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第二部終話 空腹とスープ
③
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「……西湖は……昔、神湖って呼ばれてた。アリルスタンを精霊と呼んではいたけど……ご先祖様は神だって知っていたんだね。」
「そうかもしれないな。……だがアルリーシャはアリルスタンを理由に、アレジャブルに攻め入ることはしなかったじゃないか。……それは本当にありがたいことだったと思う。」
ラシードの緑色の瞳に、安堵の色が滲む。
アリムはその穏やかな目の色をじっと見つめた。
彼はアルリーシャを疑っていない。
アリムはラシードの指を絡め取り、スッと唇を寄せた。
「ん……?」
アリムはそのままラシードの頭を抱き込み、深く唇を重ねた。
僅かにアルコールの味が残る口内は、温かく湿っている。その粘膜を無遠慮に舐め上げると、分厚い舌が挨拶をするように、重なってきた。その甘さに吐息が漏れる。
「……んっ。」
「食べ物の話ばかりで腹が減ったな……。」
ラシードはチュッチュと音を立てながら唇を吸い、じっとアリムを見つめる。
アリムはその熱を帯びた緑色の瞳に見つめられ、ぶるりと震えた。
まるで捕食される前の小動物になった気分だ。
だが逃げたいとは思わない。
熱った指先が、アリムの耳を撫であげれば、それだけで体は喜びに震える。
「……また俺の事1人にするのかと思った。」
「いつ俺がお前を1人にした?」
「……一昨日も今日も。ずっとそばにいて欲しかったのに、俺を待たせてた。」
言うつもりのなかった皮肉が、思わずこぼれ出る。
ジロリと上目遣いで睨みつける。
ラシードは赤くなったアリムの目元に唇を寄せた。
「寂しい思いをさせたのか?」
「……どうかな。」
アリムはプイッとそっぽを向く。
それでも指先はラシードの首筋をなぞり、甘えるように耳たぶを弄んでいる。
「すまなかった。お前の事を1番にするべきだったのに。」
「そうだよ……。俺に寂しい思いをさせるなんて……。酷い旦那様だ。」
「なんだ、キースに妬いたのか?」
「俺が?キシュワールに?」
何故か面白がるように唇を歪めたラシードに、アリムはハッと鼻を鳴らす。
「そうだよ?」
「お前が?キースに?」
「そうだってば。何回同じ事を言わせるの?昼間もそう。休憩すると、まずはキシュワールと話し込む。俺はその間ずっとほったらかしだ。」
「……わかったよ。俺が悪かった。許してくれないか?」
ラシードはアリムを懐柔しようと、最上級に甘い笑みを浮かべた。
国1番の美丈夫が浮かべる笑みに、アリムはピクリと頰を引き攣らせる。
この笑みを見ただけで、コロリと許してしまいたくなる自分にも腹が立った。
アリムはプイッとそっぽを向くと、キツく目を閉じる。
「どうお詫びしてくれるの?」
「なんて事だ。愛しいお前に寂しい思いをさせていたなんて……。おいで、すぐに寝台にいこう。」
最上級に甘く蕩ける声で囁かれる。
ブランデーのように酔えそうな、低く艶やかなバリトン。
「あ、あ……ダメだって……っ。」
ラシードは額、頰、鼻、耳、と至る所に唇を落としながら、アリムの服の裾に手を忍び込ませる。
悪戯な手にアリムは声を転がし、嫌々と首を横に振った。
だがこんなもの、ただの見せかけだ。
指はラシードの少し硬い髪の毛を柔らかく掴む。
ラシードはアリムの様子に気を良くして、指先で臍をくるりとなぞった。
「ん……っ!くすぐったいよ……っ。」
そう言いながらも、臍をくすぐられれば、腹の底が甘く疼く。
蕩けるような心地だった。
この時ばかりは不安は流れていき、愛おしさが胸を満たす。
ラシードは甘く解れたアリムの表情に、微笑みを浮かべた。
「……お前を与えてくれた神に感謝を伝えよう。お前を守り抜いたアルリーシャの民にも。」
ラシードは知らない。
ヨークとライが何からアリムを守ろうとしたのか。
しかし別の意味だったとしても、その優しい言葉に涙が滲む。
「俺も……感謝するよ……。」
ラシードは、アリムの頬を伝った涙を舐めとり、きつく体を抱きしめた。
霜が降りるほどに冷える夜を、王の腕の中で過ごすことができる幸福に酔いしれる。
パチパチと暖炉の火が弾ける音。
まだ残っている気がする、優しいスープの香り。
アリムはラシードの頰を包み込み、涙で滲む目を細めた。
愛しい伴侶の唇がそっと降りてくる。
夜は更ける。
朝日が昇らないことを願うほどに、安堵に満ちた夜が過ぎていく。
確約のない、穏やかな夜がーー
2部 完
***
2部もお付き合いいただき、ありがとうございました!
