今さらやり直しは出来ません

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翌日、母の話では父は健人くんと出かける予定だったらしいが、ひどい二日酔いに襲われ起きる事もままならないらしい…。

「行きたいところ?」
「あぁ、せっかくだからな。ダメか?」

朝食を母と共にテーブルを囲ながら取る中で、健人くんが私に提案してくるが、そんな言葉に私は母に目を送る。

「いいんじゃない、二人で行ってきたら。お父さんはあんな感じだし、私はほっとくわけにもいかないから」

母は優しく微笑みを向け、私達を送り出していく。


実家を出て懐かしい街並みを歩いていると、急に健人くんが足を止めた。

「……あって良かった。彩ちゃん、あれ」

指差す方を見ると、赤い三角屋根にクリーム色をした外壁の建物があり、それは私達が通っていた幼稚園だった。

「懐かしい……」
「あぁ、だいぶ年数が経っているからボロボロだけど」

屋根の至るところは塗装が剥げ、下の素地が見えるし、外壁に至っては窓枠から垂れた雨跡がハッキリと残っていた。

「25年も経てばどこかしら悪くなるよな……。でも、ちゃんと有って良かった」

目を細め見ている様子に私も同じように久しぶりに見る幼稚園を懐かしんでいた。

「……入ったら怒られるよな?」

今日は日曜日で、園内には誰もおらず、それに周囲にも人気は無い。

「今の時代だからカメラとかあると思うよ」
「……だよな。あの場所だけでも行けたら俺は」
「あの場所?」
「ほらっ、俺らの始まりとでも言えるあの砂場さ」

建物からさほど離れていない場所には、木枠で囲まれた砂場があり、それを見てお互いあの日の事を思い出していく。

(……すべてはそこから)

「健人くんっ」
「んっ。……っておい!!!」

私は園の入り口にある緑の扉を乗り越えようとした。

「子供の時は高かったけど、今なら……」
「……そうだとしても、これは不法侵入になる。見つかったらどうするんだよ」
「弁護士、でしょ?その時は私を守ってね。ほらっ、健人くんも早く」

中に入った私は誰かに見つかる前に砂場へと駆けて行った。

「……ったく、知らんぞ」

健人くんも後を追うように扉を超え、中へと入ってくると、私達は砂場の上へと立った。

「懐かしい……こんな風に見えていたんだ」

私はそこから見える園内をぐるりと見渡していく。
見えてくるのは滑り台や高さの違う鉄棒、そして小さなサッカーゴール。

「あぁ。こんな感じだったかも」
「うん」
「彩ちゃん」
「なに?……えっ!!!」

そこには片膝をつき、私に小さな箱を向けてくる健人くんの姿があった。

「ここで言おうとずっと決めていた。本来ならちゃんと伝えてから君の両親に会うべきなのに申し訳ない」

頭を下げる健人くんに、私は慌ててしゃがみ込もうとするが、今は立っていて欲しいと申し出てくる。

「う、……うん」

「25年の時を経て会った君は変わってなかった。あの日、俺が想いを告げたあの雰囲気のままでいてくれた。
もちろん、全部が同じじゃない。変わってしまった部分もあるかもしれないが、それでも俺にとって君は人生で初めて恋をした人。
これからもこの想いは変わらない。
……どうか、俺と結婚してほしい」

自身の想いを伝え終わると、箱をパカッと開けた。
そこにはキラリと光るダイヤモンドが付いた指輪が入っていた。

「ここから始まったんだよね、私達」
「あぁ」
「……私は翔平の事もあって恋なんてもういいと思った。この先、一人で生きていこうとさえも。
でも、健人くんにまた会って近くで接していく内に、その真っ直ぐな目を信じたいと思うようになった。
ありがとう。もう一度会ってくれて」

「彩ちゃん」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

箱を開けている健人くんの手にそっと添えると立ち上がり、私の左手薬指に指輪をはめてくる。

「……良かった。サイズ合ってるみたいだ」
「いつの間に?」
「いや、見ていたらこれくらいかな、と」
「ちゃんと私を見てるんだね、……本当にありがとう」

私は健人くんの胸へと飛び込み二人で抱き合った。


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