


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