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「わかったよ」
真っ直ぐな目で誘う彼女をこれ以上拒む事は出来なかった。
それにいろんな知識を持つ事は僕が目指す夢には必要ということも理解できた。
病状を聞き、それに沿った治療を施すだけ。
それはまるでお金を入れ、ボタンを押したら出てくる自動販売機と同じようなものだ。
そこに感情はなく、淡々と行われる作業を僕はしたいわけじゃないし、目指す医者像はそんなものではない。
「母さん、少し出かけてくるよ」
青山家は父、母、そして僕の3人家族だ。
でも父は海外駐在員をしており、家に帰ってくるのは数年に一度しかないので、母と2人で暮らしていると言っても不思議ではない。
キッチンにいた母、玲子に声をかけると、まさに昼食の準備を始めようかと長かった髪を後ろで結い、冷蔵庫の前で悩む姿があった。
「そうなの?お昼は?」
「……ごめん」
「すみません、おばさん。翔吾くんお借りしてもいいですか?」
「あらあら、今からデート?」
「違うって」
「なんだ、残念」
少ししょんぼりした表情を見せたかと思うと、笑顔で僕らに手を振り送り出していった。
劇場までは最寄りの駅から電車に乗り30分ほどで着いた。
しかし、昼食を食べずに見るのはお互いにキツく、といってもどこかお店に入ってしまうと開演時間に間に合わないかもしれないと考え、近くのコンビニに寄る事にした。
「いいの?」
「まかせなさい!誘ったのは私なんだし」
言葉に甘えて、おにぎりと飲み物を奢ってもらうと劇場近くにあった公園で食べる事にした。
「あー、どんなお芝居なんだろう!!愛のスペクタクルって」
彼女はサンドイッチを頬張りつつも僕の方を向き話してくる。
「食べるか、話すか、どっち?
さっきも君は僕の部屋で同じような事していたけど……」
ごっくん、っと飲み込むと『まぁまぁ、細かいことは』となだめてくる。
「スペクタクル……」
僕は携帯で意味を調べ始めようとすると、彼女はやれやれといったポーズを取り首を振る。
その度に胸辺りまで伸びた艶やかな黒髪は軽く揺れていた。
「いつもそうやって調べるの?」
「まぁね、知らないよりは知ったほうが」
「百聞は一見に如かず」
「君からそんな言葉が出るなんて」
「分からないなら実際に見たり、経験してみたらいいでしょ?そうすれば、なるほどなぁって。……あっ」
気づいたら開場時間になっており、劇場内に人々が入っていく様子が見えたので僕らも入る事にした。
「広いね!」
「うん」
劇場はステージから客席が扇状に広がっており、3階席まである中で1階最後方の隅辺りが僕らの席だった。
「ここからだと顔ははっきりと見えないかもしれないね。……ところで、君の親戚の子は出るの?」
「それなんだけど、会ったのは結構昔らしくて覚えていないんだ」
「それでも名前くらいは」
彼女はパンフレットに目を落とし、演者の中から名前を探したが、どうやらいないらしく首を振ってきた。
「劇団員といっても皆が出られる訳じゃないよね。役だって数があるんだし」
「それは……なんとなく分かる。役者ってプロ野球選手みたいに実力がないと出られないし。
そうなると今日出る人は皆、凄い人ばかりなんだと思う」
「うん」
その後、僕は劇場に入ってくる人を見ていた。
小さな子を連れた母親、手を添え合いながら歩く老夫婦。
見にくる人は実に老若男女だ。
皆が劇団員の家族や友人といった訳ではないだろう。
それでもこれだけ多くの人がこの芝居を観に来るのだから、それなりに人気があるんだなと感じた。
しばらくすると始まりを告げるブザー音が響いてきた。
「始まるよ!」
そう呟くと周囲の喧騒は静まり、彼女の顔は落とされた照明によって次第に見えなくなっていくと同時に、重厚そうな緞帳が幕を開け、スポットライトが当たる下に女性演者がいた。
次の瞬間、女性から発せられた声に僕は客席の背もたれに体を埋め込まれそうになった。
まるで花火が上がった時、ズドンと心臓を突き抜けるかのような衝撃に似ていたから。