3部からはアリムの社交界デビュー編です。
手直しをしますので、少し間を空けての再開となります。
時々小話を挟むかと思いますので、お時間がありましたら、お付き合いください。
次回更新は閑話“夜のシーツ片付け論争”です…
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
「そうかもしれないな。……だがアルリーシャはアリルスタンを理由に、アレジャブルに攻め入ることはしなかったじゃないか。……それは本当にありがたいことだったと思う。」
ラシードの緑色の瞳に、安堵の色が滲む。
アリムはその穏やかな目の色をじっと見つめた。
彼はアルリーシャを疑っていない。
アリムはラシードの指を絡め取り、スッと唇を寄せた。
「ん……?」
アリムはそのままラシードの頭を抱き込み、深く唇を重ねた。
僅かにアルコールの味が残る口内は、温かく湿っている。その粘膜を無遠慮に舐め上げると、分厚い舌が挨拶をするように、重なってきた。その甘さに吐息が漏れる。
「……んっ。」
「食べ物の話ばかりで腹が減ったな……。」
ラシードはチュッチュと音を立てながら唇を吸い、じっとアリムを見つめる。
アリムはその熱を帯びた緑色の瞳に見つめられ、ぶるりと震えた。
まるで捕食される前の小動物になった気分だ。
だが逃げたいとは思わない。
熱った指先が、アリムの耳を撫であげれば、それだけで体は喜びに震える。
「……また俺の事1人にするのかと思った。」
「いつ俺がお前を1人にした?」
「……一昨日も今日も。ずっとそばにいて欲しかったのに、俺を待たせてた。」
言うつもりのなかった皮肉が、思わずこぼれ出る。
ジロリと上目遣いで睨みつける。
ラシードは赤くなったアリムの目元に唇を寄せた。
「寂しい思いをさせたのか?」
「……どうかな。」
アリムはプイッとそっぽを向く。
それでも指先はラシードの首筋をなぞり、甘えるように耳たぶを弄んでいる。
「すまなかった。お前の事を1番にするべきだったのに。」
「そうだよ……。俺に寂しい思いをさせるなんて……。酷い旦那様だ。」
「なんだ、キースに妬いたのか?」
「俺が?キシュワールに?」
何故か面白がるように唇を歪めたラシードに、アリムはハッと鼻を鳴らす。
「そうだよ?」
「お前が?キースに?」
「そうだってば。何回同じ事を言わせるの?昼間もそう。休憩すると、まずはキシュワールと話し込む。俺はその間ずっとほったらかしだ。」
「……わかったよ。俺が悪かった。許してくれないか?」
ラシードはアリムを懐柔しようと、最上級に甘い笑みを浮かべた。
国1番の美丈夫が浮かべる笑みに、アリムはピクリと頰を引き攣らせる。
この笑みを見ただけで、コロリと許してしまいたくなる自分にも腹が立った。
アリムはプイッとそっぽを向くと、キツく目を閉じる。
「どうお詫びしてくれるの?」
「なんて事だ。愛しいお前に寂しい思いをさせていたなんて……。おいで、すぐに寝台にいこう。」
最上級に甘く蕩ける声で囁かれる。
ブランデーのように酔えそうな、低く艶やかなバリトン。
「あ、あ……ダメだって……っ。」
ラシードは額、頰、鼻、耳、と至る所に唇を落としながら、アリムの服の裾に手を忍び込ませる。
悪戯な手にアリムは声を転がし、嫌々と首を横に振った。
だがこんなもの、ただの見せかけだ。
指はラシードの少し硬い髪の毛を柔らかく掴む。
ラシードはアリムの様子に気を良くして、指先で臍をくるりとなぞった。
「ん……っ!くすぐったいよ……っ。」
そう言いながらも、臍をくすぐられれば、腹の底が甘く疼く。
蕩けるような心地だった。
この時ばかりは不安は流れていき、愛おしさが胸を満たす。
ラシードは甘く解れたアリムの表情に、微笑みを浮かべた。
「……お前を与えてくれた神に感謝を伝えよう。お前を守り抜いたアルリーシャの民にも。」
ラシードは知らない。
ヨークとライが何からアリムを守ろうとしたのか。
しかし別の意味だったとしても、その優しい言葉に涙が滲む。
「俺も……感謝するよ……。」
ラシードは、アリムの頬を伝った涙を舐めとり、きつく体を抱きしめた。
霜が降りるほどに冷える夜を、王の腕の中で過ごすことができる幸福に酔いしれる。
パチパチと暖炉の火が弾ける音。
まだ残っている気がする、優しいスープの香り。
アリムはラシードの頰を包み込み、涙で滲む目を細めた。
愛しい伴侶の唇がそっと降りてくる。
夜は更ける。
朝日が昇らないことを願うほどに、安堵に満ちた夜が過ぎていく。
確約のない、穏やかな夜がーー
2部 完
***
2部もお付き合いいただき、ありがとうございました!
3部からはアリムの社交界デビュー編です。
手直しをしますので、少し間を空けての再開となります。
時々小話を挟むかと思いますので、お時間がありましたら、お付き合いください。
次回更新は閑話“夜のシーツ片付け論争”です…
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
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