君から届く声を、僕は守りたい

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その女性演者だけではない。
出演するどの演者からも僕は同じ衝撃を受けた。
それに場面ごとに変わる情景とそれを印象づけるかのようなスポットライトが目を引きつけ、興味がなかったはずがいつの間にか釘付けになっていた。
次は、その次はどんな風に、と。

2時間の舞台はあっという間だった。
隣に座る彼女の様子も始まってからは気にせずのめり込み、終演すると同時に僕は演者に向けて拍手を送っていた。

「ふふっ、拍手をするほど良かったんだね」
「……まぁね」
「逃げなくて良かったでしょ?」

彼女は茶化すかのようにニヤニヤと笑ってくる。
今回は僕の負けだ。
ここまでとは思っていなかったし、そういう意味で手を挙げ降参した。

「役者って凄いんだね。ここまではっきりと声が届くんだもん。しかも、地声でしょ。これ」
「えっ。マイク使ってるんじゃないの?」
「ううん、使ってない」

劇場を出る間際、僕はステージへと振り返るが言われたとおりのようだ。
マイクらしいものは見当たらなかった。

「ここまで自分の声だけで……」
「ねっ。そう思うと凄いよね」
「うん」

外に出ると観終わった人達が談笑している姿が見えた。
皆、さっきの舞台を話題にしているようだ。

「帰ろっか」

駅へと向かおうとする僕を彼女は腕を掴み、引き止めてきた。

「……どうかしたの?」
「ちょっと、いい?」

掴んだまま僕を引っ張っていくと、昼食を食べた際に来た公園へと入っていく。
そして入るなり、僕の足元に踵でガリガリと線を引いた。

「??」

不思議そうに見ている僕を尻目に、そこを起点として一歩ずつ遠ざかっていき、顔が視認出来るくらいの距離で止まると同じ様に足元に線を引く。
そして振り返り声を上げてきた。

「おーいっ!聞こえる?」

この子は何をしているんだ…。
昼間の明るい時間の公園には、砂場で遊ぶ小さな子供やそれを見守る母親、ベンチに座りのんびり過ごす老人もいれば、先ほど僕らがしていたようにご飯を食べている人もいる。
そんな中で大声を上げるばかりか、手を挙げ確認を求めてくる。

「ちょ、ちょっと!!」

僕は恥ずかしさから線を越え止めに入った。

「駄目だよ。越えたら」
「いやいや、そんな事より急に何してるの?周りに人いるのに。……君ってそんな活発だっけ?僕が知る君はこんな事する人じゃないんだけど」

焦る僕に対し、彼女はパンフレットを取り出すとある箇所を指差し注目させてきた。

「劇団、たいよう……」
「うん。……私、劇団に入ろうかと思う」
「はぁ!!」

突然の宣言に困惑の表情を浮かべる僕とは対照的に、彼女はまっすぐ僕のことを見てくる。

「……とりあえず一旦座ろう」

急な事で頭が追いつかない僕が出せた言葉はそれが精一杯だった。

騒動を起こした僕らはしばらく注目の的になっていたが、時間が経つとともに平穏さを取り戻していく。

「急にどうしたの?しかも劇団にはいるなんて。
……もしかして舞台を見て?」

問いかけに彼女は静かに頷く。

「……そっか」

こういう時、どんな言葉をかけるのが正解なのだろう。
『なれるよ』『応援してる』…たぶんどれも不正解な気がした。
安易な言葉は無責任だし、いま決めた事だって気の迷いって事だってある。
そう思うと僕は黙り込んでしまった。

「言いたい事は分かるよ。『無理だ。そんな一度見ただけで決めるなんて馬鹿げてる』って」
「……」
「でも、私はなりたい」

彼女は公園で遊ぶ子供達に目を向け、優しげな表情を見せた。

「さっき見ていて思ったの。言葉ってこんなにも人の心を動かすんだって。
殻に閉じこもっていたら言いたい事もやりたい事もできず、いつかきっと後悔する。
だから私は一歩を踏み出してみたい」

決心は固いようだ。
手に持つパンフレットに目線を移した後に僕を見てきた。

「今日はありがとう。無理言ってゴメンね」
「いや、……こちらこそ」
「帰ろっか」

スッと立つと地面に付けた線を消していき、公園を後にした。

帰りの電車内は終始お互い無言で過ごしていた。
ボックス席に座る僕の隣で携帯を出し、なにやら検索をしているみたいだ。
人それぞれにプライバシーがあるのだから見る事は良くないと思いつつも、ちらっと横目で確認した。
そこに映っていたのは『劇団たいよう』のサイトで、僕の視線には気付かない様で画面をスクロールしていく。

「んっ?」

どうやら感じ取られたみたいだ。
咄嗟に視線を外し、寝たフリをしたが耳元に小声で話しかけてきた。

「バレバレだよ」

瞑った目の奥で眼球をしどろもどろさせてしまった。


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