全てを失った私を救ったのは…

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イリーナ

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顔を上げつつ横を見ながら私はその声の方を見ると、ばっちり目が合った。
が、すぐに逸らされ目は棚へと移動していた。

「なにか?」

関わりたくないはずなのに何故だろうか、と思い見ているが、やはり目線はこちらでは無く棚にある。

「えっと、その、ありがとう……」

お礼を言われ、私は顔を下ろし立ちあがるとその人へ近づいて行った。
すると、ビクッと体を反応させ、棚にあった目線は私へと向けられたが、やはり怯えているようで焦点は合わず、小刻みに右へ左へと動いている。

「お礼を言われる事をしてませんが?」
「……さっき助けてくれたので」
「助けた……?そんな事してませんけど」
「ローズ様を引き離してくれたから……」

どうやら迫ってきた際に私がローズに声を掛け標的を外してくれた事らしい。

「どうして言い返さないんです?あの人はニコルの妹みたいだから位は上かもしれないけど、あんな態度や口調はおかしい。……やっぱり制裁が怖いの?」

私の言葉を聞くなり歯をカチカチと鳴らし、ぐずり出しながら首を縦に振った。

「……そぅ」
「ど、どうして、そんなに歯向かえるの?怖くないの?殺されてしまうかも知れないのに……」

ぐずり泣きをしながらペタンと床に座り込むと両手で顔を押さえ今にも大泣きをし始めそうであった。
そんなメイドを見て私はその人のすぐ側まで行き、同じ様に座ると頭を撫でながら左手で体を包み込んだ。

と、同時に『わぁぁ~』っと声を上げ泣いてしまい、その声が風呂場から漏れた事で今まで廊下にいたメイド達が中へと入ってきた。

泣くメイド、包み込み撫でている私の光景を見て、一様に足を止めると『イリーナ…』と声をあげる。
この人の名のようだ。

「イリーナ、と言うんですね。私はリース」
「り、リース……ごめんなさい、ごめんなさい……」

撫で続けていると少しずつ落ち着きを取り戻したイリーナは『ぐすっ、ぐすっ』と鼻を啜りながら呼吸を整え私の顔を見てきた。

「……痛そう」

私の顔に出来た赤く腫れた傷をそっと触れてくる。
痛いから本当は触って欲しくなかったが、触れる手を目を閉じ受け止めた。

「ごめんなさい……」
「いいえ」

この屋敷に来て初めて『味方』が出来たように感じた。



その後、周りの介抱もあり、イリーナの涙もほとんど止まり支えられるように廊下へと戻っていった。
一方、私は全身に浴びた土を洗い流すためお風呂場へと入っていった。

中はやはり広い。
大理石で出来た枠組みの風呂、床は滑らないようにザラザラと加工を施された石、お風呂を囲むように置かれた木の椅子と桶。
流れっぱなしの状態のお湯が湯船に入ることで湯気を絶え間なく作り、白い靄が辺りを包む。

「こんな所を一人、で」

私はそっと湯船の縁に座り、右手を入れた。

「あつっ!」

とてもじゃないが入れる様な温度ではないと判断し、周りに置かれた桶を一つとり、何度も往復する形で体を洗い、すぐに出てきた。



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