皇太子の護衛役ービッグカップルは偽装婚約?!

渚乃雫

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第1幕 池のお化け編

10. お化け一号さんは良い人です。

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「じゃ、改めて説明をするとね。池のお化け一号は、彩夏さやかが言ったように、今年入ったばかりの新入生。元気が無かった友人を勇気づけようとして始めたら、思いの外、反応が良くて、つい続けちゃったみたいね。誰か、に必要とされて嬉しかったみたい、彼女」
「なるほど、それで?」
「問題なのは、お化け二号のほう。あ、名前は遠藤善太郎ぜんたろうっていうんだけど」

 しのぶの説明に、殿下でんかが続きを促す。
 その説明を聞きながら、善太郎って、名前に『善』って入っているのに。
 溶け始めたアイスクリームに、スプーンを差し込み、そう思った瞬間。

「善太郎って名前なのに、悪人ってなんか分かりにくいなソイツ」

 同じことを思ったらしい吉広よしひろが呆れた顔をしながら口をはさむ。
 そんな吉広を見て、彩夏もまた、呆れたような顔をしながら吉広を見やる。

文堂ぶんどうの言う通りね。まあ、ひとまずは、その遠藤率いる一つのグループが諸悪の根源なのに間違いはないわよ」

 彩夏の答えに、あぐ、とテーブルに置かれたパンに手をのばし、吉広は「ふうん」と静かにつぶやく。

「ま、とりあえず。そんな悪者お化け二号遠藤グループが、一号ちゃんの噂を聞いて、それを悪用することを思いついたのよ。うん十人に一人、小さな、けれど他人に知られたくないような悩みを持った生徒や、自分ひとりでは抱えられない秘密を吐露した生徒に、「秘密を暴露されたくなかったら」って言って金銭を要求したり。払えないと断った生徒に、暴行したりもしてたそうよ」
「……酷い……」

 きゅ、とお皿を握りしめた手が、少し震える。
 そんな私に、気がついた彩夏が、何も言わないまま、そっと手を添えた。

「それにしたって、良い噂しか聞かなかったのはなんでだ? そんだけされてる生徒が出てるなら、そろそろ悪い噂も広まってもいい頃だろ?」

 首を傾げながらそう問いかけた吉広に、「そうでもないんじゃないか」と殿下でんかが吉広を見ながら口を開く。

「なんで?」
「本来、被害者である生徒たちは、聞かれたくなかった秘密、というのを遠藤たちに掴まれている。そうなると、誰かに訴えて、もし自分に勝機があったとしても、その秘密が周囲に知られてしまう可能性がある。そうなった場合、自分は耐えられない。だから、遠藤たちの要求に従ってしまう。そういうことだと思う」
「でもさ、学院のカウンセラーだって、教授たちだって、生徒会役員だって、友人だっているじゃないか。誰かしらに相談できただろ」
「それが出来ない者もいるんだ。文堂」
「……そうなのか?」

 自分の問いかけに答えてくれた殿下の言葉に、吉広は首を傾げ、考えを告げるものの、吉広の答えはきっと、皆がみんな、できるわけじゃない。
 そう吉広に告げたのは、ずっと黙って聞いていた生徒会長さんだった。

「そういった生徒たちに、寄り添うつもりで、生徒会役員をしてきていたつもりだったが……」
「就任直後よりは対応できているんじゃない? 」
「そうだといいのだが……」
「まあ、でもそもそも君たち今の生徒会は、氷の生徒会って言われてるくらいだからどうだろうねぇ」
「……お前は慰めているのか貶しているのかどっちだ」
「そもそも僕に慰めて欲しいなんて一ミリも思ってないでしょ?」
「当たり前だ」
「じゃあいいじゃん」
「いや、殿下、よくは無いデショ」

 いいのか……? と悩み始めた生徒会長をよそに、長太郎が律儀にツッコミを入れる。

「先輩たちのようには……やはり出来ないのか……」

 1人静かにぐっ、と悔しそうな表情を浮かべながらで自分の手を握りしめて言う生徒会長さんに、「会長」と殿下が彼を呼ぶ。

「君があの人たちを目指す理由はないと思うけど。あの人たち、確かに他人との交流と交渉力はズバ抜けていたけど、実際のところ、かなり色々と際どいことばかりしていて、君だって散々な目にあっていたわけで。君たちも僕たちも、痛い目はみてきたし、何よりもここまで生徒会を立て直したのは、間違いなく君でしょ? 」
「しかし……」

 殿下の言葉を、すんなりと受け入れられずにいた生徒会長さんに、殿下は「あのさあ」と溜息をつきながら口を開く。

「正しいやり方をすべきだ、と僕に説いたのは、誰だっけ?」
「…………ワタシだが」
「学院祭に、親の権力を持ち込むなと言ったのは?」
「…………ワタシだな」
「同じく学院祭に、親の財力を持ち込まず、全員、均等な金額負担にするように改革したのは?」
「…………ワタシだ……」
「他にもあるぞ、君」
「もういい、止め給え、汐崎しおざき

 指折り数えながら、生徒会長さんのことを話していく殿下に、生徒会長さんはほんの少しだけ耳を赤くして、殿下から顔をそむける。

「ま、とにかく、君は君が思っている以上に、成果をあげているんだよ。会長」

 そう言って笑った殿下に、「そうか」と生徒会長さんは小さく答える。

「とりあえず、今の報告をまとめたものがコレですね。会長もどうぞ」

 ひら、と数枚の束になった用紙を、長太郎ちょうたろう殿下でんかと生徒会長さんに手渡す。
 その書類に軽く目を通したあと、殿下は小さく「ふむ」と呟き、その様子を見た長太郎は、部屋の入口へと視線をうつし、口を開く。

「では、お願いします、葉山さん」
「?」

 扉に向かって、「葉山さん」と名前を呼んだ長太郎の行動に、首を傾げていれば、「お待たせいたしました」と葉山の声が扉が開くとともに聞こえる。

「やっぱり長太郎は仕事が早いな」
「普通では?」

 殿下の感心したような声に、手帳を閉じながら答えた長太郎の表情は、ほんの少しだけ嬉しそうだ。
 そんな二人に、ふふ、と小さく笑えば、長太郎の頬がほんの少しだけ赤くなる。
 珍しく照れている。
 そう思ったのもつかの間。

「失礼、します」

 恐る恐る、という声色とともに、キイ、と扉が小さく音をたてる。

「貴女は……確か」

 葉山に導かれ、部屋に足を踏み入れた一人の少女。
 彼女は、この前、私が階段で背を支えた、年下の少女だ。

真壁まかべと申します」

 そう言って、少女がペコリと頭を下げる。

「ああ、君は確か、このまえ壱華いちかに階段で抱きとめられた子だね」

 殿下の言葉に、真壁さんが「はい」と短く、けれどはっきりと答える。

「それで、君の友達の、藤井嬢が困っている、という事で間違いは無いかな?」

 もう一度、殿下から自身への投げかけられた問いに、真壁さんは、ぎゅっと袖を握りしめながら、「はい」と、静かに答えた。







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