真っ直ぐな目で誘う彼女をこれ以上拒む事は出来なかった。
それにいろんな知識を持つ事は僕が目指す夢には必要ということも理解できた。
病状を聞き、それに沿った治療を施すだけ。
それはまるでお金を入れ、ボタンを押したら出てくる自動販売機と同じようなものだ。
そこに感情はなく、淡々と行われる作業を僕はしたいわけじゃないし、目指す医者像はそんなものではない。
「母さん、少し出かけてくるよ」
青山家は父、母、そして僕の3人家族だ。
でも父は海外駐在員をしており、家に帰ってくるのは数年に一度しかないので、母と2人で暮らしていると言っても不思議ではない。
キッチンにいた母、玲子に声をかけると、まさに昼食の準備を始めようかと長かった髪を後ろで結い、冷蔵庫の前で悩む姿があった。
「そうなの?お昼は?」
「……ごめん」
「すみません、おばさん。翔吾くんお借りしてもいいですか?」
「あらあら、今からデート?」
「違うって」
「なんだ、残念」
少ししょんぼりした表情を見せたかと思うと、笑顔で僕らに手を振り送り出していった。
劇場までは最寄りの駅から電車に乗り30分ほどで着いた。
しかし、昼食を食べずに見るのはお互いにキツく、といってもどこかお店に入ってしまうと開演時間に間に合わないかもしれないと考え、近くのコンビニに寄る事にした。
「いいの?」
「まかせなさい!誘ったのは私なんだし」
言葉に甘えて、おにぎりと飲み物を奢ってもらうと劇場近くにあった公園で食べる事にした。
「あー、どんなお芝居なんだろう!!愛のスペクタクルって」
彼女はサンドイッチを頬張りつつも僕の方を向き話してくる。
「食べるか、話すか、どっち?
さっきも君は僕の部屋で同じような事していたけど……」
ごっくん、っと飲み込むと『まぁまぁ、細かいことは』となだめてくる。
「スペクタクル……」
僕は携帯で意味を調べ始めようとすると、彼女はやれやれといったポーズを取り首を振る。
その度に胸辺りまで伸びた艶やかな黒髪は軽く揺れていた。
「いつもそうやって調べるの?」
「まぁね、知らないよりは知ったほうが」
「百聞は一見に如かず」
「君からそんな言葉が出るなんて」
「分からないなら実際に見たり、経験してみたらいいでしょ?そうすれば、なるほどなぁって。……あっ」
気づいたら開場時間になっており、劇場内に人々が入っていく様子が見えたので僕らも入る事にした。
「広いね!」
「うん」
劇場はステージから客席が扇状に広がっており、3階席まである中で1階最後方の隅辺りが僕らの席だった。
「ここからだと顔ははっきりと見えないかもしれないね。……ところで、君の親戚の子は出るの?」
「それなんだけど、会ったのは結構昔らしくて覚えていないんだ」
「それでも名前くらいは」
彼女はパンフレットに目を落とし、演者の中から名前を探したが、どうやらいないらしく首を振ってきた。
「劇団員といっても皆が出られる訳じゃないよね。役だって数があるんだし」
「それは……なんとなく分かる。役者ってプロ野球選手みたいに実力がないと出られないし。
そうなると今日出る人は皆、凄い人ばかりなんだと思う」
「うん」
その後、僕は劇場に入ってくる人を見ていた。
小さな子を連れた母親、手を添え合いながら歩く老夫婦。
見にくる人は実に老若男女だ。
皆が劇団員の家族や友人といった訳ではないだろう。
それでもこれだけ多くの人がこの芝居を観に来るのだから、それなりに人気があるんだなと感じた。
しばらくすると始まりを告げるブザー音が響いてきた。
「始まるよ!」
そう呟くと周囲の喧騒は静まり、彼女の顔は落とされた照明によって次第に見えなくなっていくと同時に、重厚そうな緞帳が幕を開け、スポットライトが当たる下に女性演者がいた。
次の瞬間、女性から発せられた声に僕は客席の背もたれに体を埋め込まれそうになった。
まるで花火が上がった時、ズドンと心臓を突き抜けるかのような衝撃に似ていたから。
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